Head Over Heels In Love With You.
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「なんと美しい方だ……我が国にいらっしゃれば国中の男性があなたの虜になるだろう。もちろん俺も例外ではない」
言われてなまえはきょとんとした。左右を確認するが、周囲には自身ひとりしかいなかった。彼の視線もただ一心に注がれている。
ええといまこの方、なんておっしゃったかしら。と思い起こして、努めて口元に笑みをつくり自分なりの回答を返す。
「……多くの方に気を持たれるのが嬉しいものでしょうか?私はただ一人の方を想っていられれば幸せです」
そう、ジャーファルさまおひとりを。
その内心を知らず、皇子はずいと迫ってきた。
「ああ、なんと素晴らしい女性だ!その器量にしてその気立て。ますます俺を夢中にさせる」
大げさな物言いに思わず声を出して笑うと、相手もにーっこりと満面に広げた。
「まぁ、楽しい方ですね」
「あなたの笑顔を見るためならば、道化にもなりましょう。そうだ、剣舞など興味ないだろうか。私が披露いたしましょう」
鼻を高くして言われたが、丁重にお断りする。
「喜んで。-と申し上げたいのですが、恐れながら私にも処務がございますもので。ご無礼お許しくださいませ」
「ああ、いや。俺が突然すぎたな。また必ずお誘いしよう」
「ありがとうございます」
「おい、大丈夫か?あいつひと月前に……あーっとどっかから来た皇子だろ?やたら気にいられてたみてぇだけど」
どうやら一部始終を見ていたらしいシャルルカンが声をかけてきた。なまえのジャーファルに対する思慕を知っているので、かの皇子の言動からやんわりと遠まわしに彼女に危険がないかうかがっている。からまれた張本人は歯牙にもかけていないようだ。
「お気になさらず。どうやら多くの女性に気をもたれやすい方のご様子かと。行くさきざきで目に止まる女性にご挨拶をなさっていると評判です。他の方とおなじように、私にも親切になさっているだけですよ。それもシンドバッド王様ともまた違う、ずいぶんと賑やかな方ですね」
「いやでもあれは……正直違うんじゃね?」
挨拶などといえば聞こえは良いがようは口説きまわっている、の意味であり、女性とみればだれかれかまわずデートに連れ出している。よく他の者から声をかけられただの実際二人で街へ繰り出しただの、しょっちゅうきいている。だから当人と会話を交わすのは先ほどが初めてにも関わらず、その人柄についてよく知らされていた。心を寄せる人がいなければ一日だけの楽しみのために付き合ってもよいかもしれないが、余所見をすることもないなまえはまともにとりあうつもりもない。
「そうでしょうか?社交辞令かと」
「お前、ジャーファルさんしか見えてねぇもんな」
「あら、わかります?」
「まぁいいけどよ、あんまりほいほい気を持たせるような返事するんじゃねぇぞ」
「あら。そんなふうに聞こえました?きっとあちらも私のことなど明日にはお忘れですよ。名前もきかれませんでしたし」
あんな言葉など冗談だろう、と笑う。万が一にもありえない。
ところが数日後に事は起こった。
「なまえ殿」
耳慣れない呼ばれかたに首をひねる。身分からして敬称がつけられることはまずないのに。すぐ真横に並んできた、ぴしりとして色鮮やかな衣装をまとう偉丈夫な彼は。
「皇子さま」
どこで私を探し当てたのか。幾人との女性とあでやかな関係にある言葉巧みな皇子としては、外見的特徴から名前を割り出すことなどわけがないのかもしれない。
「いつぞやの約束を果たしましょう」
「約束?」
「剣舞をごらんにいれると申し上げた」
「あぁ……えぇ、覚えておりますわ」
じつのところほぼ忘れかけていたし、できるのならそのままにしておきたかった。しかし前回断ったことをかんがみて今度こそは断ることもできまい。
「明日もし時間をいただければと思って」
「光栄です」
「では明日迎えにあがります」
次の日にほんとうにやってきた彼に手を引かれ完璧にエスコートされる。道中にはわかりやすい機知にとんだ会話、回答に困らない質問、専門知識を必要としない話題を選んで。よくもまぁこんなにすらすらと水のようにでてくるものだ、と感心する。
なるほど、このように特別なように扱われてはころりといくのもわからなくもない。ただなまえにはジャーファルがいるので他の男などいくらどう振舞ったとしてそこら辺の雑草にすぎない。
