14:二度目のお別れ
ヒロイン
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「ヒロイン、お前、こんなときに呑気に寝てたのか?本当にお前はバカでどうしようもねぇ女だな」
男が大声で笑った。そして、カメラを自分ではなく別のところに向けた。
今感じている不安が杞憂だったらどんなによかったか。しかし、現実はとても残酷だった。
「こんなことになってるってのにな!」
ヒロインは叫びそうになるのを歯を食いしばって耐えた。
カメラに写ったのは真っ赤に顔を腫らせたレノだった。口の端には血が滲んでいる。そして、何よりも目を引いたのは、腹部の赤い染みだった。
生きているのか?
ヒロインは焦りが大きくなるのを感じたが、必死にそれを出すのを抑えた。握りしめた拳に爪がきつく食い込んだ。隙を見せるわけにはいかない。その強い思いのお陰でヒロインは冷静さを取り戻すことができた。
「わざわざ連絡してきたってことは、用があるんでしょ?私?タークス?神羅?」
画面の向こうから舌打ちが聞こえてきた。再びモニターに映された男の顔は苦々しげに歪んでいた。
「相変わらず可愛げゼロかよ。つまんねえ女だな」
「レノを人質にして要求したいことは何?」
「そんなこともわかんねぇのかよ!ヒロイン、お前だよ。俺がほしいのは」
男はヒロインを小馬鹿にするかのように鼻で笑ったが、笑いたいのはこっちだ。レノが人質であることを否定しなかったなら、まだ生きている。怪我の状態から見て、あまり時間は残されていないかもしれないが。
「私と人質の交換をしたいの?なら、人質は丁重に扱うことだね」
「それは約束できねぇな!」
男がレノの頭を足で踏みつけた。ヒロインは男に思いつく限りの罵声を浴びせたかったが、舌先まで出かかった罵詈雑言を唾とともに飲み込んだ。腹が立つことに、この男は人を苛つかせるのが得意なようだ。収まらないむしゃくしゃを今ここで男に向けるのは簡単だったが、どうせなら直接叩きつけてやろう。ヒロインは怒りをぐっと堪え、冷徹な表情を浮かべた。
「約束しないなら、そっちには行けない」
「こいつを見捨てるのか?前に俺のことは助けに来てくれたのに。なぁ、聞いてるか?ヒロイン、あんたのこと見捨てるってよ!あぁ、悪い悪い。昔のことは覚えちゃいないんだったか!あんた、前より冷酷だな」
前にあの男を助けに行ったことは記憶にない。が、同じ場所にいる三人が同じように顔を顰めたのを見て、ヒロインはそれが真実なのだろうと察した。
「一人で来い。場所は周りにいる奴らが知ってるだろうよ。早く来ないと、お前の大事なレノが死ぬぞ」
男は不愉快な笑い声だけ残し、通信を切った。完全に通信が切れたことを確認し、ヒロインはルーファウス、ツォン、ルードを順繰りに見た。
「場所を教えて」
「行かせられるわけないだろう」
ルーファウスの声は静かだったが、有無を言わせない強さがあった。
「それは、前に同じようなことが起きて、彼女があいつに何かされたから?」
「そうだ」
彼女はそのとき、心も身体も深く傷ついたのだろう。覚えてはいなかったが、ヒロインの胸がちくりと痛んだ。
「じゃあ、レノを見捨てるの?」
「本来の方針では、そうなります。だが――」
「俺が行こう」
レノはルードの相棒だ。だから、ルードが不安に思う気持ちはヒロインにもよくわかった。相棒なら助けに行って当然だ。ヒロインにだって相棒がいたなら、同じことをするだろう。そう、きっと彼女は同じことをしたのだ。これは想像ではなく、過去の経験だ。しかし、そのとき何が起こり、何を感じたかまでは、彼女は教えてくれなかった。
(私だったら、どうするだろう…)
レノを助けに行くか否か、その作戦は?それらを話し合っている三人から一歩引いて、ヒロインは必死に思考を巡らせた。
自分が行かなければレノは死ぬ。自分が行っても、レノは死ぬかもしれない。そして、自分も死ぬだろう。恐らく楽には死ねない。でも、その場に人質となる人間がいなければ?
