Hug〇Hug
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「ジャーファルさま!」
まっすぐに駆け寄って、その背中に体当たりする。脇の下から手を入れて、腰をぎゅっと掴んだ。
彼とともに前へつんのめったが、ぴたりと止まる。
一瞬だけの一方的な抱擁に満足して、するりと手を抜いた。ゆるむ口元を両手で押さえて、軽やかにその場を去っていく。
「なまえ!」
少し高い声が背中からきこえたが、角を曲がって身をひそめた。追いかけてはこない、それがわかっているから。
あれはまだ王宮に上がって間もないころ。
大至急書簡を届けてくれと頼まれて、預けられたものを両腕で抱え、塔と塔を繋ぐ渡りを全力疾走していた。
石畳になっているため、段差が繰り返されている。それに足をとられないように大きな動作をしていたため、少々はしたないほどに裾がはためいていた。
目の前に官服が見えて、まっすぐだった進路を少しだけずらした。
すれ違うかすれ違わないかというその瞬間に、わずかな段差につっかかり、足がからんだ。
「きゃ……っ」
傾いた体をとっさにひねり、人を避けた―つもりだった。
堅く閉じた瞼を開くと、力強い腕に支えられていた。明らかに自分のものではない、がっしりとした温もりが伝わってくる。
上からいたわるような声が降ってきて、その腕にされるがまま、体勢を立て直した。
「……大丈夫ですか?」
「あっありがとうございます!すみません」
「いえ。急がれてるのでしょう?お気をつけて」
「あの、はい」
恥ずかしさのあまり振り返りもせず勢いづけて走り出した。その場から早く遠ざかりたかった。しかしそこから数メートルも進まぬうちに、また見事に足がからまって、倒れた。今度は支える腕などなく、したたかに腰からひじ、肩を打ち付けたが、痛みよりも羞恥で顔はゆがんでいた。転がった書簡をぱっと掴んで、立ちあがるすきにそっと目だけで後ろを確認すると、ぽかん、と驚いた顔が飛び込んできた。
ばっちり目撃されていた。
それはそうだ。あれだけ真正面で、派手に転ばれては目につくだろう。一礼だけし、羞恥に熱を集める顔を正面に戻した。書簡をにぎりしめ、顔をあげて、速度を抑えながら走りだす。
地面にかすった肩とひじがひりひりとする。腰はあざになっているかもしれない。
けれどそれよりも、あの人に触れられた腕に熱が残っていて。
なんだかくらくらする。しっかりとした指の感触まで、思い出せてしまう。
それからずっと気になって、思い悩んでいたが。
働いているうちに知った事実、それはなまえを驚愕させるに十分だった。彼はシンドリア国王シンドバッドの腹臣、ジャーファル。またの肩書きを文官の長。どうりでめったに見かけないと思った。もともとの行動範囲が違いすぎる。
そのことに安心しつつも、どこかものさみしい気持ちに頭をもたげた。普通なら他人にあんな恥ずかしいところを見られて、また顔を合わせるなんて御免だろう。なのに、目に焼きついた表情がくりかえしまぶたに浮かぶ。目を見開いてまっすぐこちらを見る顔が、かわいかった、などと。
慌てて首を振って、思考を切り替えた。
脳裏にこびりついた彼の顔が浮かんだり消えたり、それがぼんやりと続いていたとある日。
あれは白羊塔へ向かう途中だった。一室から出てきた人物を確認するやいなやさっと壁際に寄り道を開ける。目線を下げて軽い会釈の形を保つ。
目の前をすぎる白い官服をなんとはなしに見ていたものの。
青く長い髪を垂らしているのは、誰もが知っているこの国の王、シンドバッド。王を冠する者にふさわしく、通りの真ん中を歩く姿は堂々としている。
それにつき従う形で、わずかに後方を歩いている、背筋の伸びた後ろ姿。シンドバッドに比べれば細身のように見えるが、個体だとそれなりの体格をしているであろうことがわかる。
それを眺めていたら、吸い込まれるようにして抱きついてしまったのだ。
ジャーファルは突然のやわらかい衝撃に驚いた。
「はっ?!」
「きゃ、キャーッ!!」
なまえは我にかえり、飛びのいた。硬い背中に触れたのは一瞬、転身して逃げ出した。
まるで自分ではないような行動に、戸惑っていた。混乱して、頭の中には疑問符が大量発生している。それにしても抗いがたい魅力だった。気付いたらもう、触れていた。
「おおジャーファル、おまえもやるじゃないか。いつの間にあんな可愛い子を捕まえた」
「それは私にも……いえ、彼女は……」
背後の気配は読めていたが、殺意などは感じなかったため特段気に留めることもなくシンと話していたら。
振りかえると一瞬見えた顔に覚えがあった。
