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部活終わりのミーティング。いつもたいして長引くことはないし、今日も簡単に終わるはずだった。
そんな中で、監督側に3人並んだマネージャーの中からかわいらしい悲鳴が上がったのはその場にいた全員にとって驚きだった。
「きゃああああっ!!」
視線が集まる先には、なまえに押しつぶされている谷地がいた。清水が慌てておおいかぶさっている肩を掴むが、さすがに彼女ひとりで人ひとりをどうこうできるわけもなかった。
目の前にいた田中がなまえを羽交い締めにしてひっぺがして、ことなきを得る。そのうちになまえの膝が折れて、その場に田中とともに座り込む。清水が顔を覗き込んでも、なまえは話そうとしない。
「どうしたのなまえちゃん、貧血?」
確かにこの連休、国外にいる祖父母に会いに行くということで部活にもこなかった。久しぶりに姿を見せたと思えばどことなくだるそうにはしていたが、こんなに体調を崩している様子はなかったのに。
いまも顔色が特段悪いこともなく、呼吸はゆっくりだ。
「こいつ、寝てるぜ…」
「
英語が飛び出た、ということは確実に寝ぼけている。
「
「なまえちゃん、起きてー!」
「…えっ?仁花ちゃん?ごめん、私寝てた?」
「ダメだこりゃ」
「日本に帰ってきてから何日だっけ?」
そう問われて、指折り数える。
「3日だっけ…」
帰りの飛行機の中で寝るべきだったのはわかっているが、座り心地の悪さと周囲の騒音にさいなまれてどうしても睡眠をとることができなかった。日本に着いたら着いたで、身体はだるいのに夜になって瞼を閉じても一向に眠れない。そのうち学校も始まり、授業中寝ることなど、とうぜん許されず。
それでも1日2日はどうにか乗り切った。しかしそこからは記憶はとびとびになるし、目を閉じるだけで意識を失うようになって、はっとして起きることを繰り返すようになった。
「夜はずっと眠れなくて…昼間に動いているときはマシなんですけど、じっとしてると眠たくて仕方ないんです…」
「親御さんは?迎えにきてもらう?」
「今夜は遅くなるって言ってたので、10時か11時にならないと連絡とれないです」
「そうですか。僕が送っていきたいところですが、実は今日このあと会議があって…帰るのなら今ですよね」
武田が神妙な顔つきで生徒と職員会議を天秤にかけようとしていた。
「なら、鳥飼監督に車だしてもらえれば」
「それがいまじっと座ってると寝てしまうので、車乗ってしまったら起きれなくなっちゃうかも」
そこまでなったら迷惑になってしまう、と床に座っていてもくらくらする頭を抱えた。
まぶたが勝手に落ちてきてしまう。いまこうしていても辛い。いまとるべき最前の方法も考えられないほど頭の働きが鈍っている。
とにかくどうにかして家に帰らなければ。
ふらつきながら立ち上がって、頭を下げる。
「すみません、帰って良いですか?」
「あぁ、気をつけてな」
「お騒がせしました。失礼します」
キャプテン、監督、コーチから早退の許可をとり、くるりと方向転換する。
頼りない足取りで前へと進むが、一向に外に出られない。扉はどこだっただろう。出口に近い方にいたはずなのに、見当たらない。
「なまえ、どこ行くつもり?」
月島の声に立ち止まり、重そうな瞼を一度閉じて開く。
外にでるどころか、体育館の中心へと歩いていたので、家になどたどり着けるはずもない。
そのまま前の方にぐらりと倒れ込んだ。山口の胸に体当たりする形で。
「う、わぁぁあああああ!」
彼の口から情けない声が漏れて、顔を真っ赤に染める。月島がその取り乱した様子を見て噴き出した。
「プッ、山口うるさい」
「ヅッギィイイイイ!」
山口は顔の赤らみも取れないうちになまえを起こそうと肩を揺すった。
「ちょっなまえ、寝ないで!ここ体育館だよ?!学校だから!」
「忠…?
