13:マガイモノ
ヒロイン
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どこかでアラームが鳴っている。
規則正しく繰り返されているそれが覚醒と警告をヒロインにもたらした。
一瞬、意識が飛んでいたようだ。思い切り窓ガラスに打ち付けた頭が鈍く痛んだが、ヒロインは痛みを無視して運転席の方を見た。
レノもヒロイン同様、窓ガラスに頭をぶつけたのか意識を失っていた。頭につけているゴーグルのレンズが割れ、そのせいでこめかみから一筋血が流れている。出血は大したことがないように見えるが、問題は頭を打ち付けたことだ。ヒロインはシートベルトを外すと、レノの方に身を乗り出した。
「レノ、大丈夫?」
頭を打っているならあまり動かさないほうがいいと思ったが、レノの身体の向こう――運転席側に立つ銃を構えた例の男を認めた瞬間、そうも言っていられなくなった。ヒロインはレノに覆いかぶさりながら、運転席のシートを倒すレバーを引いた。男の中から放たれた銃弾は、窓ガラスに阻まれた。窓ガラスには傷一つない。
「さすが神羅の軍用車」
ヒロインはにやりと笑うと、エンジンのスタートボタンを押した。しばらくキュルキュルと情けない音を立てていたが、ヒロインの苛立ちが伝わったのか無事エンジンが始動した。
半ば強引にヒロインは運転席についた。レノの膝の上に半分座るような形になっているが、この際気にしていられない。ヒロインは一度車をバックさせると、男めがけてハンドルを切った。しかし、間一髪のところで男は車を避けた。バックミラーで男が車に乗り込んでいるのを見たヒロインは、そのまま車を神羅ビル方面に向かって走らせた。
「確か、緊急連絡用のシステムが――」
知識は10年前のものだが、大幅に変わっていないことを祈るしかない。ヒロインは遠い記憶を辿りながら、いくつか画面を操作して、何とか緊急連絡用のシステムを起動した。
『認証コードをどうぞ』
起動はしたものの、抑揚のない機械音声が同じことを繰り返す。
「認証コードって…なにそれ!」
よくよく考えれば退院してからトラブル続きで、システム関連の話は一切聞いていないことを思い出す。
「本当、あの男のせいで…!」
あの憎らしい顔を思い出し、ヒロインは思い切り顔をしかめた。なおさら先程轢き殺せなかったことが悔やまれた。
「コード…オレのがあるぞ、と」
「レノ!」
背後から聞こえた声で、ヒロインはほっと胸を撫で下ろした。が、起き上がったレノに抱きすくめられるような形になり、ヒロインは悲鳴を上げる代わりにハンドル操作を誤った。
「おっと、もう事故は勘弁してくれよ」
「ご、ごめん」
既のところでレノがハンドルを動かしたおかげでガードレールに突っ込むのは免れた。
レノが助手席に移動し、二人の身体が離れると、限界まで上がっていたヒロインの心拍数も幾分、平時の状態に戻って行った。
「後ろ、追ってきてるのは?」
「レイプ犯でストーカーの自称元婚約者」
ヒロインは車のバックミラーで何台か車を挟んだ向こうにいる例の男の車を確認した。無理に接近する気はないようだ。
「…悪かったな、気失ってて」
コードを入力していたレノの顔が少し曇ったのが見えた。あの男が絡むと、いつもレノは辛そうな顔をする。そして、後悔と怒りを吐き出さないように口を結ぶ。ヒロインはそれが嫌だった。レノが抱える怒りはあの男ではなく、自身へ向かっている。内側から心を焼き尽くす残虐な炎。それはきっといつか、レノの心を壊してしまう。
「…轢き殺せたらよかったのに」
つい思ったことを口に出してしまい、はっとして口を押さえたがもう遅い。レノは目を丸くしたあと、思い切り吹き出した。
『何を笑っている。緊急事態じゃないのか?』
スピーカーから聞こえてきたツォンの声でレノは声は抑えたものの、その口元はまだ緩んでいた。
「悪ぃ。ヒロインが面白いこと言うからよ」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げたヒロインは、無意識の内にハンドルを切ってしまい、慌ててレノがハンドルを抑えた。
『緊急事態じゃないなら切るぞ』
恐らくツォンはオフィスで青筋を立てて怒っているに違いない。ヒロインに対して声を荒げて怒ったことはないが、後輩に対してはその怒りをぶつけていたことを思い出す。
ヒロインは声を出さずに「ごめん」とレノに向かって口を動かした。すると「悪かった」とレノが口を動かした。二人だけの内緒話。こんなことをしていたとツォンが知ればさらに怒るかもしれないが、ヒロインの胸は少しだけ軽くなった。
