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童話パロディ

庭に炊かれた焚き火にくべられたその途端、衣は炎をまとい勢いよく燃えてしまいました。
若草色の髪を揺らし、長身の男は燃えゆく衣から来訪者へとゆっくり視線を移します。
衣……『火鼠の皮衣』なる物を持ってきた来訪者は、意気揚々とした様子は何処へやら、萎縮したまま冷や汗を流しその瞳を見つめ返します。
否……見つめ返しているのではなく、目を逸らせないと言った方が正しいでしょうか。
硬直し言い訳すら語ろうとしない相手に、長身の男はわざとらしくため息をつき、自身の眼鏡の位置を直します。

「貴方を咎めはしません。罪に問う価値もなさそうですから。
その代わり、二度と私の現れないように」

にこり、と擬音が聞こえてきそうな微笑みを浮かべ、男は最早ただの邪魔者と化した来訪者を追い払いました。

(やれやれ……また駄目でしたね……
いつになれば、私の望む相手は現れるのでしょうか……)

男は未だ燃え盛る衣に水をかけようと、用意していたバケツを手に取ったその時です。

「おい」

不意に何処かから声が聞こえ、彼は周囲を見渡します。

「こっちだよ。あんたが湯葉の野菜春巻きだな?」

名前を呼ばれた男が振り向くと、外壁の上に一人の少年がいました。

「いいえ、違います」
「笑顔で堂々と嘘付いてんじゃねーよ。
心配すんな、怪しいものじゃないからさ」

面倒事の可能性を考えてあえて否定する湯葉の野菜春巻きに呆れながら、少年は外壁から飛び降り彼に近付きます。

「俺は厚揚げ豆腐、あんたの相方になる男だ」
「おや……貴方も候補者でしたか」

名乗りを聞き、湯葉の野菜春巻きは目を細め彼を値踏みするかのように見つめます。

「あぁ。あんた今、何でも屋として自分のパートナーになるやつを探しているんだろう?
条件を色々出して、クリア出来たやつを相方にするって」
「えぇ、そうです。
生半可な覚悟や体力、運や思考ではこの仕事は勤まりませんからね。
努力だけでは、怪我をしたり命を落としかねません。
ですので少々難関なお題を出して、ふるいにかけさせてもらっています」
「少々難関、ねぇ……」

爽やかな笑みを見せ語る相方に、厚揚げ豆腐は思わず苦笑を浮かべます。
今まで彼の相方を名乗り出て、見事に散っていった猛者達の苦労話を聞いていたからです。

「ま、あいつらが出来なかっただけだろう。
俺には関係無いね」
「おや、まさか自分ならクリア出来ると思っているのですか?」
「当然、だからこうやって直に話に来たんだよ」

自信満々な厚揚げ豆腐に、湯葉の野菜春巻きは表情を変えずにいます。

「ずいぶんと自信有り気なことで……
では、その口が法螺ではないことを証明してもらいましょうか」

そう言って、湯葉の野菜春巻きは懐から1枚のメモ
を取り出し、厚揚げ豆腐に手渡しました。

「なんだよ、これ」
「ヒントです。どうぞお役立てください」
「ヒント?」

首を傾げる少年に、湯葉の野菜春巻きは体を屈め視線を合わせてから告げます。

「我が何でも屋の一員となる条件を言います。
私が見たいものを見せてください」
「見たいもの……?」

彼の言い方が気になり、ですがそれ以上に気に障った相手の行動に厚揚げ豆腐は言及しました。

「チビだって馬鹿にしてんのか!!」
「おや、これは失礼。
上から目線は無礼になるかと思い、しゃがんだのですが……」
「あーー!!ムカつく!!
すぐにお題をクリアして、俺の有能さをわからせてやるからな!!」

そう叫び、厚揚げ豆腐は勢い良く走りだしその場を後にしました。

「……私は初めての相手を、見た目だけで判断することはしませんよ。
どんな考えを持っているのか、有事の際にどんな行動を取るのか、その意思はずっと変わらないのか……
それを、大切にしています。
まずは様子見ですね。
楽しみにしていますよ、厚揚げ豆腐」

