踊り子とジャーファルさま
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破裂しそうでしきれない恥辱で顔がいつまでも熱くて、眠気は近づいて来なかった。
後悔しても、開き直れずとも朝は来る。
からからになった喉に一気に水を通しただけで、朝食はとてもじゃないが食べられなかった。眠れなかったおかげで遅刻はしなかったけれども、気力はいまいち湧かない。
来いと言われていた執務室にジャーファルはいた。彼の部下としての身分をもらったのだから彼の下で働くしかないのだけれども、やっていけるだろうか。
「なまえです。よろしくお願いします」
緊張だけではないぎこちなさに、ジャーファルは微笑む。昨夜のことをなかったことにしてくれるのか。優しいところばかりを見せつけられている。なまえはそれに報いることができるだろうか。
「思い詰めないでください。難しいことはありませんから。では、今日からこの者の指示をきくように」
さらりと別な人に引き継ぎをされた。そういえばジャーファルは王の右腕で文官の中でも偉い人。物腰のやわらかさで忘れそうになるけれど、新参のなまえは直接彼とやりとりすることはなさそうだ。深呼吸ができるくらいにはこわばりが解けた。
「あなたには倉庫整理を任せようと思います」
「はい」
「ジャーファルさまから文字の読み書きはともかく数字は読めると聞いてますが、間違いありませんか?」
不意に出てきた名前に心臓が一拍跳ねて、反応が遅れてしまった。
「……はい、数字なら読めるし書けます。文字は勉強中、です」
個人的にやりとりする手紙くらいなら問題ないが、公的な人の目に晒すような文書を書けるには至っていない。船の上でのジャーファルを家庭教師とした学びでは時間が限られていて完璧には届かなかった。
移動した先は誰もおらず静かだった。
「ここの数字を見て、小さい順になるように並べてください。ああ、まずは年度別に大まかに分けてからのほうが……」
指示は簡単で、メモをとるまでもない。
まず机に乱雑に置かれた書物を年度で分けて、一から並べ替える。そしてあてがわれた年代の棚に戻していく。無心でひたすら数字に集中して、体を動かしていたら気分も落ち着いてきた。
なにしろこれだけで一日が終わってしまったのだから、これらを作成している文官というものはどれだけ忙しいことか。入れ替わり立ち替わりしていく文官たちがせっかく整えた棚から書物は取られていく分もあったし、机に彼らが新しく作成し残したものが積み上がった。
最近のぶんは分類しやすく取り出しても戻しやすいようになっているけれど、建国して浅くまだいろいろ整っていない時期の資料の扱いは煩雑になっており、なかなか整理する時間がとれなかったとのこと。
「あの……、これで合っていますか?」
終業間際にやってきた文官に尋ねると、太鼓判を押された。
「丁寧にしてくださっていますね。雑用にわずらわされないでいいだけでも仕事が捗ります」
やはり雑事だったか、と落胆すると同時に自分に雑事以外の何ができるのだ、褒められるのは素直に嬉しいと高揚する部分もあった。この国で最低限の責務は果たせる能力がある時認められた、自信を持て。
分類の仕事は一ヶ月ほど続いたが、慣れたと判断されたのか別な仕事を増やされた。
「ではこの文書を書き写してください」
「そっくりそのまま真似して書けばよろしいのですね?」
「ええ、そのように」
いくつもの雛型を渡されて、一枚ずつ複写していく。
書きながら、これはもしやなまえの文字を書く練習を兼ねているのではとふと気づいた。勘繰りすぎだとしても、ありがたいことだ。仕事をしながら、お金をもらいながら勉強ができる。読めない、意味のわからない語句はメモに書き留めて、自由時間に調べておくことが習慣になった。
後悔しても、開き直れずとも朝は来る。
からからになった喉に一気に水を通しただけで、朝食はとてもじゃないが食べられなかった。眠れなかったおかげで遅刻はしなかったけれども、気力はいまいち湧かない。
来いと言われていた執務室にジャーファルはいた。彼の部下としての身分をもらったのだから彼の下で働くしかないのだけれども、やっていけるだろうか。
「なまえです。よろしくお願いします」
緊張だけではないぎこちなさに、ジャーファルは微笑む。昨夜のことをなかったことにしてくれるのか。優しいところばかりを見せつけられている。なまえはそれに報いることができるだろうか。
「思い詰めないでください。難しいことはありませんから。では、今日からこの者の指示をきくように」
さらりと別な人に引き継ぎをされた。そういえばジャーファルは王の右腕で文官の中でも偉い人。物腰のやわらかさで忘れそうになるけれど、新参のなまえは直接彼とやりとりすることはなさそうだ。深呼吸ができるくらいにはこわばりが解けた。
「あなたには倉庫整理を任せようと思います」
「はい」
「ジャーファルさまから文字の読み書きはともかく数字は読めると聞いてますが、間違いありませんか?」
不意に出てきた名前に心臓が一拍跳ねて、反応が遅れてしまった。
「……はい、数字なら読めるし書けます。文字は勉強中、です」
個人的にやりとりする手紙くらいなら問題ないが、公的な人の目に晒すような文書を書けるには至っていない。船の上でのジャーファルを家庭教師とした学びでは時間が限られていて完璧には届かなかった。
移動した先は誰もおらず静かだった。
「ここの数字を見て、小さい順になるように並べてください。ああ、まずは年度別に大まかに分けてからのほうが……」
指示は簡単で、メモをとるまでもない。
まず机に乱雑に置かれた書物を年度で分けて、一から並べ替える。そしてあてがわれた年代の棚に戻していく。無心でひたすら数字に集中して、体を動かしていたら気分も落ち着いてきた。
なにしろこれだけで一日が終わってしまったのだから、これらを作成している文官というものはどれだけ忙しいことか。入れ替わり立ち替わりしていく文官たちがせっかく整えた棚から書物は取られていく分もあったし、机に彼らが新しく作成し残したものが積み上がった。
最近のぶんは分類しやすく取り出しても戻しやすいようになっているけれど、建国して浅くまだいろいろ整っていない時期の資料の扱いは煩雑になっており、なかなか整理する時間がとれなかったとのこと。
「あの……、これで合っていますか?」
終業間際にやってきた文官に尋ねると、太鼓判を押された。
「丁寧にしてくださっていますね。雑用にわずらわされないでいいだけでも仕事が捗ります」
やはり雑事だったか、と落胆すると同時に自分に雑事以外の何ができるのだ、褒められるのは素直に嬉しいと高揚する部分もあった。この国で最低限の責務は果たせる能力がある時認められた、自信を持て。
分類の仕事は一ヶ月ほど続いたが、慣れたと判断されたのか別な仕事を増やされた。
「ではこの文書を書き写してください」
「そっくりそのまま真似して書けばよろしいのですね?」
「ええ、そのように」
いくつもの雛型を渡されて、一枚ずつ複写していく。
書きながら、これはもしやなまえの文字を書く練習を兼ねているのではとふと気づいた。勘繰りすぎだとしても、ありがたいことだ。仕事をしながら、お金をもらいながら勉強ができる。読めない、意味のわからない語句はメモに書き留めて、自由時間に調べておくことが習慣になった。