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規則正しく繰り返されているそれが覚醒と警告をヒロインにもたらした。
一瞬、意識が飛んでいたようだ。思い切り窓ガラスに打ち付けた頭が鈍く痛んだが、ヒロインは痛みを無視して運転席の方を見た。
レノもヒロイン同様、窓ガラスに頭をぶつけたのか意識を失っていた。頭につけているゴーグルのレンズが割れ、そのせいでこめかみから一筋血が流れている。出血は大したことがないように見えるが、問題は頭を打ち付けたことだ。ヒロインはシートベルトを外すと、レノの方に身を乗り出した。
「レノ、大丈夫?」
頭を打っているならあまり動かさないほうがいいと思ったが、レノの身体の向こう――運転席側に立つ銃を構えた例の男を認めた瞬間、そうも言っていられなくなった。ヒロインはレノに覆いかぶさりながら、運転席のシートを倒すレバーを引いた。男の中から放たれた銃弾は、窓ガラスに阻まれた。窓ガラスには傷一つない。
「さすが神羅の軍用車」
ヒロインはにやりと笑うと、エンジンのスタートボタンを押した。しばらくキュルキュルと情けない音を立てていたが、ヒロインの苛立ちが伝わったのか無事エンジンが始動した。
半ば強引にヒロインは運転席についた。レノの膝の上に半分座るような形になっているが、この際気にしていられない。ヒロインは一度車をバックさせると、男めがけてハンドルを切った。しかし、間一髪のところで男は車を避けた。バックミラーで男が車に乗り込んでいるのを見たヒロインは、そのまま車を神羅ビル方面に向かって走らせた。
「確か、緊急連絡用のシステムが――」
知識は10年前のものだが、大幅に変わっていないことを祈るしかない。ヒロインは遠い記憶を辿りながら、いくつか画面を操作して、何とか緊急連絡用のシステムを起動した。
『認証コードをどうぞ』
起動はしたものの、抑揚のない機械音声が同じことを繰り返す。
「認証コードって…なにそれ!」
よくよく考えれば退院してからトラブル続きで、システム関連の話は一切聞いていないことを思い出す。
「本当、あの男のせいで…!」
あの憎らしい顔を思い出し、ヒロインは思い切り顔をしかめた。なおさら先程轢き殺せなかったことが悔やまれた。
「コード…オレのがあるぞ、と」
「レノ!」
背後から聞こえた声で、ヒロインはほっと胸を撫で下ろした。が、起き上がったレノに抱きすくめられるような形になり、ヒロインは悲鳴を上げる代わりにハンドル操作を誤った。
「おっと、もう事故は勘弁してくれよ」
「ご、ごめん」
既のところでレノがハンドルを動かしたおかげでガードレールに突っ込むのは免れた。
レノが助手席に移動し、二人の身体が離れると、限界まで上がっていたヒロインの心拍数も幾分、平時の状態に戻って行った。
「後ろ、追ってきてるのは?」
「レイプ犯でストーカーの自称元婚約者」
ヒロインは車のバックミラーで何台か車を挟んだ向こうにいる例の男の車を確認した。無理に接近する気はないようだ。
「…悪かったな、気失ってて」
コードを入力していたレノの顔が少し曇ったのが見えた。あの男が絡むと、いつもレノは辛そうな顔をする。そして、後悔と怒りを吐き出さないように口を結ぶ。ヒロインはそれが嫌だった。レノが抱える怒りはあの男ではなく、自身へ向かっている。内側から心を焼き尽くす残虐な炎。それはきっといつか、レノの心を壊してしまう。
「…轢き殺せたらよかったのに」
つい思ったことを口に出してしまい、はっとして口を押さえたがもう遅い。レノは目を丸くしたあと、思い切り吹き出した。
『何を笑っている。緊急事態じゃないのか?』
スピーカーから聞こえてきたツォンの声でレノは声は抑えたものの、その口元はまだ緩んでいた。
「悪ぃ。ヒロインが面白いこと言うからよ」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げたヒロインは、無意識の内にハンドルを切ってしまい、慌ててレノがハンドルを抑えた。
『緊急事態じゃないなら切るぞ』
恐らくツォンはオフィスで青筋を立てて怒っているに違いない。ヒロインに対して声を荒げて怒ったことはないが、後輩に対してはその怒りをぶつけていたことを思い出す。
ヒロインは声を出さずに「ごめん」とレノに向かって口を動かした。すると「悪かった」とレノが口を動かした。二人だけの内緒話。こんなことをしていたとツォンが知ればさらに怒るかもしれないが、ヒロインの胸は少しだけ軽くなった。
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