輪郭のない証拠
input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その喫茶店の隅の席は、仁人が仕事帰りに立ち寄る様になった頃には、いつからか"彼女の場所"として定着していた。
窓際でも、通りが見える席でもない。店の一番奥、物音が少なく、それでいて店員の動きだけは把握しやすい場所。彼女はいつも通り、コーヒーと共にそこに座っていた。
鞄から分厚い一冊を取り出すと、指先がゆっくりと頁を辷っていく。時折、その動きが止まる。誰が犯人か辿り着く直前の、先を知りたい気持ちと物語が終わってしまう寂しさが、指先の速度にも表れている様だった。
ドアベルが鳴る。何人もの足音がその後に続いたけれど、彼女の意識はその中の一つだけを拾い上げた。
ゆっくりとした、大きな歩幅。
「——良かった、今日もここに居た」
声がかかるより先に、彼女はすでに顔をそちらへ向けている。
「そんなに急いでどうしたの?」
「え、あ……なんで分かんの、いつも」
「さあ、なんでだろうね」
はぐらかすように笑う。惜しむ様に閉じた本には、少しだけ指先が挟まれたままだった。
「で、だ。」
彼女は本から指を抜き、しおりを挟む。テーブルに肘を付き、ゆっくりと手を組んだ。
「今をときめく君が、今日もまた、どうしてわたしのところに来たんだい?」
問われた瞬間、仁人の足が止まった。
「え、あ——」
言葉に詰まる。何かを言おうとして、けれど何を言うつもりだったのか、自分でも見失ったような顔をしている。
彼女はそれを黙って待っていた。急かす素振りもない。
数秒の沈黙のあと、仁人がはっとしたように椅子を引いた。
「あ、そうだった。舜太の指輪のことで」
「指輪?」
「うん、指輪。……いや、これがもう、話すと長いんだけど」
彼女はテーブルの上で手を軽く組み直した。それだけの仕草で、続きを促しているのが分かる。
仁人は向かいに座ると、記憶を辿るように視線を斜め上に投げた。
「事の発端は、舜太が『指輪、車の中に落としたかも』って言い出したところから始まって——」
◇ ◇
俺が知ってる範囲だと、事の発端は本当にくだらないところから始まった。
撮影が全部終わって、現場からの帰りの車内で、舜太が急に『あれ』って言い出したんだ。『指輪、ない』って。最初は誰も本気にしてなかった。舜太は割とすぐ物を見失うってなるタイプだから、まあいつものやつだろうと。
でも今回は違った。『さっき車に乗る前まではあった気がする』って言い出して、じゃあ車のどこかだろうってなって、シートの隙間とかドアポケットとか、スタッフさんまで巻き込んで探したんだけど、出てこない。
俺が思うに、この時点でもう舜太の記憶が結構怪しかったんだと思う。
本人は『車に乗る前まではあった』って言ってたけど、これがそもそも合ってたのかどうか。
まあそれは後で分かることで、その時の俺らは普通に信じてたから、車中心に探して、当然出てこなくて、ちょっとした騒ぎになった。
で、ここから証言が集まってくるんだけど……これがまあ、バラバラで。
まず勇斗が『俺、撮影中に舜太が指輪外してるの見たけど。また衣装のポケットの中じゃないの?』って言い出した。
次に柔太朗。『いや、それは無いと思う』って真顔で言ってきた。
『俺、トイレの手洗い場に置き忘れてるの見て、舜太に渡したもん』。
「——なるほど、柔太朗くんが見ていて渡しているなら信憑性は高いね」
「だろ?あいつの記憶力は一番信頼出来るし」
勇斗と柔太朗、二人ともかなり自信満々に言うから、どっちが正しいのか全然分からなかった。二人とも嘘つくタイプじゃないし。