「あいつのところには私が行く。少しだけ、勝手を許してくれる?」
ヒロインは決意を固め、三人ににこりと微笑んだ。
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男が大声で笑った。そして、カメラを自分ではなく別のところに向けた。
今感じている不安が杞憂だったらどんなによかったか。しかし、現実はとても残酷だった。
「こんなことになってるってのにな!」
ヒロインは叫びそうになるのを歯を食いしばって耐えた。
カメラに写ったのは真っ赤に顔を腫らせたレノだった。口の端には血が滲んでいる。そして、何よりも目を引いたのは、腹部の赤い染みだった。
生きているのか?
ヒロインは焦りが大きくなるのを感じたが、必死にそれを出すのを抑えた。握りしめた拳に爪がきつく食い込んだ。隙を見せるわけにはいかない。その強い思いのお陰でヒロインは冷静さを取り戻すことができた。
「わざわざ連絡してきたってことは、用があるんでしょ?私?タークス?神羅?」
画面の向こうから舌打ちが聞こえてきた。再びモニターに映された男の顔は苦々しげに歪んでいた。
「相変わらず可愛げゼロかよ。つまんねえ女だな」
「レノを人質にして要求したいことは何?」
「そんなこともわかんねぇのかよ!ヒロイン、お前だよ。俺がほしいのは」
男はヒロインを小馬鹿にするかのように鼻で笑ったが、笑いたいのはこっちだ。レノが人質であることを否定しなかったなら、まだ生きている。怪我の状態から見て、あまり時間は残されていないかもしれないが。
「私と人質の交換をしたいの?なら、人質は丁重に扱うことだね」
「それは約束できねぇな!」
男がレノの頭を足で踏みつけた。ヒロインは男に思いつく限りの罵声を浴びせたかったが、舌先まで出かかった罵詈雑言を唾とともに飲み込んだ。腹が立つことに、この男は人を苛つかせるのが得意なようだ。収まらないむしゃくしゃを今ここで男に向けるのは簡単だったが、どうせなら直接叩きつけてやろう。ヒロインは怒りをぐっと堪え、冷徹な表情を浮かべた。
「約束しないなら、そっちには行けない」
「こいつを見捨てるのか?前に俺のことは助けに来てくれたのに。なぁ、聞いてるか?ヒロイン、あんたのこと見捨てるってよ!あぁ、悪い悪い。昔のことは覚えちゃいないんだったか!あんた、前より冷酷だな」
前にあの男を助けに行ったことは記憶にない。が、同じ場所にいる三人が同じように顔を顰めたのを見て、ヒロインはそれが真実なのだろうと察した。
「一人で来い。場所は周りにいる奴らが知ってるだろうよ。早く来ないと、お前の大事なレノが死ぬぞ」
男は不愉快な笑い声だけ残し、通信を切った。完全に通信が切れたことを確認し、ヒロインはルーファウス、ツォン、ルードを順繰りに見た。
「場所を教えて」
「行かせられるわけないだろう」
ルーファウスの声は静かだったが、有無を言わせない強さがあった。
「それは、前に同じようなことが起きて、彼女があいつに何かされたから?」
「そうだ」
彼女はそのとき、心も身体も深く傷ついたのだろう。覚えてはいなかったが、ヒロインの胸がちくりと痛んだ。
「じゃあ、レノを見捨てるの?」
「本来の方針では、そうなります。だが――」
「俺が行こう」
レノはルードの相棒だ。だから、ルードが不安に思う気持ちはヒロインにもよくわかった。相棒なら助けに行って当然だ。ヒロインにだって相棒がいたなら、同じことをするだろう。そう、きっと彼女は同じことをしたのだ。これは想像ではなく、過去の経験だ。しかし、そのとき何が起こり、何を感じたかまでは、彼女は教えてくれなかった。
(私だったら、どうするだろう…)
レノを助けに行くか否か、その作戦は?それらを話し合っている三人から一歩引いて、ヒロインは必死に思考を巡らせた。
自分が行かなければレノは死ぬ。自分が行っても、レノは死ぬかもしれない。そして、自分も死ぬだろう。恐らく楽には死ねない。でも、その場に人質となる人間がいなければ?
「あいつのところには私が行く。少しだけ、勝手を許してくれる?」
ヒロインは決意を固め、三人ににこりと微笑んだ。
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