13:マガイモノ
ヒロイン
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追跡用のチップを見つけたことで、二人の行動の選択肢が増えた。このままここにチップを置いて隠し部屋の別出口から神羅ビルへと向かうか、チップを囮に敵を油断させて一気に叩くか。隠し部屋には武器や弾薬も十分あり、敵を制圧することは可能だろう。
さてどうしたものかとレノに問おうとしたとき、レノが先に話し始めた。
「これ、オレが持ってって敵引きつけるから、先輩はしばらく待ってから神羅ビルに――」
いつものように飄々とした様子は消え、レノは真剣な表情をしていた。昨日、ヒロインの自宅から離れたときと同じように、少し思い詰めているようにも見えた。こちらを見ようともせず、苦しそうな顔をしたまま、レノは出口に向かって歩き出した。
ヒロインは顔をしかめ、大股で歩いてレノに追いつくと、先回りして出口を塞ぐように立った。そして、真っ直ぐレノを見上げた。
「私、その顔嫌い」
「は?」
レノが眉をぴくりと動かした。
「一人で抱え込んで、思い詰めてるその顔が嫌だって言ってるの!昨日言ったこと、もう忘れた?私を誰だと思ってんの!?」
「そういうあんただって、あいつに会って辛そうな顔してただろ!そんな顔させたくないから――」
「それでも嫌なの!」
ヒロインは苛立ちを顕にするレノに対して一歩も引かず、眉を吊り上げた。しばらく無言で睨み合っていると、突然レノがぷっと吹き出した。
「何笑ってるの!」
こちらは真剣な話をしているというのに。ヒロインはキッとレノを睨みつけたが、当のレノは全くそれを意に介した様子もなく、笑いを無理矢理噛み殺したような顔をしていた。
「ガキみたいだなって」
「なっ!」
ヒロインは言葉を詰まらせた。言うに事欠いて『ガキみたい』とは。大人の、しかも年上の女性に対しての言うにはあんまりではないか。いつもならそのまま怒って手を上げただろうが、今は何故かそんな気分にはなれなかった。遠回しに女性として見ていないと言われた気がして、胸の辺りが重くなった。
「もう知らない!勝手にしたら」
いじけてそっぽを向いて困らせて。レノが言ったとおり、子供のような振る舞いをしてしまう自分自身が嫌になる。きっと彼女ならこんな幼稚な態度は取らなかっただろう。しかし、今のヒロインにはこれ以外の振る舞い方がわからなかった。レノが望む彼女のようにはなれない。
やはり早くすべて思い出したほうがいいのだろう。これ以上、レノが『ヒロイン』に愛想を尽かす前に。もしすべて思い出して今ここにいる自分がいなくなってしまったとしても、レノと彼女にとってはそれが最良の結果なのだから。
所詮、自分は彼女が歩んできた人生からはみ出した存在だ。本当なら、ここにいなかった。
そう自分に言い聞かせ、拳を握って苦しみを中に閉じ込めても、どこかしらに歪みが出る。ヒロインは顔を上げることもできず、俯いて自分の足元を見つめた。
「悪ぃ。怒らせるつもりは――」
レノの手がすっと伸ばされ、頬に添えられた。それにぴくりと反応したヒロインは、大きく一歩後ずさった。
「私は、レノが求めてる『ヒロイン』じゃない…まがい物だから、そんなふうに優しくしなくていい」
わずかに顔を上げたときに視界に入ったレノは、ひどく悲しそうな顔をしていた。それがまたヒロインを苦しめる。昨日、あの男に会ってから何もかも上手くいかない。レノとのことも、こんな事態になっていることも何もかもが腹立たしい。
「…早く、あいつ殺しに行こう」
そう、煩わしいことは取り除いてしまえばいい。あいつがいなくなれば、レノの苦しみを多少は減らすことができる。幸いそのためのスキルは身につけている。ヒロインは決意を新たにし、わざとらしくにこりと笑ってみせた。
「ほら、そんな顔しないの!あいつ殺したら、彼女も安心して記憶戻るかもしれないし。そしたら――」
「…先輩も、そんなふうに笑うんだな」
ヒロインはレノの言葉の意味をはかりかね、軽く眉をひそめた。
「その顔、オレは嫌いだぞ、と」
事実だけを淡々と告げるように、そのレノの言葉には何の感情もこもっていなかった。だから、『嫌い』だと言われても特にショックを受けなかった。ヒロインはその言葉をただの事実として受け止めた上で、レノの心の内を探るためにその顔を見つめた。が、一瞬早くレノが顔を背けたので、表情からは感情を読み取ることができなかった。
しかし、その行動は雄弁に今のレノの心の内を語っていた。怒りと苛立ち。それはレノ自身ではなく、ヒロインに向かっているようだった。
言葉に感情が乗り、ようやくヒロインの心に痛みが走る。それは先程身体で感じたのとは違う、鋭利な刃物で深く突き刺されるような激しい痛みだった。