俺には二人の話が同じ日の出来事なのか、別の日なのか分からなかった。この日は撮影中、何度も着替えていたし、スケジュールも詰め込まれていたから、俺自身の記憶すら曖昧で。
そして太智。『なんか誰かの私物、スタッフさんが回収しとったんちゃうん?』って、なんかふわっとした情報を持ってきた。
そこで思い出した。俺だ。俺かもしれない。
俺、衣装のポケットに私物入れっぱなしにする癖があって、着替えた後に取りに戻った時、スタッフさんから「これも一緒に入ってたよ」って舜太の指輪を渡されていた。あの時は特に深く考えずに、『あ、じゃあ後で舜太に渡しときます』って言って、実際渡した。
そこまでは覚えている。問題はその“渡した”がいつだったかだ。
その日だったのか、もっと前だったのか。自分でも急に分からなくなってた。
『え、じゃあ仁人が持ってるんじゃないの?』ってみんなに言われて、『いや持ってない、渡したもん』って言い返したんだけど、舜太は『え、渡されたっけ?』って曖昧で。
その時スタッフさんからメンバーの忘れ物を色々預かっていたから、俺もこの時点で、自分が何を渡して何を渡してないのか、正直自信なくなってた。
「——というのが、俺の知ってる全部」
「あらら、皆だいぶお疲れな様だね」
「ありがたい事にね。同じ衣装で撮ってもらってるからいつの記憶かほんと曖昧過ぎて……」
話しながら自分でも、「あれ、これ合ってるっけ」ってなる瞬間が何回かあった。
だから、いつもの様にこうして彼女のところに来た。
◇ ◇
仁人が話し終えると、彼女は暫く黙っていた。
彼女の爪が一定のリズムでテーブルを叩く。仁人はそれを見つめながらコーヒーを啜る。
「ねえ、仁人」
「ん?」
「整理するから確認ね」
「うん」
カップをソーサーに置き、言葉を待つ。
「指輪が"見つかった"のは、何回?」
「え? えっと……柔太朗がトイレで見つけた時と、俺が衣装から受け取った時と……二回、かな?」
「じゃあ、舜太が"外したことに気づいた"のは、何回?」
仁人は言葉に詰まった。
「、車の中の一回……」
「そうすると、"見つかった回数"と"なくした回数"が違うでしょ?」
「そうなんだよ……」
彼女は小さく笑った。責めるでもなく、ただ確認するような温度のまま、続けた。
「勇斗くんが見たのは、撮影中に外してる場面。柔太朗くんが見つけたのは、トイレの手洗い場。二つとも、"車に乗る前"の話じゃない?」
「、うん……」
「それに、柔太朗くんが舜太くんに返したのが本当なら、その後もう一度、誰かが衣装の中から回収してることになる。一度返したものが、どうしてまた衣装の中に入るの?」
仁人は暫く黙り込んだあと、ゆっくりと言った。
「……もう一回、外した?」
「そうだね」
彼女は小さく頷いた。
「柔太朗くんが渡したのは事実。でも舜太くんは、受け取ったことをちゃんと覚えていなかった、か、受け取ってすぐにまた無意識に外した。撮影中に外してたのを勇斗くんが見たのは、多分その二回目。それが衣装の中に入って、あなたが受け取った」
「じゃあ、俺が最後に渡したのは……」
「合ってると思うよ。あなたが噓をついてるようには聞こえないから」
仁人は少し安堵したような、それでいてまだ釈然としないような顔をした。
「でも、それなら……舜太は指輪をどこにやったんだよ」
彼女はふっと笑った。
「それはもう、探偵の仕事じゃないと思うけどね」
「あ?」
「あなたが受け取って、舜太くんに返した。そこから先は、舜太くんが"自分でどこかにしまった"だけの話でしょう?彼、何か小さいものを持ち歩く時の癖があったり、最近鞄とか替えてはない?」
仁人は考え込んで、それから、あ、と短く声を上げた。
「……ペンケースだ。あいつ、最近現場でも試験の勉強してて、急いでいると細かいもの適当にペンケースに突っ込んでるの見たわ!」