もうこの場にいない相手に会釈して、湯葉の野菜春巻きはバケツをひっくり返し、勢いが弱まっていた焚き火を消しました。






「鉢……貝……こんなもの集めて、面白いのか?」

渡されたメモを読みながら、厚揚げ豆腐は机に地図を大きく広げます。
湯葉の野菜春巻きの言っていたヒントには、伝説の存在とされている数々の品の名前が書かれていました。

「ま、人の趣味は人それぞれ。
口出しは厳禁だな」

資料として持ってきたいくつかの本のページをめくり照らし合わせ、地図や別の紙に様々なことをメモしていきます。

「んー……こんなものか」

自分が見付けられそうな品はどれかあらかた目星を付け、厚揚げ豆腐は大きく伸びをします。

「とりあえず探して、持っていけばいいだろ」

厚揚げ豆腐は楽観的な様子で、明日から始まる旅の支度をして床につきました。


それから色々と大変な冒険がありましたが、その内容は此度は省略させていただきます。
まぁとりあえず苦難の末に、厚揚げ豆腐はメモに書かれていた品の一つである『蓬莱の玉の枝』を手にすることが出来ました。

「めちゃくちゃ大変だった……
けれど、これならあいつも納得するだろうぜ」

帰りの船の中、部屋に備え付けられているベッドの上でぐったりしながら厚揚げ豆腐は戦利品である玉の枝を見つめます。
根は白銀、枝は黄金、実っている果実は真珠で出来ており、それはそれは見事な宝物でした。

「万が一に失くした時の対策もしておいたし、後は渡すだけだな」

どんな顔をするだろうな、ビックリして眼鏡が割れたら面白いだろうな、などと考えているだけで笑いが込み上げ、疲れが消えていきます。
その時、トントンと部屋のドアがノックされました。

「ん?誰だ?」

厚揚げ豆腐は起き上がり、玉の枝を使い古した袋に仕舞ってからドアを開けましたが、そこには誰もいませんでした。

「おっかしいな……確かにノックされたと思ったんだけれど……」

怪訝な表情を浮かべ、厚揚げ豆腐は身を乗り出しました。
その途端、ガンッという鈍い音と共に、後頭部に激痛が走ります。
あまりの痛みに厚揚げ豆腐は声も出せず、廊下に倒れ伏してしまいました。
一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、すぐに何者かに背後から襲われたのだとわかりました。
ドタドタと乱暴な足音が部屋の中に入り、頭上で誰かの声が聞こえますが、痛みで意識が朦朧として内容が聞き取れません。
室内が荒らされ、自身の体も何処かへ引きずられて行きますが抵抗することも叶わず、厚揚げ豆腐は気を失ってしまいました。






「こちらが『蓬莱の玉の枝』でございます」

そう言われ差し出された袋を、湯葉の野菜春巻きは手にせず正座したままジッと見つめていました。

「……私は、二度と姿を見せないようにと言ったはずですが」

怪訝とも和らいだともとれる微妙な顔付きで、湯葉の野菜春巻きは再び現れた来訪者と背後に控える部下達をひたと見据えます。

「あの時は、大変失礼なことを致しました。
ですが、貴方を騙すつもりなどなかったのです。
悪質な商人の口車に乗せられてしまい……
まさかあの者に騙されるとは思ってもいなかったもので。
いやはや信じていただけに、裏切られたとわかった瞬間は、たまったものではありませんでしたよ」
「その商人が本当に信頼に値する者なのか、その言葉に嘘は含まれていないのか。
例えどちらも信頼に足るものだとしても、商人自身が偽物だと気付いていなかっただけという可能性を考え、自ら品定めをしなかったのか。
私としては、貴方のその辺りが気になりますがね」
「………………」
「まぁ、いいでしょう。
品を確かめさせてもらいます」

