14:二度目のお別れ
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
きっと、恋をしていた。彼女と同じ人に。
仮眠室の前からレノの気配が去った後、ヒロインはベッドで布団を頭から被り、声を押し殺して泣いた。胸が引き裂かれそうなほど苦しくて、涙はいつまでも流れ続けた。
レノが見つめる先にはいつも彼女がいた。自分の向こうにいる彼女の面影を探して、レノはいつも苦しそうな顔をしていた。それがとても嫌だった。それ以上に、レノが自分を見ていないことも嫌だった。しかし、皮肉なことに、レノがはっきりとヒロインを見て放った言葉は、絶対に彼女には掛けないだろう言葉だった。そのとき、ヒロインは自分ではダメなのだと理解した。
ヒロインの最初の恋は、それを恋だと認識した途端に終わった。いや、厳密には最初ではない。彼女の方が先にレノに恋をしていた。自分にとっては初めてでも、初恋とは違う。彼女の後追いだ。
それでもヒロインは、この気持ちは自分だけのもので、自分の意思でレノのことを好きになったのだと思いたかった。例え、自分が本当のヒロインではない虚ろな存在だとしても。
「恋が、こんなに苦しいなんて知らなかった…」
今のヒロインが初めて好きになった人、レノ。彼がヒロインの想いに応えてくれることはない。でも、彼女が戻ったなら、彼女の初恋は上手くいくかもしれない。例え自分の一番目の恋が叶わなくても、彼女の初恋が実りますように。
そう願いながら、ヒロインは再び枕を濡らし、眠れない夜を過ごした。
起きなければ。早く起きないと、またルーファウスが起こしに来てしまう。
そう自分を追い込んでみても、全く起き上がる気力がわかなかった。寝ていないのもあってか、頭が重い。
少し眠ろうと目を閉じかけたとき、仮眠室の扉が開いた。ヒロインは相手を確認する前に、布団の中に潜り込んだ。
「ノックぐらいして」
文句を吐き出した声は、ひどくしわがれていた。ルーファウスが聞いていたら、何だその声はと言ったことだろう。しかし、想定した言葉は聞こえてこなかった。上手く布団で誤魔化せたのだろうか。
ヒロインはしばらく無言で、部屋にいる人物の様子を窺っていた。いつもならもっとよく気配を感じ取れるのだが、今日は寝ていないせいか感覚が鈍っているような気がした。
何もしないなら出て行けと言いたいところではあったが、その気力すら湧かず、ヒロインはようやく戻ってきた睡魔に身を任せて目を閉じた。
――泣いてたのか…せっかくのきれいな顔が台無しだぞ、と
――本当は任務に行く前に伝えたかったんだけどな…今日はオレに任せてゆっくり休んでてくれよ
「なんか、いい匂い…」
閉め切られた部屋に残った甘い匂い。よく知った、好きなコロンの香りだった。
ヒロインはゆっくりと目を開け、ベッドから起き上がった。
「レノ…?」
眠りに落ちる前、部屋にやってきたのはレノだったのだろうか。匂いは残っていたが、部屋には誰もいない。
ヒロインは胸騒ぎを感じ、着の身着のまま仮眠室を飛び出した。今は身だしなみを整える時間すら惜しい。
オフィスの扉を開け放つと、ルーファウス、ツォン、ルードが揃っていた。だが、そこにレノはいない。息を切らせて飛び込んできたヒロインに一番最初に気づいたのはルーファウスだった。その眉間に皺が寄る。
「オフィスだぞ。せめて顔ぐらい洗って――」
「レノは?」
ヒロインはルーファウスの小言を無視し、真っ直ぐツォンを見た。
「レノはどこに行ったの?」
語気を強めるとわずかにツォンが狼狽えたのがわかった。ツォンが目でルーファウスに許可を求めているのも、今のヒロインには気に食わなかった。ヒロインは大股でルーファウスに近づくと、柳眉を逆立てた。
「言いなさい」
「ヒロイン、誰に口を聞いている。ここはオフィスだぞ」
立場をわきまえろと言うルーファウスは正しい。しかし、ヒロインは態度を改める気はなかった。そんなことより、レノが気がかりで仕方がない。胸中のざわつきは、先程と比べ物にならないぐらい大きくなっていた。
そのとき、オフィスに通信が入った。
ツォンが通信を繋ぐと、オフィス奥のモニターに映像が映し出された。
「よう、久しぶりだな」
大きなモニターに映ったのは、あの男だった。
.
