HQ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
変人速攻の改変の言い争いからはじまった日向と影山の取っ組み合いの喧嘩の後、いやな空気を残したまま別れた。
田中が二人に正義の鉄槌を食らわせてその場は終わったが、内心まだ言い足りないこと、説得したりないこと、納得できないことが多くあるのだと思う。
日向のことは谷地に任せて、なまえは影山に着いてきた。
むすっとして黙りこくる影山は、なにをきいても上の空で、たてつく島もない。
もしかしたらほうっておいてほしいと思っているのだろうが、ここでひとりにしてしまったら、また中学のときの繰り返しになってしまうのではと心配した。みんなに拒否されることなど、もう彼に味わってほしくない。そして誰かを拒否してしまうことも、してほしくない。
言い合いを見ていて、日向の言い分も理解できる。ここで変化を起こさなければ、チームとしての勝利の突破口もふさがれてしまう。でも影山の言いたいこともわかる。日向は技術的に未熟であり、自身を磨いていけば、チーム全体としての平均値も戦闘力もあがる。変人速攻は使い時を間違わなければいまだ有効だし、日向唯一で最強の技だ。それを捨てて、ただでさえない時間を、ほかに割ける時間をおしやってまで、やる価値はないと。
「なに考えてるの?話してよ」
急にさみしくなって、シャツの裾を引っ張った。足は止まったが、背中はかたくなになまえをつっぱねている。
「あ?」
「なにか話してよ…なんでも。私は影山くんの味方だよ」
「急になんだ」
ようやく体を向けた。
「やっとこっち向いてくれたね」
「だからなんだっつーんだ」
苛立ちを隠す余裕もなく、乱暴に突き放すも、なまえは引き下がる様子はない。この小さな体から、どうやってこの迫力をだしているのだろう。
「ちょっと良い?」
黙ってきいておいたほうがいいような気がして、うなずく。
「私だってどう言っていいかわかんないよ。でも、影山くんは今度は一人じゃないんだよ。いいチームメイトがたくさんいるじゃん。そんな人たちに、距離を置かれたくはないでしょ。私なんかじゃなんの力にもならないのはわかってるけど、話きくことぐらいならできるから、なんでも言ってよ。
日向とケンカしたままじゃいやだよ。ちゃんと話そう」
それで影山も気持ちを切り替えたのか、なまえに習って、射貫くような目をした。
「…お前も、見てただろ。日向の言ってたこと、わかるか?」
「日向は、強くなりたいって言ってた。だから変化が必要なんだってことだよね。それが、トスを見てからのスパイクの打ち分けってことでしょ」
「俺はいま、あいつの言いなりになってあいつがやりたい速攻できるように練習してやってる暇なんかねーと思う。それより基本をできるようになったほうが早い」
「うん、そうだね」
「俺が…もっとトスをどうにかできれば、日向をうまく使ってやれると思うんだ」
「わかった。私、応援してるね」
影山が決して落ち込んでいるわけでも、日向に対して憤慨して彼を否定しているわけではなく、落ち着いて先のことを考えているのだとわかった。
「サンキュ」
「明日体育館使えないから部活お休みなんだし、ちゃんと今夜は寝てね」
「おう」
なまえと会話できる程度には精神状態が回復したが、まだその目は迷っている。模索しつづけている。口元はさらに固く結ばれた。
なまえは明確な解決策を持たないゆえに口出しはできない。
影山を、日向を信じるしかないのだ。
****
しかしあれからというもの、言葉はおろか、目をあわすこともなくすれ違う二人を、不安そうにみるなまえと谷地。どうしよう、とマネ同士の意思が通じたとき、谷地はきゅっと肩に力を入れた。
「私、日向のとこいってみる」
谷地はぎこちなく、日向に歩み寄っていった。反対になまえは、影山の背をおいかけた。ところがこちらから声をかける前に、影山が口を開いた。