口元を引きつけながらも必死に笑顔を取り繕うことに全力を注ぎ会話を忘れる相手に、とっととお引き取り願おうと湯葉の野菜春巻きは袋に手を伸ばします。
そしてそのまま、開けようとはせず袋をマジマジと見つめます。

「……あの、何故中身を見ようとしないのでしょうか?」
「いえ、貴方の身なりにしては、ずいぶん古びた袋だなと思いまして」
「そ、それは気に入っていましてね!
やはり、新品の物を使うべきだったでしょうかね!!」

ハッハッハッ、と笑い飛ばしていますが、男の体が一瞬跳ねたのを湯葉の野菜春巻きは見逃しませんでした。
ですがそれ以上追及をすることはなく、袋を開け中身を取り出しました。
美しい。その言葉に相応しい、粉う事なき宝物でした。

「………………」

湯葉の野菜春巻きは無言で、枝を回したり下から眺めたりと、玉の枝を確認していました。
ある一点を確認した時です、何かを見つけた湯葉の野菜春巻きはその姿勢のまま動きを止めました。

「いかがでしょうか?
今度こそ、本物の品だったでしょう?」
「……そうですね、一見本物のようですが……
つかぬことを伺いますが、これを見つけた場所はとても険しい山か何かだったのですか?」
「よくおわかりで!!断崖絶壁の途中に生えておりまして、いやー登るのも引き抜くのも苦労しましたよ!!」
「成る程、それはそれは。
傷一つ付けずに持ってくるのは大変だったでしょう?」
「ええ!ですが、貴方様とビジネスパートナーになるには、これぐらいの事はこなせませんと!!」
「一度断られたにも関わらず、新たに宝を手に入れ再チャレンジするその意気込みには、感服いたします。
だが……詰めが甘過ぎる」

湯葉の野菜春巻きの言葉に、男は眉をひそめます。

「それは……どういう意味で……」

湯葉の野菜春巻きは浮かべていた微笑を消し、玉の枝の一部を見せ指差しました。
そこには、あるはずの黄金の葉が一枚欠けていたのです。

「傷一つ付けずに、持って来られたのでは?」
「なっ……そんな?!」
「貴方の愛用の袋に入れてきたということは、貴方自身がこれを仕舞われたのですよね?
入れる前に確認していなかったのですか?
まさか、他人に袋詰めさせたなんて、言いませんよね?
このような大事な取引に使う物を、他人任せにしたのだとすれば……」

怒りを語尾に滲ませながら立ち上がり、湯葉の野菜春巻きは見下すような眼差しで男を睨み付けハッキリと告げました。

「貴方は、私の相方として相応しくない」
「ち、違う!これは何かの間違いだ!!」
「取り繕いは結構。
相方となるかもしれない相手を騙すような人物を、どう信頼しろというのですか。
これ以上の会話は無駄です、さっさとお帰りを」
「待て!いや、待ってください!!
貴方を仲間に引き込まないと俺の立場が……!!」
「私には関係ありません」
「そ、そう言わずに!!
どうか、どうか慈悲を……!!」
「ではまず、この問いに答えてください。
何故この玉の枝に傷があるのですか?」
「それは……」

スパーンッ!!

「俺が付けたからだよ!!」

派手な音を立てて襖が開き、その場にいた全員が振り返ると、そこには息を切らして走ってきたのか、ぜぇぜぇと荒い呼吸をするボロボロの少年が立っていました。

「お、お前は!!」
「おや、厚揚げ豆腐ではありませんか」
「見つけたぞ!!ここに来る前に追い付きたかったのに、お前ら馬を使うとかズリィんだよ!!
俺から盗んだ宝、返しやがれ!!」

ドカドカと部屋に入り、男の胸倉を掴み上げ厚揚げ豆腐は怒りを拳に込めて殴ろうとしました。
男の背後に控えていた者達が慌てて引き剥がし、彼を畳に押し付け取り押さえます。

