第一話
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地を這うような轟音に近いトリコのイビキにセイラは苦しめられていた。なんなら隣のテントのゼブラのイビキもヒドい。
『うぅ〜、うるさい……』
トリコに背中を向けて丸まってみるがちっとも眠れる気配がない。それどころかドスっという音と共にトリコの大きな手が脇腹に当たって痛い。
『うぐっ!もう我慢できない……!』
ズルズルとテントから這い出ると焚き火の様子を見ていたココと目が合った。丸太に座っている様もスマートですね。
「眠れないかい?」
『そんなとこ。』
セイラが答えるとココは伏し目がちに焚き火に視線を戻した。
ココの見張り番はまだのはずだ。皆に気を遣ってテントを使わないようにしているんだろう。彼はそういう男だ。
『ココも眠れないの?』
「そんなところだ。」
『寒くない?』
「……少し、寒いかな。」
テントに戻ってトリコから毛布を剥ぎとると再び外に出る。ココの肩にやや乱暴に毛布を掛けるとドカッと音を立てて隣に腰を下ろした。
「ボ、ボクはいいからセイラが使うといいよ。そんな薄着で見てる方が寒くなる。」
『私は皆より体温が高いから平気。毛布かけると暑いくらいだからさ。』
「あぁ、なるほど。子供は体温が高いから!」
『ふたつしか違いませんけど!?』
2人の笑い声があがった。夜遅いこともあってお互いに顔を見合わせて口を噤んだが、トリコとゼブラのイビキが聞こえるだけだった。
ココは顔が整っているせいかセンチな表情も似合うけれど、私は笑った方が好きだ。
『ココ。顔に煤がついてるよ。』
「え?どこ?」
『違うよ。そっちじゃなくて…』
こっちーーとココの頬に手を伸ばすとサッと避けられた。
避けられて傷ついたのはこちらのはずなのにココの方が泣きそうな顔になっているではないか。
しまったな。こんな表情させたいわけじゃないのに。
「ボクは毒があるから、触らない方がいい。」
研究所の中で生を受けたセイラだが、ココたち4人と仲良くなったのは最近のことだ。
本当はうんと昔に一度だけ会っているけれどココは覚えていないのだろう。
そのせいかココはセイラに対して接触を拒んでいる。
少しだけ寂しい気もするけど。
「きみは体が弱いから……」
『ココ、知ってる?バトルウルフって警戒心が強いんだよ。』
「うん?」
『ココの毒が強力なのはわかるよ。それは私の中の本能でなんとなくわかるんだ。』
噛みしめるように紡がれるセイラの言葉に、ココは静かに耳を傾けていた。
『初めて会ったとき、皆のこと警戒してた。でも不思議と怖いと思ったことはないんだ。ココに敵意がないってのもあると思うけど、ココが優しい人だって感じるから。』
『まあ、全部カンなんだけどさ』と付け加えるとココの口元がふっと緩んだ。
パチパチと木の弾ける音が大きく感じた。
『スキあり!』
ココの頬についた煤を親指の腹で拭う。
自分の心を守るために予防線を張ったとしても傷つけられない生を送ることは不可能だ。それは檻のような研究所に閉じ込められているセイラも同じ。生き物は傷つき、傷つけながらでしか生きられないのだ。
だが、ココの場合は体質が自身を傷つける結果になってしまう。恐怖にも近い畏怖の眼差しを向けられてきたことだろう。
「いてっ!いたい!」
『ありゃ。なかなか落ちないなー。』
「顔が取れる!」
ココの手がセイラの腕を掴むと引き剥がされた。その手は微かに震え、優しくセイラの手を包み込んでいる。暫しの沈黙のあと、セイラに何の変化もないことがわかるとココの手の震えが止まった。
「……スキあり!」
離れたココの手がセイラの鼻に擦りつけられた。
『うわっ!』
「仕返し。あー、かわいくなったね。」
『棒読み!!』
べたべた自分の顔を触っているとココが堪らずといった風に吹き出した。
「触らない方がいいよ。美人に拍車がかかる。」
『ココこそイイ男に仕上げてあげるよ?』
「ボクは十分間に合ってるから結構だ。」
『言ったな!』
ココに掴みかかると反動で2人同時に後ろに向かって倒れた。後頭部に鈍い痛みが奔る。
「『いたーーっ!』」
患部を擦りながら隣を見るとココも同じように頭を押さえていた。目が合うとどちらからともなく笑い声があがる。
ひとしきり笑うと鬱蒼と茂る木々の隙間から満点の星空が見えた。
『ココって星は見えるの?』
「ああ。見えるよ。」
『綺麗だね。』
「そうだな。」
顔をココに向けると不思議そうな彼と目が合う。
『ねえ、外の話して。』
ココは一瞬戸惑ったように見えたがすぐに笑顔に戻った。
「いいよ。何が聞きたい?」
『いつもの話。』
「好きだね、キミも。ボクらの普段の話なんて面白いかい?」
『うん。』
ココの口から語られるのはなんてことのない日常で。トリコとゼブラがケンカしたとか、ゼブラとサニーがケンカしたとか、サニーとココがケンカしたとか、四人で会長に挑んだけどまた勝てなかったとか。
「……セイラ?聞いてる?」
『ハッ!起きてる!起きてるよ!』
「ここで寝ちゃだめだよセイラ。起き上がれる?」
『ん〜〜〜…』
重い瞼を擦りながらよろよろと起き上がったセイラは丸太の上に腰かけるとうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
ココは笑いそうになる口元を押さえながらセイラの隣に腰を下ろすと、自然とセイラの体がもたれかかってきた。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてくる。
「寝ちゃったか…」
ココの大きな手が遠慮がちにセイラの頭を撫でた。
「…ごめんね、おやすみ。」
オマケ&アトガキ→