16:思い出の地にて
ヒロイン
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案の定、船室は1つでしかもダブルベッド。明らかに恋人同士向けの部屋にレノは思い切り顔をしかめた。女は悪びれもせずに、恋人同士なのだから今からそれらしく振る舞おうとのたまった。行為に誘っているのは明らかだった。ヒロインに出会う前なら誘いに乗っただろうが、今はただただ煩わしい。
「任務の経験も乏しいくせに、随分と余裕だな」
「だからレノさんに来てってお願いしたんですよ?」
レノのやや遠回しな嫌味は女には通じなかったようで、女は大きく胸元の開いた服の胸元をさらに強調してレノに近づいてきた。
「オレに協力してほしいなら、任務中はプロに徹しろよ」
先程よりも強く言うと、女はきょとんとした顔をした。そして、怖がる様子もなくにこりと笑った。
「そういうところも素敵ですね」
図太い神経とメンタルだけはレノも認めざるを得なかった。その後もあの手この手で女は誘ってきたが、レノは一切女に構わず、ソファで無視を決め込んだ。
コスタ・デル・ソルに着いてからも、女は観光気分で街を歩き回り、恋人役であるレノを振り回した。ブローカーに会うまでには数日あるとはいえ、遊びに来たのではない。いや、本当に任務ではなく、ただ遊びに来たのではないか?そんな疑念が頭をよぎる。
「ね、レノさん。腕組みましょうよ~。そのほうが恋人同士に見えるでしょ?」
その一言でレノの堪忍袋の尾が切れた。
「遊びに来たのか?」
「いいえ、仕事ですけど?」
「付き合いきれないな。こっちはこっちで好きにやらせてもらうぞ、と」
勝手なことをするなと背中に怒声を浴びせられた気がしたが、レノは一切を無視した。周りから見れば、喧嘩している恋人たちのようには見えただろう。これで半分ぐらい目標達成だ。
レノはまず拠点を確保しようと、コスタ・デル・ソルにあるタークス用の隠れ家の1つに向かった。それは、以前ヒロインとの任務で利用したアパートだった。普段なら直近で使った拠点は使わないのだが、ヒロインとの思い出をなぞりたくなり、自然とそちらに足が向いた。自分でもなんて感傷的なのだろうと思い、レノは自虐的な笑みを浮かべた。
人目がないことを確認し、レノは通りに面した入口から入って部屋のあるフロアまで階段を一気に駆け上がった。うっすらと額に汗が浮いた。部屋の前に来ると、レノは玄関に取り付けられているライトのカバーを外した。カバーの内側には鍵が一つテープで留められていた。前回退去するときにヒロインが貼り直したテープはまだ粘着力が残っており、レノは軽く端を爪で引っかき、そっとテープを外して鍵を手に取った。
解錠して扉を開けると、むわっとした空気が流れてきた。一気に汗が吹き出てきそうなぐらい部屋は暑かった。常夏のコスタ・デル・ソルで部屋を閉め切っていたのだから当然と言えば当然だった。レノはシャツの前を開けてパタパタと胸元に風を送り込みながら、部屋中の窓という窓を開けた。しばらくするとこもった空気が入れ替わり、先程よりはマシになったような気がした。
前回はこの部屋でヒロインと二人で向かいに住む男を何日も見張っていた。男になかなか動きがなかったせいで監視は退屈で、話すことも増えていった。初めは天気の話だったのを覚えている。会話に困ったときの心強い当たり障りのない話題。しばらくはあまり会話も弾まなかったが、次第に打ち解けてきて他愛のない話題でもそこそこ話が続くようになっていった。それを思い出したときに浮かぶのは、美味しそうにアイスを食べているヒロインの姿だった。何かを食べるときはいつも楽しそうだったが、アイスを食べているときは普段よりも笑顔だったのを覚えている。歳上なのにたまに子供っぽいところがあるのもヒロインの魅力だった。
レノは前回も使った簡易ベッドに横になりながら、ヒロインに思いを馳せて目を閉じた。
「どこにいるんだよ、ヒロイン…」
.
「任務の経験も乏しいくせに、随分と余裕だな」
「だからレノさんに来てってお願いしたんですよ?」
レノのやや遠回しな嫌味は女には通じなかったようで、女は大きく胸元の開いた服の胸元をさらに強調してレノに近づいてきた。
「オレに協力してほしいなら、任務中はプロに徹しろよ」
先程よりも強く言うと、女はきょとんとした顔をした。そして、怖がる様子もなくにこりと笑った。
「そういうところも素敵ですね」
図太い神経とメンタルだけはレノも認めざるを得なかった。その後もあの手この手で女は誘ってきたが、レノは一切女に構わず、ソファで無視を決め込んだ。
コスタ・デル・ソルに着いてからも、女は観光気分で街を歩き回り、恋人役であるレノを振り回した。ブローカーに会うまでには数日あるとはいえ、遊びに来たのではない。いや、本当に任務ではなく、ただ遊びに来たのではないか?そんな疑念が頭をよぎる。
「ね、レノさん。腕組みましょうよ~。そのほうが恋人同士に見えるでしょ?」
その一言でレノの堪忍袋の尾が切れた。
「遊びに来たのか?」
「いいえ、仕事ですけど?」
「付き合いきれないな。こっちはこっちで好きにやらせてもらうぞ、と」
勝手なことをするなと背中に怒声を浴びせられた気がしたが、レノは一切を無視した。周りから見れば、喧嘩している恋人たちのようには見えただろう。これで半分ぐらい目標達成だ。
レノはまず拠点を確保しようと、コスタ・デル・ソルにあるタークス用の隠れ家の1つに向かった。それは、以前ヒロインとの任務で利用したアパートだった。普段なら直近で使った拠点は使わないのだが、ヒロインとの思い出をなぞりたくなり、自然とそちらに足が向いた。自分でもなんて感傷的なのだろうと思い、レノは自虐的な笑みを浮かべた。
人目がないことを確認し、レノは通りに面した入口から入って部屋のあるフロアまで階段を一気に駆け上がった。うっすらと額に汗が浮いた。部屋の前に来ると、レノは玄関に取り付けられているライトのカバーを外した。カバーの内側には鍵が一つテープで留められていた。前回退去するときにヒロインが貼り直したテープはまだ粘着力が残っており、レノは軽く端を爪で引っかき、そっとテープを外して鍵を手に取った。
解錠して扉を開けると、むわっとした空気が流れてきた。一気に汗が吹き出てきそうなぐらい部屋は暑かった。常夏のコスタ・デル・ソルで部屋を閉め切っていたのだから当然と言えば当然だった。レノはシャツの前を開けてパタパタと胸元に風を送り込みながら、部屋中の窓という窓を開けた。しばらくするとこもった空気が入れ替わり、先程よりはマシになったような気がした。
前回はこの部屋でヒロインと二人で向かいに住む男を何日も見張っていた。男になかなか動きがなかったせいで監視は退屈で、話すことも増えていった。初めは天気の話だったのを覚えている。会話に困ったときの心強い当たり障りのない話題。しばらくはあまり会話も弾まなかったが、次第に打ち解けてきて他愛のない話題でもそこそこ話が続くようになっていった。それを思い出したときに浮かぶのは、美味しそうにアイスを食べているヒロインの姿だった。何かを食べるときはいつも楽しそうだったが、アイスを食べているときは普段よりも笑顔だったのを覚えている。歳上なのにたまに子供っぽいところがあるのもヒロインの魅力だった。
レノは前回も使った簡易ベッドに横になりながら、ヒロインに思いを馳せて目を閉じた。
「どこにいるんだよ、ヒロイン…」
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