Hug〇Hug
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ときに純真さは無知ゆえに大胆不敵な行動をおこしうるだろうが、貞節を知る女性であればそういったことはしないだろうに。
ふんわりと添えられた腕に3度目ともなれば驚かなかった。あわてて身を離そうとしたところを素早く捕らえる。振り向けば、相手は半身を見せて口元を自由なほうの手で覆っていた。
まずは事実確認。
「なまえ、ですよね」
名前を呼ぶとびくりと震えた。初めてお声をかけていただいた。いや、あのときからすると2回目。しかし今度はちゃんとなまえの存在を知った上で、だ。
「その、あの回廊ですれ違った」
あえてこけたことには触れずに。
「はははい、そうです。あのときはありがとうございました……!」
逃げようとはしたものの、話はちゃんと通じる人間のようだ。どもりながらも会話が成り立っている。
「シンがあなたのところを幾度か訪ねているようですが、シンから何か言われましたか」
「まさか!シンドバッド王がいくら気安い方だとはいえ、私などに個人的にお言葉をくださることなんてありません」
「そうですか。それで、どうしてこのようなことを」
「もうしわけありません。お嫌ですよね……」
体をちぢこませて殴られるのを覚悟している子供ような態度をみて、こちらがいじめているような気分にさせられる。
「嫌というかその、あなたの目的を図りかねてまして」
「目的なんてありません。私の意志であって意思でないというか……ただ、体が動いてしまうのです」
抱きつきたいから抱きついているのだが、決して意識的にしているわけでなく、ほぼ衝動、本能と言っても良いかもしれない。
「はぁ……」
どうにも信じかねる。それを憤慨していると捕らえたのか。
「どうぞ、ご寛恕ください」
両手を合わせ、指はさらに交差して彼女の鼻にぴったりとあわさる。祈るようにして両膝を折ろうとするのをつかんだ腕を引き上げて止める。
「怒ってはいませんよ。その、なんといったら良いやら。
いえ、仕事に熱心でいてくだされば、ほかに私から言うことはありませんよ」
「それはもちろんでございます」
「では、そういうことで。それから走るときは足元にお気をつけなさい」
そういい残すと、まさにであったあのときの顔をみれた。くるりと背を向けると、もう一度気配ががぶつかってきた。と同時に彼女の小さな、ちいさな声が聞こえた。
「……、」
もう引き止めることはしなかった。できなかった。なまえはあのときのようにちらとも振り返ることもしない。
「・・・・・・っ、あなたは」
聞き間違いではないのであればたった二文字を彼女はこうささやいた。
好き、と。
ちょっとした意地悪に対する仕返しのつもりだったのか。しかしそれはジャーファルの心を乱すにはじゅうぶんだった。
その後も彼女の攻撃は続き、ジャーファルは抵抗するすべを知らなかった。困る。困るけれども、自分でも不思議だが避けようと頭では思いついても、それまで実行できなかった。ほとんど一人でいるときを狙われていたので。状況を知った近しい者にはからかわれるが。
あるときシンも居合わせた場で襲いくる気配を察知し、タイミングを合わせてかわしたことがあった。場の悪いことに、彼はシンと面を合わせていたため、避けたところには王その人が立ちふさがっており、図らずも目当てではない人物の胸元へとびこむはめになったのだ。
「おお。よくぞ来たなまえ」
シンは面白がってサービス精神もあってか抱きしめたのだが、彼女が抵抗したのですぐ離れた。
絶望に縁取られた目が、神にも見放されたように色濃く影を落とす。そのときの彼女の、ひどく傷ついた顔があまりにも辛くて。
「その……すみません」
とっさに謝罪してしまったのだ。首を横にふり、国王に向かって頭を下げて「失礼しました」とだけ告げ、ただちに視界からその姿を消した。
「……泣いていたな」
誇張して伝える。その事実がずん、とジャーファルに突き刺さる。
「俺が後で話すから」
ああ、これはもうひと押しかな。
そう確信したシンはささやかに手助けすることにしたのだ。
子猫のような淡い雰囲気を探し出すのはわけがなかった。そう離れていないところで、しゃがみこんでいる彼女はそれこそすっかり自信をなくしてしまって。
「はしたないことをしてしまいすみませんでした」
いや、俺は役得だったから良いのだが。などとさらに混乱に陥れる要因は口に出さず。
「なまえ、あれは気にするなよ」
「でもシンドバッド王様、私嫌われました」
「照れ隠しだ、またやってみろ、大丈夫だから」
「避けられたのなんて初めてだったんです・・・」
「あのな、さっきは俺がいたからだ。そうでなくとも、いままでだって仮にも八人将であるあのジャーファルが簡単に背後をとらせるか」
「ほんとうですか?」