どこから連れてきたのだか、演奏隊つきだとは知らなかった。音あわせでかすかにきこえる異国風な優雅な響きに聴き入る。それが整うと、主役が中央に構えた。
清潔感にあふれた上衣と、落ち着いた下衣。均等にそろえられた襞(ひだ)が体を広げたときに動きをきれいにつくりだす。
芯の通った姿勢、綿密に計算された角度。
手首の返し方、足の裁き。
柄から長く垂れた房の品の良い淡い色合い。
どのくらいの速度が目で追いやすく、美しいのか、魅せ方を熟知している。
ひとつの物語をみているかのよう。
「貴重なものをみせていただきありがとうございます」
思いのほか夢中になっていて、時を忘れていた。
賛辞を送ると、誇らしげにあごをあげる。
「久しぶりだったがなんとか最後まで踊ることができました。あなたが見ていると思えば緊張してしまって」
嘘だ。今まで何百人、何千人の前で披露したこともある。何百回と訓練し叩き込まれた技能をしくじることはもはやない。皇子としてありながらもまた伝統技能の継承者でもあった。
「ご冗談を。でも、ほんとうに素晴らしい舞いでした」
「ありがとう。なまえ殿さえ良ければわが国へいらしてみませんか。他のものもおみせできますよ、お気のすむまで」
「それは……せっかくですけれど、私はこの国を離れられません。仕事もありますし」
このまま話しに乗ってしまえば、うまいこと流されて一生を終えてしまいそうだ。
「仕事、も?.…もしやとは思うが好い人でもおありか?」
「はい」
かすかに頬を上気させて穏やかに肯定する。その姿をよりいっそう可憐に見せた。
「それは残念だ。お相手の名前を伺っても?」
「……すぐお分かりになりますよ」
しぶる彼女に再度問うたが、結局知らされなかった。
他の女官たちにそれとなく尋ねると返答はひとつだった。それはジャーファルさまでしょう、と。そういえば確かシンドバッド王のそばにいつも控えている、柔らかな物腰の彼ではないか。
王はその方面でも話のわかる相手であったが、対して堅物で恋愛ごとには興味がなさそうだと踏んでいたのだが。
いや、どうだっていい。このままアプローチを続ければなまえも受け入れてくれるはずだ。あんな淡白そうな男より情熱的なほうが好まれるはずだ。
言われてなまえはきょとんとした。左右を確認するが、周囲には自身ひとりしかいなかった。彼の視線もただ一心に注がれている。
ええといまこの方、なんておっしゃったかしら。と思い起こして、努めて口元に笑みをつくり自分なりの回答を返す。
「……多くの方に気を持たれるのが嬉しいものでしょうか?私はただ一人の方を想っていられれば幸せです」
そう、ジャーファルさまおひとりを。
その内心を知らず、皇子はずいと迫ってきた。
「ああ、なんと素晴らしい女性だ!その器量にしてその気立て。ますます俺を夢中にさせる」
大げさな物言いに思わず声を出して笑うと、相手もにーっこりと満面に広げた。
「まぁ、楽しい方ですね」
「あなたの笑顔を見るためならば、道化にもなりましょう。そうだ、剣舞など興味ないだろうか。私が披露いたしましょう」
鼻を高くして言われたが、丁重にお断りする。
「喜んで。-と申し上げたいのですが、恐れながら私にも処務がございますもので。ご無礼お許しくださいませ」
「ああ、いや。俺が突然すぎたな。また必ずお誘いしよう」
「ありがとうございます」
「おい、大丈夫か?あいつひと月前に……あーっとどっかから来た皇子だろ?やたら気にいられてたみてぇだけど」
どうやら一部始終を見ていたらしいシャルルカンが声をかけてきた。なまえのジャーファルに対する思慕を知っているので、かの皇子の言動からやんわりと遠まわしに彼女に危険がないかうかがっている。からまれた張本人は歯牙にもかけていないようだ。
「お気になさらず。どうやら多くの女性に気をもたれやすい方のご様子かと。行くさきざきで目に止まる女性にご挨拶をなさっていると評判です。他の方とおなじように、私にも親切になさっているだけですよ。それもシンドバッド王様ともまた違う、ずいぶんと賑やかな方ですね」
「いやでもあれは……正直違うんじゃね?」