「チクショーッ!!離しやがれ!!卑怯者!!」
「い、いきなり交渉の場に乱入して来て、挙げ句の果てに卑怯者呼ばわりとはなんだ!
躾のなっていないガキめ!!」
「躾がなっていないのはお前の方だろうが!!
人の物を盗んで、さも自分で手に入れましたーとか言って騙そうとして!!
情けないとか思わないのかよ、ダサダサ野郎!!」
「黙れ!!おい、お前達!!
さっさとこの礼儀知らずのガキを連れ出して……」
「離しなさい」

ずっと黙って様子を見ていた湯葉の野菜春巻きの言葉が響き、その場が静まります。

「どうやら彼には彼なりの言い分があるようです。
まずは聞いてから、追い出すのはその後でも構わないでしょう」
「こんな薄汚い子どもの言うことなど、真に受けては……」
「どちらも疑わしいからこそ、両方の言葉を聞くべきです。
私に関わる事のようですからね、私が場を仕切らせてもらいます。
まずは彼を、離してください」
「で、ですが……」
「離せと」

強く、一旦区切りながら言葉が続けられます。

「私は言っているんです」
「っ……くっ……」

逆らうことは許さない、というような。
無言の圧に負け、男は部下に厚揚げ豆腐を解放するように命令を下します。

「ふんっ!!」

厚揚げ豆腐は悪態を付きながら立ち上がり、パンッパンッと掴まれていた箇所を払います。

「それで、厚揚げ豆腐。
先程の発言について、詳しく聞かせていまだけますか?」
「ん?どれだ?こいつに盗まれた時の事か?
船の中で頭殴られて気絶させられて、その間に盗まれたあげく海に放り込まれたんだよ!
こいつら本当に最悪だぜ!!」
「聞きたかったのはそこではなかったのですが……
意識が無いままで海に落とされて、よく無事でしたね」
「たまたま通りがかった、黒髪の人魚が助けてくれたんだ。
その姉ちゃんがこいつらの顔を見ていて、俺に教えてくれたんだよ」
「人魚とは……なんとも奇想天外な」
「ハッ!そんな伝説上の生き物が存在しているわけないだろう!!
湯葉の野菜春巻き殿!こんな空想話を平気で持ち出すような子どもの言う事など、真に受けてはいけませんよ」
「彼の話が事実か否かは、私自身で決めますので」

口出しは結構、とシャットアウトしてくる湯葉の野菜春巻きに、男は歯ぎしりを立てます。

「それで、厚揚げ豆腐。
貴方は先程、この玉の枝に傷を付けたのは自分だと言っていましたが……
その証拠は、あるのですか?」
「あ?証拠って……それを見たんだろ?
俺以外にあり得るか?」
「一応、聞いておこうかと思いまして」

二人のやり取りに、蚊帳の外状態の男は怪訝な顔付きになります。
『その欠けた葉っぱを持っているから』と言って取り出すであろうから、何処かで拾ったのだろうと難癖を付けるつもりだったのですが……

「面倒くさいなぁ、もー……」

はぁーっとため息をついて、厚揚げ豆腐は証明しました。

「そこに俺の名前、書いてるから」

彼のとんでも発言を、湯葉の野菜春巻き以外のその場にいた全員が一瞬理解出来ませんでした。

「な……名前……?」
「はい、これですね」

湯葉の野菜春巻きは、手に持つ玉の枝の葉の欠けた部分を、硬直している男達に見せました。
そこには、何か固いもので削り書いたのでしょうか。
確かに『アツアゲ豆フ』という文字が、刻み込まれていました。

「なっななななぁぁぁあっ?!!」

衝撃の事実に男だけでなく、部下達ですら動揺を隠せません。
そんな彼らを気にすることなく、平然としたまま湯葉の野菜春巻きの質問が続きます。

「厚揚げ豆腐、何故豆以外は片仮名なのですか?」
「簡単だったから。
細かい文字は彫りにくかったんだよ」
「成る程。それで、どうやって削ったのです?」
「これ使って」