この現状を見て、澤村は山口を指名した。
「山口、送ってやってくれるか…」
「うわ、ご愁傷さま」
「ツッキーもだからね!」
山口が月島のシャツの肩を握りこんでその場から離れないように引っ張る。
「え、やだし。山口それ本気で言ってる?」
「オレひとりじゃ二人ぶんのかばん持ってなまえの面倒までみきれないよ」
「えー…世話の焼ける」
月島お得意のため息をついて、嫌々ながら体育館を後にした。
****
結局山口がなまえのぶんと二つカバンを持ち、月島との間になまえを挟んで帰ることになった。なまえはためらいなく二人の脇に手を差し込んで腕を組んだので、これから三人四脚でも始めるかのようだ。
おかげでことごとく通行人の視線を集めることになってしまった。
信号待ちの間に前後にゆらゆらする頭を、月島が指を広げて掴む。するりと指先を抜ける慣れない感触に込めた力がゆるんだ。
「ほらなまえ、家まで頑張って起きてよ」
「う~ん、ツッキー…頭が痛い気がするのどうしてかなぁ」
それは間違いなく月島が彼女の頭を締め上げているからだが、当人はしれっと返答する。
「さぁ、寝不足じゃないの」
「ツッキー…女子には優しくしようよ」
どうにも頼りないなまえに道を確認しながら進む。そのうち路地裏といっても良いほどの狭い道に入り、さすがに小柄な女子だったならいざ知らず体格の良い男二人とおまけのなまえが横並びで通るには難しい。カバンを抱えているのならなおさら。
「じゃあ山口、先に行って。僕は一番後ろにいるから」
三人縦一列でここを乗り越えようということらしい。
「あ、うん。」
「なまえ、ハグ忠」
反論もなく二つのカバンを抱えなおしたところで、背中から両腕が回り込んできた。月島の下した命令になまえは頭を使うまでもなく従ったからだ。
「ぅえっ?!ちょ、ちょっと?!」
「はい、サクサク歩いてー」
ぐいぐいと押してくる力に逆らえず、歩み出す。
上手く後ろを見れないが、月島はなまえの襟首を掴んで支えつつ操縦している。
視線を下げて、自身の腹の辺りにある、山口を落ち着かなくさせる原因を見つめる。
いっぱいいっぱいに伸ばした腕は間違いなく女子のもので、形づくる線からしてやわらかくて、手首が信じられないほどほそい。山口も背が高いとはいえ決して目立って筋肉質ではなく、第一印象ならば弱々しく見えてしまう。だから自分のことを男らしいなどと言えたものではなかったが、異性の比較対象に実際触れてみると俺ってちゃんと男っぽい体格なのかも、と考えを改める。骨格が違うというのはこういうことか、と納得してしまった。
「あ、おうちー」
「山口、ストップ。着いたみたい」
「あ、う、うん」
「家に入ればあとは自分でできる?」
山口が玄関にカバンを降ろして、のろのろと靴を脱ぐなまえを見つめる。こうは聞いたものの、何か頼まれてもできることなどありはしないが。
「ん、できるよ。ありがとう」
「じゃあ僕ら、ちゃんと家まで送ったからね」
寝ぼけつつも、笑顔はつくり慣れたものを乗せる。いつもより覇気に欠けるが。
一応玄関の鍵を彼女が締めたことを音で確認して、その場を去る。
「ねぇツッキー、なまえだいじょうぶ、だよね?」
「はぁ?家にまで入ればだいじょうぶでしょ。何もなければ明日学校くるだろうし。山口心配しすぎ。なまえもただの時差ボケからの寝不足だし」
うん、と頷いて、明日はなまえ元気になってると良いね、と言うと、どっちにしろまた問題起こしそうだから嫌だ、と渋い顔をされた。
****
以下、おまけです。
翌日のお話。
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翌日、午後になってやっと登校してきたなまえに、日向がぴょんぴょん跳ねながら元気よく挨拶した。
「なまえ!もう今日は来ないんだと思ってた」
「翔陽おは…こんにちはだ。びっくりしたー!目が覚めたら12時だったんたもん。むしろ時計見て起きたっていうか」
「ええ?結局何時間寝てたんだよ?」
「はっきり何時に帰ったか覚えてないんだけど。家に着いてシャワー浴びて、そこから記憶無いから、15…16時間…かな?」
「逆にすげぇな」
日向は真顔で感心していた。
そして月島と山口の2人には後日ケーキを奢ったらしい。
**
おわり。
We'll walk you home.
『家まで送るよ。』
でした。
読んでくださりありがとうございます。
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