16:思い出の地にて
ヒロイン
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ブローカーに会う約束の日、レノは不機嫌な顔が少しでもわからなくなるようにサングラスを掛けて女との待ち合わせ場所に向かった。
出発当日の積極的なアプローチはどこへやら。待ち合わせ場所に着くと女はあからさまに怒りを見せていた。
「失敗したらレノさんのせいですから」
「へいへい」
レノは生返事をし、先導する女の後ろを数歩下がってついて行った。
ブローカーとの会う予定のカフェは海岸沿いにある白を基調としたおしゃれなオープンテラスのカフェだった。人気のカフェらしく、割りと朝の早い時間ではあったがほぼ席は埋まっていた。
「で、そのブローカーとやらはどこにいるんだ?」
「カフェに着いたらこの番号に電話するようにと…」
そう言って女は携帯を取り出し、指定の番号に電話を掛けた。数コールの後、電話が繋がったらしく、女はブローカーを探してきょろきょろし始めた。女の視線の動きに合わせ、レノも同じように周囲に目を向けた。
(まさか…)
レノたちから見てカフェの奥の方によく知ったシルエットの女性がいた。鈍色の長い髪の女性。大きめのサングラスをしていて目の色はわからないが、鼻の形、唇の色形、そして何よりその肢体には大いに見覚えがあった。背中の大きく開いた露出度の高い服装こそ違えど、見間違えるはずがなかった。
ヒロイン、と名前を声に出そうとして、レノはなんとかそれを飲み込んだ。
ブローカーの女性もレノたちに気づいたらしく、軽く手を上げている。女性はレノに気づいているのかいないのか、特別な反応は示さなかった。よく似た別人なのかと思ったが、声もヒロインそっくりだった。
「どうぞ掛けて」
コーヒーを3つ頼み、ウェイターが遠ざかると女性が口を開いた。
「連絡をくれたのは、そちらの方?」
女性がレノの方を向き、優雅に笑みを浮かべた。部屋の片付けをせずに散らかしたり、深酒したあとに暴れまわって吐いたり、どちらかといえば粗雑なヒロインとは似ても似つかなかった。やはり別人なのかと思ったとき、女性が軽くテーブルを指で叩いた。
――久しぶり。
指で叩くリズムでのメッセージのやりとりは何度もしてきた。レノは懐かしさで頬が緩むのを誤魔化すため、ぶっきらぼうに言った。
「いや、オレじゃないぞ、と」
そして、レノも隣の女に気づかれないようにテーブルを指で叩いた。
――会いたかった。
「失礼。女性のお客様は珍しいから。今回は軍用の武器と爆薬でしたっけ?」
――仕事中。
ヒロインが短くそう伝えてきた。その瞬間、レノの勘がよくないものを告げる。今回の任務はブローカーも確保対象だ。しかし、ブローカーが潜入中のヒロインであることは聞いていない。同じ軍主導の作戦にも関わらず、こんな行き違いはあり得るのだろうか。
(こいつ次第、だな)
隣に座る強気な態度の女がヒロインのことを知っていたのか否かでこの先の動きが変わる。知らなかったのなら、いつもの雑な仕事のせいで行き違いが起こったことになり、この後の修正は容易い。が、知っていて黙っていたなら、何らかの企みがあることは明白だ。レノは注意深く女の様子を探った。
「そうよ。仕事で使うの」
「…普段は初見のお客様との軍用品の売買は断るんだけど、大量発注に売り手が興味を示してね。直接会いたいって言ってたわ。いつもは部下に任せているのに。気に入られてよかったわね」
普段は、いつもなら――ヒロインは今回がイレギュラーであることを強調した。その意味はレノにも伝わった。いつもと違うことをするのは要注意信号だ。女が絡んでいるのかどうかはまだ判断できていないが、これから確実に面白くないことが起こる。
――了解。
メッセージを送ると、ヒロインが楽しそうに口元に笑みを浮かべた。ヒロインにとっては想定通りということか。
「迎えの車が来たわ。さあ、行きましょうか」
ヒロインが先に立ち上がり、カフェの向かいに停まっている車に向かって歩き出した。先に女が車に乗り込んだ。続いてレノが乗り込もうとしたところ、ヒロインが耳打ちしてきた。
「久しぶりに思い切り暴れよう」
サングラスの奥でヒロインの目が好戦的にぎらりと光った。これは目的地に着いてすぐか、下手したら道中で鉄火場になる可能性が高そうだ。以前と変わりないヒロインに安心しつつも、レノは肩を竦めて車に乗り込んだ。
ヒロインが最後に乗り込むと、車は静かに走り出した。向かう先は、果たして天国か地獄か。
To be continued...