「新しい物に癖が加わると盲点になっちゃうよね〜」
あまりにあっさりと言われて、仁人は少しの間、彼女の顔を見つめていた。
「……いや、それだけ?」
「ん?探すのはわたしの領域外。ここから先は仁人の仕事でしょう?」
◆ ◆
翌日、事務所にやってきた舜太を見つけると、仁人は駆け寄り手首を掴んだ。
「え?なに!?」
「ペンケース、今日も持ってきてる!?」
「は?なんでペンケース?」
「いいから!!」
有無を言わさぬ勢いに押されて、舜太は渋々鞄からペンケースを取り出した。仁人はそれをひったくるようにして、ファスナーを開ける。
ペン、消しゴム、付箋、丸まったレシート、外装の取れた絆創膏——雑多なものに紛れて、奥底に指輪はあった。
「……え?」
舜太の声が裏返った。
「なんで!?俺、そんなとこ入れた記憶、ほんま一ミリもないんやけど!」
「知らねぇよ、お前の記憶なんて」
仁人は溜息をつきながら笑いが込み上げ、舜太の背中を叩く。
指輪をつまみ上げて、舜太の手のひらにゆっくりと乗せた。舜太は暫くそれを見つめたあと、ぼそっと呟いた。
「……ありがとう仁ちゃん」
「見つかって良かったな!」
「あと、みんなに謝ってくる」
「おう!」
仁人は笑って、舜太の肩を軽く叩いた。二人の空気が、ようやく緩む。
◆ ◆
「見つかったんだ」
彼女はそう言って、少しだけ嬉しそうに目を細める。
「うん。おかげさまで」
「わたしは何もしてないよ。探しに行ったのはあなたでしょう?」
「いや、絶対そっちの手柄だから」
彼女は答える代わりに、カップに口をつけた。
「次に何か持ち込む時は、もう少し証言を整理してから来てね」
「善処します。」
軽口を交わしながら、仁人はいつもの席に腰を下ろした。
彼女も鞄から分厚い本を出し、細い指で頁を捲る。
「あ、桃のパフェあるじゃん!一緒に食べようよ!」
「、どうぞ。ご自由に」
喫茶店の喧騒が、二人の間を心地よく埋めていく。
260803
窓際でも、通りが見える席でもない。店の一番奥、物音が少なく、それでいて店員の動きだけは把握しやすい場所。彼女はいつも通り、コーヒーと共にそこに座っていた。
鞄から分厚い一冊を取り出すと、指先がゆっくりと頁を辷っていく。時折、その動きが止まる。誰が犯人か辿り着く直前の、先を知りたい気持ちと物語が終わってしまう寂しさが、指先の速度にも表れている様だった。
ドアベルが鳴る。何人もの足音がその後に続いたけれど、彼女の意識はその中の一つだけを拾い上げた。
ゆっくりとした、大きな歩幅。
「——良かった、今日もここに居た」
声がかかるより先に、彼女はすでに顔をそちらへ向けている。
「そんなに急いでどうしたの?」
「え、あ……なんで分かんの、いつも」
「さあ、なんでだろうね」
はぐらかすように笑う。惜しむ様に閉じた本には、少しだけ指先が挟まれたままだった。
「で、だ。」
彼女は本から指を抜き、しおりを挟む。テーブルに肘を付き、ゆっくりと手を組んだ。
「今をときめく君が、今日もまた、どうしてわたしのところに来たんだい?」
問われた瞬間、仁人の足が止まった。
「え、あ——」
言葉に詰まる。何かを言おうとして、けれど何を言うつもりだったのか、自分でも見失ったような顔をしている。
彼女はそれを黙って待っていた。急かす素振りもない。
数秒の沈黙のあと、仁人がはっとしたように椅子を引いた。
「あ、そうだった。舜太の指輪のことで」
「指輪?」
「うん、指輪。……いや、これがもう、話すと長いんだけど」
彼女はテーブルの上で手を軽く組み直した。それだけの仕草で、続きを促しているのが分かる。
仁人は向かいに座ると、記憶を辿るように視線を斜め上に投げた。