「あぁ、ジャーファルにとっても、お前にそんな顔させたことがショックだったようだぞ。
めげてくれるな」
「ありがとうございます」
立ち直った女性は強い。さっそく仕事にもどります、と拳を振り上げて背筋を伸ばした。
もう一度挑戦してみよう。肩幅から腰へのしぼられた線がよりいっそう際立って目に映る。心拍は上がる。あたりに人影はなく、チャンスはいましかない。
避けないで。そのままでいて。届いた政務服にぴったりと額を当てる。揺るがない硬い筋肉はいとも簡単に接触を許した。
「めげませんから」
ほっとするやら焦るやら。知らぬうちに安堵の表情を浮かべると、なまえも屈託のないそれをジャーファルに向けた。
恋慕があるのだと、どこかでわかりあえた。
それからは、彼女を受け止めるためにその背中は用意されていた。どちらにせよ刹那のふれあいでおわるのだ。害というには程遠い。
笑い声がきこえるときもあるのでスリルのようなものを楽しんでいる節もうかがえる。
そして冒頭へ戻る。
::::::::::::::::::::
「ジャーファルさま!」
まっすぐに駆け寄って、その背中に体当たりする。脇の下から手を入れて、腰をぎゅっと掴んだ。
彼とともに前へつんのめったが、ぴたりと止まる。
一瞬だけの一方的な抱擁に満足して、するりと手を抜いた。ゆるむ口元を両手で押さえて、軽やかにその場を去っていく。
「なまえ!」
少し高い声が背中からきこえたが、角を曲がって身をひそめた。追いかけてはこない、それがわかっているから。
:::::::::::::::::::::
これはもしや冗談で、遊ばれているのだろうか。
そういった考えが頭をよぎる。疑い始めたらきりがなく、そのうち行為にも慣れっこになってきて、よく飽きないものだと感心すらする始末だ。
ふふ、と声を漏らしてすり寄る。
「いつまで続けるおつもりですか?」
「……え?」
「長いお遊びですね」
これが分かれ目だった。あのときに感じたつながりはどこへやら、壁ができあがっていた。
なまえには彼がなにを意味しているのかわかりかねる。
またあるときには。
「ジャーファルさま!」
「あーはいはい。今日もお変わりなく」
触れた回数は確実に増えているのに、心の距離がじょじょに広がっていくような。
「好きです」
「そうですか」
「好きなんです」
「どうも」
どうにもそれを言えば言うほど、態度が冷淡になっていっているようだ。わざとよけられることもないが、豆腐に釘を全力で打ちつけているかのようにまるで手ごたえがない。
なにか改善策を、と頭をひねった結果。
ふんわりと添えられた腕に3度目ともなれば驚かなかった。あわてて身を離そうとしたところを素早く捕らえる。振り向けば、相手は半身を見せて口元を自由なほうの手で覆っていた。
まずは事実確認。
「なまえ、ですよね」
名前を呼ぶとびくりと震えた。初めてお声をかけていただいた。いや、あのときからすると2回目。しかし今度はちゃんとなまえの存在を知った上で、だ。
「その、あの回廊ですれ違った」
あえてこけたことには触れずに。
「はははい、そうです。あのときはありがとうございました……!」
逃げようとはしたものの、話はちゃんと通じる人間のようだ。どもりながらも会話が成り立っている。
「シンがあなたのところを幾度か訪ねているようですが、シンから何か言われましたか」
「まさか!シンドバッド王がいくら気安い方だとはいえ、私などに個人的にお言葉をくださることなんてありません」
「そうですか。それで、どうしてこのようなことを」
「もうしわけありません。お嫌ですよね……」
体をちぢこませて殴られるのを覚悟している子供ような態度をみて、こちらがいじめているような気分にさせられる。
「嫌というかその、あなたの目的を図りかねてまして」
「目的なんてありません。私の意志であって意思でないというか……ただ、体が動いてしまうのです」
抱きつきたいから抱きついているのだが、決して意識的にしているわけでなく、ほぼ衝動、本能と言っても良いかもしれない。
「はぁ……」
どうにも信じかねる。それを憤慨していると捕らえたのか。
「どうぞ、ご寛恕ください」
両手を合わせ、指はさらに交差して彼女の鼻にぴったりとあわさる。祈るようにして両膝を折ろうとするのをつかんだ腕を引き上げて止める。
「怒ってはいませんよ。その、なんといったら良いやら。
いえ、仕事に熱心でいてくだされば、ほかに私から言うことはありませんよ」
「それはもちろんでございます」
「では、そういうことで。それから走るときは足元にお気をつけなさい」
そういい残すと、まさにであったあのときの顔をみれた。くるりと背を向けると、もう一度気配ががぶつかってきた。と同時に彼女の小さな、ちいさな声が聞こえた。
「……、」
もう引き止めることはしなかった。できなかった。なまえはあのときのようにちらとも振り返ることもしない。
