13:マガイモノ
ヒロイン
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ヒロインが今の自分を否定しているのはなんとなく察していた。それにも関わらず、レノは不用意な言葉をヒロインに浴びせた。それは肯定を通り越して追い討ちをかける行為に他ならなかった。
「嫌な思いさせて、ごめんね」
しばしの沈黙の後、ヒロインは何でもないとばかりに笑っていたが、その顔はコスタで無理して笑っていた彼女そのもので、傷ついているのは一目瞭然だった。
決してヒロインを否定したかったわけではない。ただ、後ろ向きで、今の自分を蔑ろにしているのが許せなくて、その原因が自分にあることがさらに苛立ちを増長させ、結果、自分ではなくヒロインの心を抉った。たとえ記憶を失っていても、ヒロインはヒロインであることを本当は伝えたかったのに。
ショッピングモールからの帰り道、そのことを伝えようと思っていた。事故でそれどころではなくなってしまったが。あの男はいつも大事なことを邪魔した挙句、大切なものを壊していく。
物理的な距離以上に、今はヒロインが遠くにいるように感じた。
レノとヒロインは、二人で隠し部屋を出た。しかし、そこにはもう誰もいなかった。しばらく暗闇で息をひそめていたが何の動きもなかったので、二人はそのまま神羅ビルに向かうことにした。
道中、二人は一言も会話を交わさなかった。ヒロインはどこか遠くを見ているようで、一度もレノの方を向くことはなかった。
オフィスに戻ると、ツォンとルードが待っていた。レノはショッピングモールを出てからのことをルートも含めて細かく報告した。その間もヒロインはずっと黙っていた。
「ヒロインさん、何か補足することはありますか?」
ツォンがヒロインに問うと、ヒロインはやや大げさに目と口元に笑みを浮かべていた。
「ないよ。レノの報告したことがすべて」
完璧だとヒロインは口では褒めていたが、レノは全く喜ぶ気にならなかった。ヒロインのそれは褒めているフリだ。笑っているフリ、何もないフリ。ヒロインは他人を観察するだけでなく、自分の見せ方も上手い。その場にふさわしい振る舞いで本心を隠す。それは、他人を信用せず、距離を置いている証拠でもあった。
「なら、あとはこちらで。二人は念のため医務室で診てもらってください」
「そう。じゃああとはよろしくね」
明るい口調でそう言うと、ヒロインはレノに声も掛けずにオフィスを出ていった。いつもなら声をかけるか、からかうかしていただろうに、それをしないヒロインはツォンたちにも奇異に映ったようだった。
「何かあったのか?」
ルードに問われたが、レノは首を振ってみせた。
「いや、何も。もしかしたら、あいつに会ったせいかもな」
本当は自分のせいだったが、レノは手頃な相手に責任を押し付けた。二人はそれに納得したようだったので、話を蒸し返される前にレノはオフィスを出て医務室に向かった。
当然、オフィスの前でヒロインが待っているようなことはなく、レノは一人、エレベーターに乗り込んだ。
レノの検査が終わった頃にはヒロインの姿は医務室になかった。担当の医師に尋ねると、検査結果が出てすぐに医務室を出ていったようだ。行き先は聞いていないらしい。レノはまずヒロインが寝泊まりしている仮眠室に向かった。
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「嫌な思いさせて、ごめんね」
しばしの沈黙の後、ヒロインは何でもないとばかりに笑っていたが、その顔はコスタで無理して笑っていた彼女そのもので、傷ついているのは一目瞭然だった。
決してヒロインを否定したかったわけではない。ただ、後ろ向きで、今の自分を蔑ろにしているのが許せなくて、その原因が自分にあることがさらに苛立ちを増長させ、結果、自分ではなくヒロインの心を抉った。たとえ記憶を失っていても、ヒロインはヒロインであることを本当は伝えたかったのに。
ショッピングモールからの帰り道、そのことを伝えようと思っていた。事故でそれどころではなくなってしまったが。あの男はいつも大事なことを邪魔した挙句、大切なものを壊していく。
物理的な距離以上に、今はヒロインが遠くにいるように感じた。
レノとヒロインは、二人で隠し部屋を出た。しかし、そこにはもう誰もいなかった。しばらく暗闇で息をひそめていたが何の動きもなかったので、二人はそのまま神羅ビルに向かうことにした。
道中、二人は一言も会話を交わさなかった。ヒロインはどこか遠くを見ているようで、一度もレノの方を向くことはなかった。
オフィスに戻ると、ツォンとルードが待っていた。レノはショッピングモールを出てからのことをルートも含めて細かく報告した。その間もヒロインはずっと黙っていた。
「ヒロインさん、何か補足することはありますか?」
ツォンがヒロインに問うと、ヒロインはやや大げさに目と口元に笑みを浮かべていた。
「ないよ。レノの報告したことがすべて」
完璧だとヒロインは口では褒めていたが、レノは全く喜ぶ気にならなかった。ヒロインのそれは褒めているフリだ。笑っているフリ、何もないフリ。ヒロインは他人を観察するだけでなく、自分の見せ方も上手い。その場にふさわしい振る舞いで本心を隠す。それは、他人を信用せず、距離を置いている証拠でもあった。
「なら、あとはこちらで。二人は念のため医務室で診てもらってください」
「そう。じゃああとはよろしくね」
明るい口調でそう言うと、ヒロインはレノに声も掛けずにオフィスを出ていった。いつもなら声をかけるか、からかうかしていただろうに、それをしないヒロインはツォンたちにも奇異に映ったようだった。
「何かあったのか?」
ルードに問われたが、レノは首を振ってみせた。
「いや、何も。もしかしたら、あいつに会ったせいかもな」
本当は自分のせいだったが、レノは手頃な相手に責任を押し付けた。二人はそれに納得したようだったので、話を蒸し返される前にレノはオフィスを出て医務室に向かった。
当然、オフィスの前でヒロインが待っているようなことはなく、レノは一人、エレベーターに乗り込んだ。
レノの検査が終わった頃にはヒロインの姿は医務室になかった。担当の医師に尋ねると、検査結果が出てすぐに医務室を出ていったようだ。行き先は聞いていないらしい。レノはまずヒロインが寝泊まりしている仮眠室に向かった。
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