Royal Milk Xxx
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季節のフルーツタルトを買いに行くのは、もう何度目やろ。
長い行列に並びながら、毎回「次はもうやめとこ」と思う。
でも、宝石みたいに輝くタルトを前に、幸せそうに頬張るなまえを思い出すと、結局また並んでいる。
あの笑顔はほんまズルい。
「平和だなー」
ポツリと漏れたその言葉は誰にも拾われない。言った本人も返答を求めて発したものでもない。
そばにいる使用人仲間のメイドも何事もなかった様に窓を拭いている。
太智はその雑巾の動きを目で追い、左右に瞳を揺らす。時たま自身の指先に視線を落とすと手遊びをするが、飽きてまた窓の外を眺めた。
「暇なら塩﨑さんも手伝ってくださいよ」
「べつに暇って訳じゃないんよ」
手を止めて振り返ったメイドは眉間に深く皺を刻み怪訝そうな顔をする。それでも太智は気にせず壁に背を預けたまま動かない。
「ずっと座ってるのに、どこが暇じゃないって言うんですか!?もっと吉田さんを見習ってください!」
どんなにメイドが語気を強めても動じない。太智の意識は半分以上この壁の向こう側にあるからだ。
中の会話が聞こえているわけではない。聞きたいわけでもない。
重要なのは次にこの扉が開いた時で、太智はその瞬間を待っていた。
もし不安そうな顔をしていたら抱き締めればいい。
なまえが帰ってきた時に少しでも早く楽しい瞬間に戻してあげたかった。
なんて声を掛けたらいいか分からないけど、自分の役目じゃない。多くを語らなくたっていつもは取り戻せる。そんな気がしていた。
「いやぁ、やっぱ何か声かけるべきか?」
絞り出すような声が響く。やっぱり答えは帰ってこない。あまりにも静か過ぎる空間に太智は顔を上げる。メイドはもうそこにはいない。それを理解したとき、しゃがみ込んでいる床の冷たさがじわりと這い上がってくるように感じた。少しずつ心臓が凍るような気持ち悪い感覚。
一瞬身震いした太智は自身の膝に顔を埋める。
言語化出来ない感情が、頭の中をグルグルと駆け巡る。答えを見つけようと頭を捻っても、いや、でも、と否定を続けてしまう。
「――!」
「、え?」
そんな時扉の向こうから大きな声がした。
言葉は聞き取れなかったが、会議に似つかわしくない怒号に太智は瞬時に立ち上がる。一度扉に耳を当ててみたが、声はもう聞こえない。その場で右往左往し、自分の気持ちを落ち着かせる事で精一杯だ。
「――!?」
カタリ、と取っ手が揺れる小さな音に反応した太智は素早く一歩後ずさった。出てきたのは仁人、勇斗、そしてなまえ。曖昧な笑顔を浮かべた姿を見て太智は固まる。こんな表情、想定外だ。仁人や勇斗を見ても悪戯な笑みを浮かべているので更に混乱するが、今は驚きを隠すのに精一杯になりあたふたと足だけが動く。
「大丈夫だよ、太ちゃん」
小さく笑うなまえを見た瞬間、一気に指先の冷たさはなくなり、自然と太智の表情も緩んだ。
◆ ◆
屋敷が夜の静けさに包まれている中、太智は鼻歌交じりに掃除機をかけていた。ソファの下まで念入りに吸い終え、部屋を見回す。満足そうに小さく鼻を鳴らす。
「――終わった?」
「うぇぇっ!?なまえ!?終わったけど、こんな時間にどうしたん?」
ソファに座るなまえは隣をポンポンと叩く。太智は躊躇うことなく膝を突き合わせ首をかしげた。
「今日太智とゆっくり話せなかったから」
なまえは少し身を乗り出すと太智の瞳の奥を覗く。距離の近さにたじろぐが肘置きがそれを邪魔する。なまえの手が太ももに置かれた時、太智は思わず生唾を飲んだ。
「ありがとね」
「な、にが?」
「会議」
短く言って姿勢を戻したなまえは窓の外に目を向ける。太智もその視線を辿り、電気の消えた本邸を見た。
