15:たとえ遠く離れても
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
倉庫の入口の方で爆発音が轟いた。それを合図に大勢の神羅兵が装甲車とともに乗り込んでくる。
「抵抗すれば撃つ!」
先頭の神羅兵が大声で言い放つと、威嚇射撃を行った。
男は苦々しげに足元に転がるヒロインを見た。こいつが余計なことをしなければ、二人の人質を盾に逃げることができたものを。男は苛立ちをぶつけるようにヒロインを踏みつけた。しかし、ヒロインは何の反応も示さなかった。目を閉じ、呻き声も上げず、ただ静かに床に寝転がっていた。
近くにいた仲間たちが不安そうな目で男を見ていた。男は何の躊躇もなく、仲間たちに前に出て戦えと命令した。仲間たちが戦って時間を稼ぎ、自分だけは逃げる。仲間たちが前に出るのと同時に、男は一歩二歩と後退った。
そして、床に転がるヒロインに背を向けた。
「一人で逃げるなんて、卑怯だと思わない?」
男は振り返り、そこに立つ女を見て青褪めた。
その女は死んだはずだった。これ見よがしに毒入りのカプセルを見せつけ、目の前で飲み込んだ。そこまで思い返し、男は間違いを犯したことに気づいた。ヒロインは毒入りだとは言っていない。勝手にそう思っただけだ。だから、死んだことを確認もしなかった。
その女――ヒロインはにやりと不敵な笑みを浮かべていた。
ヒロインが飲んだのは、一時的に痛覚を鈍らせ、呼吸数や脈拍を限りなく下げて仮死を装う薬だ。目覚めない危険があることも説明されたが、男を騙すためにヒロインは迷いなく薬を利用すると決めた。そして、ヒロインが書いたシナリオ通りに事が進み、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「詰めが甘いって、彼女にも言われたでしょ。戦場で確認を怠るとか、三流以下ね」
ゆっくりと音を立てずに立ち上がり、男に背後から声をかけると、男は幽霊でも見たような顔をしていた。が、バカにされたことでみるみる男の顔が赤くなった。
ヒロインは下着の裏に縫い付けていた解毒薬を飲みこみ、再度男に向き直った。
「あんた、どうせ一人じゃ何もできないでしょ?ほら、大人しく降伏したら?」
「はっ!強がりだな。あいつを殺して、内心腸煮えくり返ってんだろ!?」
男はレノのことを思い出したのか、強気な態度でヒロインを挑発してきたが、それすらヒロインには滑稽に見えた。
「…私だけ生きることを選ぶと思った?あんたは何もわかってない」
ヒロインは男の背後にいるレノの方に視線を向けた。釣られて男も背後を振り返った。そこではルードがレノに薬を打ち、蘇生措置を行っていた。しばらくして、レノが大きく目を見開き、息を吹き返した。表情にこそ出さなかったが、レノが無事でヒロインは胸を撫で下ろした。
ルーファウスと仮眠室で話したときは、本物の毒物でレノを殺し、自分も死ぬつもりでいた。それを止めたのはツォンだった。開発中の死を偽装する薬があると言ってきたのだ。それはヒロインの薬とは違い、実際の死により近い状態にする薬で、時間内に解毒薬を用いた蘇生措置をしなければ死に至るものだった。理論上は完璧、あとは実地試験を行うのみという状態の薬だったが、ヒロインはそれを使うことに決めた。1%でも助かる可能性があるのなら、そちらに賭けてみたいと。
「普段の行いがいいから、きっと運も味方してくれる」
そう強がって皆の反対を押し切ったものの、内心は不安でいっぱいだった。殺す覚悟は決めたはずだったが、助かるかもしれないという希望がヒロインの気持ちを揺るがせた。
ヒロインはその気持ちを正直にレノに伝えた。レノの手の甲を叩いて不安な気持ちを告げると、レノが一瞬だけにやりと笑った。そして、ヒロインの手の甲を叩いた。
――オレの普段の行いは最高にいいから、絶対成功する
レノのその一言で、ヒロインの覚悟は決まった。
絶対にまた笑って会える。
ヒロインは強い決意と祈りをこめて、レノに薬を渡した。
「さあこれであんたを守る盾はない。一人で私に勝てる?」
ヒロインは結い上げていた髪に差していた簪を抜いて、男を挑発した。
「そんな棒きれで俺に勝てると思ってんのか?」
男が鼻で笑ったが、その顔は一瞬で凍りついた。男が話している最中に、ヒロインは一気に距離を詰め、男の足の付根に簪を刺したからだ。
「ほら、余裕じゃない」
ヒロインは一度距離を取ると、小馬鹿にしたように笑った。すると、男は大声で悪態をつき、ヒロインの刺した簪に手を伸ばした。
「ああそれ、動脈に刺したから、抜いたら失血死すると思うよ。私は構わないけど」
男がびくりと震え、手を止めた。ヒロインはその一瞬の隙を逃さず、男の手を一気にひねり上げ、銃を奪い取った。そして腹部に一発、太腿に一発銃弾を撃ち込んだ。男は着弾の衝撃でよろめき、それでも何とか踏ん張っていたが、ヒロインが足払いをかけるとあっけなく仰向けにひっくり返った。
ヒロインが男の腹部の銃創を踵で抉るように踏みつけると、男は情けない悲鳴を上げた。
.
