16:思い出の地にて
ヒロイン
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突然の別れだった。直接会うことも、助けてくれた礼を言うことも、何より想いを伝えることすらできず、ヒロインはいなくなった。
一度状況を確認したルーファウスによれば危険な状態にはないらしいが、副社長であるルーファウスにすら知らされていない軍主導の作戦には大いに不安があった。反副社長派の面々はタークスに頼りたくないらしく、軍内部に機密作戦用の部隊を用意し、何度か実戦投入している。しかし、結果は散々。工作員が生きて戻ればいい方で、大抵は敵に捕まって殺されるか、戦闘中に死んでいる。そんなお粗末な作戦遂行能力しかない奴らとヒロインが組んでいるのかと思うと、不安は尽きない。
今日もどこかにいるだろうヒロインに想いを馳せながら、レノは大きな溜息をついた。
最近は任務もないため、レノは昨日同様、昼過ぎにオフィスに顔を出した。するとそこには、見慣れない長い髪の女とツォンがいた。新人だろうか?だとしても自分は関係ないと、レノは二人を無視していつも通りソファに横になろうとそちらに足を向けた。
「レノ、今から任務に就いてくれ」
「は?」
あまりにそれが唐突で、レノは思わずツォンに聞き返した。が、どうやらツォンも戸惑っているらしく、困惑顔だった。
「私がお願いしたんです。今回はどうしても失敗できないので、タークスの力を借りたいと」
振り返った女が媚びを売るような笑顔を向けた。美人ではあるが、だからこそ信用できなかった。女の胸元つけられた部隊章は、例の軍内部の機密部隊のものだ。どうせその顔か身体で上官を誑し込んでここにいるに違いない。そして、この女の上官も、タークスを篭絡するには適任だと思い、この女を送り込んできたに決まっている。女の笑顔の裏にある下衆な思惑が見て取れて、レノは女の依頼を鼻で笑った。
「散々やらかしといて、今更すぎるぞ、と。オレはパス」
「レノ、これは確定事項だ。先方からの指名でな」
誰の指名なのやら。上司のツォンが言うなら従わねばならないが、正直面白くなかった。
「では、任務の説明は私から」
女がにこりと微笑み、レノの真横に立ってタブレットの画面に写真を表示させた。わざとらしく身体を近づけてきた女にあからさまに嫌な顔をし、レノは大きく距離を取った。女は何も言わなかったが残念そうな顔をし、適切な距離を取って説明をし始めた。
任務は、武器ブローカーとその背後にいる武器商人を一網打尽にすることだった。武器ブローカーには取引をすでに持ちかけているらしく、数日後に直接会う手筈になっていた。
「レノさんは私の恋人兼ボディガードとして同行してください」
「逆のほうがいいんじゃねえのか?」
「連絡したのは私ですから」
既に連絡済みというのであれば、主担当がこの女になるのは仕方ない。だが、恋人という設定は不要だろうと思った。
「で、ブローカーに会う場所は?」
「コスタです」
それは、ヒロインと初めて一緒に任務に就いた場所だった。あの場所で交わした約束も、二人でとった食事も、最後の日に一緒に行ったバーでのことも、レノにとってはかけがえのないもので、ヒロインがいないからこそ大事な思い出だった。それを上書きするように別の女とコスタでの任務なんて冗談じゃない。レノはそれを口にはしなかったが、眉間に皺を寄せた。
できる限りこの女と一緒にいる時間を少なくしたいと、レノは現地集合を提案した。
「誰に見られているかわかりませんから、ジュノンから船で向かいます。船室も予約済みです」
手際が良いことこの上ない。レノは舌打ちしたいのをなんとか我慢して、ジュノンに出航10分前に集合だと一方的に決めて、オフィスから女を追い出した。女は大いに不満そうだったが、レノの機嫌をこれ以上損ねて協力の約束を反故にするのは得策ではないと判断したのか、集合場所と集合時間を繰り返してオフィスを出て行った。
「レノ、気をつけろ。作戦内容に曖昧な部分が多い。危険を感じたらすぐに中止しろ」
「了解、と」
本音を言えば今すぐにでも中止にしたかったが、一応上官命令ではあるので乗らない気分を無理矢理プラマイゼロぐらいまでは押し上げてレノは出発した。