「お礼を言うなら仁人か勇斗じゃない?俺は何もしてないよ?」
「ん?うーん……」
「……え!?なんなん!?」
再びなまえに覗き込まれて太智は腕で顔を隠した。
「今日のヒーローは無自覚だ」
「――ッ!?」
腕の隙間から目が合った時、一瞬にして汗が吹き出す。耳まで熱くなるのを感じる。
それなのになまえは涼しい顔をしていて、この差が余計に心臓を早める。その視線から逃げる様に上を向いた。
「だからなんなんそれ……」
「太ちゃんさ」
「な、なに?」
「わたしが会議苦手なの、知ってるじゃん……だから、来なかったんでしょ?」
太ももの温もりが消え、なまえの言葉が床に落ちる。
柱時計の音と二人の呼吸だけが静かに重なった。
「いやー、なんの事やろうな……」
「待っててくれてありがと」
「、そんなん当たり前やろ。俺、なまえの執事やし」
「そうだね」
あの頃と何も変わっていないつもりだった。
なのに六年の歳月は、気付かなかった事に気付くには十分だった。
◆ ◆
「お嬢様、そろそろ休憩にしましょう」
「そうだね、一気に資料を読み込んだから頭パンクしそう……」
「俺が個人的に取り寄せたインドのコーヒー豆がありますがお飲みになりますか?」
「だから、わたしはコーヒーが飲めないんだって」
なまえは肩を竦めながら机に広げた資料を片付けソファに豪快に座った。その仕草に仁人は諌めようと目を光らせたが、机にある資料を見てその言葉を飲み込んだ。
「そうだ、太智も呼んできて!」
「、塩﨑ですか?」
「うん!今朝ね、おやつに食べるタルト買ってきてって頼んでたの!」
「、太りますよ」
「さっきまで頭使ってたからチャラだもーん」
暫くすると、ティーカートを押した仁人が太智と共にやって来た。大きなケーキボックスを大切に抱えている太智は満面の笑みを浮かべている。中が心配になったが、その笑顔を見ると許してしまう。
「ちゃんと季節のタルト買えたよー!」
その一言だけで部屋の空気が一段明るくなる。
仁人が紅茶を淹れ終える頃には、三人ともすっかり仕事の話を忘れていた。
「――そうだ、この間のパーティで『どこの誰だか分からなかった』って言われたの、覚えてる」
「あ!あれ!?ほんま失礼な奴やんな!」
「仕方ありません、お嬢様は長らく社交の場から遠ざかっていましたし」
「そうなんだけどね……だからさ」
立ち上がったなまえは机の引き出しを開け、紙袋を取るとソファに戻りジュエリーボックスを取り出した。
ゆっくりと慎重に蓋を開け、二人に見せる。
「家章のブローチ、買い直した!」
「は!?買い直した!?」
「パパがくれたのはダイヤのでしょ……まだそれを付けるのは気が重くて……」
珍しく大声を出した仁人は瞳が零れそうな程目を見開く。
「それからこれ」となまえは同じものを二つ、仁人と太智の前に置いた。
二人の事を盗み見ながらなまえはゆっくりと紅茶を飲む。同じ顔をして同じ様に手を震わせている二人になまえの脈まで早くなる。
「、……」
「えぇぇ!?待ってなまえ!?え!?」
真逆の反応を示す二人に思わずなまえは笑みが零れる。
「いやいやいや!おかしいやん!俺らが貰って良いものじゃないやん!!」
太智は箱となまえを交互に見る。
何度往復しても理解は出来ず、結局頭を抱えた。
「二人に受け取ってほしいの。だって、まだ仁人と太智が執事になれたお祝い、してなかったから」
「だとしても!だとしてもこれ絶対高いやつやん!」
「そうだよ、だから受け取るかどうかは二人に任せるよ。でもわたしは二人にこれを付けててもらいたい」
「、承知しました」
「えっ!?」
一呼吸置いた後、仁人は蓋に手をかけ、それを見た太智も一度背筋を伸ばしてから蓋を開けた。なまえと色違いの宝石が埋め込まれたブローチが二人の瞳に映る。
