誠実な恋のはじめ方
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翌日、ヤムライハは偶然を装ってなまえを訪ねたが、立ち直るというには程遠い様子だった。一言二言やりとりし、ようやくなまえは笑顔らしい表情をしたが、きっとあれでは仕事にならないだろう。
「シンさま、ジャーファルさま、お時間いただけますか」
神妙な面持ちで訪れたヤムライハに、ジャーファルは椅子をすすめた。けれどそれに腰を落ち着かせることはなかった。
「なまえ、私の部屋で呑んでからずっと様子がおかしいのよ!」
どういうこと、と声を低くしてヤムライハは詰め寄るが、ジャーファルは動じない。さすがにシンのときのように乱暴なことをするわけにはいかず、努めて表情を崩さずに対応した。
「おそらくそれからはこちらにも姿を見せておりませんよ。なにがあったのか聞きたいのはこちらのほうです」
「あのねぇ、おまけにその夜にジャーファル様が酔ったなまえを自室に拉致して無理矢理手籠めにしたうえ朝になる前に追い出したとか噂が出回ってるのよ」
「……、……はい?」
ジャーファルは呆然として、聞き返した。
「だから、夜中になまえとジャーファル様がいっしょにいたところを見てる人がいるみたいなの。それから夜も明けきらないうちから、なまえが泣きながら宮殿内を走っているところを見たって女官の証言もあるし」
夜中に二人が一緒にいたところを見た、というのはあくまで噂で、元をたどることはできなかった。けれど後者は実際に目撃した女官から直接きくことができた。
おそらくジャーファルとなまえが夜おなじところにいた、という噂を流したのはあの夜に彼女を口説いていた男だろうが、体裁が悪いため自らの名は伏せたのかもしれない。
ジャーファルはこめかみを押さえ、なるべく事務的に説明しようと心がけた。
「彼女は夜中に外に出ていました。かなり泥酔しており歩けないらしかったので部屋まで送ろうとしましたが私は彼女の部屋を知らず、会話すらできない状態だったため自室にて保護しました。…としか言えません」
「ほう。それでやることはやったんだろうな」
「してません。誓って。私はシンとは違います」
「なんだ、好きな女の据え膳も食えんとは男としてどうかと思うぞ」
次の瞬間には顔の真横を部下の得物が通り過ぎていた。
「お、おいジャーファル……ちょっと本気すぎやしないか」
「ふざけんなそれが一国の主の言っていい台詞か」
あのときの男としての理性の戦いをこいつは知らないだろう。好いた女が自分のことを慕ってくれていて、まさに目の前に無防備に寝ているというのに想いを告げていないというだけで手も足もでない状態を。
もしそうなったとしても怒りはしないだろうが想いを通じあわせないまま体を重ねたとなれば絶対彼女は傷つく。それだけは嫌だった。それ以前にあれだけ泥酔していれば手も足もでないとかそういう話ではない。
とりあえずジャーファルの話はきけたことに満足する。
ヤムライハは肩をすくめて、退室の言葉を口にした。
「かわいそうなくらい落ち込んでいたから詳しいことをきけなかったけれど……なまえにもう一度確認してみるわ」
「私からもお願いします」
ヤムライハが一通り話してきかせると、彼女は目をこぼれ落ちるかと思うくらいに見開いて、顔の色を失った。
「そんな!そんな噂が……!」
「朝方あなたがジャーファル様の部屋の方角から泣きながら出てくるのを見た子がいてね。あなたがジャーファル様に心を寄せていたことはだいたいみんな知っていたようだし、こんなの邪推だけれど。あなたのため、もちろんジャーファル様のためにも真実を確かめなければと思って」
「わかりました。ちゃんとお話します」
きゅっと顔をひきしめて、覚悟した。
「良かった。どんなことが真実であれ、あなたを悪いようにはさせないわ」
「いいえ、悪いのは私です。私あの日すごく酔っていて、外に出て涼んでいました。ジャーファル様は見回りをしていたらしいです。私の影をあやしく思って声をかけてくださって、でも私歩けなくて、お話もできなくて…目が覚めたときにはジャーファル様の寝室にいました。けれど、ジャーファル様が私に対して邪な思いを持つことなんてありえません。私もただ寝ていただけで、体に変なところはなかったですし」
「そう。なにもなかったのね」
「はい。私とジャーファル様は一切何も関係ありません」
吐き出すように告げる姿が痛々しくて、ヤムライハは彼女をぎゅっと抱きしめた。
「そういう言い方をするものではないのよ。ひとまず、酷いことがなくて安心したわ」
「ヤムライハさま……いいえ、私とっても不愉快な思いをさせてしまいました。ジャーファル様にも、きっとみなさんにも……もう執務室には入りません。もう二度と」
「大丈夫よ、なにもあなたが落ち込むことないわ。ジャーファルさまも何も気にしていなかったから」
ヤムライハの優しい微笑みが、身に染みた。