挨拶などといえば聞こえは良いがようは口説きまわっている、の意味であり、女性とみればだれかれかまわずデートに連れ出している。よく他の者から声をかけられただの実際二人で街へ繰り出しただの、しょっちゅうきいている。だから当人と会話を交わすのは先ほどが初めてにも関わらず、その人柄についてよく知らされていた。心を寄せる人がいなければ一日だけの楽しみのために付き合ってもよいかもしれないが、余所見をすることもないなまえはまともにとりあうつもりもない。
「そうでしょうか?社交辞令かと」
「お前、ジャーファルさんしか見えてねぇもんな」
「あら、わかります?」
「まぁいいけどよ、あんまりほいほい気を持たせるような返事するんじゃねぇぞ」
「あら。そんなふうに聞こえました?きっとあちらも私のことなど明日にはお忘れですよ。名前もきかれませんでしたし」
あんな言葉など冗談だろう、と笑う。万が一にもありえない。
ところが数日後に事は起こった。
「なまえ殿」
耳慣れない呼ばれかたに首をひねる。身分からして敬称がつけられることはまずないのに。すぐ真横に並んできた、ぴしりとして色鮮やかな衣装をまとう偉丈夫な彼は。
「皇子さま」
どこで私を探し当てたのか。幾人との女性とあでやかな関係にある言葉巧みな皇子としては、外見的特徴から名前を割り出すことなどわけがないのかもしれない。
「いつぞやの約束を果たしましょう」
「約束?」
「剣舞をごらんにいれると申し上げた」
「あぁ……えぇ、覚えておりますわ」
じつのところほぼ忘れかけていたし、できるのならそのままにしておきたかった。しかし前回断ったことをかんがみて今度こそは断ることもできまい。
「明日もし時間をいただければと思って」
「光栄です」
「では明日迎えにあがります」
次の日にほんとうにやってきた彼に手を引かれ完璧にエスコートされる。道中にはわかりやすい機知にとんだ会話、回答に困らない質問、専門知識を必要としない話題を選んで。よくもまぁこんなにすらすらと水のようにでてくるものだ、と感心する。
なるほど、このように特別なように扱われてはころりといくのもわからなくもない。ただなまえにはジャーファルがいるので他の男などいくらどう振舞ったとしてそこら辺の雑草にすぎない。
どこから連れてきたのだか、演奏隊つきだとは知らなかった。音あわせでかすかにきこえる異国風な優雅な響きに聴き入る。それが整うと、主役が中央に構えた。
清潔感にあふれた上衣と、落ち着いた下衣。均等にそろえられた襞(ひだ)が体を広げたときに動きをきれいにつくりだす。
芯の通った姿勢、綿密に計算された角度。
手首の返し方、足の裁き。
柄から長く垂れた房の品の良い淡い色合い。
どのくらいの速度が目で追いやすく、美しいのか、魅せ方を熟知している。
ひとつの物語をみているかのよう。
「貴重なものをみせていただきありがとうございます」
思いのほか夢中になっていて、時を忘れていた。
賛辞を送ると、誇らしげにあごをあげる。
「久しぶりだったがなんとか最後まで踊ることができました。あなたが見ていると思えば緊張してしまって」
嘘だ。今まで何百人、何千人の前で披露したこともある。何百回と訓練し叩き込まれた技能をしくじることはもはやない。皇子としてありながらもまた伝統技能の継承者でもあった。
「ご冗談を。でも、ほんとうに素晴らしい舞いでした」
「ありがとう。なまえ殿さえ良ければわが国へいらしてみませんか。他のものもおみせできますよ、お気のすむまで」
「それは……せっかくですけれど、私はこの国を離れられません。仕事もありますし」
このまま話しに乗ってしまえば、うまいこと流されて一生を終えてしまいそうだ。
「仕事、も?.…もしやとは思うが好い人でもおありか?」
「はい」
かすかに頬を上気させて穏やかに肯定する。その姿をよりいっそう可憐に見せた。
「それは残念だ。お相手の名前を伺っても?」
「……すぐお分かりになりますよ」
しぶる彼女に再度問うたが、結局知らされなかった。
他の女官たちにそれとなく尋ねると返答はひとつだった。それはジャーファルさまでしょう、と。そういえば確かシンドバッド王のそばにいつも控えている、柔らかな物腰の彼ではないか。
王はその方面でも話のわかる相手であったが、対して堅物で恋愛ごとには興味がなさそうだと踏んでいたのだが。
いや、どうだっていい。このままアプローチを続ければなまえも受け入れてくれるはずだ。あんな淡白そうな男より情熱的なほうが好まれるはずだ。
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