恐る恐る取り出すと、ジャケットの左襟に付けた。蛍光灯の光に反射し黄色と青の輝く二人の襟元がとても眩しい。
なまえは満足そうに頷いた。
「うん、よく似合ってる!」
嬉しそうな二人の姿を見てなまえは肩の力を抜いた。
迷いながらも選んだものはとても輝いている。
手元にある自身のブローチとは比べ物にならない程に。
「なまえも付けようや!」
「わたしはいいよ、別に」
「よくないよ、貸してご覧」
「えっ!?」
なまえの手からブローチをそっと取ると優しく胸元に付ける。落ち着いたはずの鼓動が再び早くなる。
でも、満足そうに笑った太智の顔が答えだ。
「なまえも似合ってる!」
フェイスラインの横で親指を立てる太智。
その後ろの仁人も力強く頷いている。
その時不意に扉がノックされ、メイドの声が聞こえる。
瞬時に仁人が対応しようとしたが、その前に扉が開かれた。
「悪い、渡し忘れた資料思い出して」
書類の束をひらひらとさせる勇斗は悪びれる様子もなく現れた。
「おっ、」
三人を見た勇斗は短く言葉を発すると自身の襟元を直した。
「良いの貰ったな」
そう言うとなまえの隣にどかりと座り、書類を渡す。あまりの重さになまえの眉間には深い皺が刻まれた。
「わぁーー!また増えたー!!」
「大丈夫、だーいじょぶ!ほら、タルトでも食べて元気出せ」
タルトをフォークで掬い上げなまえの口元に運ぶ。「元々わたしのだもん!」と文句を言いながらも律儀に食べ地団駄を踏む。
「よし、じゃあ、」
勇斗は渡した書類を取り上げてソファから立つと窓際へと向かった。
「バラ、見頃になったな。部屋の中じゃもったいないだろ、せっかく良いもん付けてるんだから踊ろうぜ」
今度は跪きなまえの手を取る。手の甲にキスをしかねない動作になまえは素早く手を引っ込めた。
「残念だ」と言いたげに舌を出す勇斗。
「あーあ、まーた始まった」
興味無さげに呟く太智だが、その場にいた全員の口角が自然と上がった。
長い行列に並びながら、毎回「次はもうやめとこ」と思う。
でも、宝石みたいに輝くタルトを前に、幸せそうに頬張るなまえを思い出すと、結局また並んでいる。
あの笑顔はほんまズルい。
04
「平和だなー」
ポツリと漏れたその言葉は誰にも拾われない。言った本人も返答を求めて発したものでもない。
そばにいる使用人仲間のメイドも何事もなかった様に窓を拭いている。
太智はその雑巾の動きを目で追い、左右に瞳を揺らす。時たま自身の指先に視線を落とすと手遊びをするが、飽きてまた窓の外を眺めた。
「暇なら塩﨑さんも手伝ってくださいよ」
「べつに暇って訳じゃないんよ」
手を止めて振り返ったメイドは眉間に深く皺を刻み怪訝そうな顔をする。それでも太智は気にせず壁に背を預けたまま動かない。
「ずっと座ってるのに、どこが暇じゃないって言うんですか!?もっと吉田さんを見習ってください!」
どんなにメイドが語気を強めても動じない。太智の意識は半分以上この壁の向こう側にあるからだ。
中の会話が聞こえているわけではない。聞きたいわけでもない。
重要なのは次にこの扉が開いた時で、太智はその瞬間を待っていた。
もし不安そうな顔をしていたら抱き締めればいい。
なまえが帰ってきた時に少しでも早く楽しい瞬間に戻してあげたかった。
なんて声を掛けたらいいか分からないけど、自分の役目じゃない。多くを語らなくたっていつもは取り戻せる。そんな気がしていた。
「いやぁ、やっぱ何か声かけるべきか?」
絞り出すような声が響く。やっぱり答えは帰ってこない。あまりにも静か過ぎる空間に太智は顔を上げる。メイドはもうそこにはいない。それを理解したとき、しゃがみ込んでいる床の冷たさがじわりと這い上がってくるように感じた。少しずつ心臓が凍るような気持ち悪い感覚。
