南国の淡雪
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はらはらと、粉をまぶすように落ちてゆく淡い雪。
幻想だといわれても信じてしまいそうになるくらいに、いつもの緑の景色を払拭してしまっている。
手のひらを上にしてかざせば、つんとした冷たさが刺してくる。じわりと染み、白い粒から透明な液体へと姿を変えた。
「ほんものの雪なのか……」
息を白くする寒さに、つぶやきながら身震いをした。
シンドリアを包むこの異常な気象の発生原因を探るため、まずは一般から募った者で隊を組み、八方へ向かわせた。
市街地へはそこまで大変な被害はない。しかし雪はいっこうに止む気配もないので気味が悪い。このまま雪が降り続ければそのうち果樹園への影響や交通の便が悪くなるだろう。国の財産、要となる果実が育たず出荷できないとなれば経済への打撃もあろう。さらにシンドリアの家屋は大雪になど対応していない。もし高く積もれば家はくずれ、住む場所を失うものもでてくる。王宮であろうと条件は同じ。
探索の際にどこかしら怪我をする者はいたが、大した報告は得られなかった。ただ森へでかけたものは遭難しかけたが、なんとか街まで戻ってこれたという。
その証言者はこう残した。
「急に雪が吹雪いてきまして。隣にいたと思った仲間が見えなくなって。こいつぁはぐれたと焦って、無我夢中で歩き回ったすえに一度気を失いました。次に気がついたときには雪の中にいたんです。
かといって埋もってたわけでなく、雪でできた小屋、つうんですかね。こう、こんもりと丸い。んで、出てみると雪もおさまって溶けかけてたんで、道なりに歩いてたら森の入り口ふきんでみんなかたまってたんでほっとしたのなんの」
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また雪が降り始めた当日に行方不明となったものの、翌日自力で山を降りてきた少女にも話を聞いた。
事件の大きさが理解できないのか、少女は自分が酷い目にあったということを気にしていないようだった。大した怪我もなく無事に帰ってきたから良いものの、最悪の場合、凍傷で手足を切り落としていたっておかしくはないのに。山で迷子になったことも、雪も怖がった様子はない。
「もっとたくさん雪をみたかったの」
「だんだん雪がいっぱい降ってきてね、前がみえなくなって、怖くなって、寒いし疲れたなぁって、泣いてたの。助けて、帰りたいって泣いてたらそこで寝ちゃった」
「目が覚めたら雪のお家の中で、あったかくて、果物があったからそれ食べたの。雪がとけてる道があったから、それで帰ったの。そしたらなんかね、もう遠くまできちゃだめ、って言われたの」
「誰に言われたんですか?」
姿を見たか、と尋ねるとうーん、と首を傾げた。
「わかんない。だれも見えなかったよ」
「そうですか……どんな声でした?」
「知らないおねえさんの声」
記録をとっている者は夢ではないかと言いたかったが、現実に目の前に、いるのだ。遭難しても無事に帰ってきた少女が。
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結局異常気象の原因は謎のまま、今度は八人将みずからが探索へとでかけた。
ジャーファルは雪の特別多い山方面へ、シャルルカンとマスルールを連れて分け入った。迷子になった少女が一晩を過ごした山だ。
ざくざくと銀の絨毯に足を突っ込みながら進む。よもやこんなに積もっていようとは。
手足に巻いた布を通しても冷気が染みてくるようだ。そして、雪の塊が体にぶつかってくる。
「シャルルカン?!マスルール?!」
ついさきほどまでそこにあった気配が一瞬できえた。名前を呼んでも返事はかえってこない。これでは村人からきいたとおりになりそうだ。猛吹雪に道を見失い仲間とはぐれ、意識を失う。
ごうごうと耳をちぎりとられるような痛さのなかで、自我を保つのに必死だった。自分が進んでいるのが正しい道であるのか、もうわからない。このまま道を外れてしまってはいけないと、足を止めた。
するとこれだけ真っ白ななかに、なにかの影がみえた気がした。何かの気配が、そこにある。目を凝らすと、たしかにそこになにかいる。それも人影だ。
「誰だ・・・」
共にきたシャルルカンやマスルールではない。屈強に鍛えられた体ではなく、ほそくしなやかに雪にうずもれる。
―知らないおねえさん
子供からきいた話が頭に浮かぶ。そうだ、あれは女性だ。
「――――――――」
この白い世界の轟音の中で、なぜかその声だけは自分に向かって放たれたのだとはっきりわかった。
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