淡雪は海に溶けた
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「アバレウツボだーーーーーーー!!!」
果樹園に広がった声で、国中が沸き立つ騒ぎとなった。
すぐさま八人将が招集され、アバレウツボ討伐のためその場が開かれた。
今回誉れある討伐役として選ばれたのはシャルルカンだった。
剣を握りしめ、跳びかかったときに、アバレウツボの側面にはりついた異物に目をすがめる。一撃で首を切り落とした後、どうも違和感を拭えず、それを引き剥がした。
海にでも漂っていた布がひっかかっていたのか。しかし重みのあるこれは海水を吸っただけではない。
はっと眼を見開いて、振りかえった。
「マスルール、こいつを受け取れ!!」
「先輩?」
「いいから、丁重に扱えよっ!」
了承をきかずに振りかぶって、放射線状にその塊は投げられた。
丁重に、ときいて両手を伸ばして布のかたまりを抱きとめた。反動でずしり、と腕に重みがのしかかる。なんだこれは、やわらかい。冷たい海水がマスルールの肘からしたたった。
「う……」
「?!?!?!?」
呻き声に取り落としそうになるが、思いとどまった。
シャルルカンは「丁重に」と言っていたのだから、単なるものではないと思ったものの。きっとアバレウツボの身に引っかかっていた海の生き物かなにかだと決めつけていたため、これは予想外だった。見たことのない色合い、奇妙なそれでいて繊細な模様の布。マスルールは流行にも敏感でないし、どこの国の織物だとかは素材からも模様からも判断つけかねる。
大判のそれに覆われているが、その先に爪のついた、白い指のようなものが見えた。おそるおそる布の上から触ると柔軟だが関節がある。それは骨格のようだった。おそらくこれは人間だ。
地面に下ろすも、動かない。
「なんだそれは。うん?……人か……?」
シンが手を伸ばして、そっとまくりあげる。でてきたのはべったりと繊維が水分ではりついている凹凸のある丸いぶぶん。頭だった。じっとりと濡れた髪の束をどかすと、鼻と紫色の唇があらわれた。顔色はすこぶるよろしくない。まつげに水滴が浮かび、きらきらと光を弾いているが、動くようすはない。
口元に手を当てる。かろうじて呼吸のあとはある。織物に包まれていたことによって、溺死するほど水を飲まずにすんだのだろう。
「生きているな……」
「この子、女の子だよね」
ピスティがぺたぺたと衣服を上から下へと触っていき、体のラインを確かめた。身にまとう服のつくりは、シンドリアの政官服に似ているようであるが、生地は固く体に沿うようにもっときつく体に巻かれている。厚い帯も腰まわりについており体型をわかりづらくさせているものの、胸のふくらみと臀部、その湾曲な線はあきらかに男のものではない。服は何枚か重ねて着ているようだが、その下にも長い袖にも武器らしいものを隠し持ってはいない。筋肉のつきかたを見るかぎり、マスルールやシャルルカンのような武系のそれとは違う。魔法使いの可能性は否定できないがこの状況からみて、生まれながらにして備わっているはずの防御魔法を使いこなしていたとは考えづらい。
あっという間にアバレウツボを捌き終わったシャルルカンが、剣を携えてひとところに固まっている八人将のところへ戻ってきた。
「どうだ、生きてるか?」
「シャルルカン。息はしているようだが意識はまだないな」
「この大きな布にくるまってたおかげで、あまり水は飲んでないみたい。息も身動きもできなかっただろうけど」
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「アバレウツボだーーーーーーー!!!」
果樹園に広がった声で、国中が沸き立つ騒ぎとなった。
すぐさま八人将が招集され、アバレウツボ討伐のためその場が開かれた。
今回誉れある討伐役として選ばれたのはシャルルカンだった。
剣を握りしめ、跳びかかったときに、アバレウツボの側面にはりついた異物に目をすがめる。一撃で首を切り落とした後、どうも違和感を拭えず、それを引き剥がした。
海にでも漂っていた布がひっかかっていたのか。しかし重みのあるこれは海水を吸っただけではない。
はっと眼を見開いて、振りかえった。
「マスルール、こいつを受け取れ!!」
「先輩?」
「いいから、丁重に扱えよっ!」
了承をきかずに振りかぶって、放射線状にその塊は投げられた。
丁重に、ときいて両手を伸ばして布のかたまりを抱きとめた。反動でずしり、と腕に重みがのしかかる。なんだこれは、やわらかい。冷たい海水がマスルールの肘からしたたった。
「う……」
「?!?!?!?」
呻き声に取り落としそうになるが、思いとどまった。
シャルルカンは「丁重に」と言っていたのだから、単なるものではないと思ったものの。きっとアバレウツボの身に引っかかっていた海の生き物かなにかだと決めつけていたため、これは予想外だった。見たことのない色合い、奇妙なそれでいて繊細な模様の布。マスルールは流行にも敏感でないし、どこの国の織物だとかは素材からも模様からも判断つけかねる。
大判のそれに覆われているが、その先に爪のついた、白い指のようなものが見えた。おそるおそる布の上から触ると柔軟だが関節がある。それは骨格のようだった。おそらくこれは人間だ。
地面に下ろすも、動かない。
「なんだそれは。うん?……人か……?」
シンが手を伸ばして、そっとまくりあげる。でてきたのはべったりと繊維が水分ではりついている凹凸のある丸いぶぶん。頭だった。じっとりと濡れた髪の束をどかすと、鼻と紫色の唇があらわれた。顔色はすこぶるよろしくない。まつげに水滴が浮かび、きらきらと光を弾いているが、動くようすはない。
口元に手を当てる。かろうじて呼吸のあとはある。織物に包まれていたことによって、溺死するほど水を飲まずにすんだのだろう。
「生きているな……」
「この子、女の子だよね」
ピスティがぺたぺたと衣服を上から下へと触っていき、体のラインを確かめた。身にまとう服のつくりは、シンドリアの政官服に似ているようであるが、生地は固く体に沿うようにもっときつく体に巻かれている。厚い帯も腰まわりについており体型をわかりづらくさせているものの、胸のふくらみと臀部、その湾曲な線はあきらかに男のものではない。服は何枚か重ねて着ているようだが、その下にも長い袖にも武器らしいものを隠し持ってはいない。筋肉のつきかたを見るかぎり、マスルールやシャルルカンのような武系のそれとは違う。魔法使いの可能性は否定できないがこの状況からみて、生まれながらにして備わっているはずの防御魔法を使いこなしていたとは考えづらい。
あっという間にアバレウツボを捌き終わったシャルルカンが、剣を携えてひとところに固まっている八人将のところへ戻ってきた。
「どうだ、生きてるか?」
「シャルルカン。息はしているようだが意識はまだないな」
「この大きな布にくるまってたおかげで、あまり水は飲んでないみたい。息も身動きもできなかっただろうけど」
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