そう言って彼がポケットから取り出したのは、力を加えられた為か、あちらこちらがヘコんでいる黄金に輝く植物の葉っぱ。
そう、欠け落ちた箇所に付いていた葉っぱでした。

「き、貴様ぁっ!!まさか、その傷を付ける為に枝から葉を取ったのか!?」
「おぅ。ナイフ出すの、面倒くさかったし」
「なんて馬鹿なことを!!
世界にまたとない宝物の葉を取っただけでなく、そのものに名前を彫り刻むなんて!!
価値が台無しではないか!!
貴様はとんだ愚か者だ!!」
「うるっせぇ!!
俺が手に入れた物をどうしようが、俺の自由だろ!!」
「その発言は間違いですよ、厚揚げ豆腐」

ふんぞり返る厚揚げ豆腐に、湯葉の野菜春巻きが玉の枝を教鞭のように、自身の手に叩き付けます。

「この玉の枝は、私にと取ってきた物でしょう?
ならばこれは、私の物です。
貴方は、私の出したお題をクリアする為に手に入れた物に傷を付けた。
それで私が失格にする可能性は、考えなかったのですか?」

湯葉の野菜春巻きの低い声色の問いかけに、厚揚げ豆腐はキョトンとなります。

「え?お前それ欲しかったのか?」
「うん?どういう意味ですか?」
「いや、お前の出した条件は『見たいものを見せろ』だろ?
それって、この宝を手に入れるまでの過程とか、そういうガッツ的なもののことかなーって思ったからさ。
宝そのものは、別に興味無いんじゃないかって思ってたから」
「……だから、名前を刻んだと?」
「あぁ、俺が手に入れたんだからな。
名前書いておけば、落とした時とか見つけやすいじゃん」

まさか堂々と盗まれるとは思っていなかったけれどな、と厚揚げ豆腐は開いた口が塞がらなくなっている男達を睨み付けます。

「………………ふっ…………」

湯葉の野菜春巻きの肩が、わなわなと震えます。
男は、てっきり彼が怒りに身を震わし『ふざけるな』と叫ぼうとしているのかと思ったのですが……

「あっはははははは!!」

予想に反し、湯葉の野菜春巻きは大きな声を上げて、腹を抱え大爆笑し始めました。

「はははっ!ひっ、あ、貴方それっほ、本気で思って、ぶふっ!!
本気でそ、そう思って、やったんですか……あははは!!」
「何だよ!何で笑うんだよ!!」
「わ、笑わずに、いっいられませんよ!!
まさか……こんな大それた方法で証明してくる者がいるとは……」

ひーひーと、何とか笑いを納めながら、湯葉の野菜春巻きは眼鏡を外し、目頭に浮かんだ涙を拭いました。

「あーもー何だよ!
取りに行ったら大変な目に合って、持ち帰る時に痛い思いして、ようやく渡せたら笑われるとか!!
やってらんねー!!」

厚揚げ豆腐は沸き起こる怒りとやるせなさに、頭をわしわしと掻きむしります。

「ははっ……失礼、あまりに想定外だったもので……
頭を掻くのはやめなさい、痛むのでしょう?」
「ふんっ……で、結局どうなんだよ?
オレは合格したのか?」

厚揚げ豆腐の問いかけに、湯葉の野菜春巻きは彼の苦労を労うかのような優しい笑みを浮かべ、ハッキリと答えました。

「及第点です」
「はぁ!?ギリギリ?!どういう事だよ!!」
「まず始めに、私の見たいものが実物ではなく、その過程と見抜いた。
それは、文句無しの合格です。
ですか、それを証明する為の道具を存外に扱った。
もし私が貴方の言動だけでなく、その結果得られた物にも重きをおいていたとしたら?
確実に、失格です。
答えがどちらかハッキリせず少しでも可能性がある場合は、どう転んでもいいように対処しておかなければいけませんよ。
私と組む以上、今後その辺りは考慮してもらいますので、そのつもりで」
「面倒くさ……ん?組む以上?
それって……!!」