2022/12/29
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出発当日の積極的なアプローチはどこへやら。待ち合わせ場所に着くと女はあからさまに怒りを見せていた。
「失敗したらレノさんのせいですから」
「へいへい」
レノは生返事をし、先導する女の後ろを数歩下がってついて行った。
ブローカーとの会う予定のカフェは海岸沿いにある白を基調としたおしゃれなオープンテラスのカフェだった。人気のカフェらしく、割りと朝の早い時間ではあったがほぼ席は埋まっていた。
「で、そのブローカーとやらはどこにいるんだ?」
「カフェに着いたらこの番号に電話するようにと…」
そう言って女は携帯を取り出し、指定の番号に電話を掛けた。数コールの後、電話が繋がったらしく、女はブローカーを探してきょろきょろし始めた。女の視線の動きに合わせ、レノも同じように周囲に目を向けた。
(まさか…)
レノたちから見てカフェの奥の方によく知ったシルエットの女性がいた。鈍色の長い髪の女性。大きめのサングラスをしていて目の色はわからないが、鼻の形、唇の色形、そして何よりその肢体には大いに見覚えがあった。背中の大きく開いた露出度の高い服装こそ違えど、見間違えるはずがなかった。
ヒロイン、と名前を声に出そうとして、レノはなんとかそれを飲み込んだ。
ブローカーの女性もレノたちに気づいたらしく、軽く手を上げている。女性はレノに気づいているのかいないのか、特別な反応は示さなかった。よく似た別人なのかと思ったが、声もヒロインそっくりだった。
「どうぞ掛けて」
コーヒーを3つ頼み、ウェイターが遠ざかると女性が口を開いた。
「連絡をくれたのは、そちらの方?」
女性がレノの方を向き、優雅に笑みを浮かべた。部屋の片付けをせずに散らかしたり、深酒したあとに暴れまわって吐いたり、どちらかといえば粗雑なヒロインとは似ても似つかなかった。やはり別人なのかと思ったとき、女性が軽くテーブルを指で叩いた。
――久しぶり。
指で叩くリズムでのメッセージのやりとりは何度もしてきた。レノは懐かしさで頬が緩むのを誤魔化すため、ぶっきらぼうに言った。
「いや、オレじゃないぞ、と」
そして、レノも隣の女に気づかれないようにテーブルを指で叩いた。
――会いたかった。
「失礼。女性のお客様は珍しいから。今回は軍用の武器と爆薬でしたっけ?」
――仕事中。
ヒロインが短くそう伝えてきた。その瞬間、レノの勘がよくないものを告げる。今回の任務はブローカーも確保対象だ。しかし、ブローカーが潜入中のヒロインであることは聞いていない。同じ軍主導の作戦にも関わらず、こんな行き違いはあり得るのだろうか。
(こいつ次第、だな)
隣に座る強気な態度の女がヒロインのことを知っていたのか否かでこの先の動きが変わる。知らなかったのなら、いつもの雑な仕事のせいで行き違いが起こったことになり、この後の修正は容易い。が、知っていて黙っていたなら、何らかの企みがあることは明白だ。レノは注意深く女の様子を探った。
「そうよ。仕事で使うの」
「…普段は初見のお客様との軍用品の売買は断るんだけど、大量発注に売り手が興味を示してね。直接会いたいって言ってたわ。いつもは部下に任せているのに。気に入られてよかったわね」
普段は、いつもなら――ヒロインは今回がイレギュラーであることを強調した。その意味はレノにも伝わった。いつもと違うことをするのは要注意信号だ。女が絡んでいるのかどうかはまだ判断できていないが、これから確実に面白くないことが起こる。
――了解。
メッセージを送ると、ヒロインが楽しそうに口元に笑みを浮かべた。ヒロインにとっては想定通りということか。
「迎えの車が来たわ。さあ、行きましょうか」
ヒロインが先に立ち上がり、カフェの向かいに停まっている車に向かって歩き出した。先に女が車に乗り込んだ。続いてレノが乗り込もうとしたところ、ヒロインが耳打ちしてきた。
「久しぶりに思い切り暴れよう」
サングラスの奥でヒロインの目が好戦的にぎらりと光った。これは目的地に着いてすぐか、下手したら道中で鉄火場になる可能性が高そうだ。以前と変わりないヒロインに安心しつつも、レノは肩を竦めて車に乗り込んだ。
ヒロインが最後に乗り込むと、車は静かに走り出した。向かう先は、果たして天国か地獄か。
To be continued...
2022/12/29
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