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一度状況を確認したルーファウスによれば危険な状態にはないらしいが、副社長であるルーファウスにすら知らされていない軍主導の作戦には大いに不安があった。反副社長派の面々はタークスに頼りたくないらしく、軍内部に機密作戦用の部隊を用意し、何度か実戦投入している。しかし、結果は散々。工作員が生きて戻ればいい方で、大抵は敵に捕まって殺されるか、戦闘中に死んでいる。そんなお粗末な作戦遂行能力しかない奴らとヒロインが組んでいるのかと思うと、不安は尽きない。
今日もどこかにいるだろうヒロインに想いを馳せながら、レノは大きな溜息をついた。
最近は任務もないため、レノは昨日同様、昼過ぎにオフィスに顔を出した。するとそこには、見慣れない長い髪の女とツォンがいた。新人だろうか?だとしても自分は関係ないと、レノは二人を無視していつも通りソファに横になろうとそちらに足を向けた。
「レノ、今から任務に就いてくれ」
「は?」
あまりにそれが唐突で、レノは思わずツォンに聞き返した。が、どうやらツォンも戸惑っているらしく、困惑顔だった。
「私がお願いしたんです。今回はどうしても失敗できないので、タークスの力を借りたいと」
振り返った女が媚びを売るような笑顔を向けた。美人ではあるが、だからこそ信用できなかった。女の胸元つけられた部隊章は、例の軍内部の機密部隊のものだ。どうせその顔か身体で上官を誑し込んでここにいるに違いない。そして、この女の上官も、タークスを篭絡するには適任だと思い、この女を送り込んできたに決まっている。女の笑顔の裏にある下衆な思惑が見て取れて、レノは女の依頼を鼻で笑った。
「散々やらかしといて、今更すぎるぞ、と。オレはパス」
「レノ、これは確定事項だ。先方からの指名でな」
誰の指名なのやら。上司のツォンが言うなら従わねばならないが、正直面白くなかった。
「では、任務の説明は私から」
女がにこりと微笑み、レノの真横に立ってタブレットの画面に写真を表示させた。わざとらしく身体を近づけてきた女にあからさまに嫌な顔をし、レノは大きく距離を取った。女は何も言わなかったが残念そうな顔をし、適切な距離を取って説明をし始めた。
任務は、武器ブローカーとその背後にいる武器商人を一網打尽にすることだった。武器ブローカーには取引をすでに持ちかけているらしく、数日後に直接会う手筈になっていた。
「レノさんは私の恋人兼ボディガードとして同行してください」
「逆のほうがいいんじゃねえのか?」
「連絡したのは私ですから」
既に連絡済みというのであれば、主担当がこの女になるのは仕方ない。だが、恋人という設定は不要だろうと思った。
「で、ブローカーに会う場所は?」
「コスタです」
それは、ヒロインと初めて一緒に任務に就いた場所だった。あの場所で交わした約束も、二人でとった食事も、最後の日に一緒に行ったバーでのことも、レノにとってはかけがえのないもので、ヒロインがいないからこそ大事な思い出だった。それを上書きするように別の女とコスタでの任務なんて冗談じゃない。レノはそれを口にはしなかったが、眉間に皺を寄せた。
できる限りこの女と一緒にいる時間を少なくしたいと、レノは現地集合を提案した。
「誰に見られているかわかりませんから、ジュノンから船で向かいます。船室も予約済みです」
手際が良いことこの上ない。レノは舌打ちしたいのをなんとか我慢して、ジュノンに出航10分前に集合だと一方的に決めて、オフィスから女を追い出した。女は大いに不満そうだったが、レノの機嫌をこれ以上損ねて協力の約束を反故にするのは得策ではないと判断したのか、集合場所と集合時間を繰り返してオフィスを出て行った。
「レノ、気をつけろ。作戦内容に曖昧な部分が多い。危険を感じたらすぐに中止しろ」
「了解、と」
本音を言えば今すぐにでも中止にしたかったが、一応上官命令ではあるので乗らない気分を無理矢理プラマイゼロぐらいまでは押し上げてレノは出発した。
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