「・・・・・・っ、あなたは」
聞き間違いではないのであればたった二文字を彼女はこうささやいた。
好き、と。
ちょっとした意地悪に対する仕返しのつもりだったのか。しかしそれはジャーファルの心を乱すにはじゅうぶんだった。
その後も彼女の攻撃は続き、ジャーファルは抵抗するすべを知らなかった。困る。困るけれども、自分でも不思議だが避けようと頭では思いついても、それまで実行できなかった。ほとんど一人でいるときを狙われていたので。状況を知った近しい者にはからかわれるが。
あるときシンも居合わせた場で襲いくる気配を察知し、タイミングを合わせてかわしたことがあった。場の悪いことに、彼はシンと面を合わせていたため、避けたところには王その人が立ちふさがっており、図らずも目当てではない人物の胸元へとびこむはめになったのだ。
「おお。よくぞ来たなまえ」
シンは面白がってサービス精神もあってか抱きしめたのだが、彼女が抵抗したのですぐ離れた。
絶望に縁取られた目が、神にも見放されたように色濃く影を落とす。そのときの彼女の、ひどく傷ついた顔があまりにも辛くて。
「その……すみません」
とっさに謝罪してしまったのだ。首を横にふり、国王に向かって頭を下げて「失礼しました」とだけ告げ、ただちに視界からその姿を消した。
「……泣いていたな」
誇張して伝える。その事実がずん、とジャーファルに突き刺さる。
「俺が後で話すから」
ああ、これはもうひと押しかな。
そう確信したシンはささやかに手助けすることにしたのだ。
子猫のような淡い雰囲気を探し出すのはわけがなかった。そう離れていないところで、しゃがみこんでいる彼女はそれこそすっかり自信をなくしてしまって。
「はしたないことをしてしまいすみませんでした」
いや、俺は役得だったから良いのだが。などとさらに混乱に陥れる要因は口に出さず。
「なまえ、あれは気にするなよ」
「でもシンドバッド王様、私嫌われました」
「照れ隠しだ、またやってみろ、大丈夫だから」
「避けられたのなんて初めてだったんです・・・」
「あのな、さっきは俺がいたからだ。そうでなくとも、いままでだって仮にも八人将であるあのジャーファルが簡単に背後をとらせるか」
「ほんとうですか?」
「あぁ、ジャーファルにとっても、お前にそんな顔させたことがショックだったようだぞ。
めげてくれるな」
「ありがとうございます」
立ち直った女性は強い。さっそく仕事にもどります、と拳を振り上げて背筋を伸ばした。
もう一度挑戦してみよう。肩幅から腰へのしぼられた線がよりいっそう際立って目に映る。心拍は上がる。あたりに人影はなく、チャンスはいましかない。
避けないで。そのままでいて。届いた政務服にぴったりと額を当てる。揺るがない硬い筋肉はいとも簡単に接触を許した。
「めげませんから」
ほっとするやら焦るやら。知らぬうちに安堵の表情を浮かべると、なまえも屈託のないそれをジャーファルに向けた。
恋慕があるのだと、どこかでわかりあえた。
それからは、彼女を受け止めるためにその背中は用意されていた。どちらにせよ刹那のふれあいでおわるのだ。害というには程遠い。
笑い声がきこえるときもあるのでスリルのようなものを楽しんでいる節もうかがえる。
そして冒頭へ戻る。
::::::::::::::::::::
「ジャーファルさま!」
まっすぐに駆け寄って、その背中に体当たりする。脇の下から手を入れて、腰をぎゅっと掴んだ。
彼とともに前へつんのめったが、ぴたりと止まる。
一瞬だけの一方的な抱擁に満足して、するりと手を抜いた。ゆるむ口元を両手で押さえて、軽やかにその場を去っていく。
「なまえ!」
少し高い声が背中からきこえたが、角を曲がって身をひそめた。追いかけてはこない、それがわかっているから。
:::::::::::::::::::::
これはもしや冗談で、遊ばれているのだろうか。
そういった考えが頭をよぎる。疑い始めたらきりがなく、そのうち行為にも慣れっこになってきて、よく飽きないものだと感心すらする始末だ。
ふふ、と声を漏らしてすり寄る。
「いつまで続けるおつもりですか?」
「……え?」
「長いお遊びですね」
これが分かれ目だった。あのときに感じたつながりはどこへやら、壁ができあがっていた。
なまえには彼がなにを意味しているのかわかりかねる。
またあるときには。
「ジャーファルさま!」
「あーはいはい。今日もお変わりなく」
触れた回数は確実に増えているのに、心の距離がじょじょに広がっていくような。
「好きです」
「そうですか」
「好きなんです」
「どうも」
どうにもそれを言えば言うほど、態度が冷淡になっていっているようだ。わざとよけられることもないが、豆腐に釘を全力で打ちつけているかのようにまるで手ごたえがない。
なにか改善策を、と頭をひねった結果。