一瞬身震いした太智は自身の膝に顔を埋める。
言語化出来ない感情が、頭の中をグルグルと駆け巡る。答えを見つけようと頭を捻っても、いや、でも、と否定を続けてしまう。
「――!」
「、え?」
そんな時扉の向こうから大きな声がした。
言葉は聞き取れなかったが、会議に似つかわしくない怒号に太智は瞬時に立ち上がる。一度扉に耳を当ててみたが、声はもう聞こえない。その場で右往左往し、自分の気持ちを落ち着かせる事で精一杯だ。
「――!?」
カタリ、と取っ手が揺れる小さな音に反応した太智は素早く一歩後ずさった。出てきたのは仁人、勇斗、そしてなまえ。曖昧な笑顔を浮かべた姿を見て太智は固まる。こんな表情、想定外だ。仁人や勇斗を見ても悪戯な笑みを浮かべているので更に混乱するが、今は驚きを隠すのに精一杯になりあたふたと足だけが動く。
「大丈夫だよ、太ちゃん」
小さく笑うなまえを見た瞬間、一気に指先の冷たさはなくなり、自然と太智の表情も緩んだ。
◆ ◆
屋敷が夜の静けさに包まれている中、太智は鼻歌交じりに掃除機をかけていた。ソファの下まで念入りに吸い終え、部屋を見回す。満足そうに小さく鼻を鳴らす。
「――終わった?」
「うぇぇっ!?なまえ!?終わったけど、こんな時間にどうしたん?」
ソファに座るなまえは隣をポンポンと叩く。太智は躊躇うことなく膝を突き合わせ首をかしげた。
「今日太智とゆっくり話せなかったから」
なまえは少し身を乗り出すと太智の瞳の奥を覗く。距離の近さにたじろぐが肘置きがそれを邪魔する。なまえの手が太ももに置かれた時、太智は思わず生唾を飲んだ。
「ありがとね」
「な、にが?」
「会議」
短く言って姿勢を戻したなまえは窓の外に目を向ける。太智もその視線を辿り、電気の消えた本邸を見た。
「お礼を言うなら仁人か勇斗じゃない?俺は何もしてないよ?」
「ん?うーん……」
「……え!?なんなん!?」
再びなまえに覗き込まれて太智は腕で顔を隠した。
「今日のヒーローは無自覚だ」
「――ッ!?」
腕の隙間から目が合った時、一瞬にして汗が吹き出す。耳まで熱くなるのを感じる。
それなのになまえは涼しい顔をしていて、この差が余計に心臓を早める。その視線から逃げる様に上を向いた。
「だからなんなんそれ……」
「太ちゃんさ」
「な、なに?」
「わたしが会議苦手なの、知ってるじゃん……だから、来なかったんでしょ?」
太ももの温もりが消え、なまえの言葉が床に落ちる。
柱時計の音と二人の呼吸だけが静かに重なった。
「いやー、なんの事やろうな……」
「待っててくれてありがと」
「、そんなん当たり前やろ。俺、なまえの執事やし」
「そうだね」
あの頃と何も変わっていないつもりだった。
なのに六年の歳月は、気付かなかった事に気付くには十分だった。
◆ ◆
「お嬢様、そろそろ休憩にしましょう」
「そうだね、一気に資料を読み込んだから頭パンクしそう……」
「俺が個人的に取り寄せたインドのコーヒー豆がありますがお飲みになりますか?」
「だから、わたしはコーヒーが飲めないんだって」
なまえは肩を竦めながら机に広げた資料を片付けソファに豪快に座った。その仕草に仁人は諌めようと目を光らせたが、机にある資料を見てその言葉を飲み込んだ。
「そうだ、太智も呼んできて!」
「、塩﨑ですか?」
「うん!今朝ね、おやつに食べるタルト買ってきてって頼んでたの!」
「、太りますよ」
「さっきまで頭使ってたからチャラだもーん」
暫くすると、ティーカートを押した仁人が太智と共にやって来た。大きなケーキボックスを大切に抱えている太智は満面の笑みを浮かべている。中が心配になったが、その笑顔を見ると許してしまう。
「ちゃんと季節のタルト買えたよー!」