「事の発端は、舜太が『指輪、車の中に落としたかも』って言い出したところから始まって——」
◇ ◇
俺が知ってる範囲だと、事の発端は本当にくだらないところから始まった。
撮影が全部終わって、現場からの帰りの車内で、舜太が急に『あれ』って言い出したんだ。『指輪、ない』って。最初は誰も本気にしてなかった。舜太は割とすぐ物を見失うってなるタイプだから、まあいつものやつだろうと。
でも今回は違った。『さっき車に乗る前まではあった気がする』って言い出して、じゃあ車のどこかだろうってなって、シートの隙間とかドアポケットとか、スタッフさんまで巻き込んで探したんだけど、出てこない。
俺が思うに、この時点でもう舜太の記憶が結構怪しかったんだと思う。
本人は『車に乗る前まではあった』って言ってたけど、これがそもそも合ってたのかどうか。
まあそれは後で分かることで、その時の俺らは普通に信じてたから、車中心に探して、当然出てこなくて、ちょっとした騒ぎになった。
で、ここから証言が集まってくるんだけど……これがまあ、バラバラで。
まず勇斗が『俺、撮影中に舜太が指輪外してるの見たけど。また衣装のポケットの中じゃないの?』って言い出した。
次に柔太朗。『いや、それは無いと思う』って真顔で言ってきた。
『俺、トイレの手洗い場に置き忘れてるの見て、舜太に渡したもん』。
「——なるほど、柔太朗くんが見ていて渡しているなら信憑性は高いね」
「だろ?あいつの記憶力は一番信頼出来るし」
勇斗と柔太朗、二人ともかなり自信満々に言うから、どっちが正しいのか全然分からなかった。二人とも嘘つくタイプじゃないし。
俺には二人の話が同じ日の出来事なのか、別の日なのか分からなかった。この日は撮影中、何度も着替えていたし、スケジュールも詰め込まれていたから、俺自身の記憶すら曖昧で。
そして太智。『なんか誰かの私物、スタッフさんが回収しとったんちゃうん?』って、なんかふわっとした情報を持ってきた。
そこで思い出した。俺だ。俺かもしれない。
俺、衣装のポケットに私物入れっぱなしにする癖があって、着替えた後に取りに戻った時、スタッフさんから「これも一緒に入ってたよ」って舜太の指輪を渡されていた。あの時は特に深く考えずに、『あ、じゃあ後で舜太に渡しときます』って言って、実際渡した。
そこまでは覚えている。問題はその“渡した”がいつだったかだ。
その日だったのか、もっと前だったのか。自分でも急に分からなくなってた。
『え、じゃあ仁人が持ってるんじゃないの?』ってみんなに言われて、『いや持ってない、渡したもん』って言い返したんだけど、舜太は『え、渡されたっけ?』って曖昧で。
その時スタッフさんからメンバーの忘れ物を色々預かっていたから、俺もこの時点で、自分が何を渡して何を渡してないのか、正直自信なくなってた。
「——というのが、俺の知ってる全部」
「あらら、皆だいぶお疲れな様だね」
「ありがたい事にね。同じ衣装で撮ってもらってるからいつの記憶かほんと曖昧過ぎて……」
話しながら自分でも、「あれ、これ合ってるっけ」ってなる瞬間が何回かあった。
だから、いつもの様にこうして彼女のところに来た。
◇ ◇
仁人が話し終えると、彼女は暫く黙っていた。
彼女の爪が一定のリズムでテーブルを叩く。仁人はそれを見つめながらコーヒーを啜る。
「ねえ、仁人」
「ん?」
「整理するから確認ね」
「うん」
カップをソーサーに置き、言葉を待つ。
「指輪が"見つかった"のは、何回?」
「え? えっと……柔太朗がトイレで見つけた時と、俺が衣装から受け取った時と……二回、かな?」
「じゃあ、舜太が"外したことに気づいた"のは、何回?」
仁人は言葉に詰まった。
「、車の中の一回……」
