南国の淡雪
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「この雪はあなたがやっているんですか?!」
「止めてください。隠れようとしても無駄だ。私はもうあなたを見つけた!」
そう叫ぶと、ごうごうとうなる雪がふわりふわりと降りるものに変わった。目がきくようになっても、相手の姿はあまりはっきりしなかった。
つま先からてっぺんまで、真っ白な装い。ジャーファルの髪の色も白いが、どこか質の違う白さだ。銀に近いと言っていい。
「―――……」
なにかを呟いたようだが、ききなれない単語だった。むしろ知らない言語のようでもある。
「なんですって?」
「―――」
雪の上を足跡もつけずすべるように近づいてきた。彼女からの殺気はないが警戒して袖下の武器に手をかける。
「やめて、殺すつもりはない」
こんどははっきりとききとれた。袖に潜む刃物をそっと下ろした。
「きれい。生きている白」
輝きのない目。抑揚の消えた言葉。それがかすかに羨望するような色を浮かべたのは、勘違いだろうか。
「何を言っているんです?」
「<―――。>わからぬか」
「わかりません」
「そう。もう誰もわからない言葉。つよいひと」
「つよいひと、と?」
そう呼んだのか尋ねると、こっくりと頷いた。
「つよいひと、お戻りなさい」
「いえ……、帰れません。この雪を降らせているのはあなたですか?」
「私……です」
素直に認めたことにあっけにとられつつ、率直に用件を伝える。
「このままだと困るんです。止めてもらえませんか」
「そう……です……か」
そんなこと思いもしなかった、と無垢に首を傾げるようすをみて、まったく悪意がなかったのだと知る。
「みながあなたを待っています。お帰りなさい」
つい、と白い指が示すほうを見ると、その一筋だけ雪が解けて緑が顔を出していた。濡れた瑞々しい植物がまぶしいくらいだ。
「あの?」
詳細を知ろうと振り返ると、もうそこにはなにもなかった。同時に身の毛がよだつ。あと少し足を踏み出していれば、この崖から転がり落ちていただろう事実に。雪で視界を閉ざされていたからわからなかったが、そこは切り立った島の端も端、雪からちらりとだけ覗くとがった岩肌。下の海は凍りつき、もしジャーファルが落ちていたのならその波間に優しく受け止めるなんてことはしてくれなかっただろう。
後ずさりをして、手足がちゃんと動くことを確認した。
このまっすぐに開いた、見える道はこれだけだ。背中は絶壁の行き止まり。結果として得た情報はなにもないに等しい。原因はあの女性であることは間違いないが、いったいなにをしてこの天候をつくりだしたというのか。明らかに自然のものではなく、人為的な魔法のようではある。ヤムライハに言わせると、「これだけの規模と期間を魔法で補えるなんて現存する何者でも無理」だそうだ。
雪山に入ってからの出来事を反復して思い出すが、まったく筋を通すことができない。気配に敏いジャーファルでさえ、存在に気づいたのは視覚からのみ。言葉を交わしてはいるが、終わったとたん姿を忽然と消した。あの女性がじっさいいたのかさえ証明する術もないのに。だが確かに、あの会話の後に吹雪は止んだ。
「ジャーファルさん!」
山のふもとでシャルルカンとマスルールが揃って待っていた。
「不思議な体験をしました……」
夢見心地で歩いてきたジャーファルの体をマスルールが支えると、彼はぽつりとそうつぶやいた。
なにがあったのか尋ねても、「自分でも整理がつかないので話せません」としか答えない。
「二人ともいつ戻ってきてたんですか?」
「え、ジャーファルさんが戻れって指示出したんじゃないんすか?」
「あぁ、あの吹雪だったし」
顔を見合す二人に、ジャーファルは瞬きをした。
「あぁ、そうか……。まずは報告に戻りましょう」
王への報告は短かった。森へ探索していたが激しい吹雪で先へ進むは危険と判断し引き返したこと。その間に認められた異変はとくにない。引き続き調査を別方面から調べる旨。
ジャーファル自身が体験したことを実際起こったことだと信じられずにいることから、白い女性を目撃したことを報告にいれることははばかられた。