その一言だけで部屋の空気が一段明るくなる。
仁人が紅茶を淹れ終える頃には、三人ともすっかり仕事の話を忘れていた。
「――そうだ、この間のパーティで『どこの誰だか分からなかった』って言われたの、覚えてる」
「あ!あれ!?ほんま失礼な奴やんな!」
「仕方ありません、お嬢様は長らく社交の場から遠ざかっていましたし」
「そうなんだけどね……だからさ」
立ち上がったなまえは机の引き出しを開け、紙袋を取るとソファに戻りジュエリーボックスを取り出した。
ゆっくりと慎重に蓋を開け、二人に見せる。
「家章のブローチ、買い直した!」
「は!?買い直した!?」
「パパがくれたのはダイヤのでしょ……まだそれを付けるのは気が重くて……」
珍しく大声を出した仁人は瞳が零れそうな程目を見開く。
「それからこれ」となまえは同じものを二つ、仁人と太智の前に置いた。
二人の事を盗み見ながらなまえはゆっくりと紅茶を飲む。同じ顔をして同じ様に手を震わせている二人になまえの脈まで早くなる。
「、……」
「えぇぇ!?待ってなまえ!?え!?」
真逆の反応を示す二人に思わずなまえは笑みが零れる。
「いやいやいや!おかしいやん!俺らが貰って良いものじゃないやん!!」
太智は箱となまえを交互に見る。
何度往復しても理解は出来ず、結局頭を抱えた。
「二人に受け取ってほしいの。だって、まだ仁人と太智が執事になれたお祝い、してなかったから」
「だとしても!だとしてもこれ絶対高いやつやん!」
「そうだよ、だから受け取るかどうかは二人に任せるよ。でもわたしは二人にこれを付けててもらいたい」
「、承知しました」
「えっ!?」
一呼吸置いた後、仁人は蓋に手をかけ、それを見た太智も一度背筋を伸ばしてから蓋を開けた。なまえと色違いの宝石が埋め込まれたブローチが二人の瞳に映る。
恐る恐る取り出すと、ジャケットの左襟に付けた。蛍光灯の光に反射し黄色と青の輝く二人の襟元がとても眩しい。
なまえは満足そうに頷いた。
「うん、よく似合ってる!」
嬉しそうな二人の姿を見てなまえは肩の力を抜いた。
迷いながらも選んだものはとても輝いている。
手元にある自身のブローチとは比べ物にならない程に。
「なまえも付けようや!」
「わたしはいいよ、別に」
「よくないよ、貸してご覧」
「えっ!?」
なまえの手からブローチをそっと取ると優しく胸元に付ける。落ち着いたはずの鼓動が再び早くなる。
でも、満足そうに笑った太智の顔が答えだ。
「なまえも似合ってる!」
フェイスラインの横で親指を立てる太智。
その後ろの仁人も力強く頷いている。
その時不意に扉がノックされ、メイドの声が聞こえる。
瞬時に仁人が対応しようとしたが、その前に扉が開かれた。
「悪い、渡し忘れた資料思い出して」
書類の束をひらひらとさせる勇斗は悪びれる様子もなく現れた。
「おっ、」
三人を見た勇斗は短く言葉を発すると自身の襟元を直した。
「良いの貰ったな」
そう言うとなまえの隣にどかりと座り、書類を渡す。あまりの重さになまえの眉間には深い皺が刻まれた。
「わぁーー!また増えたー!!」
「大丈夫、だーいじょぶ!ほら、タルトでも食べて元気出せ」
タルトをフォークで掬い上げなまえの口元に運ぶ。「元々わたしのだもん!」と文句を言いながらも律儀に食べ地団駄を踏む。
「よし、じゃあ、」
勇斗は渡した書類を取り上げてソファから立つと窓際へと向かった。
「バラ、見頃になったな。部屋の中じゃもったいないだろ、せっかく良いもん付けてるんだから踊ろうぜ」
今度は跪きなまえの手を取る。手の甲にキスをしかねない動作になまえは素早く手を引っ込めた。
「残念だ」と言いたげに舌を出す勇斗。
「あーあ、まーた始まった」
興味無さげに呟く太智だが、その場にいた全員の口角が自然と上がった。