「抵抗すれば撃つ!」
先頭の神羅兵が大声で言い放つと、威嚇射撃を行った。
男は苦々しげに足元に転がるヒロインを見た。こいつが余計なことをしなければ、二人の人質を盾に逃げることができたものを。男は苛立ちをぶつけるようにヒロインを踏みつけた。しかし、ヒロインは何の反応も示さなかった。目を閉じ、呻き声も上げず、ただ静かに床に寝転がっていた。
近くにいた仲間たちが不安そうな目で男を見ていた。男は何の躊躇もなく、仲間たちに前に出て戦えと命令した。仲間たちが戦って時間を稼ぎ、自分だけは逃げる。仲間たちが前に出るのと同時に、男は一歩二歩と後退った。
そして、床に転がるヒロインに背を向けた。
「一人で逃げるなんて、卑怯だと思わない?」
男は振り返り、そこに立つ女を見て青褪めた。
その女は死んだはずだった。これ見よがしに毒入りのカプセルを見せつけ、目の前で飲み込んだ。そこまで思い返し、男は間違いを犯したことに気づいた。ヒロインは毒入りだとは言っていない。勝手にそう思っただけだ。だから、死んだことを確認もしなかった。
その女――ヒロインはにやりと不敵な笑みを浮かべていた。
ヒロインが飲んだのは、一時的に痛覚を鈍らせ、呼吸数や脈拍を限りなく下げて仮死を装う薬だ。目覚めない危険があることも説明されたが、男を騙すためにヒロインは迷いなく薬を利用すると決めた。そして、ヒロインが書いたシナリオ通りに事が進み、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「詰めが甘いって、彼女にも言われたでしょ。戦場で確認を怠るとか、三流以下ね」
ゆっくりと音を立てずに立ち上がり、男に背後から声をかけると、男は幽霊でも見たような顔をしていた。が、バカにされたことでみるみる男の顔が赤くなった。
ヒロインは下着の裏に縫い付けていた解毒薬を飲みこみ、再度男に向き直った。
「あんた、どうせ一人じゃ何もできないでしょ?ほら、大人しく降伏したら?」
「はっ!強がりだな。あいつを殺して、内心腸煮えくり返ってんだろ!?」
男はレノのことを思い出したのか、強気な態度でヒロインを挑発してきたが、それすらヒロインには滑稽に見えた。
「…私だけ生きることを選ぶと思った?あんたは何もわかってない」
ヒロインは男の背後にいるレノの方に視線を向けた。釣られて男も背後を振り返った。そこではルードがレノに薬を打ち、蘇生措置を行っていた。しばらくして、レノが大きく目を見開き、息を吹き返した。表情にこそ出さなかったが、レノが無事でヒロインは胸を撫で下ろした。
ルーファウスと仮眠室で話したときは、本物の毒物でレノを殺し、自分も死ぬつもりでいた。それを止めたのはツォンだった。開発中の死を偽装する薬があると言ってきたのだ。それはヒロインの薬とは違い、実際の死により近い状態にする薬で、時間内に解毒薬を用いた蘇生措置をしなければ死に至るものだった。理論上は完璧、あとは実地試験を行うのみという状態の薬だったが、ヒロインはそれを使うことに決めた。1%でも助かる可能性があるのなら、そちらに賭けてみたいと。
「普段の行いがいいから、きっと運も味方してくれる」
そう強がって皆の反対を押し切ったものの、内心は不安でいっぱいだった。殺す覚悟は決めたはずだったが、助かるかもしれないという希望がヒロインの気持ちを揺るがせた。
ヒロインはその気持ちを正直にレノに伝えた。レノの手の甲を叩いて不安な気持ちを告げると、レノが一瞬だけにやりと笑った。そして、ヒロインの手の甲を叩いた。
――オレの普段の行いは最高にいいから、絶対成功する
レノのその一言で、ヒロインの覚悟は決まった。
絶対にまた笑って会える。
ヒロインは強い決意と祈りをこめて、レノに薬を渡した。
「さあこれであんたを守る盾はない。一人で私に勝てる?」
ヒロインは結い上げていた髪に差していた簪を抜いて、男を挑発した。
「そんな棒きれで俺に勝てると思ってんのか?」
男が鼻で笑ったが、その顔は一瞬で凍りついた。男が話している最中に、ヒロインは一気に距離を詰め、男の足の付根に簪を刺したからだ。
「ほら、余裕じゃない」
ヒロインは一度距離を取ると、小馬鹿にしたように笑った。すると、男は大声で悪態をつき、ヒロインの刺した簪に手を伸ばした。
「ああそれ、動脈に刺したから、抜いたら失血死すると思うよ。私は構わないけど」
男がびくりと震え、手を止めた。ヒロインはその一瞬の隙を逃さず、男の手を一気にひねり上げ、銃を奪い取った。そして腹部に一発、太腿に一発銃弾を撃ち込んだ。男は着弾の衝撃でよろめき、それでも何とか踏ん張っていたが、ヒロインが足払いをかけるとあっけなく仰向けにひっくり返った。
ヒロインが男の腹部の銃創を踵で抉るように踏みつけると、男は情けない悲鳴を上げた。
.