「やることはもう見えた。…だからあんま気にすんな。俺もお前を気にしてる暇はねぇからな」
「…うん!」
紺色の瞳に、燃える意思を確認して、もう何も言わなくても大丈夫だと悟る。彼はもう日向を拒絶することはない。やるべきことを見つけてそこを走り抜けることしか考えていない。気が抜けたと思ったら、ここ数日張り詰めていたものが崩壊して、目からぽろりと落ちるものがあった。
影山がぎょっとする。
ところが止めなきゃ、と思えば思うほど止まらなくなって、ごめんと断って体育館から出た。
「なまえちゃん、待って!」
谷地があわててなまえを追いかける。居心地が悪いが、笑顔になってたし、谷地がいればきっと大丈夫だろう。とペットボトルをネット際に並べようとしたら、山口が険しい顔をして邪魔をした。
「影山。苗字さん泣かせてさ、あれはないんじゃない?」
「は?苗字さん泣いたの?」
「ツッキー見てなかったの?影山がなんか、話しかけようとした苗字さんに『お前を気にしてる暇はない』とか言ってて、それで…」
「うわ、王様ひっど。サイテー」
影山の言った気にするな、は心配するな、という意味だ。そして今はその新しい止まるトスの開発に集中するため、周囲を気遣う余裕などないから、という注釈で『気にしている暇はない』ということになったのだが、ここ数日に渡る経緯を知らない人間が、単品で影山のセリフをきいてそう推理するのは当然だろう。
「ちがっ!あれは!」
必死に訂正しようとするが、頭がおいつかない。
「影山、女子泣かしちゃいかんべさ」
近くにいた菅原が、優しく諭す。そこにやっかいなことに2年の熱血組が加わった。
「なに!影山が女子を泣かせただと?!」
「この男の風上にもおけないヤツめ!根性叩きなおしてやる!そこ座れ!」
田中が後ろからひざかっくんを食らわして、体勢を崩したところを西谷が上から頭を押さえつけて床に正座せようとする。
「ちょっとは聞いてくださいよ!」
「あんだと?言い訳するなんざ男らしくねぇ!」
騒ぎをききつけた谷地が戻ってきて、なまえの無事を叫ぶ。
「あああ皆さーん!だいじょうぶです、なまえちゃんは元気ですからー!」
「私はなんともないですから、影山くん解放してあげてください!」
なんとか澤村にかぎつけられることはなく収束したが、見つかっていたらどうなっていたか。すべてを説明するのは複雑で面倒だ。誤解を解くのは大変だったが、谷地の協力もあってなんとか解けた。
****
以下、おまけ
影山が説教されかけている間のマネ同士の会話です。
****
「なまえちゃん、待って!」
横に並んで、なまえの様子がただ泣いているにしてはおかしいことに気づく。
不規則に肩を震わせているのに、暗い空気は感じられない。
「ふ、ふふっ…仁花ちゃん」
「わ、わらってるの?なまえちゃん…」
「だって、あのね…ほっとしたら、涙が…。」
「心配したよー」
「ごめんね。昨日まで、もう影山くんと日向がバレーしてるとこも、じゃれあう姿もみれないのかなって想像したら悲しくて、でも泣かなかったんだよ」
「じゃあ、影山くん怒ってたわけじゃないんだね」
「ううん、ちゃんと新しいトスのことしか考えてなかったよ」
「そっか。日向も、大丈夫だって言ってた」
「日向も?ふたりともすぐ仲直りできるかな」
「できるよ、そのうちきっと」
『…泣かせただと?!』
『この男の風上にもおけないヤツめ!…』
ただでさえうるさい、田中と西谷の声が体育館の外まで響いて、谷地がなまえの腕を引っ張る。
「わ、影山くんがヤバいかも!なまえちゃんもどろ!」
「うん」
「あああ皆さーん!…」
****
ほんとに終わります。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
3/16ページ