真っ白になった頭では何も考えられず、ヒロインはその場に立ち尽くした。
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さてどうしたものかとレノに問おうとしたとき、レノが先に話し始めた。
「これ、オレが持ってって敵引きつけるから、先輩はしばらく待ってから神羅ビルに――」
いつものように飄々とした様子は消え、レノは真剣な表情をしていた。昨日、ヒロインの自宅から離れたときと同じように、少し思い詰めているようにも見えた。こちらを見ようともせず、苦しそうな顔をしたまま、レノは出口に向かって歩き出した。
ヒロインは顔をしかめ、大股で歩いてレノに追いつくと、先回りして出口を塞ぐように立った。そして、真っ直ぐレノを見上げた。
「私、その顔嫌い」
「は?」
レノが眉をぴくりと動かした。
「一人で抱え込んで、思い詰めてるその顔が嫌だって言ってるの!昨日言ったこと、もう忘れた?私を誰だと思ってんの!?」
「そういうあんただって、あいつに会って辛そうな顔してただろ!そんな顔させたくないから――」
「それでも嫌なの!」
ヒロインは苛立ちを顕にするレノに対して一歩も引かず、眉を吊り上げた。しばらく無言で睨み合っていると、突然レノがぷっと吹き出した。
「何笑ってるの!」
こちらは真剣な話をしているというのに。ヒロインはキッとレノを睨みつけたが、当のレノは全くそれを意に介した様子もなく、笑いを無理矢理噛み殺したような顔をしていた。
「ガキみたいだなって」
「なっ!」
ヒロインは言葉を詰まらせた。言うに事欠いて『ガキみたい』とは。大人の、しかも年上の女性に対しての言うにはあんまりではないか。いつもならそのまま怒って手を上げただろうが、今は何故かそんな気分にはなれなかった。遠回しに女性として見ていないと言われた気がして、胸の辺りが重くなった。
「もう知らない!勝手にしたら」
いじけてそっぽを向いて困らせて。レノが言ったとおり、子供のような振る舞いをしてしまう自分自身が嫌になる。きっと彼女ならこんな幼稚な態度は取らなかっただろう。しかし、今のヒロインにはこれ以外の振る舞い方がわからなかった。レノが望む彼女のようにはなれない。
やはり早くすべて思い出したほうがいいのだろう。これ以上、レノが『ヒロイン』に愛想を尽かす前に。もしすべて思い出して今ここにいる自分がいなくなってしまったとしても、レノと彼女にとってはそれが最良の結果なのだから。
所詮、自分は彼女が歩んできた人生からはみ出した存在だ。本当なら、ここにいなかった。
そう自分に言い聞かせ、拳を握って苦しみを中に閉じ込めても、どこかしらに歪みが出る。ヒロインは顔を上げることもできず、俯いて自分の足元を見つめた。
「悪ぃ。怒らせるつもりは――」
レノの手がすっと伸ばされ、頬に添えられた。それにぴくりと反応したヒロインは、大きく一歩後ずさった。
「私は、レノが求めてる『ヒロイン』じゃない…まがい物だから、そんなふうに優しくしなくていい」
わずかに顔を上げたときに視界に入ったレノは、ひどく悲しそうな顔をしていた。それがまたヒロインを苦しめる。昨日、あの男に会ってから何もかも上手くいかない。レノとのことも、こんな事態になっていることも何もかもが腹立たしい。
「…早く、あいつ殺しに行こう」
そう、煩わしいことは取り除いてしまえばいい。あいつがいなくなれば、レノの苦しみを多少は減らすことができる。幸いそのためのスキルは身につけている。ヒロインは決意を新たにし、わざとらしくにこりと笑ってみせた。
「ほら、そんな顔しないの!あいつ殺したら、彼女も安心して記憶戻るかもしれないし。そしたら――」
「…先輩も、そんなふうに笑うんだな」
ヒロインはレノの言葉の意味をはかりかね、軽く眉をひそめた。
「その顔、オレは嫌いだぞ、と」
事実だけを淡々と告げるように、そのレノの言葉には何の感情もこもっていなかった。だから、『嫌い』だと言われても特にショックを受けなかった。ヒロインはその言葉をただの事実として受け止めた上で、レノの心の内を探るためにその顔を見つめた。が、一瞬早くレノが顔を背けたので、表情からは感情を読み取ることができなかった。
しかし、その行動は雄弁に今のレノの心の内を語っていた。怒りと苛立ち。それはレノ自身ではなく、ヒロインに向かっているようだった。
言葉に感情が乗り、ようやくヒロインの心に痛みが走る。それは先程身体で感じたのとは違う、鋭利な刃物で深く突き刺されるような激しい痛みだった。
真っ白になった頭では何も考えられず、ヒロインはその場に立ち尽くした。
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