「始まり」

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主人公




ハ「まぁ、はっきり言って『机上の空論』って感じかな。中央なら研究している貴族や学者も居るだろうけど、それを使えるとか成功した話なんてものは聞いたことないよ」

_「ふぅん、伝説上の幻想論みたいな話で信じてる人は居ないって感じか。なるほどな」

ハ「まさか、錬金術が使えるなんて言わないよな」


アハハと笑うハンジ。


_「使えるけど」

ハ「そうだよね、使えるって…え!?」


ハンジは#
の返事を復唱して、一瞬遅れて耳を疑った。

そして飛びつくようにして机上に乗り上げる。


ハ「れ、錬金術が使えるって!!?」

_「使えるよ。皆は使えないんだ?」


あっけらかんと言う#
に、遂にエレンが憤慨する。


エ「ふざけんな、んなモン使える訳ねぇだろ!一体なにが言いたいんだ、はっきり言えよ。どっかのスパイなんだろッ」

エル「落ち着け、エレン」


団長に諌められて静かになるエレン。


エ「はい、すいません」


何故かミカサから鋭い視線を感じる。


ハ「本当なら今、見せてもらえるか?」


コホンと咳払いをして、けれど好奇心を止められないみたいに目を輝かせてハンジが言った。


_「いいよ、見てもらった方が早いし」


#
はペンと紙を要求し、それが渡されれば紙に錬成陣を描いていく。


ハ「それが錬金術を使うための魔法陣なのか?」

_「そう、錬成陣ってやつ」


ハンジほど表に出さなくとも、興味津々に見守る一同。


_「よし、描けた。あとは、クッキーでいいか」


そう言って手に取ったクッキーを握りつぶして粉々にする。


ハ「ど、どうしたんだ?」


慌てる様子のハンジに小さく笑って。


_「これを元の形に戻すんだよ」

ハ「え、戻るのかい?」

_「それが錬金術だからね」


平然と言い放つと、紙に描いた円陣に両手を触れさせる。


_「一瞬だから、よーく見ててよ」


そうして、#
は円陣に集中する。


パリッと小さな電光が走ったかと思えば、
パシンッ..と破裂音が鳴った。刹那、


ア「え」


その場に居る、#
以外の一同が目を見開く。


エ「…うそだろ」


たしかに粉々になっていたクッキーが、瞬きする間にも元の形を取り戻していた。
ハンジがクッキーを手に取って、軽く力を入れて硬さや繋ぎ目がないかを確かめる。

クッキーは完全に、割れる前のヒビ一つない状態だった。


#
は、この世界で錬金術が使えるかどうかを既に牢の中で試していた。

これが成功しなければ、自分の状況を説明するための説得材料が無くなってしまうからだ。


ハ「も、もう一回ッ、今度は別のもので」


リヴァイが紅茶のおかわりを所望したので、一同の分を用意してハンジが戻ってきた。


_「じゃ、今度はコレにするか」


目の前に置かれた紅茶のカップを持って、円陣に置きながら言った。


ハ「カップの方かい?」

_「そう、液体はまた別の陣が必要だしな」


今度は合図をつける。


_「いくよ、3…2..1、」


パシッ..小さな音がなれば、紅茶のカップは小ぶりなマグカップに変化した。

二度も目にして、否応にも信じてもらえたようだ。


エル「お互いに言いたいことは色々とありそうだが、君は別の世界から来た人間である可能性が高い、ということか」


エルヴィンは目の前のマグカップを見つめる。


エル「有り得ない話だが、この様な光景を見せられては信じる他にないな」

_「オレも実感ないし、まだ夢なんじゃないかと思ってるよ」

エル「無理もないだろう」


リ「今度は、こっちの番だな」


ガタッと立ち上がるリヴァイ。


エル「全員、ただちに立体起動装置を着用し、厩の前に集合してくれ」

エ「えっ」

ハ「そうだね、説明するより早いよ。『実際に見てもらった』方がさ」


上司らに続いて立ち上がりながら、


ア「本当にやるんだ…」

エ「行くぞ、アルミン」

ハ「#
は、コッチだ」


#
はハンジの後に続いて部屋を出た。


30分後、立体起動装置を装備したエレンら6人と#
は、壁の下に移動していた。


ハ「これが壁だよ、50メートルあるんだ」

_「へぇ、そんなに高いんだ。巨人も、それだけ大きいってこと?」

ハ「いや、最大のものでも15メートルぐらいだよ。小さいものだと3メートルから様々だよ」

_「それで、オレはどうすりゃいいの?」


何も付けていない#
は、彼らを振り返る。


ハ「私が、おぶっていく」

ア「危ないんじゃないですか?」

ハ「見たところ#
