12:誰が為に
ヒロイン
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天気が悪いのもあってか、ショッピングモールは平日だというのにそこそこ混み合っていた。学校をさぼった学生やカップルが多い。その楽しそうな空気の中で、気まずい状態を引きずったままの二人はその空気に馴染めずにいた。
互いに顔を背け、一見すると赤の他人同士のような距離を保ち、二人は無言で目的の店へと向かった。
下着を売っている店はすぐに見つかった。
店が見えたところでヒロインは足を止め、後ろを歩いていたレノの方を振り返った。
「すぐに買ってくるから。少しだけ待ってて。ごめんね」
それだけ早口で言うと、レノの反応も見ずに、ヒロインは逃げるように店に駆け込んだ。
店内には色とりどりの下着が展示されていた。彼女が持っていたものは割と飾り気のない下着ばかりだったが、店内にあるものはデザインも生地の種類も豊富だった。シンプルなものでいいと思っていたが、ここまで色々あると少し目移りしてしまう。
ヒロインは店内を巡りながら、車内でレノが言ったことを思い出していた。
「黒、紺、白…」
ちょうど目の前に黒いレース地の下着が飾られていたので、ヒロインはそれを手にとった。その下着は明らかに他のものよりも生地面積が少なく、普段遣いするにはちょっと勇気がいる。自分で着ることを想像して恥ずかしくなったヒロインは、それをラックに戻そうとした。
「デート用の下着をお探しですか?」
突然背後から声を掛けられ、ヒロインは飛び上がりそうなほど驚いた。なんとか悲鳴だけは飲み下し、一呼吸置いて振り返った。
「もしかして、あのイケメンの彼氏さんですか?」
女性店員がにやにやと笑い、店外にいるレノの方に視線を送っていた。レノは店から少し離れたところにあるベンチに座り、頬杖を付きながら携帯の画面を見ているようだった。その退屈そうな様子を見て、ヒロインは少し焦り始めた。
「彼氏、ではないですけど…」
「えー!じゃあ、私、連絡先聞いちゃおうかな~」
一人で盛り上がり始めた店員に何故か苛立ちを感じ、ヒロインは店員とレノの間に割り込んだ。そして、手にしていた下着を店員に渡した。
「これ、買います。あとは…」
近くにあった黒、紺、白の下着を掴み、それも店員に手渡した。いずれもシンプルとは程遠い下着だったが、最早デザインは気にならなかった。
「おまたせ」
「早かったな…って、何だよその膨れ面」
ベンチに座っていたレノが困惑した顔をしていた。
会計の間もヒロインは店員の質問攻めにあっていた。
名前は?仕事は?連絡先は?好きなものは?趣味は?…等々、いずれも知らぬ存ぜぬで通したが、いくつかの質問は嘘でも何でもなく、知らないことだったのが心に引っかかっていた。
あまりにしつこい店員に苛立ったまま店を後にし、それが収まらないままレノに声を掛けてしまったため、顔に出てしまったようだ。
「別に何も…いいから、早く行こう」
ちらりと背後を振り返ると、先程の店員がこちらを見ていた。いや、彼女が見ているのはレノだ。ヒロインは店員からレノが見えないように立ち位置を変えると、レノの手を引いてベンチから立たせた。
「買い物、もういいのか?」
「もういい」
せっかく付き合ってくれたレノに対して、不貞腐れたような態度を出してしまう自分が嫌になる。思い通りにコントロールできない自分の心に苛立ち、さらにそれが態度にも口調にも現れる。まさに悪循環だった。
いつもならこういうとき何でもないと明るく笑えていたはずなのに、今日に限っては口元にすら笑みを浮かべられない。
「ごめん。帰ろう」
今の不機嫌な顔をレノに見られたくなかったので、ヒロインはそっぽを向いた。そして、軽く握っていたレノの手を離した。
温もりが離れていく。今度はそれがどうしようもなく寂しくて、心がきゅっと締め付けられるように傷んだ。
「先輩、何かあったんだろ?頼れる後輩のレノ様が相談に乗ってやってもいいぞ、と」
離した手が再びレノに掴まれる。そこから心が温まると同時に、レノに触れられているという事実にどうしようもなく恥ずかしくなる。だんだんと手が汗ばんできているのは、レノにも伝わっているのだろうか。そう考えるとさらに体温が上がるような気がする。
「もう、本当に生意気なんだから!」
