のっぺらぼう
「あぁ、面倒な奴に絡まれたもんだ……胸くそ悪い」
優男から離れた男は、先程とは違う路地裏で再び悪事を働こうと模索していた。
ふと、何かの声が聞こえた。
男が顔を奥へ向けると、キョロキョロと辺りを見回す少年の後ろ姿があった。
この辺りでは見かけない、明るい茶色の髪を揺らしながら「無い……無い……」と小さく呟いている。
新たなカモを見つけたぞ、と男は下卑た笑みを浮かべて例のお面を被り彼へ近づいていく。
「きみ、こんな場所でどうしたんだい?」
「探しものをしているんだ。
多分、ここなら見つかると思って……」
余程探し物に夢中になっているのか、地面や箱の裏を覗き込む少年は顔を見せずに男に声だけ返した。
「そうか、それは大変だ。
よし、俺も探してやろうじゃないか」
「本当?助かるよ!!」
「ああ……ただ、時間はかかるかもしれないがな。
何せ……こんな顔をしているからねぇ」
少年の隣まで移動した男は、その何も無い平らなお面で彼の顔を覗き込んだ。
「あれ、お兄さん……貴方も『無い』の?」
振り返って男を見つめる少年。
いや、見つめるという表現は誤りだ。
何故ならお面男は勿論、少年の顔もまた何も無かったからだ。
眼を無くして、どうやって見つめるというのか。
「なっ……」
男は一瞬鼻白んだが、先程の優男とのやり取りを思い出し「ああ、またか」と盛大な溜め息をついた。
「んだよ、テメェもか……何だ?怪異ごっこでも流行ってるのか?」
「ごっこ?お兄さんは違うの?」
「何だ、なりきってるのか?
そうだよ、俺は違う。正真正銘の人間だ」
「えー……本当に?」
少年は首を傾げ、ペタペタと男の顔に触れ確かめてくる。
「触るんじゃねぇよ!!」
苛立ちながら、男は少年の手を払い距離を取る。
少年は痛がる素振りも見せず、何処から出しているのかくすくすと笑い声を上げて男へ顔を向けていた。
「何だよ、気味が悪い……」
「いや、探しものが見つかってよかったなって思って」
「あ?」
「わざわざお面をして、怪異のフリをして……
お兄さん、仲間になりたいんだよね?
安心して、そんななりきりじゃなくて、本物として迎えてあげる」
「一体、何を言って……」
少年の不気味な態度に腹を立てた男は、お面を外して投げつけてやろうとするが……
(……っ……取れない?!)
お面と顔の境目がピッタリと、まるで元から素肌であったかの様に張りつき剥がすことが出来なくなっていた。
「何だよそれ!!どういう事だ、クソッ!!
おい、テメェ何をしやがっ……ぎゃっ!!」
突然首筋に、ひたり……と何か冷たい物が触れ、男は悲鳴を上げる。
妙な感触のそれはすぐに離れたが、しっとりとした気味の悪い……まるで、ようやく水から上げてもらえた女性の手の様な、そんな感覚だけがまだ肌に残っている。
「な、何だよ今のは……あ、あれ?何だ?