期待の眼差しを向ける相手に、眼鏡をかけ直しながら湯葉の野菜春巻きは頷き手を差し出しました。

「言ったはずですよ、及第点だと。
ギリギリであろうと、合格は合格ですから。
これからよろしくお願いします、厚揚げ豆腐」
「~~~っ!!あぁ!!」

厚揚げ豆腐は歓喜のガッツポーズを取り、その手を強く握り返しました。

「……とまぁ、そういう訳ですので。
私の相方は無事に決まりました。
どうぞ、すごすごとお帰りくださいな」

手はそのままに、湯葉の野菜春巻きは視線だけを事の成り行きに付いていけていない男達に向けそう告げました。

「そ、そんな……こんな事になるなんて……」

男は何か言いたげに口をパクパクさせますが、結局何も言葉が出ません。
これ以上はどうすることも出来ないとようやく理解し、項垂れてその場を後にしようとしました。

「待てよ」

呼び止められ男は振り返った瞬間、バキィッと打音と共に体が宙に飛びました。

「散々やらかしておいて、何もなく帰れると思っているんじゃねぇぞ!!」

ふんっ!!と握る拳を見せ付け、厚揚げ豆腐は怒鳴りました。

「貴様!よくも……!!」

殴り飛ばされそのままノびてしまった男の部下達は怒気をはらみ、厚揚げ豆腐に飛び掛かろうとしました。

ガウンッ!!

突如、近距離で聞こえた銃声に、誰もが身をすくませます。

「彼の行動は、一種の正当防衛ですよ。
命を奪われかけたにも関わらず、たった一撃のパンチで許してもらえるんです。
感謝こそすれ、逆恨みとは……情けない」

硝煙が上がるバレットをセットし直し、湯葉の野菜春巻きは鋭い眼差しを彼らに向けました。

「私の相方に手を出すのならば、それなりの覚悟を」

ガチャッと音を立てながらバレットを突き付けると、男を担ぎ上げ部下達は情けない悲鳴を上げて屋敷を出ていきました。

「あんた……以外と大胆だな」
「視界に訴える脅しは、有効な手段ですから」

呆れた口調で見つめてくる厚揚げ豆腐に対し、ふふんっと何故か得意気に湯葉の野菜春巻きはバレットを担ぎポーズを決めました。

「っていうか俺、パンチ一回で許すつもりなかったんだけれど」
「おや、そうでしたか。
あまりにも景気良い殴りっぷりだったので、てっきり全ての想いを込めて一発かましたのだと」
「とりあえず、最低あと5・6発はいきたかったぜ」

あーあとぼやきながら、厚揚げ豆腐は部屋を出ていこうとします。

「どちらへ?」
「帰るんだよ。海に落っことされて助けてもらってここに来るまでの間、全然休んでないんだ。
とりあえずゆっくり寝たい」
「なら、ここで寝ていきなさい。
空いている部屋はいくつかありますから、好きに使って構いません」
「え、良いのか?」
「はい。なんなら起きた後に湯浴みして、食事もどうぞ」
「マジ?至れり尽くせりかよ。
何か有難いけれど、裏がありそうで怖いな」
「おや、よくわかりましたね」
「え?」
「……冗談ですよ。
別に、一度合格にはしましたがここからの行動次第ではコンビ解消もやむ無しまずは普段の行いを様子見して……なんて考えていたわけではありませんから。
どうぞ、ごゆっくり」
「いや、その目は冗談じゃなかったよな!?
面倒くさいにもほどがないか、お前!?
やっぱり帰る!お邪魔しました!!」
「はいはい、部屋はこちらですよ。
観念して寝ていきなさい」
「首根っこ掴むな、引きずんな!!
離せーっ!!」






……こうして、後にどんな厄介な仕事も必ず完遂する、伝説の何でも屋コンビが誕生したのでした。
めでたし めでたし
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