何とかいつものように強気な言葉を絞り出し、ヒロインはレノの手を離して早足で駐車場に向かった。
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互いに顔を背け、一見すると赤の他人同士のような距離を保ち、二人は無言で目的の店へと向かった。
下着を売っている店はすぐに見つかった。
店が見えたところでヒロインは足を止め、後ろを歩いていたレノの方を振り返った。
「すぐに買ってくるから。少しだけ待ってて。ごめんね」
それだけ早口で言うと、レノの反応も見ずに、ヒロインは逃げるように店に駆け込んだ。
店内には色とりどりの下着が展示されていた。彼女が持っていたものは割と飾り気のない下着ばかりだったが、店内にあるものはデザインも生地の種類も豊富だった。シンプルなものでいいと思っていたが、ここまで色々あると少し目移りしてしまう。
ヒロインは店内を巡りながら、車内でレノが言ったことを思い出していた。
「黒、紺、白…」
ちょうど目の前に黒いレース地の下着が飾られていたので、ヒロインはそれを手にとった。その下着は明らかに他のものよりも生地面積が少なく、普段遣いするにはちょっと勇気がいる。自分で着ることを想像して恥ずかしくなったヒロインは、それをラックに戻そうとした。
「デート用の下着をお探しですか?」
突然背後から声を掛けられ、ヒロインは飛び上がりそうなほど驚いた。なんとか悲鳴だけは飲み下し、一呼吸置いて振り返った。
「もしかして、あのイケメンの彼氏さんですか?」
女性店員がにやにやと笑い、店外にいるレノの方に視線を送っていた。レノは店から少し離れたところにあるベンチに座り、頬杖を付きながら携帯の画面を見ているようだった。その退屈そうな様子を見て、ヒロインは少し焦り始めた。
「彼氏、ではないですけど…」
「えー!じゃあ、私、連絡先聞いちゃおうかな~」
一人で盛り上がり始めた店員に何故か苛立ちを感じ、ヒロインは店員とレノの間に割り込んだ。そして、手にしていた下着を店員に渡した。
「これ、買います。あとは…」
近くにあった黒、紺、白の下着を掴み、それも店員に手渡した。いずれもシンプルとは程遠い下着だったが、最早デザインは気にならなかった。
「おまたせ」
「早かったな…って、何だよその膨れ面」
ベンチに座っていたレノが困惑した顔をしていた。
会計の間もヒロインは店員の質問攻めにあっていた。
名前は?仕事は?連絡先は?好きなものは?趣味は?…等々、いずれも知らぬ存ぜぬで通したが、いくつかの質問は嘘でも何でもなく、知らないことだったのが心に引っかかっていた。
あまりにしつこい店員に苛立ったまま店を後にし、それが収まらないままレノに声を掛けてしまったため、顔に出てしまったようだ。
「別に何も…いいから、早く行こう」
ちらりと背後を振り返ると、先程の店員がこちらを見ていた。いや、彼女が見ているのはレノだ。ヒロインは店員からレノが見えないように立ち位置を変えると、レノの手を引いてベンチから立たせた。
「買い物、もういいのか?」
「もういい」
せっかく付き合ってくれたレノに対して、不貞腐れたような態度を出してしまう自分が嫌になる。思い通りにコントロールできない自分の心に苛立ち、さらにそれが態度にも口調にも現れる。まさに悪循環だった。
いつもならこういうとき何でもないと明るく笑えていたはずなのに、今日に限っては口元にすら笑みを浮かべられない。
「ごめん。帰ろう」
今の不機嫌な顔をレノに見られたくなかったので、ヒロインはそっぽを向いた。そして、軽く握っていたレノの手を離した。
温もりが離れていく。今度はそれがどうしようもなく寂しくて、心がきゅっと締め付けられるように傷んだ。
「先輩、何かあったんだろ?頼れる後輩のレノ様が相談に乗ってやってもいいぞ、と」
離した手が再びレノに掴まれる。そこから心が温まると同時に、レノに触れられているという事実にどうしようもなく恥ずかしくなる。だんだんと手が汗ばんできているのは、レノにも伝わっているのだろうか。そう考えるとさらに体温が上がるような気がする。
「もう、本当に生意気なんだから!」
何とかいつものように強気な言葉を絞り出し、ヒロインはレノの手を離して早足で駐車場に向かった。
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