15:たとえ遠く離れても
ヒロイン
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「あぁ、あんたも痛みは感じるんだ」
ヒロインは男を見下ろすと、口元にだけ笑みを浮かべた。そして、踵に少しだけ力を入れた。男の腹から溢れた血が靴を汚した。
「痛えええええ!頼む…やめ…」
「頼み事できる立場だと思ってんの?」
脂汗を流しながら懇願する男を見下ろし、ヒロインは鼻で笑った。
「あんた、彼女がやめてくれって言ってもやめなかったでしょ?だから私もやめないし、レノを傷つけた分も含めてあんたの汚い命で償ってよ。楽には死なせないけど」
ヒロインは一度足をどかすと、今度は太腿の銃創を爪先でえぐった。さらに男から凄まじい悲鳴が上がった。最早痛みで正気を保っていられないのか、男はわけのわからないことをひたすら叫び続けていた。それでようやくヒロインも気分がよくなり、少しだけ足の力を緩めた。
すると、男がほんの僅かだが安堵の表情を浮かべた。恐らく痛みが和らいだことで自然と浮かんだものだったろうが、男にとっては不運なことに、それがヒロインの癇に障った。
「まだ余裕ありそうだね」
ヒロインは冷たく男を睨みつけた。銃口を男の顔面に向けると、面白いぐらい男の顔が青ざめた。
「脚、腹――次は、どこがいいかな。銃じゃなくてもいいけどね。ナイフで肉を削ぎ落としてもいいし、ハンマーで骨を砕いてもいい。それとも――」
とてもいいことを思いつき、ヒロインは僅かに口角を上げた。
「火のついたタバコをあんたの身体の至るところに押し付けてみるとかどう?いくつで限界がくるかな?」
ヒロインは近くに転がっていたタバコの箱を拾い上げた。
「ね、ライターある?」
まるで喫煙所に居合わせた人に尋ねるような気安い口調で言ってみせると、さらに男の顔から血の気が引いた。
「へぇ…そんな顔するってことは、痛みの想像がついてるの?じゃあ、それが想像を超えるかどうか試してみようか」
タバコの箱を開けてみてもそこにライターはなく、ヒロインは辺りを見回した。すると、こちらに近づいてくるルードが目に入った。
「ルード、ライター持ってない?――ありがと」
何をするのか察したのか、ルードがライターを投げてよこした。それを片手でキャッチしたヒロインは、金属製ライターの蓋を開け、ホイールを親指で回した。タバコを口に咥え、軽く吸いながら火をつけた。口の中と鼻孔に不快な臭いが広がり、ヒロインは男に気付かれない程度に顔をしかめた。
「やめてくれ!頼む!!」
「目は2つあるし、あんたの汚い股間にあるものも2つ――あぁ、1つしかないものもあったね。ほら、さっさと脱いで?」
無様な命乞いを無視し、ヒロインは笑って男に下半身裸になるように命じた。しかし、男は首を横に振るだけで一向に動こうとしない。ヒロインは指に挟んだ短くなったタバコを離し、男の服の上に落とした。
「うわあああ!」
男は慌ててタバコを手で払った。
「動けるじゃない」
吸う気は全くなかったが、ヒロインはもう一本タバコを取り出し、ライターの火をつけてみせた。
「あ、タバコじゃなくても、ライターの火で燃やすのもありか。じわじわいたぶるのも時間かかるしね。手っ取り早くいこう」
男の顔がさらに青褪めた。歯の根が噛み合わないほど震えている。それがヒロインの苛立ちを煽った。
――私を平気で傷つけたくせに、自分は痛い?怖い?
どす黒い感情が胸の内から湧き上がってくる。ここでこの男を気が済むまで痛めつけたら、少しはこの気持ちが晴れるだろうか。
ヒロインは顔から一切の笑みを消し、冷たく男を見下ろした。そして、火のついたライターを持つ手を緩めた。
「あとは俺がやろう」
いつのまに近くに来たのか、隣に立つルードがライターの蓋を閉めた。
「…任せる」
ヒロインはルードにライターを渡し、男に背を向けた。
入口まで戻ると、そこにはルーファウスが待っていた。
「よく我慢したな」
「…うん」
ルードが止めなければ、ヒロインはあのまま男に向かってライターを落とす気でいた。男が怯え、火を振り払う様を見れたなら、きっと胸がすいたことだろう。ただ、それをしてしまったら、今も胸のうちにある黒い靄は塊になってこびりついたまま取れず、心を蝕み続けたかもしれない。
「あんな男のことなどさっさと忘れろ。あいつはただの任務対象だ」
「そう、だね」
いつもと同じなら、きっとすぐに頭の片隅に追いやって適切な場所に収まることだろう。止めてくれたルードに感謝し、ヒロインはようやく肩の力を抜いた。
そこへ部隊リーダークラスの神羅兵がやってきた。
「副社長、今回の件で軍上層部から聞き取り調査の依頼が来ています。ご同行願えますか?」
硬い口調の神羅兵にただならぬものを感じ、ヒロインは眉を潜めた。
「私も――」
一緒に行くと言おうとしたが、ルーファウスが手で制したため、ヒロインは言葉を飲み込んだ。
「私だけでいい」
静まり始めていた心がまたざわつき出す。ヒロインは無言でルーファウスの背中を見送った。
