番外編/本編没ネタ/if
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「はやとー!!」
遠くからなまえが手を振っている。その隣には仁人と太智。三人ともまだ幼さの残る執事見習いの服を着ていた。
「遅いぞ勇斗」
「ほんまやで」
「悪い悪い」
勇斗も同じ様に袖を整えながら駆け寄って自然にその輪へ入る。ローズガーデン、大人達に気付かれないガゼボの秘密基地に。
メイドが来れば隠れてやり過ごす。なまえが口元で人差し指を立てる。
「みんな静かにだからね」
「でもレッスン抜け出すのは流石にマズいんじゃ……」
「大丈夫やって!バレへんバレへん!」
「太智、声デカい」
太智の口を勇斗は慌てて塞いだ。それを見た仁人は呆れた様子で眉を寄せ、なまえはえへへと笑い口元を隠す。
当たり前の様で違和感のある光景。だけど、誰もそれを指摘しない。
なまえの少し後ろを仁人と太智が並んで歩く。三人でじゃれ合い、三人でなまえに振り回される。
それはびっくりするくらいに楽しかった。
日が暮れ、四人で廊下を歩いているとなまえが突然振り返る。後ろ手で手を組み、少し上目遣いで勇斗を見上げた。
「ねえ、勇斗!」
「ん?」
「これからも、ずっと一緒だよね?」
なまえは無邪気に言う。横にいる二人も何も疑わない瞳で勇斗を見る。
その時、ドクンと心臓が跳ねた。
「当たり前だろ、俺達三人はなまえの——」
勢いよく勇斗は目を開けた。
薄暗い天井が視界に映る。荒くなっている呼吸を整えながら起き上がり辺りを確認した。いつもと何も変わらない寝室に、覚えのある部屋着。
数秒思考が止まった勇斗は、その後、小さく笑った。
「……なんて夢見てんだよ」
生々しい夢の記憶が蘇る。幼い頃に見た記憶を都合よく塗り替えた夢。
ハンガーに掛かったジャケットに目を向ける。自分だけの特別仕様のブローチが月明かりでも輝いていた。
勇斗は起き上がりそのブローチを手に取る。他の一族とは違い特別な装飾が施されたこのブローチは唯一なまえの隣に立てる証でもある。
でも、これがあるからこそ、“あの輪”には入れない。
幼い頃に仁人と太智がなまえに振り回されてるのを見てる時、そして今でも三人だけで通じる空気を見た時、寂しさと苦しさが勇斗を襲う。
親族が勝手に決めた許婚という称号を捨てられたら、今の自分はどうなっていたのかとたまに思う。
◆ ◆
親族に呼ばれみょうじ邸を訪れていた勇斗は外の騒がしさに気付き窓に近寄る。
「だから危ないですって!」
「俺らがやるからなまえはベンチに座ってな!」
「大丈夫だって!」
幼い頃から見てきた、いつもの光景。
するとなまえが視線に気付き顔を上げる。
「あ、勇斗!」
ぱっと笑ってこちらに手を振る。それを見た勇斗は窓を開け、桟に腕を置く。
「何してるのー!?」
「んー?」
勇斗は少しだけ考える。
「羨ましがってる!」
「?」
なまえは意味が分からず首を傾げる。仁人だけが一瞬こちらを見て分かりやすく視線を外した。
「俺もそっち側やってみたかったなって!」
努めて明るく勇斗は言う。
太智は笑い、仁人は肩を竦めた。
「こっちはこれから会議なんだからあまり騒ぐなよー!」
勇斗は思ってしまった。
執事服を着て、あの二人と並んでなまえに振り回される人生なら、今よりもっと自然と彼女の隣にいられたのではないか、と。