誠実な恋のはじめ方
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浮き上がった意識でまばたきをし、寝がえりを打った。昨日はそう、ヤムライハに誘われてお酒を呑んで、今日は休みで、辺りが暗いところを見るとまだ日は昇っていないようだ。けれど、自室から見える景色はこんなものだったか。上半身だけ起き上がると、静かに声をかけられた。
「……目が覚めましたか?」
聞こえるはずのない声にびくりと体を震わせて、声の持ち主を見つめた。
目の色は黒く、据わっているようだ。のっぺりと読めない表情に、恐怖した。
ここはなまえの部屋ではない。そしてジャーファルがいる、だとしたらここは彼の部屋だろう。
「昨夜はずいぶんと呑んでいたようですが」
「すみませんでした、私……!すみません!申し訳ございません!」
謝罪の言葉を繰り返し、部屋から転び出るように出て行った。追いかければ捕まえることも容易いが、疲労が抜けきらない体はそれを拒否した。
「なんなんでしょうね全く……」
やっと部屋に戻ってベッドにうつぶせに倒れ込むと、クッションに顔を埋めた。
叫びたい衝動を全力で抑える。
酔っぱらって前後不覚になって意味不明なことを口走り、保護されたうえ寝所を占領したなんて。目覚めたときのあの冷たい表情。
もう二度と顔なんて合わせられない。
それからなまえは緑射塔へ閉じこもり、白羊塔に近付くことはなかった。
それから何週間か過ぎ。
まだ業務中だが、シンはペンを振る手を止めた。
「珍しいな、3日と開けずなまえが来ていたのに、ここのところさっぱりじゃないか」
顔にくっきりと疲労をきざみこんだジャーファルを物珍しげに見やり、探りを入れてみる。それまでよどみなく動いていた彼は手を震わせた。べきりと音がしたので、ペンはにぎりしめられたまま折れているだろう。まずい、どうやら地雷を踏んだらしい。
「私は知りませんよ。シンは お 菓 子 を楽しみにしていたでしょうけど」
ギギギ、とぎこちない音を立てて笑顔でこちらを見る。その目に光はなく、暗に仕事しろと言っている。
または別室で、ヤムライハが様子のおかしいなまえをなだめて、なんとか話をききだそうと試みていた。
「なまえ、あなたどうしたの?あれから落ち込んでるみたいだけれど」
「ヤムライハ様……、ご心配いただきありがとうございます。その、ちょっと……」
彼女の口は堅い。
「なにかあったのね?私、きっと力になるわ。お願い、教えてちょうだい」
少し視線を落としたなまえ。ひざに置かれた手にヤムライハが手を添えると、重々しく頷いた。
「あの夜、ずいぶんとお酒に酔った私は外に出てしまって……ジャーファル様が……」
「そう。それから?」
「…………」
「なまえ?」
「いえ、なんでもないです。なにも。私、本当にうじうじして、いけませんね。明日からは普通にします」
力ない微笑み。ヤムライハは心痛な面持ちでなまえを見つめたが、なまえは無理に口端を上げただけだった。
「そんな……」
「大丈夫です、私早く忘れなくちゃ」
「なまえ……」
「それではヤムライハ様、私はお仕事に戻りますね」
「……ええ」
彼女の細い背中を見送るしかできなかった。
「……目が覚めましたか?」
聞こえるはずのない声にびくりと体を震わせて、声の持ち主を見つめた。
目の色は黒く、据わっているようだ。のっぺりと読めない表情に、恐怖した。
ここはなまえの部屋ではない。そしてジャーファルがいる、だとしたらここは彼の部屋だろう。
「昨夜はずいぶんと呑んでいたようですが」
「すみませんでした、私……!すみません!申し訳ございません!」
謝罪の言葉を繰り返し、部屋から転び出るように出て行った。追いかければ捕まえることも容易いが、疲労が抜けきらない体はそれを拒否した。
「なんなんでしょうね全く……」
やっと部屋に戻ってベッドにうつぶせに倒れ込むと、クッションに顔を埋めた。
叫びたい衝動を全力で抑える。
酔っぱらって前後不覚になって意味不明なことを口走り、保護されたうえ寝所を占領したなんて。目覚めたときのあの冷たい表情。
もう二度と顔なんて合わせられない。
それからなまえは緑射塔へ閉じこもり、白羊塔に近付くことはなかった。
それから何週間か過ぎ。
まだ業務中だが、シンはペンを振る手を止めた。
「珍しいな、3日と開けずなまえが来ていたのに、ここのところさっぱりじゃないか」
顔にくっきりと疲労をきざみこんだジャーファルを物珍しげに見やり、探りを入れてみる。それまでよどみなく動いていた彼は手を震わせた。べきりと音がしたので、ペンはにぎりしめられたまま折れているだろう。まずい、どうやら地雷を踏んだらしい。
「私は知りませんよ。シンは お 菓 子 を楽しみにしていたでしょうけど」
ギギギ、とぎこちない音を立てて笑顔でこちらを見る。その目に光はなく、暗に仕事しろと言っている。
または別室で、ヤムライハが様子のおかしいなまえをなだめて、なんとか話をききだそうと試みていた。
「なまえ、あなたどうしたの?あれから落ち込んでるみたいだけれど」
「ヤムライハ様……、ご心配いただきありがとうございます。その、ちょっと……」
彼女の口は堅い。
「なにかあったのね?私、きっと力になるわ。お願い、教えてちょうだい」
少し視線を落としたなまえ。ひざに置かれた手にヤムライハが手を添えると、重々しく頷いた。
「あの夜、ずいぶんとお酒に酔った私は外に出てしまって……ジャーファル様が……」
「そう。それから?」
「…………」
「なまえ?」
「いえ、なんでもないです。なにも。私、本当にうじうじして、いけませんね。明日からは普通にします」
力ない微笑み。ヤムライハは心痛な面持ちでなまえを見つめたが、なまえは無理に口端を上げただけだった。
「そんな……」
「大丈夫です、私早く忘れなくちゃ」
「なまえ……」
「それではヤムライハ様、私はお仕事に戻りますね」
「……ええ」
彼女の細い背中を見送るしかできなかった。