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丸太の上に戻ったジャーファルがとっさに両腕をふりかぶった。
赤色がなまえの体に絡みつく。ぐるぐると何重にも締めあげられ、急速に落下してからの静止は衝撃が大きかっただろうに、なまえはうめきもしなかった。だらりとぶらさがる左腕が揺れている。
ちょうど真下に、宙に浮かんで腕組みをするシンドバッドが見えたが、首を振る。もしものときになまえを受け止めるつもりだったのだろうが、王の手を煩わせることはなかった。
「その子は、命をかけてお前のことを好きだと言ったんだ。ちゃんと答えてやれ」
「……はい」
彼女を引き上げて、しっかり抱きとめた。広い屋上に戻り、優しく横たえてから紐をほどいてゆく。赤い筋がうっすら残ってしまった腕をさすり、彼女の名前を繰り返し呼んだ。
誰かが呼んでいる。かつてこれほどまでに心をこめて名前を呼ばれたことがあっただろうか。
目を覚ますと、ぐっと顔を近づけられた。肩をしっかり支えられている。ジャーファルから触れてくるなどど、どういう経緯でこのようなことに至ったのか理解できずに混乱した。
「良かった、気がついて。苦しくないですか?」
「む、胸が……」
幸せすぎて頭が爆発しそうです、と言いきれなかった。こんな近くで顔をみれるだなんて。もやがかかったように頭がかすんで、腕におもりをつけられたかのように地にだらりとたれる。彼の手で背中を壁につけられた。一歩はなれて片膝をつき頭をたれる。額の玉が夕日のオレンジ色をとりこんで、元のものとは別の色をつくりだした。
「すみません、手加減があまりできませんでした。それに危険にさらしました」
都合よくジャーファルが武器を使用したことによる後遺症だと思い込んで、申し訳なさそうに肩を落とした。
「いいえ、あの、私、どうなったんですか?」
「渡っていた橋から落ちたんです」
「えっ、死んだんですか?だからこんなに幸せなのかしら」
「生きてます!双蛇鏢で引き上げました。乱暴な方法しかなくてすみません。助かってくれて良かった……」
「それは、いえ、あの、命を助けていただいて、ありがとうございました」
「申し開きもできませんが、知らなかったんです……高い場所は苦手だったんですね。無茶をさせてしまって……」
「どうして申し開きなど必要なんです。だってあのくらいのこと八人将の方々は軽いでしょうし」
「あなたは戦闘要員ではないのですよ」
「でも今のは不測の事態というか、勝負とは違いますよね?ナシで、ナシナシ!勝負はまた改めて後日でも!」
「いいえ私の負けです。こんな私のために命を投げ捨てるようなことはやめてください。自分の身を顧みないようなことをされれば、見てられませんから。このようなことせずとも、言葉でちゃんと伝えられるでしょう」
「ジャーファルさま?」
「はい」
しんとした双眸が、まばたいた。
「だって、好きって何度言っても伝わっていなかったんですもの」
雷が脳天から突き抜けたようだった。
同じ間違いをおかしてしまった。
「……ほんとうですね、すみません。私の負けです。あなたには勝てない」
「まだ決まってません。勝利の条件は、私がジャーファルさまに触れること、です。ジャーファルさまが私に触れることではありません」
「勝ちたくはないのですか」
「私が負けることなんて、ジャーファルさまどころか城のみんな、知っていたことですもの。でもみんな応援してくださって、優しいですよね」
「ならば、なぜ」
「わかりませんか?
好きだとお伝えしたかったんです。私のすべてをかけて」
ぽわ、とゆるんだ口元。それから弧をなぞらえていた眉がすっと引き締まり、真剣なまなざしが注がれる。
「なまえ。
おいで」
ふらり、と花に寄り添う蝶々のように呼び寄せられた。落ち着き、それでいて嬉しそうな声がすぐ上で聞こえた。
「はい、捕まりました」
「ははははは離してくださいぃぃぃぃ」
「いやです」
いつも背中からしか、しかも触れるのは一瞬だったから知らなかった。包まれるのが、こんなにあたたかくて心地よいだなんて。じわりとせりあがってきた涙をごまかすために、他に助けをもとめた。
「そんなっ……シンドバッド王様、こんなのダメですよね?!」
深みを増した光が、審判者を縁取っていた。逆光のためにこちらからはどんな感情を表にだしているのかは見てわからないが、口調はとにかく笑っている。
「わざと捕まったなジャーファルよ。時間は・・・まぁギリギリ終わってはいないが。さてどうしたものか。さすがに武器の使用に関しては不問にしておくが」
もちろんなまえを助けるために使ったのだから。
「見てのとおりなまえの勝ちですよ」
シンも首を縦に振る。
「よかろう。これにておいかけっこ終了。なまえの勝ちとする」
「ずるい、ずるいです。こんな卑怯な手・・・。あんな風に言われたらあらがえるわけないじゃないですか」
「まったく、あなたこそ。どうしていつも背中からなんです?いつでも正面から受け止められるのに」
「え……」
「つぎからは、ちゃんと抱きとめますから」
「いいんですか?」
「その、ちゃんと時と場合をふまえてくだいね」
ふっきれたようすでさわやかに頬骨を上げるジャーファルに素直に腕を回した。
「やっぱりジャーファルさまが好きです」
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