「ね、あなたの淹れてくれるお茶が飲みたいわ。今日仕事が終わったら、私の部屋に用意しておいてくれないかしら。いっしょに飲みましょう、ね?」
「はい、わかりました。……ありがとうございます」
「シンさま、ジャーファルさま、お時間いただけますか」
神妙な面持ちで訪れたヤムライハに、ジャーファルは椅子をすすめた。けれどそれに腰を落ち着かせることはなかった。
「なまえ、私の部屋で呑んでからずっと様子がおかしいのよ!」
どういうこと、と声を低くしてヤムライハは詰め寄るが、ジャーファルは動じない。さすがにシンのときのように乱暴なことをするわけにはいかず、努めて表情を崩さずに対応した。
「おそらくそれからはこちらにも姿を見せておりませんよ。なにがあったのか聞きたいのはこちらのほうです」
「あのねぇ、おまけにその夜にジャーファル様が酔ったなまえを自室に拉致して無理矢理手籠めにしたうえ朝になる前に追い出したとか噂が出回ってるのよ」
「……、……はい?」
ジャーファルは呆然として、聞き返した。
「だから、夜中になまえとジャーファル様がいっしょにいたところを見てる人がいるみたいなの。それから夜も明けきらないうちから、なまえが泣きながら宮殿内を走っているところを見たって女官の証言もあるし」
夜中に二人が一緒にいたところを見た、というのはあくまで噂で、元をたどることはできなかった。けれど後者は実際に目撃した女官から直接きくことができた。
おそらくジャーファルとなまえが夜おなじところにいた、という噂を流したのはあの夜に彼女を口説いていた男だろうが、体裁が悪いため自らの名は伏せたのかもしれない。
ジャーファルはこめかみを押さえ、なるべく事務的に説明しようと心がけた。
「彼女は夜中に外に出ていました。かなり泥酔しており歩けないらしかったので部屋まで送ろうとしましたが私は彼女の部屋を知らず、会話すらできない状態だったため自室にて保護しました。…としか言えません」
「ほう。それでやることはやったんだろうな」
「してません。誓って。私はシンとは違います」
「なんだ、好きな女の据え膳も食えんとは男としてどうかと思うぞ」
次の瞬間には顔の真横を部下の得物が通り過ぎていた。
「お、おいジャーファル……ちょっと本気すぎやしないか」
「ふざけんなそれが一国の主の言っていい台詞か」
あのときの男としての理性の戦いをこいつは知らないだろう。好いた女が自分のことを慕ってくれていて、まさに目の前に無防備に寝ているというのに想いを告げていないというだけで手も足もでない状態を。
もしそうなったとしても怒りはしないだろうが想いを通じあわせないまま体を重ねたとなれば絶対彼女は傷つく。それだけは嫌だった。それ以前にあれだけ泥酔していれば手も足もでないとかそういう話ではない。
とりあえずジャーファルの話はきけたことに満足する。
ヤムライハは肩をすくめて、退室の言葉を口にした。
「かわいそうなくらい落ち込んでいたから詳しいことをきけなかったけれど……なまえにもう一度確認してみるわ」
「私からもお願いします」
ヤムライハが一通り話してきかせると、彼女は目をこぼれ落ちるかと思うくらいに見開いて、顔の色を失った。
「そんな!そんな噂が……!」
「朝方あなたがジャーファル様の部屋の方角から泣きながら出てくるのを見た子がいてね。あなたがジャーファル様に心を寄せていたことはだいたいみんな知っていたようだし、こんなの邪推だけれど。あなたのため、もちろんジャーファル様のためにも真実を確かめなければと思って」
「わかりました。ちゃんとお話します」
きゅっと顔をひきしめて、覚悟した。
「良かった。どんなことが真実であれ、あなたを悪いようにはさせないわ」
「いいえ、悪いのは私です。私あの日すごく酔っていて、外に出て涼んでいました。ジャーファル様は見回りをしていたらしいです。私の影をあやしく思って声をかけてくださって、でも私歩けなくて、お話もできなくて…目が覚めたときにはジャーファル様の寝室にいました。けれど、ジャーファル様が私に対して邪な思いを持つことなんてありえません。私もただ寝ていただけで、体に変なところはなかったですし」
「そう。なにもなかったのね」
「はい。私とジャーファル様は一切何も関係ありません」
吐き出すように告げる姿が痛々しくて、ヤムライハは彼女をぎゅっと抱きしめた。
「そういう言い方をするものではないのよ。ひとまず、酷いことがなくて安心したわ」
「ヤムライハさま……いいえ、私とっても不愉快な思いをさせてしまいました。ジャーファル様にも、きっとみなさんにも……もう執務室には入りません。もう二度と」
「大丈夫よ、なにもあなたが落ち込むことないわ。ジャーファルさまも何も気にしていなかったから」
ヤムライハの優しい微笑みが、身に染みた。
「ね、あなたの淹れてくれるお茶が飲みたいわ。今日仕事が終わったら、私の部屋に用意しておいてくれないかしら。いっしょに飲みましょう、ね?」
「はい、わかりました。……ありがとうございます」