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「潔子せんぱぁぁい、おつかれさまでした!」
部活終わりに制服に戻り、体育館前で別れを告げぎゅうっと抱き着くと、清水もそれをやわらかく、当たり前のことのように受け止める。
「おつかれさま、なまえちゃん。また明日ね」
爽やかに帰途に着く後姿を見送る。家が近いとはいえ、暗くなりかけているので先に帰ってしまった。1、2年生が着替えを済ませ部室から降りてくる。
それを横目に、何か信じられないものを見たように体をこわばらせる田中と西谷。
「お、おい今の見たかノヤっさん…」
「お、おう…俺らの女神に…女神にぃぃぃ!!ふしだらだぞなまえ!!」
意味がわからない、と首を傾げる。
「いや、女の子同士だし、いんじゃね?」
少し驚いた様子ではあるものの、冷静に返す縁下。
「ハグでいやらしいこと考えすぎですよ」
「だって、相手は潔子さんだぞ?!お話して返事が返ってくるだけでも恐れ多いのに!」
「好きだから、親愛を込めてハグするんですよ。当然じゃないですか」
「ま、マジで?じゃあ俺も…潔子さんと…」
「させないだろ、清水先輩が」
あきれたように縁下が西谷を見下ろすと、がっくりと膝をついた。
「だよなー」
「友達ならハグするでしょう?翔陽」
手のひらを上にし軽く握った拳で、人差し指と中指だけをくいくいと動かし、手招きする。
「え、なに…」
来いってこと?と呼び寄せられた日向の胴体を、なまえは両腕で包み込む。
「はい、ハグー」
低い歓声がところどころで上がる。ひっ、と息をのむのがなまえの耳元で聞こえた。
家族以外の女性と、どころか家族ともこういうふうに身体的に触れ合うことはなかったので、頭が追いつかない。
え?これはいいのか?彼女の体に腕を回して、いいのだろうか。肩のあたりにそっと震える指を添えても、なまえは抵抗しない。
自分に染み付いたであろう部室のサロンパスの匂いも、汗くささもどこかにいってしまった。全てをかきけして包み込む、この鼻をくすぐる香りは、なんというのだろう。
「…翔陽、ハグ下手だね」
バッサリと切り捨てて離れた。日向はショックで何も言えずに震えている。
「変に考えなくていいんだよ?挨拶あいさつ!」
くるりと向きを変えて、次の標的を定める。彼は自分がまだなにをされたわけでもないのに、日向を見て何故か頬を染めている。そのあごをふわふわとした髪がくすぐる感触で事態を理解したが、直立したままだ。
「影山くんやっぱ体おっきいね」
日向とのほぼ同じ体格相手での抱擁のあとで、その違いはよくわかった。バレー選手らしく細身の、しかし筋肉のついた体は根幹がしっかりとしていて、背中もちゃんと鍛えられていることが手に伝わってくる。ぴったりくっついても、ほほは胸元に当たる。
「なっ…バカなまえボゲェ!」
「はい、ハグちゃんとして?」
お返しを促すと、混乱したまま乱暴に腕をおろす。力加減がわからない。なまえは両手に力を込めているが、ちっとも苦しくなんてない。なんか、なんでかわからないけど全然嫌じゃない。というか、むしろ心地よいかもしれない。
制服で見ただけだと体型はわからないのに、こんなに細いものなのか。気を付けて臀部にだけは触らないようにしたが、正直どこに手を置いていいやら。 迷っているうちに、柔らかい感触はあっけなく腕の中から消えた。
「でもやっぱり下手。日本人ってハグ下手だよね。ハグに慣れちゃうと、逆カルチャーショック?」
「日向と…同レベルッ…!日向ボゲェ…」
「影山、そこじゃないんじゃないかな」
言われたのはハグが下手だということであり、決して日向と同じレベルで馬鹿だと言ったわけではないのに、落ち込むポイントがずれているようだと、縁下がなだめるようにその肩をたたいた。
月島は一連の出来事を冷めた目で眺め、『馬鹿ばっかり』とこぼしたが、隣の山口はどこかうらやましそうにしていた。
「さっさと帰ろう、山口。付き合ってらんない」
「えっ、待ってよツッキー!」
バイバイ、と手を振る山口にまたねー、と返すなまえ。
「はーい!つぎ俺!つぎ俺!」
「いいですよー」
よっしゃこい、と両腕を広げて待ち構える西谷の首根っこを思いっきり引く。尻もちをついた西谷が見上げると、そこには鬼のキャプテンが立っていた。
どうやら3年生が部室の鍵を閉めて下りてきたようだ。
「なにを騒いでいるのかな?1年2年どもは」
「大地さん…」
「田中、お前…」
菅原がつい、と指をさす先には田中がおり、間抜け面で開けた口から鼻を一筋、赤い線がつなげていた。周囲の人間はぎょっとする。
こすった指についた血液に動揺し、あわてて弁解を始める。
「おっうぇ、わぁあああああああああああこれは!これは決して、潔子さんとごにょごにょ…妄想してたわけじゃ」
「田中きめぇ」
「それはアウトだわ」
「潔子さんからビンタすら受けていないお前が、恐れ多いわこのバカ!」
「スンマセン師匠ッ!」
「お前が偉そうに言ってんじゃないよ、西谷」
「はい、大地さん…」
キャプテンに小突かれた西谷が、しょんぼりと田中のとなりで頭を下げる
鞄に入れてあったティッシュを探り出し、赤い指先に乗せる。
「はいティッシュ、田中先輩」
「うおっ、ありがとな、なまえ」
周囲のドン引きムードを背に、田中は鼻に差し出されたティッシュを詰め込んだ。
「俺、ちょっと何が起こってんのかわかんねぇわ」
俺らが目を離したすきにいったい何が、と東峰が白目を向いて現実逃避していた。
「とりあえず、苗字…男子への抱擁禁止な」
笑わない目で澤村は優しく注意した。
「Yes Boss!」
ぴしりと敬礼を決めた。
**
おわり
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