Royal Milk Xxx
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青い舌を見せ合って笑ったあの夏。
金魚の尻尾みたいな浴衣姿は、ほんま可愛かった。
あの時はまだ、その”可愛い”が何を意味するのか知らんかった。
「おお!ええやん!」
「ほんと?なんか古臭くない?」
「全然ええよ!」
納得がいってないなまえは何度も鏡で姿を確認する。
「可愛い兵児帯にレースの帯揚げとか付けたかったけど、こんな古臭い柄じゃ合わないもんね……」
「よう分からんけど、オーソドックスな柄もええと思うで」
太智は鏡越しになまえと目を合わせ言った。浴衣の事や流行りは分からない。だが、きちんと着付けられた浴衣姿のなまえが綺麗な事は変わらない。
「でも夜まで浴衣で大丈夫そう?しんどなったら言うてな。そのために俺がおるんやし」
「本当にありがとね。セレモニーのお飾り要員だからする事ないし、太智が居てくれて助かるよ」
着付けが終わったなまえは太智と共にタクシーに乗り込み会場へと向かう。本人の言った通り、スピーチや催しに参加する事はなく、なまえは周りに合わせて笑顔を振りまいていた。
「これ終われば夜まで自由行動して良いんだって」
小声で太智に話掛けるなまえは、飽きているのか欠伸混じりだ。
「駅の方まで屋台も結構あったな」
「太ちゃんは何食べたい?」
「あー、俺綿あめ食べたい」
軽口を叩きながらもなまえとは違い、太智は半歩後ろから周りに目を光らせていた。なまえが動けばそれに合わせ動き、誰かが近づき過ぎればさり気なく一歩前へと出る。
笑っていない太智を見るのは珍しかった。いつもなら人懐っこく笑う目が、今は自分を護る為だけに周囲を静かに追っている。
太智の首筋に伝う汗が、ワイシャツの襟元をゆっくりと濡らした。
◆ ◆
「——あっつ!!このままやと溶ける!!」
「あはは、お疲れ様」
セレモニーが終わり控え室に戻った太智は、大汗をかきながらクーラーの下を陣取った。夏の日差しの中、いくら夏物とはいえブラックスーツは体に堪える。
ジャケットを脱いでネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外す。袖を無造作に二回折ると、クーラーの冷気が一気に体を冷やす。
「生き返るー!」と大声を出す太智だが、その横でなまえは太智とは反対に頬を赤らめる。
「ていうかなまえ暑ないの!?涼しい顔しとったけど、浴衣効果!?」
「わ、わたしは補正で脇締めてるから顔に汗かいてないだけだよ」
シャツのボタンを開け団扇で仰ぐ太智に、なまえは思わず目を逸らした。
セレモニーの時には感じなかった火照りに、持っていたペットボトルで頬を冷やす。
「屋台周る時、ジャケット脱いどってええ?」
「え、全然良いよ!熱中症になったら危ないし」
なまえは無意識に見ていた太智の胸元に手を伸ばす。
「でも、」
開け過ぎているシャツのボタンを、第二ボタンまでしっかり閉めた。
「ん?」
「開け過ぎ」
「あ、ありがとう」
二人ともどこかぎこちなく目を合わせられない。
「……行こっか」
「うん」
冷えた室内から一歩外へ出ると、むわりと夏の熱気が肌を包む。遠くで響く太鼓の音に、さっきまでの気まずさが少しずつ溶けていく。
「ねぇ太ちゃん!結構色んなの出てるよ!」
「待ってなまえ!危ないからあんまり俺から離れたらあかん!!」
「大丈夫だって!お互い迷子になっても、時間になればまた会場戻るんだし」
「そういう問題ちゃうって!!」
「はいはい、分かったから。綿あめ買ってあげるから怒らないの」
そう言うとなまえは自然と太智の腕へ自身の腕を絡める。それに反応し、太智の肩が一瞬だけ跳ねた。