急に辺りが暗くなって……」
建物から明かりが消えるには、まだ早い。
風は吹いていない、近くに置いた提灯の火はまだ消えていないはず。
それにも関わらず、段々暗くなっていく周囲に男は慌てふためく。
「人間としての目が見えなくなっているんだよ、もう必要無いからね。
大丈夫、すぐに慣れて新しいモノが見られるようになるよ」
「な、何だよそれ……俺は……ひっ!?」
突如、何者かに腕を掴まれ俺の全身が強張る。
少し離れた位置にいた少年のものではない、そもそも掴む手の大きさは大の男ぐらいの大きさだ。
「『こちら』においで、お兄さん。
同志になったら一緒に、たくさん探しものをしようね」
「約束だよ?」という少年の言葉を合図に、何者かに引きずられ男は何処かへ連れて行かれる。
悲鳴は上げていたが目と同様に退化していたのか、その声は誰に聞こえる事もなかった。
優男から離れた男は、先程とは違う路地裏で再び悪事を働こうと模索していた。
ふと、何かの声が聞こえた。
男が顔を奥へ向けると、キョロキョロと辺りを見回す少年の後ろ姿があった。
この辺りでは見かけない、明るい茶色の髪を揺らしながら「無い……無い……」と小さく呟いている。
新たなカモを見つけたぞ、と男は下卑た笑みを浮かべて例のお面を被り彼へ近づいていく。
「きみ、こんな場所でどうしたんだい?」
「探しものをしているんだ。
多分、ここなら見つかると思って……」
余程探し物に夢中になっているのか、地面や箱の裏を覗き込む少年は顔を見せずに男に声だけ返した。
「そうか、それは大変だ。
よし、俺も探してやろうじゃないか」
「本当?助かるよ!!」
「ああ……ただ、時間はかかるかもしれないがな。
何せ……こんな顔をしているからねぇ」
少年の隣まで移動した男は、その何も無い平らなお面で彼の顔を覗き込んだ。
「あれ、お兄さん……貴方も『無い』の?」
振り返って男を見つめる少年。
いや、見つめるという表現は誤りだ。
何故ならお面男は勿論、少年の顔もまた何も無かったからだ。
眼を無くして、どうやって見つめるというのか。
「なっ……」
男は一瞬鼻白んだが、先程の優男とのやり取りを思い出し「ああ、またか」と盛大な溜め息をついた。
「んだよ、テメェもか……何だ?怪異ごっこでも流行ってるのか?」
「ごっこ?お兄さんは違うの?」
「何だ、なりきってるのか?
そうだよ、俺は違う。正真正銘の人間だ」
「えー……本当に?」
少年は首を傾げ、ペタペタと男の顔に触れ確かめてくる。
「触るんじゃねぇよ!!」
苛立ちながら、男は少年の手を払い距離を取る。
少年は痛がる素振りも見せず、何処から出しているのかくすくすと笑い声を上げて男へ顔を向けていた。
「何だよ、気味が悪い……」
「いや、探しものが見つかってよかったなって思って」
「あ?」
「わざわざお面をして、怪異のフリをして……
お兄さん、仲間になりたいんだよね?
安心して、そんななりきりじゃなくて、本物として迎えてあげる」
「一体、何を言って……」
少年の不気味な態度に腹を立てた男は、お面を外して投げつけてやろうとするが……
(……っ……取れない?!)
お面と顔の境目がピッタリと、まるで元から素肌であったかの様に張りつき剥がすことが出来なくなっていた。
「何だよそれ!!どういう事だ、クソッ!!
おい、テメェ何をしやがっ……ぎゃっ!!」
突然首筋に、ひたり……と何か冷たい物が触れ、男は悲鳴を上げる。
妙な感触のそれはすぐに離れたが、しっとりとした気味の悪い……まるで、ようやく水から上げてもらえた女性の手の様な、そんな感覚だけがまだ肌に残っている。
「な、何だよ今のは……あ、あれ?何だ?
急に辺りが暗くなって……」
建物から明かりが消えるには、まだ早い。
風は吹いていない、近くに置いた提灯の火はまだ消えていないはず。
それにも関わらず、段々暗くなっていく周囲に男は慌てふためく。
「人間としての目が見えなくなっているんだよ、もう必要無いからね。
大丈夫、すぐに慣れて新しいモノが見られるようになるよ」
「な、何だよそれ……俺は……ひっ!?」
突如、何者かに腕を掴まれ俺の全身が強張る。
少し離れた位置にいた少年のものではない、そもそも掴む手の大きさは大の男ぐらいの大きさだ。
「『こちら』においで、お兄さん。
同志になったら一緒に、たくさん探しものをしようね」
「約束だよ?」という少年の言葉を合図に、何者かに引きずられ男は何処かへ連れて行かれる。
悲鳴は上げていたが目と同様に退化していたのか、その声は誰に聞こえる事もなかった。