仮眠室の前からレノの気配が去った後、ヒロインはベッドで布団を頭から被り、声を押し殺して泣いた。胸が引き裂かれそうなほど苦しくて、涙はいつまでも流れ続けた。
レノが見つめる先にはいつも彼女がいた。自分の向こうにいる彼女の面影を探して、レノはいつも苦しそうな顔をしていた。それがとても嫌だった。それ以上に、レノが自分を見ていないことも嫌だった。しかし、皮肉なことに、レノがはっきりとヒロインを見て放った言葉は、絶対に彼女には掛けないだろう言葉だった。そのとき、ヒロインは自分ではダメなのだと理解した。
ヒロインの最初の恋は、それを恋だと認識した途端に終わった。いや、厳密には最初ではない。彼女の方が先にレノに恋をしていた。自分にとっては初めてでも、初恋とは違う。彼女の後追いだ。
それでもヒロインは、この気持ちは自分だけのもので、自分の意思でレノのことを好きになったのだと思いたかった。例え、自分が本当のヒロインではない虚ろな存在だとしても。
「恋が、こんなに苦しいなんて知らなかった…」
今のヒロインが初めて好きになった人、レノ。彼がヒロインの想いに応えてくれることはない。でも、彼女が戻ったなら、彼女の初恋は上手くいくかもしれない。例え自分の一番目の恋が叶わなくても、彼女の初恋が実りますように。
そう願いながら、ヒロインは再び枕を濡らし、眠れない夜を過ごした。
起きなければ。早く起きないと、またルーファウスが起こしに来てしまう。
そう自分を追い込んでみても、全く起き上がる気力がわかなかった。寝ていないのもあってか、頭が重い。
少し眠ろうと目を閉じかけたとき、仮眠室の扉が開いた。ヒロインは相手を確認する前に、布団の中に潜り込んだ。
「ノックぐらいして」
文句を吐き出した声は、ひどくしわがれていた。ルーファウスが聞いていたら、何だその声はと言ったことだろう。しかし、想定した言葉は聞こえてこなかった。上手く布団で誤魔化せたのだろうか。
ヒロインはしばらく無言で、部屋にいる人物の様子を窺っていた。いつもならもっとよく気配を感じ取れるのだが、今日は寝ていないせいか感覚が鈍っているような気がした。
何もしないなら出て行けと言いたいところではあったが、その気力すら湧かず、ヒロインはようやく戻ってきた睡魔に身を任せて目を閉じた。
――泣いてたのか…せっかくのきれいな顔が台無しだぞ、と
――本当は任務に行く前に伝えたかったんだけどな…今日はオレに任せてゆっくり休んでてくれよ
「なんか、いい匂い…」
閉め切られた部屋に残った甘い匂い。よく知った、好きなコロンの香りだった。
ヒロインはゆっくりと目を開け、ベッドから起き上がった。
「レノ…?」
眠りに落ちる前、部屋にやってきたのはレノだったのだろうか。匂いは残っていたが、部屋には誰もいない。
ヒロインは胸騒ぎを感じ、着の身着のまま仮眠室を飛び出した。今は身だしなみを整える時間すら惜しい。
オフィスの扉を開け放つと、ルーファウス、ツォン、ルードが揃っていた。だが、そこにレノはいない。息を切らせて飛び込んできたヒロインに一番最初に気づいたのはルーファウスだった。その眉間に皺が寄る。
「オフィスだぞ。せめて顔ぐらい洗って――」
「レノは?」
ヒロインはルーファウスの小言を無視し、真っ直ぐツォンを見た。
「レノはどこに行ったの?」
語気を強めるとわずかにツォンが狼狽えたのがわかった。ツォンが目でルーファウスに許可を求めているのも、今のヒロインには気に食わなかった。ヒロインは大股でルーファウスに近づくと、柳眉を逆立てた。
「言いなさい」
「ヒロイン、誰に口を聞いている。ここはオフィスだぞ」
立場をわきまえろと言うルーファウスは正しい。しかし、ヒロインは態度を改める気はなかった。そんなことより、レノが気がかりで仕方がない。胸中のざわつきは、先程と比べ物にならないぐらい大きくなっていた。
そのとき、オフィスに通信が入った。
ツォンが通信を繋ぐと、オフィス奥のモニターに映像が映し出された。
「よう、久しぶりだな」
大きなモニターに映ったのは、あの男だった。
.