「……え?」
「迷子にならないように」
「いや、それ俺の台詞やねんけど」
そう苦笑しながらも、腕をほどこうとはしなかった。
「、なまえはないん?食べたいもんとか」
「それがさ、さっきからたこせん探してるんだけど全然ないんだよ」
「そういや見やんなー」
「あ!でも綿あめあるよ!」
指差すなまえ。太智に絡めていた腕を解き、そちらに向かおうとすると前から来た男性にぶつかる。浴衣で思うように踏ん張れなかったなまえは姿勢を崩してしまった。
「っ!?」
反射的にギュッと目を瞑ったなまえだが、体勢を崩したのにどこも痛みがなく、違和感を覚えながら目を開けると太智の腕の中にいた。
「危なかったー!」
「……」
「なんなんあいつ!」
ぶつかってきた男性の後ろ姿に文句を言う太智。そんな彼の横顔を見ると、みるみる顔が熱くなるのを感じる。
「大丈夫やった?」
「だ、大丈夫!っていうか、流石にちょっと暑いかも」
「あ、そっか!ごめん!!」
熱くなる顔を悟られぬ様に両手で頬を覆う。抱き寄せられた時の温もりが、まだ掌に残っていた。
なまえは合わせられない視線の代わりに、太智のシャツの袖を引く。
「綿あめ、並んでるね」
「袋が人気なキャラの柄ばっかりやもんな」
「何がいいの?」
「なんでもええよ、食べられれば!」
「そっか、じゃあ買って来るから太智はこの辺に居てね」
逃げる様に太智のそばを離れる。綿あめの列に並び、一呼吸吐くと漸く顔の火照りも治った。
だが、一人になると余計に考えてしまう。再び熱を持ち始める頬に、せめてもの気休めとパタパタと手で風を送る。
「——ひゃっ!?」
「えへへ!かき氷買うてきた!!」
頬に冷たさを感じて振り向けば満面の笑顔の太智がいた。手には大きなかき氷。スプーンは二つ。
「なまえの好きなブルーハワイ!一緒に食べよ!」
「ブルーハワイが好きなのは太智でしょ?」
「え!?ちっちゃい頃一緒に食べた時、いつもブルーハワイやったやん!」
「それは太智が——」
なまえが言いかけた時、前の人の会計が丁度終わる。
最後まで話していないが、太智は綿あめが嬉しくて先程の話への興味がなくなっており、なまえは、無邪気に綿あめを頬張る姿を眺めた。
「そんなに圧縮して美味しいの?」
「味なんか変わらへんもん。全然美味しい!」
「ふわふわが良いはずなのに……」
納得はしていない様だが、当の本人が子供の様な笑顔で両頬に綿あめを詰めているので、素直にその価値観を受け入れる。
太智が買ってきてくれたかき氷のおかげで火照りが静まり、屋台を周る足取りも軽い。少し見上げる先にある横顔はいつもの笑顔をしており、なまえは小さく瞬きをする。太智が笑う度、胸の奥だけが忙しかった。
◆ ◆
辺りも暗くなり、人の流れが多くなる。一足先に会場に戻った二人は、人混みを縫いながら用意されたスペースへと向かう。
はぐれないようにと繋いだ手も、自然と強く握られた。
「人多なったけど、なまえ、大丈夫?」
「ん……もうちょっとゆっくり歩きたいかも……」
行き交う人に揉みくちゃにされるなまえを見て太智はハッとし、握る手を緩めて歩幅をなまえに合わせる。
「気を遣わせちゃってごめんね……足痛くて」
「え!?まじ!?」
「新品だから草履が硬くて……」
「え、えーと、席着いたら俺が見るからもうちょい我慢して!それまでゆっくり歩こ!!」
「ほんまはおぶれればええんやけど」と苦笑いを浮かべる太智に、なまえは小さく首を振って視線を落とす。
弱くなった手をもう一度握り直し、足を庇うなまえに合わせて歩幅を緩める。
互いに何か言おうとして、結局どちらも口を開けなかった。