「見覚えは、あります」
まっすぐに駆け寄って、その背中に体当たりする。脇の下から手を入れて、腰をぎゅっと掴んだ。
彼とともに前へつんのめったが、ぴたりと止まる。
一瞬だけの一方的な抱擁に満足して、するりと手を抜いた。ゆるむ口元を両手で押さえて、軽やかにその場を去っていく。
「なまえ!」
少し高い声が背中からきこえたが、角を曲がって身をひそめた。追いかけてはこない、それがわかっているから。
あれはまだ王宮に上がって間もないころ。
大至急書簡を届けてくれと頼まれて、預けられたものを両腕で抱え、塔と塔を繋ぐ渡りを全力疾走していた。
石畳になっているため、段差が繰り返されている。それに足をとられないように大きな動作をしていたため、少々はしたないほどに裾がはためいていた。
目の前に官服が見えて、まっすぐだった進路を少しだけずらした。
すれ違うかすれ違わないかというその瞬間に、わずかな段差につっかかり、足がからんだ。
「きゃ……っ」
傾いた体をとっさにひねり、人を避けた―つもりだった。
堅く閉じた瞼を開くと、力強い腕に支えられていた。明らかに自分のものではない、がっしりとした温もりが伝わってくる。
上からいたわるような声が降ってきて、その腕にされるがまま、体勢を立て直した。
「……大丈夫ですか?」
「あっありがとうございます!すみません」
「いえ。急がれてるのでしょう?お気をつけて」
「あの、はい」
恥ずかしさのあまり振り返りもせず勢いづけて走り出した。その場から早く遠ざかりたかった。しかしそこから数メートルも進まぬうちに、また見事に足がからまって、倒れた。今度は支える腕などなく、したたかに腰からひじ、肩を打ち付けたが、痛みよりも羞恥で顔はゆがんでいた。転がった書簡をぱっと掴んで、立ちあがるすきにそっと目だけで後ろを確認すると、ぽかん、と驚いた顔が飛び込んできた。
ばっちり目撃されていた。
それはそうだ。あれだけ真正面で、派手に転ばれては目につくだろう。一礼だけし、羞恥に熱を集める顔を正面に戻した。書簡をにぎりしめ、顔をあげて、速度を抑えながら走りだす。
地面にかすった肩とひじがひりひりとする。腰はあざになっているかもしれない。
けれどそれよりも、あの人に触れられた腕に熱が残っていて。
なんだかくらくらする。しっかりとした指の感触まで、思い出せてしまう。
それからずっと気になって、思い悩んでいたが。
働いているうちに知った事実、それはなまえを驚愕させるに十分だった。彼はシンドリア国王シンドバッドの腹臣、ジャーファル。またの肩書きを文官の長。どうりでめったに見かけないと思った。もともとの行動範囲が違いすぎる。
そのことに安心しつつも、どこかものさみしい気持ちに頭をもたげた。普通なら他人にあんな恥ずかしいところを見られて、また顔を合わせるなんて御免だろう。なのに、目に焼きついた表情がくりかえしまぶたに浮かぶ。目を見開いてまっすぐこちらを見る顔が、かわいかった、などと。
慌てて首を振って、思考を切り替えた。
脳裏にこびりついた彼の顔が浮かんだり消えたり、それがぼんやりと続いていたとある日。
あれは白羊塔へ向かう途中だった。一室から出てきた人物を確認するやいなやさっと壁際に寄り道を開ける。目線を下げて軽い会釈の形を保つ。
目の前をすぎる白い官服をなんとはなしに見ていたものの。
青く長い髪を垂らしているのは、誰もが知っているこの国の王、シンドバッド。王を冠する者にふさわしく、通りの真ん中を歩く姿は堂々としている。
それにつき従う形で、わずかに後方を歩いている、背筋の伸びた後ろ姿。シンドバッドに比べれば細身のように見えるが、個体だとそれなりの体格をしているであろうことがわかる。
それを眺めていたら、吸い込まれるようにして抱きついてしまったのだ。
ジャーファルは突然のやわらかい衝撃に驚いた。
「はっ?!」
「きゃ、キャーッ!!」
なまえは我にかえり、飛びのいた。硬い背中に触れたのは一瞬、転身して逃げ出した。
まるで自分ではないような行動に、戸惑っていた。混乱して、頭の中には疑問符が大量発生している。それにしても抗いがたい魅力だった。気付いたらもう、触れていた。
「おおジャーファル、おまえもやるじゃないか。いつの間にあんな可愛い子を捕まえた」
「それは私にも……いえ、彼女は……」
背後の気配は読めていたが、殺意などは感じなかったため特段気に留めることもなくシンと話していたら。
振りかえると一瞬見えた顔に覚えがあった。
「見覚えは、あります」
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