12:誰が為に
ヒロイン
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二人で駐車場に向かう途中、レノにどこに行くのかと問われたが、ヒロインは首を傾げることしかできなかった。なぜなら、下着を売っている店がどこにあるのか知らなかったからだ。素直にそう言うと、レノは大いに呆れた顔をした。
「先輩、世間知らずにも程があるぞ、と。今までどうしてたんだよ」
「さぁ?だって、ここ10年のこと覚えてないから。昔は、支給品で済ませてた」
そもそも、ヒロインが綿生地以外の下着の存在を知ったのは昨日だ。10年で大人になったものだと彼女に感心していたが、まさかそれから数時間で全部捨てる羽目になるとは普通思わない。そんなことにならなければ、レノに呆れられることもなかったのだろうが、この際仕方がない。
レノは「オレも詳しくはないけど」と前置きをして、ショッピングモールに行こうと提案し、ヒロインもそれを了承した。本当は詳しいだろうと思ったが、ヒロインはそれについては黙っておいた。
今日の天気は雨だった。車のフロントガラスに大粒の雨粒がひっきりなしに当たっている。車内にはその音だけが響いていた。
今朝ルーファウスに彼女がレノのことを好きだったと肯定されたせいで、ヒロインは微妙な気まずさを感じていた。オフィスではレノをからかって場を繋いだが、二人きりになるとどうしていいかわからなかった。
(私、レノのこと何も知らないんだな…)
会えば彼女について探りを入れるばかりで、レノ自身のことは何も聞いてこなかった。好きな食べ物や酒、趣味や休日の過ごし方、服の好み、そして女性の好み。改めて振り返ってみると自分のことばかりで、それにレノを付き合わせていただけだ。
「きっとつまらなかっただろうな」
「…急にどうしたんだよ」
信号待ちで止まった車のフロントガラスを流れる雨を見ながらぼんやりしているうち、つい心の声を外に漏らしてしまったようだ。
ヒロインははっとして口を押さえた。
「何でもない。レノが好きな下着の色考えてたの!」
自分でも下手な誤魔化し方だと思ったが、他に思いつかなかったのだから仕方がない。
案の定、レノは訝しむような顔をしていたが、突然にやりと笑った。その視線はヒロインの胸元に向かっていた。
「黒か紺か…意外と白ってのも…」
「変な想像しないで!」
ヒロインはレノが逃げるよりも素早く手を伸ばし、レノの頬をつねった。
「いててて…!自分はセクハラしてくるくせに、オレだけダメっておかしいだろ!」
「うるさい!」
ヒロインは一喝すると、レノから胸が見えないように身体ごと窓の方を向いた。
いつも先輩と後輩という関係だったのに、急にレノが男であることを意識させられてヒロインは戸惑っていた。恥ずかしさ、ほんの少しの怖さ、女性として見られたことに対する小さな喜びが思い切りかき混ぜられ、心に複雑な模様を描いていた。
「…無神経だったな。悪かったぞ、と」
「…気にしてない」
ヒロインはレノの視線を背中に感じていたが、振り向きもせずに言った。
背後でレノが小さく溜息をついた。きっとレノは気づかれない程度に留めたのだろうが、元々気配を感じるのが得意なヒロインにとってそれはあまり意味をなさなかった。
嫌われてしまったかもしれない。
そう思うと、心が潰れそうなほど痛んだ。
そもそもレノが好きなのは『彼女』であって自分ではない。一応同一人物なのだから、レノは自分に対してもある程度好意を持っているということに甘えすぎていたのかもしれない。
あれだけ暴力的で横柄な態度を取り続けたら、レノがヒロインを嫌いになってしまうのも当然だ。
気まずい空気のまま、車はショッピングモールの駐車場に入っていった。
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「先輩、世間知らずにも程があるぞ、と。今までどうしてたんだよ」
「さぁ?だって、ここ10年のこと覚えてないから。昔は、支給品で済ませてた」
そもそも、ヒロインが綿生地以外の下着の存在を知ったのは昨日だ。10年で大人になったものだと彼女に感心していたが、まさかそれから数時間で全部捨てる羽目になるとは普通思わない。そんなことにならなければ、レノに呆れられることもなかったのだろうが、この際仕方がない。
レノは「オレも詳しくはないけど」と前置きをして、ショッピングモールに行こうと提案し、ヒロインもそれを了承した。本当は詳しいだろうと思ったが、ヒロインはそれについては黙っておいた。
今日の天気は雨だった。車のフロントガラスに大粒の雨粒がひっきりなしに当たっている。車内にはその音だけが響いていた。
今朝ルーファウスに彼女がレノのことを好きだったと肯定されたせいで、ヒロインは微妙な気まずさを感じていた。オフィスではレノをからかって場を繋いだが、二人きりになるとどうしていいかわからなかった。
(私、レノのこと何も知らないんだな…)
会えば彼女について探りを入れるばかりで、レノ自身のことは何も聞いてこなかった。好きな食べ物や酒、趣味や休日の過ごし方、服の好み、そして女性の好み。改めて振り返ってみると自分のことばかりで、それにレノを付き合わせていただけだ。
「きっとつまらなかっただろうな」
「…急にどうしたんだよ」
信号待ちで止まった車のフロントガラスを流れる雨を見ながらぼんやりしているうち、つい心の声を外に漏らしてしまったようだ。
ヒロインははっとして口を押さえた。
「何でもない。レノが好きな下着の色考えてたの!」
自分でも下手な誤魔化し方だと思ったが、他に思いつかなかったのだから仕方がない。
案の定、レノは訝しむような顔をしていたが、突然にやりと笑った。その視線はヒロインの胸元に向かっていた。
「黒か紺か…意外と白ってのも…」
「変な想像しないで!」
ヒロインはレノが逃げるよりも素早く手を伸ばし、レノの頬をつねった。
「いててて…!自分はセクハラしてくるくせに、オレだけダメっておかしいだろ!」
「うるさい!」
ヒロインは一喝すると、レノから胸が見えないように身体ごと窓の方を向いた。
いつも先輩と後輩という関係だったのに、急にレノが男であることを意識させられてヒロインは戸惑っていた。恥ずかしさ、ほんの少しの怖さ、女性として見られたことに対する小さな喜びが思い切りかき混ぜられ、心に複雑な模様を描いていた。
「…無神経だったな。悪かったぞ、と」
「…気にしてない」
ヒロインはレノの視線を背中に感じていたが、振り向きもせずに言った。
背後でレノが小さく溜息をついた。きっとレノは気づかれない程度に留めたのだろうが、元々気配を感じるのが得意なヒロインにとってそれはあまり意味をなさなかった。
嫌われてしまったかもしれない。
そう思うと、心が潰れそうなほど痛んだ。
そもそもレノが好きなのは『彼女』であって自分ではない。一応同一人物なのだから、レノは自分に対してもある程度好意を持っているということに甘えすぎていたのかもしれない。
あれだけ暴力的で横柄な態度を取り続けたら、レノがヒロインを嫌いになってしまうのも当然だ。
気まずい空気のまま、車はショッピングモールの駐車場に入っていった。
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