パイプ椅子に座り一息吐くと、太智は膝を突いてなまえの前に座る。下駄を脱がせ、自身の太ももに乗せるとポケットから絆創膏を取り出し、靴擦れした箇所に丁寧に貼っていく。
「仁人が出先に持ってけってうるさかったんよ」
「靴擦れまで予測してたんだ」
「ほんま、あの人天才やわ」
二人は顔を見合わせて笑った。
なまえは下駄を履き直し、太智と仁人の優しさを噛み締める。その時、ヒューと遠くで音がした。
「あ、始まる!」
顔を上げると夜空一面に光の花が咲く。
間髪入れずに打ち上げられ、花火が開く度に音の圧が体を通り過ぎる。
「すごいね!」
太智に問いかけるが、低い姿勢のまま辺りを警戒する姿に、なまえは大きく息を吐いて眉を寄せる。そのまま低い声で太智の名前を呼んだ。
「、太智?」
「ん?」
「花火に集中して!」
隣の空いた席をポンポンと叩いて太智を促す。言われるまま座った太智は居心地が悪そうにモゾモゾとしていた。
「俺今日警護で来とるのに、こんなええ席でゆっくり花火見てもええんかな?」
「当たり前でしょ?今日一日暑い中ありがとね」
「……うん」
肩の力を抜き、夜空を見上げる。警戒しなければ。そう思っているのに、視線は上でなく横に流れた。
大きな花火が開く度、頬が淡く照らされる。瞬きの度に影が落ち、耳元の髪が風に揺られる。
さっきまで見ていた浴衣姿のはずなのに、太智は思わず生唾を呑んだ。
「、?」
首を小さく傾げたなまえが、花火を映した大きな瞳で太智を覗き込む。
「……っ!」
「あ、また警戒モードに入ってたな」
「いやいやいや、あれやって!綺麗やなって、思った、だけ……」
慌てて視線を花火へと戻す。花火が開く度に上がる歓声がどこか遠くに感じられた。
額に滲む汗を腕で拭い、ゆっくりともう一度だけ横を見る。
「……アカンやろ、ほんまに」
消え入りそうな声は花火に打ち消されてしまった。
金魚の尻尾みたいな浴衣姿は、ほんま可愛かった。
あの時はまだ、その”可愛い”が何を意味するのか知らんかった。
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「おお!ええやん!」
「ほんと?なんか古臭くない?」
「全然ええよ!」
納得がいってないなまえは何度も鏡で姿を確認する。
「可愛い兵児帯にレースの帯揚げとか付けたかったけど、こんな古臭い柄じゃ合わないもんね……」
「よう分からんけど、オーソドックスな柄もええと思うで」
太智は鏡越しになまえと目を合わせ言った。浴衣の事や流行りは分からない。だが、きちんと着付けられた浴衣姿のなまえが綺麗な事は変わらない。
「でも夜まで浴衣で大丈夫そう?しんどなったら言うてな。そのために俺がおるんやし」
「本当にありがとね。セレモニーのお飾り要員だからする事ないし、太智が居てくれて助かるよ」
着付けが終わったなまえは太智と共にタクシーに乗り込み会場へと向かう。本人の言った通り、スピーチや催しに参加する事はなく、なまえは周りに合わせて笑顔を振りまいていた。
「これ終われば夜まで自由行動して良いんだって」
小声で太智に話掛けるなまえは、飽きているのか欠伸混じりだ。
「駅の方まで屋台も結構あったな」
「太ちゃんは何食べたい?」
「あー、俺綿あめ食べたい」
軽口を叩きながらもなまえとは違い、太智は半歩後ろから周りに目を光らせていた。なまえが動けばそれに合わせ動き、誰かが近づき過ぎればさり気なく一歩前へと出る。
笑っていない太智を見るのは珍しかった。いつもなら人懐っこく笑う目が、今は自分を護る為だけに周囲を静かに追っている。
太智の首筋に伝う汗が、ワイシャツの襟元をゆっくりと濡らした。
◆ ◆
「——あっつ!!このままやと溶ける!!」
「あはは、お疲れ様」