「そうすると、"見つかった回数"と"なくした回数"が違うでしょ?」
「そうなんだよ……」
彼女は小さく笑った。責めるでもなく、ただ確認するような温度のまま、続けた。
「勇斗くんが見たのは、撮影中に外してる場面。柔太朗くんが見つけたのは、トイレの手洗い場。二つとも、"車に乗る前"の話じゃない?」
「、うん……」
「それに、柔太朗くんが舜太くんに返したのが本当なら、その後もう一度、誰かが衣装の中から回収してることになる。一度返したものが、どうしてまた衣装の中に入るの?」
仁人は暫く黙り込んだあと、ゆっくりと言った。
「……もう一回、外した?」
「そうだね」
彼女は小さく頷いた。
「柔太朗くんが渡したのは事実。でも舜太くんは、受け取ったことをちゃんと覚えていなかった、か、受け取ってすぐにまた無意識に外した。撮影中に外してたのを勇斗くんが見たのは、多分その二回目。それが衣装の中に入って、あなたが受け取った」
「じゃあ、俺が最後に渡したのは……」
「合ってると思うよ。あなたが噓をついてるようには聞こえないから」
仁人は少し安堵したような、それでいてまだ釈然としないような顔をした。
「でも、それなら……舜太は指輪をどこにやったんだよ」
彼女はふっと笑った。
「それはもう、探偵の仕事じゃないと思うけどね」
「あ?」
「あなたが受け取って、舜太くんに返した。そこから先は、舜太くんが"自分でどこかにしまった"だけの話でしょう?彼、何か小さいものを持ち歩く時の癖があったり、最近鞄とか替えてはない?」
仁人は考え込んで、それから、あ、と短く声を上げた。
「……ペンケースだ。あいつ、最近現場でも試験の勉強してて、急いでいると細かいもの適当にペンケースに突っ込んでるの見たわ!」
「新しい物に癖が加わると盲点になっちゃうよね〜」
あまりにあっさりと言われて、仁人は少しの間、彼女の顔を見つめていた。
「……いや、それだけ?」
「ん?探すのはわたしの領域外。ここから先は仁人の仕事でしょう?」
◆ ◆
翌日、事務所にやってきた舜太を見つけると、仁人は駆け寄り手首を掴んだ。
「え?なに!?」
「ペンケース、今日も持ってきてる!?」
「は?なんでペンケース?」
「いいから!!」
有無を言わさぬ勢いに押されて、舜太は渋々鞄からペンケースを取り出した。仁人はそれをひったくるようにして、ファスナーを開ける。
ペン、消しゴム、付箋、丸まったレシート、外装の取れた絆創膏——雑多なものに紛れて、奥底に指輪はあった。
「……え?」
舜太の声が裏返った。
「なんで!?俺、そんなとこ入れた記憶、ほんま一ミリもないんやけど!」
「知らねぇよ、お前の記憶なんて」
仁人は溜息をつきながら笑いが込み上げ、舜太の背中を叩く。
指輪をつまみ上げて、舜太の手のひらにゆっくりと乗せた。舜太は暫くそれを見つめたあと、ぼそっと呟いた。
「……ありがとう仁ちゃん」
「見つかって良かったな!」
「あと、みんなに謝ってくる」
「おう!」
仁人は笑って、舜太の肩を軽く叩いた。二人の空気が、ようやく緩む。
◆ ◆
「見つかったんだ」
彼女はそう言って、少しだけ嬉しそうに目を細める。
「うん。おかげさまで」
「わたしは何もしてないよ。探しに行ったのはあなたでしょう?」
「いや、絶対そっちの手柄だから」
彼女は答える代わりに、カップに口をつけた。
「次に何か持ち込む時は、もう少し証言を整理してから来てね」
「善処します。」
軽口を交わしながら、仁人はいつもの席に腰を下ろした。
彼女も鞄から分厚い本を出し、細い指で頁を捲る。
「あ、桃のパフェあるじゃん!一緒に食べようよ!」
「、どうぞ。ご自由に」
喫茶店の喧騒が、二人の間を心地よく埋めていく。
260803
1/6ページ