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ヒロインは男を見下ろすと、口元にだけ笑みを浮かべた。そして、踵に少しだけ力を入れた。男の腹から溢れた血が靴を汚した。
「痛えええええ!頼む…やめ…」
「頼み事できる立場だと思ってんの?」
脂汗を流しながら懇願する男を見下ろし、ヒロインは鼻で笑った。
「あんた、彼女がやめてくれって言ってもやめなかったでしょ?だから私もやめないし、レノを傷つけた分も含めてあんたの汚い命で償ってよ。楽には死なせないけど」
ヒロインは一度足をどかすと、今度は太腿の銃創を爪先でえぐった。さらに男から凄まじい悲鳴が上がった。最早痛みで正気を保っていられないのか、男はわけのわからないことをひたすら叫び続けていた。それでようやくヒロインも気分がよくなり、少しだけ足の力を緩めた。
すると、男がほんの僅かだが安堵の表情を浮かべた。恐らく痛みが和らいだことで自然と浮かんだものだったろうが、男にとっては不運なことに、それがヒロインの癇に障った。
「まだ余裕ありそうだね」
ヒロインは冷たく男を睨みつけた。銃口を男の顔面に向けると、面白いぐらい男の顔が青ざめた。
「脚、腹――次は、どこがいいかな。銃じゃなくてもいいけどね。ナイフで肉を削ぎ落としてもいいし、ハンマーで骨を砕いてもいい。それとも――」
とてもいいことを思いつき、ヒロインは僅かに口角を上げた。
「火のついたタバコをあんたの身体の至るところに押し付けてみるとかどう?いくつで限界がくるかな?」
ヒロインは近くに転がっていたタバコの箱を拾い上げた。
「ね、ライターある?」
まるで喫煙所に居合わせた人に尋ねるような気安い口調で言ってみせると、さらに男の顔から血の気が引いた。
「へぇ…そんな顔するってことは、痛みの想像がついてるの?じゃあ、それが想像を超えるかどうか試してみようか」
タバコの箱を開けてみてもそこにライターはなく、ヒロインは辺りを見回した。すると、こちらに近づいてくるルードが目に入った。
「ルード、ライター持ってない?――ありがと」
何をするのか察したのか、ルードがライターを投げてよこした。それを片手でキャッチしたヒロインは、金属製ライターの蓋を開け、ホイールを親指で回した。タバコを口に咥え、軽く吸いながら火をつけた。口の中と鼻孔に不快な臭いが広がり、ヒロインは男に気付かれない程度に顔をしかめた。
「やめてくれ!頼む!!」
「目は2つあるし、あんたの汚い股間にあるものも2つ――あぁ、1つしかないものもあったね。ほら、さっさと脱いで?」
無様な命乞いを無視し、ヒロインは笑って男に下半身裸になるように命じた。しかし、男は首を横に振るだけで一向に動こうとしない。ヒロインは指に挟んだ短くなったタバコを離し、男の服の上に落とした。
「うわあああ!」
男は慌ててタバコを手で払った。
「動けるじゃない」
吸う気は全くなかったが、ヒロインはもう一本タバコを取り出し、ライターの火をつけてみせた。
「あ、タバコじゃなくても、ライターの火で燃やすのもありか。じわじわいたぶるのも時間かかるしね。手っ取り早くいこう」
男の顔がさらに青褪めた。歯の根が噛み合わないほど震えている。それがヒロインの苛立ちを煽った。
――私を平気で傷つけたくせに、自分は痛い?怖い?
どす黒い感情が胸の内から湧き上がってくる。ここでこの男を気が済むまで痛めつけたら、少しはこの気持ちが晴れるだろうか。
ヒロインは顔から一切の笑みを消し、冷たく男を見下ろした。そして、火のついたライターを持つ手を緩めた。
「あとは俺がやろう」
いつのまに近くに来たのか、隣に立つルードがライターの蓋を閉めた。
「…任せる」
ヒロインはルードにライターを渡し、男に背を向けた。
入口まで戻ると、そこにはルーファウスが待っていた。
「よく我慢したな」
「…うん」
ルードが止めなければ、ヒロインはあのまま男に向かってライターを落とす気でいた。男が怯え、火を振り払う様を見れたなら、きっと胸がすいたことだろう。ただ、それをしてしまったら、今も胸のうちにある黒い靄は塊になってこびりついたまま取れず、心を蝕み続けたかもしれない。
「あんな男のことなどさっさと忘れろ。あいつはただの任務対象だ」
「そう、だね」
いつもと同じなら、きっとすぐに頭の片隅に追いやって適切な場所に収まることだろう。止めてくれたルードに感謝し、ヒロインはようやく肩の力を抜いた。
そこへ部隊リーダークラスの神羅兵がやってきた。
「副社長、今回の件で軍上層部から聞き取り調査の依頼が来ています。ご同行願えますか?」
硬い口調の神羅兵にただならぬものを感じ、ヒロインは眉を潜めた。
「私も――」
一緒に行くと言おうとしたが、ルーファウスが手で制したため、ヒロインは言葉を飲み込んだ。
「私だけでいい」
静まり始めていた心がまたざわつき出す。ヒロインは無言でルーファウスの背中を見送った。
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