セレモニーが終わり控え室に戻った太智は、大汗をかきながらクーラーの下を陣取った。夏の日差しの中、いくら夏物とはいえブラックスーツは体に堪える。
ジャケットを脱いでネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外す。袖を無造作に二回折ると、クーラーの冷気が一気に体を冷やす。
「生き返るー!」と大声を出す太智だが、その横でなまえは太智とは反対に頬を赤らめる。
「ていうかなまえ暑ないの!?涼しい顔しとったけど、浴衣効果!?」
「わ、わたしは補正で脇締めてるから顔に汗かいてないだけだよ」
シャツのボタンを開け団扇で仰ぐ太智に、なまえは思わず目を逸らした。
セレモニーの時には感じなかった火照りに、持っていたペットボトルで頬を冷やす。
「屋台周る時、ジャケット脱いどってええ?」
「え、全然良いよ!熱中症になったら危ないし」
なまえは無意識に見ていた太智の胸元に手を伸ばす。
「でも、」
開け過ぎているシャツのボタンを、第二ボタンまでしっかり閉めた。
「ん?」
「開け過ぎ」
「あ、ありがとう」
二人ともどこかぎこちなく目を合わせられない。
「……行こっか」
「うん」
冷えた室内から一歩外へ出ると、むわりと夏の熱気が肌を包む。遠くで響く太鼓の音に、さっきまでの気まずさが少しずつ溶けていく。
「ねぇ太ちゃん!結構色んなの出てるよ!」
「待ってなまえ!危ないからあんまり俺から離れたらあかん!!」
「大丈夫だって!お互い迷子になっても、時間になればまた会場戻るんだし」
「そういう問題ちゃうって!!」
「はいはい、分かったから。綿あめ買ってあげるから怒らないの」
そう言うとなまえは自然と太智の腕へ自身の腕を絡める。それに反応し、太智の肩が一瞬だけ跳ねた。
「……え?」
「迷子にならないように」
「いや、それ俺の台詞やねんけど」
そう苦笑しながらも、腕をほどこうとはしなかった。
「、なまえはないん?食べたいもんとか」
「それがさ、さっきからたこせん探してるんだけど全然ないんだよ」
「そういや見やんなー」
「あ!でも綿あめあるよ!」
指差すなまえ。太智に絡めていた腕を解き、そちらに向かおうとすると前から来た男性にぶつかる。浴衣で思うように踏ん張れなかったなまえは姿勢を崩してしまった。
「っ!?」
反射的にギュッと目を瞑ったなまえだが、体勢を崩したのにどこも痛みがなく、違和感を覚えながら目を開けると太智の腕の中にいた。
「危なかったー!」
「……」
「なんなんあいつ!」
ぶつかってきた男性の後ろ姿に文句を言う太智。そんな彼の横顔を見ると、みるみる顔が熱くなるのを感じる。
「大丈夫やった?」
「だ、大丈夫!っていうか、流石にちょっと暑いかも」
「あ、そっか!ごめん!!」
熱くなる顔を悟られぬ様に両手で頬を覆う。抱き寄せられた時の温もりが、まだ掌に残っていた。
なまえは合わせられない視線の代わりに、太智のシャツの袖を引く。
「綿あめ、並んでるね」
「袋が人気なキャラの柄ばっかりやもんな」
「何がいいの?」
「なんでもええよ、食べられれば!」
「そっか、じゃあ買って来るから太智はこの辺に居てね」
逃げる様に太智のそばを離れる。綿あめの列に並び、一呼吸吐くと漸く顔の火照りも治った。
だが、一人になると余計に考えてしまう。再び熱を持ち始める頬に、せめてもの気休めとパタパタと手で風を送る。
「——ひゃっ!?」
「えへへ!かき氷買うてきた!!」
頬に冷たさを感じて振り向けば満面の笑顔の太智がいた。手には大きなかき氷。スプーンは二つ。
「なまえの好きなブルーハワイ!一緒に食べよ!」
「ブルーハワイが好きなのは太智でしょ?」
