淡雪は海に溶けた
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
**
仕事が一息ついたところで、黒秤塔へ向かう。
しばらく前からとある件について調査の依頼をしていたが、なかなか報告が返ってこないのでしびれを切らして自ら赴いたところだ。
扉を開けると、用事のある人物は難しい顔をして腕組みをして椅子の背もたれにもたれていた。
「これは、ジャーファル様」
パッと椅子から立ち上がり、礼をする。それを手で押さえて、話を切り出した。
「以前調査を頼んでいたことですが」
「えぇ、存じております。お待たせしてしまい、申し訳ございません。いま報告書を確認していたところですが……こちらをお出しして良いものか判断つけかねておりました」
「調べが進んでいればいいのです」
「……ええ。結局のところ、シャーリン殿の出自がわかればよろしいのですね」
「そうお願いしてましたが」
彼はうすくなった頭を撫でて、重そうに振った。
「残念ながら、出身国そのものはわかりませんでした」
「わからない、とは」
なまえから聞いていたいくつかのおとぎ話と彼女の話す言語から、その話が伝わる国を探し出せば、彼女の故郷がわかるのではないかと踏み、各国の留学生が集う黒秤塔にて探させていた。
「世界中に広く伝わる子供向けの話が主でしたが、各国で微細な違いはあるものです。中には特定の国にしか伝わっていない童話もありましたし、その傾向となまえ殿の話を照らし合わせれば、つきとめることもできると私も思いましたが、これは……」
ジャーファルが書き留めて渡したメモの下に、そのおとぎ話の発祥の地、原作者の名前、使われた言語、あらまし、各国での伝承などが並べられていた。羊皮紙をめくるごとに、新しい国名や食い違う話の詳細がページごとにでてくる。まるで全世界を網羅しているかのよう。
さらにシンドリアへ流れ着いたとき身に着けていた衣服は、煌帝国のものにつくりがやや似ていることから極東周辺のものではないかと推測されるが、彼女の言語はレーム帝国の一部でかつて使われていたもの。言語が統一されてからどのくらいの年月が経っただろうか。それをさかのぼらねば彼女の身元はわからないとでもいうのか。
「旅の行商人や芸人だったのならこれだけ多種多様な童話を知っているということに納得いきますが、はっきりとは申し上げられません。それでしたらなおさら言葉が通じないということがありえませんし」
「そうでしたか……手間を取らせました」
「いえ、お役に立てず悔しいばかりです。またなにかあったらお申しつけください」
「ありがとうございます」
分厚い羊皮紙の束をわきに抱えて、執務室へもどった。
「なまえ、あなたはいったい何処で生まれて何処で育ったんでしょう」
回収した報告書をめくるたびに、その謎は深まる。
**
仕事が一息ついたところで、黒秤塔へ向かう。
しばらく前からとある件について調査の依頼をしていたが、なかなか報告が返ってこないのでしびれを切らして自ら赴いたところだ。
扉を開けると、用事のある人物は難しい顔をして腕組みをして椅子の背もたれにもたれていた。
「これは、ジャーファル様」
パッと椅子から立ち上がり、礼をする。それを手で押さえて、話を切り出した。
「以前調査を頼んでいたことですが」
「えぇ、存じております。お待たせしてしまい、申し訳ございません。いま報告書を確認していたところですが……こちらをお出しして良いものか判断つけかねておりました」
「調べが進んでいればいいのです」
「……ええ。結局のところ、シャーリン殿の出自がわかればよろしいのですね」
「そうお願いしてましたが」
彼はうすくなった頭を撫でて、重そうに振った。
「残念ながら、出身国そのものはわかりませんでした」
「わからない、とは」
なまえから聞いていたいくつかのおとぎ話と彼女の話す言語から、その話が伝わる国を探し出せば、彼女の故郷がわかるのではないかと踏み、各国の留学生が集う黒秤塔にて探させていた。
「世界中に広く伝わる子供向けの話が主でしたが、各国で微細な違いはあるものです。中には特定の国にしか伝わっていない童話もありましたし、その傾向となまえ殿の話を照らし合わせれば、つきとめることもできると私も思いましたが、これは……」
ジャーファルが書き留めて渡したメモの下に、そのおとぎ話の発祥の地、原作者の名前、使われた言語、あらまし、各国での伝承などが並べられていた。羊皮紙をめくるごとに、新しい国名や食い違う話の詳細がページごとにでてくる。まるで全世界を網羅しているかのよう。
さらにシンドリアへ流れ着いたとき身に着けていた衣服は、煌帝国のものにつくりがやや似ていることから極東周辺のものではないかと推測されるが、彼女の言語はレーム帝国の一部でかつて使われていたもの。言語が統一されてからどのくらいの年月が経っただろうか。それをさかのぼらねば彼女の身元はわからないとでもいうのか。
「旅の行商人や芸人だったのならこれだけ多種多様な童話を知っているということに納得いきますが、はっきりとは申し上げられません。それでしたらなおさら言葉が通じないということがありえませんし」
「そうでしたか……手間を取らせました」
「いえ、お役に立てず悔しいばかりです。またなにかあったらお申しつけください」
「ありがとうございます」
分厚い羊皮紙の束をわきに抱えて、執務室へもどった。
「なまえ、あなたはいったい何処で生まれて何処で育ったんでしょう」
回収した報告書をめくるたびに、その謎は深まる。
**