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「この雪はあなたがやっているんですか?!」
「止めてください。隠れようとしても無駄だ。私はもうあなたを見つけた!」
そう叫ぶと、ごうごうとうなる雪がふわりふわりと降りるものに変わった。目がきくようになっても、相手の姿はあまりはっきりしなかった。
つま先からてっぺんまで、真っ白な装い。ジャーファルの髪の色も白いが、どこか質の違う白さだ。銀に近いと言っていい。
「―――……」
なにかを呟いたようだが、ききなれない単語だった。むしろ知らない言語のようでもある。
「なんですって?」
「―――」
雪の上を足跡もつけずすべるように近づいてきた。彼女からの殺気はないが警戒して袖下の武器に手をかける。
「やめて、殺すつもりはない」
こんどははっきりとききとれた。袖に潜む刃物をそっと下ろした。
「きれい。生きている白」
輝きのない目。抑揚の消えた言葉。それがかすかに羨望するような色を浮かべたのは、勘違いだろうか。
「何を言っているんです?」
「<―――。>わからぬか」
「わかりません」
「そう。もう誰もわからない言葉。つよいひと」
「つよいひと、と?」
そう呼んだのか尋ねると、こっくりと頷いた。
「つよいひと、お戻りなさい」
「いえ……、帰れません。この雪を降らせているのはあなたですか?」
「私……です」
素直に認めたことにあっけにとられつつ、率直に用件を伝える。
「このままだと困るんです。止めてもらえませんか」
「そう……です……か」
そんなこと思いもしなかった、と無垢に首を傾げるようすをみて、まったく悪意がなかったのだと知る。
「みながあなたを待っています。お帰りなさい」
つい、と白い指が示すほうを見ると、その一筋だけ雪が解けて緑が顔を出していた。濡れた瑞々しい植物がまぶしいくらいだ。
「あの?」
詳細を知ろうと振り返ると、もうそこにはなにもなかった。同時に身の毛がよだつ。あと少し足を踏み出していれば、この崖から転がり落ちていただろう事実に。雪で視界を閉ざされていたからわからなかったが、そこは切り立った島の端も端、雪からちらりとだけ覗くとがった岩肌。下の海は凍りつき、もしジャーファルが落ちていたのならその波間に優しく受け止めるなんてことはしてくれなかっただろう。
後ずさりをして、手足がちゃんと動くことを確認した。
このまっすぐに開いた、見える道はこれだけだ。背中は絶壁の行き止まり。結果として得た情報はなにもないに等しい。原因はあの女性であることは間違いないが、いったいなにをしてこの天候をつくりだしたというのか。明らかに自然のものではなく、人為的な魔法のようではある。ヤムライハに言わせると、「これだけの規模と期間を魔法で補えるなんて現存する何者でも無理」だそうだ。
雪山に入ってからの出来事を反復して思い出すが、まったく筋を通すことができない。気配に敏いジャーファルでさえ、存在に気づいたのは視覚からのみ。言葉を交わしてはいるが、終わったとたん姿を忽然と消した。あの女性がじっさいいたのかさえ証明する術もないのに。だが確かに、あの会話の後に吹雪は止んだ。
「ジャーファルさん!」
山のふもとでシャルルカンとマスルールが揃って待っていた。
「不思議な体験をしました……」
夢見心地で歩いてきたジャーファルの体をマスルールが支えると、彼はぽつりとそうつぶやいた。
なにがあったのか尋ねても、「自分でも整理がつかないので話せません」としか答えない。
「二人ともいつ戻ってきてたんですか?」
「え、ジャーファルさんが戻れって指示出したんじゃないんすか?」
「あぁ、あの吹雪だったし」
顔を見合す二人に、ジャーファルは瞬きをした。
「あぁ、そうか……。まずは報告に戻りましょう」
王への報告は短かった。森へ探索していたが激しい吹雪で先へ進むは危険と判断し引き返したこと。その間に認められた異変はとくにない。引き続き調査を別方面から調べる旨。
ジャーファル自身が体験したことを実際起こったことだと信じられずにいることから、白い女性を目撃したことを報告にいれることははばかられた。
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