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「あっぢぃぃぃ!」
部活途中の休憩時間、汗が流れるほどに運動し、シャツはしぼれば滴るのではないかというほど湿っている。
真っ先に脱いだのは田中だった。しなやかな鍛えられた筋肉を惜しげもなく晒す。それに続くように数人、上半身を風に当てて涼をとりはじめた。
清水はさすが長くマネージャーを勤めているだけあってその風景をささいな日常と気にもとめずに練習メニューの確認しつつ、谷地となまえにドリンクの補給を指示したりしていたが、谷地などは顔を真っ赤にして彼らが視界に入ったとたん慌てて目を逸らすのを繰り返していた。
「みんな細いねー」
隣から、明らかに男子の体を評価した発言が飛び出して、谷地の口からえぇ、と大きめの声が漏れた。
そこには臆することなく極めて真面目な顔で選手を見つめるなまえがいた。
「そう?みんなけっこう筋肉ついてるよ」
清水も意外そうに返す。
「確かに6packsできてますけど、細くないですか?バレーって跳ぶスポーツだからそのほうが良いのかもしれないですけど」
「大地とか旭はがっしりしてるほうじゃないかな」
澤村は骨太で、どっしりしているように見えるし、東峰は背もあるぶん体格良くみえるうえ、スパイクを打ち出す腕にもしっかり肉がついている。
なまえは少し彼らを見つめつつ悩んで、
「うーん…やっぱり細く見えちゃいます」
と答えた。
「その、なまえちゃんって男の人の体見慣れてるの?」
谷地がこっそり耳打ちするように尋ねる。その姿をかわいい、と思う。
「そうだなぁ。私が前にいたところだと、晴れたら寒くてもとにかく脱ぐ人いるから、見慣れちゃったかも。外出ればムキムキの人が平気で上半身ハダカで外歩いてるんだもん。ほんとに腕がゴムタイヤみたいな太い人いっぱいいるし」
なまえがいた海の向こうの世界は、なんて恐ろしい場所なのだろう。谷地は顔を青くした。
「Caucasianとは骨格とか体の造りそのものが違うから、当たり前なんだけどね」
「コケ…?」
「白人さん。そういうのは見せる筋肉だから、あんまり好きじゃない」
「見せる筋肉…?」
「えっとね、自分だいすきっていうか」
「ナルシストってこと?」
「そうそう」
「私がボディビルダー体型に慣れちゃってるだけであって、田中先輩とか理想体型だと思う」
「なんだ、呼んだか?」
タオルで汗を拭いつつ、田中がひょっこりやってきた。
「あわわわわ」
谷地は側にあったまだ使っていないタオルに顔を埋めた。
「田中先輩の筋肉良いですねって話してました」
「マジか」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腰に手を当てて背筋を伸ばした。
「なまえちゃん、褒めない。うざくなるから」
ぴしゃりと言い放って、首を振る清水。なまえは笑って、しょんぼりとする田中にドリンクを手渡した。
「き、潔子さん…オレ、もっと鍛えて潔子さんの理想に」
「ならなくていい。仁花ちゃんがかわいそうだから田中あっちいって」
谷地は近くにある男性の体に耐えきれずにぷるぷる震えだした。
「ごめんなさい、田中先輩。シャツ着てくださいね」
うぉぉぉ、と清水の名前を叫びつつ西谷のいる方へ戻っていった。
****
「ドリンクおかわりいる人ー」
ボトルを数本腕に抱えて、ほぼ肌色と化した男の集団に乗り込んでいくなまえをみて、谷地はすごい…と呟いていた。
「なまえ、ドリンクくれ」
空のボトルを差し出しつつ、名前を呼ばれた方角へ平然と駆け寄っていく。
「翔陽、タオルもいる?」
体育館の床に腹を出して仰向けになって息をしている日向の腹をつつく。
「うひゃっ…ってなまえ!」
とくすぐったさに悲鳴をあげるのをみてケラケラと笑っている。
「いや、キミ恥じらいってものはないわけ」
月島が眼鏡をあげつつ、眉をひそめた。
「どうして?」
「平気で男の肌に触る女子ってどうかと思う」
「知らない人に触ったりしないよ」
首をかしげるなまえに、そりゃあ入部当初に男子を相手にしてハグ大会を開催しかけたなまえに恥じらいもなにもあったものじゃなかったか、と無駄な質問を重ねることを諦めた。
次になまえは壁に背中を預けて手足を投げ出し、目を閉じて頭からタオルを被っている影山のそばにしゃがみこむ。影山は気づいているのか、無視しているのか近くに寄ってきた気配に無反応だ。それを月島や山口が無言で見つめている。
なまえは何を思ったのか、抱えていたものを床に置き、手にした一つのボトルの飲み口を影山の顔に向け、ボトルの腹を両手で絞った。
冷えたドリンクが影山の頬から、顎から、鼻先から滴る。
カッと目を開き、去ろうとしたなまえの手首を目に見えぬ動きで握りこむ。のっそりと立ち上がると、なまえは万歳をする形で引き上げられた。
「てめぇなまえボゲェ」
「Hey...'sup, dude?」
挨拶でごまかしつつ、腕を引き抜こうとしても影山の手はびくともしなかった。
「ご、ごめん…そんなに怒ると思わなくって」
「あ゛ぁ?」
なまえは視線を泳がせて、こちらを静観している月島と山口に助けを求めたが、月島は意地悪そうに笑っているし、山口でさえも困っているようで少し楽しそうに状況を見守っている。
彼らにしてみれば今の状況は完全なるなまえの自業自得なのであって、助ける理由などなかった。
「も、もーいいだろ影山、なまえはちょっといたずらしただけじゃん」
日向がかばうのを横目で押し殺して、なまえの両手首をまとめて片手で吊りあげる。影山の大きな手は、なまえの両手首を掴んでもまだ余裕がある。
いくら細くみえても体格差もある男子に敵うはずもない。ぐいぐいと腕を上にひっぱられて、つま先立ちしても足りなかった。
「うっ、影山くん、腕がいたいです、ごめんなさいでした!
You're hurting me!」
無言を貫く影山にだんだん恐怖心が芽生えてきた。ちょっと泣きたい。
どうにか逃げ出そうとするなまえの柔らかな腕を封じて、焦る顔を見下ろす。潤む大きな瞳、瞬くまつげ、きゅっと結んだ唇も、おびえるそれは小動物のようだ。
抵抗する動きもとまり、彼女は再度謝罪の言葉を口にした。
なまえが心底後悔しているのを確認して、影山はようやく両手を解放した。
「バーカ。次やったら怒るからな」
ぐりぐりと力を込めて髪を乱してやった。
なまえは子供っぽい侮辱を甘んじて受ける。
「お、怒ってなかったの…?あれで?」
****
おわり。
人によっては8packsもあるみたいですね。
読んでくださりありがとうございます。
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