も私達のように何かしらの訓練を受けているように見えるから、それで良いと判断したんだ」

_「ま、たしかに。鍛錬は積んでるよ」


屈むハンジの背中に乗っかり、


ハ「しっかり掴まっててくれ」

_「おーけー」

エル「では行くぞ。先頭はリヴァイ、次に続いてアルミン、エレン、ミカサ。その後にハンジと私だ」


リ「テメェら、しっかり着いてこい」

エ「はいッ」

リ「行くぞ」


リヴァイがアンカーを射出して登り始め、3人が後に続く。


エル「では行くぞ」


グンッ..とワイヤーが巻き取られることで発生する物理法則に引っ張られないように、しっかりとハンジにしがみつく。

移動のスピードは、なかなかのもので、あっという間に頂上に到着した。


ハ「今日は風も弱いし、いい景色が見れそうだね」


壁の端には、フェンスなどの人が落下しないように注意する為のものは無い。

どうやら、壁に登るのは立体起動装置が必須のことらしい。


ハ「#
は装置をつけて居ないから重々、気をつけてくれ」

_「りょーかい」

ハ「さて、巨人は居るかな」


壁の上から外を眺めるハンジ。


ハ「あ、ほら。あそこが君を拾った森だよ」


巨木の森は壁に届くほどでは無いにしろ、悠に20メートルはありそうだ。

そうして待つこと少し、アルミンが地平線に近い山の付近を指差す。


ア「ハンジさん、いました!巨人です」

ハ「ホントだ、およそ7メートル級って感じかな。こっちに気付いたね」

_「あれが、巨人…」


巨人の姿を目にして、#
は息を飲む。

それは一直線に壁に向かって走ってくる。

姿が近づくと、ドスンドスンと振動が伝わってきそうな迫力だ。壁より小さい巨人は、よじ登ろうと両手を伸ばす。
壁の表面は突起もなく滑らかなので、立体起動装置のような鋭いものがない限り登れはしないだろう。

どうやら巨人は、ただ大きいだけで他に能力はないらしいが、その大きさは十分な脅威になると思った。


ハ「巨人は人間を食べるんだ」

_「動物は?」

ハ「見向きもしないよ」

_「ふーん、」


巨人の生態に疑問が浮かぶ。


_「倒せるの?」

ハ「一応ね。やつらには普通の攻撃は効かなくて、瞬く間に再生してしまうんだ」

_「へぇ」

ハ「我々の使うスナップブレードで弱点である首の後ろ…」


エルヴィンが自分の『うなじ』を指で差す。


エル「この辺りの長さ1メートル幅10センチの部分に大きな傷をつければ倒すことは可能だ」

_「死体は残るの?」

ハ「残らないんだ」


心底、残念そうにハンジが言った。


ハ「何故か蒸発して消えてしまうんだ、だから調査するにも生捕りでね。大変だよ」

_「確かに大変そうだな」


人間に似ている巨人に、人体破壊は通用するのかも気になるところだ。


ハ「倒し方の見本も見せるよ」


ハンジのセリフを合図にリヴァイが壁から飛び降りる。


ハ「リヴァイは、その強さから人類最強と謳われてるんだ」


アンカーを近くの木に放ち落下地点への軌道を変え、巨人の手の間をすり抜け際、片足の腱を切りつける。

すると巨人が片足をつき俯くことで、上方に隙が生じた。

木の枝に撃ったアンカーのワイヤーを巻く勢いで回転し、その勢いを利用しブレードで巨人の頸に切りつけた。
わずかな肉片を切り取られた巨人は、多量の蒸気を放出して消滅した。


_「へぇ、凄いな。あっという間だ」


リヴァイが頂上に戻ってきた。


ハ「さすがだね、新記録なんじゃない?」

リ「興味ねぇな」



エ「さすがだぜ、リヴァイ兵長は!!」

リヴァイの華麗な戦闘ぶりに感激しているエレン。


ア「本当だね。なんであんなに流れるように倒せるんだろう」


_「ねぇ、ハンジさん。もしかして」


#
はハンジの着けている装置を指し。


_「オレにソレ教えようとしてる?」

ハ「ご名答、よく分かったね。調査兵団で面倒見る以上、君にも闘ってもらうつもりだよ」

_「拒否権ないの?」

ハ「そうだね、コレもココで生きる為の常識だよ。兵役しながら君の記憶を取り戻す模索していくって感じでさ」

_「まぁ、暫くの間、世話になりそうだし色々と教えてもらうか」


仕方ないな、と首を回しながら壁の下へ視線を落とす。


「(記憶を取り戻すことは、オレが元の世界に戻る方法を思い出すってことだ。いつか必ず、元の世界に戻ってやる)」


グッと静かに拳を握る。


ハ「陽が傾いてきたね。そろそろ兵舎に戻ろう、今後のことも決めなきゃならないからね」


ハンジ達は、夕日を背に壁を降りていった。





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