「え!?ちっちゃい頃一緒に食べた時、いつもブルーハワイやったやん!」
「それは太智が——」
なまえが言いかけた時、前の人の会計が丁度終わる。
最後まで話していないが、太智は綿あめが嬉しくて先程の話への興味がなくなっており、なまえは、無邪気に綿あめを頬張る姿を眺めた。
「そんなに圧縮して美味しいの?」
「味なんか変わらへんもん。全然美味しい!」
「ふわふわが良いはずなのに……」
納得はしていない様だが、当の本人が子供の様な笑顔で両頬に綿あめを詰めているので、素直にその価値観を受け入れる。
太智が買ってきてくれたかき氷のおかげで火照りが静まり、屋台を周る足取りも軽い。少し見上げる先にある横顔はいつもの笑顔をしており、なまえは小さく瞬きをする。太智が笑う度、胸の奥だけが忙しかった。
◆ ◆
辺りも暗くなり、人の流れが多くなる。一足先に会場に戻った二人は、人混みを縫いながら用意されたスペースへと向かう。
はぐれないようにと繋いだ手も、自然と強く握られた。
「人多なったけど、なまえ、大丈夫?」
「ん……もうちょっとゆっくり歩きたいかも……」
行き交う人に揉みくちゃにされるなまえを見て太智はハッとし、握る手を緩めて歩幅をなまえに合わせる。
「気を遣わせちゃってごめんね……足痛くて」
「え!?まじ!?」
「新品だから草履が硬くて……」
「え、えーと、席着いたら俺が見るからもうちょい我慢して!それまでゆっくり歩こ!!」
「ほんまはおぶれればええんやけど」と苦笑いを浮かべる太智に、なまえは小さく首を振って視線を落とす。
弱くなった手をもう一度握り直し、足を庇うなまえに合わせて歩幅を緩める。
互いに何か言おうとして、結局どちらも口を開けなかった。
パイプ椅子に座り一息吐くと、太智は膝を突いてなまえの前に座る。下駄を脱がせ、自身の太ももに乗せるとポケットから絆創膏を取り出し、靴擦れした箇所に丁寧に貼っていく。
「仁人が出先に持ってけってうるさかったんよ」
「靴擦れまで予測してたんだ」
「ほんま、あの人天才やわ」
二人は顔を見合わせて笑った。
なまえは下駄を履き直し、太智と仁人の優しさを噛み締める。その時、ヒューと遠くで音がした。
「あ、始まる!」
顔を上げると夜空一面に光の花が咲く。
間髪入れずに打ち上げられ、花火が開く度に音の圧が体を通り過ぎる。
「すごいね!」
太智に問いかけるが、低い姿勢のまま辺りを警戒する姿に、なまえは大きく息を吐いて眉を寄せる。そのまま低い声で太智の名前を呼んだ。
「、太智?」
「ん?」
「花火に集中して!」
隣の空いた席をポンポンと叩いて太智を促す。言われるまま座った太智は居心地が悪そうにモゾモゾとしていた。
「俺今日警護で来とるのに、こんなええ席でゆっくり花火見てもええんかな?」
「当たり前でしょ?今日一日暑い中ありがとね」
「……うん」
肩の力を抜き、夜空を見上げる。警戒しなければ。そう思っているのに、視線は上でなく横に流れた。
大きな花火が開く度、頬が淡く照らされる。瞬きの度に影が落ち、耳元の髪が風に揺られる。
さっきまで見ていた浴衣姿のはずなのに、太智は思わず生唾を呑んだ。
「、?」
首を小さく傾げたなまえが、花火を映した大きな瞳で太智を覗き込む。
「……っ!」
「あ、また警戒モードに入ってたな」
「いやいやいや、あれやって!綺麗やなって、思った、だけ……」
慌てて視線を花火へと戻す。花火が開く度に上がる歓声がどこか遠くに感じられた。
額に滲む汗を腕で拭い、ゆっくりともう一度だけ横を見る。
「……アカンやろ、ほんまに」
消え入りそうな声は花火に打ち消されてしまった。
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