12:誰が為に
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
レノはヒロインを神羅ビルに送り届けてから、現場に戻った。
立ち入り禁止エリアの境界には、深夜にも関わらず大勢の野次馬が押しかけていた。公式発表では、エリア内の夜間警備システムのトラブルとなっているらしい。とはいえ、エリア内の住人――特に事件現場近辺の住人に対しては、厳重な箝口令が敷かれていることだろう。何しろ、死体の山に毒ガスだ。外に漏らすわけにはいかない。
レノは境界で警備に当たっている神羅兵に声を掛け、中に入れてもらった。
「よう、相棒。手がかりは何かあったか?」
「いや」
「…相変わらず、逃げ足だけは立派だな」
レノは肩を竦め、近くの死体袋の山に目を遣った。
そして、眉をひそめた。
自分とヒロインが倒した敵の数よりも死体袋が多い。
「…風下にいた数人の市民に被害が出たらしい」
レノは拳をきつく握りしめた。
「さっさと殺しとくべきだったな」
余裕を見せた結果がこれとは、自分の頭をぶん殴りたくなる。
次は会った瞬間に殺しに行こうと決意し、レノは死体袋の山から視線を逸した。
翌日、レノは少し早めに出社した。あまりに珍しかったのか、ツォンが隈のできた目を丸くしていた。
「今日は雨でも降りそうだな」
「もう降ってるぞ、と」
ミッドガルは数日ぶりの雨だった。上空のどんよりとした雲は一日居座るようだ。
「気になってるのはヒロインさんか?」
「昨日駄々こねてたからな。大人しくしてるか心配してるだけだぞ、と」
そう言ったのは建前で、レノの本音は別のところにあった。
昨日、一度ヒロインの自宅に戻ったとき、ヒロインは怒った様子も悲しんだ様子もなく、しばらく静かにリビングに立ち尽くしていた。
そして、何かの紙切れとあの紙袋だけ手にすると、無感情な声で全部捨てていいと言った。
一切の感情が消え去ったようなヒロインを見て、また思い詰めていないかが心配だった。
コーヒーでも買って様子を見に行こうとしたとき、オフィスの扉が開いた。
「おはよう」
晴れやかな声と笑顔でヒロインが挨拶をした。
「おはようございます」
「おはようさん」
一見明るく見えるが、挨拶を返したときに一瞬ヒロインの顔が曇ったような気がした。今はもう快晴の空のように清々しい笑顔に戻っていたが、レノは少しだけ心に引っかかりを感じた。
「レノ、いいところに!今日ね、下着買いに行きたいから付き合って!」
一緒に下着を買いに行くという、明らかに誤解を招くヒロインの発言のせいで、ツォンはいつも以上に険しい顔をレノに向けた。
指名を受けたレノ自身も言葉を失う。
ヒロインは恐らく深く考えずに思ったことを口に出しただけなのだろうが、そのせいでいらぬ誤解を招くことが多々ある。
レノは大きく溜息をついた。
「先輩、下着ぐらい一人で買いに行けよ。つーか、男と買いに行くもんじゃねーだろ」
「だってルーファウス…副社長が、一人で買い物行くのダメだって言うから」
拗ねた子供のようにヒロインが頬を膨らませる。
「別にレノに選んでもらおうとか思ってないからさ。だからちょーっと付き合ってよ」
「あ、当たり前だろ!」
「あら、照れてるの?じゃあ、一つぐらい選ばせてあげようかな~」
意地の悪い顔をしたヒロインが、レノに顔を近づけてきた。
そして、細い指でレノの頬を軽くつつく。そのつつかれた頬にツォンの鋭い視線が刺さった。一応ヒロインが先輩ということもあり、ツォンはこの不謹慎な言動に対する怒りを抑えているのだろうが、その限界は近いようだ。
レノはヒロインの手を掴んで、強引にオフィスの外に連れ出した。
「そういうことだから、レノ借りてくね」
ヒロインはこの空気を全く意に介さない様子で、明るく手を振っていた。
扉が閉まる寸前、頭を抱えたツォンが見えた。
ヒロインはレノをからかっているだけで、その言動に深い意味はない。当の本人は男女の関係を匂わせているわけでもないし、ましてやセクハラをしている意識もない。
相変わらず言動で周りを振り回すヒロインのたちの悪さに、レノは再び溜息をつくのだった。
.
立ち入り禁止エリアの境界には、深夜にも関わらず大勢の野次馬が押しかけていた。公式発表では、エリア内の夜間警備システムのトラブルとなっているらしい。とはいえ、エリア内の住人――特に事件現場近辺の住人に対しては、厳重な箝口令が敷かれていることだろう。何しろ、死体の山に毒ガスだ。外に漏らすわけにはいかない。
レノは境界で警備に当たっている神羅兵に声を掛け、中に入れてもらった。
「よう、相棒。手がかりは何かあったか?」
「いや」
「…相変わらず、逃げ足だけは立派だな」
レノは肩を竦め、近くの死体袋の山に目を遣った。
そして、眉をひそめた。
自分とヒロインが倒した敵の数よりも死体袋が多い。
「…風下にいた数人の市民に被害が出たらしい」
レノは拳をきつく握りしめた。
「さっさと殺しとくべきだったな」
余裕を見せた結果がこれとは、自分の頭をぶん殴りたくなる。
次は会った瞬間に殺しに行こうと決意し、レノは死体袋の山から視線を逸した。
翌日、レノは少し早めに出社した。あまりに珍しかったのか、ツォンが隈のできた目を丸くしていた。
「今日は雨でも降りそうだな」
「もう降ってるぞ、と」
ミッドガルは数日ぶりの雨だった。上空のどんよりとした雲は一日居座るようだ。
「気になってるのはヒロインさんか?」
「昨日駄々こねてたからな。大人しくしてるか心配してるだけだぞ、と」
そう言ったのは建前で、レノの本音は別のところにあった。
昨日、一度ヒロインの自宅に戻ったとき、ヒロインは怒った様子も悲しんだ様子もなく、しばらく静かにリビングに立ち尽くしていた。
そして、何かの紙切れとあの紙袋だけ手にすると、無感情な声で全部捨てていいと言った。
一切の感情が消え去ったようなヒロインを見て、また思い詰めていないかが心配だった。
コーヒーでも買って様子を見に行こうとしたとき、オフィスの扉が開いた。
「おはよう」
晴れやかな声と笑顔でヒロインが挨拶をした。
「おはようございます」
「おはようさん」
一見明るく見えるが、挨拶を返したときに一瞬ヒロインの顔が曇ったような気がした。今はもう快晴の空のように清々しい笑顔に戻っていたが、レノは少しだけ心に引っかかりを感じた。
「レノ、いいところに!今日ね、下着買いに行きたいから付き合って!」
一緒に下着を買いに行くという、明らかに誤解を招くヒロインの発言のせいで、ツォンはいつも以上に険しい顔をレノに向けた。
指名を受けたレノ自身も言葉を失う。
ヒロインは恐らく深く考えずに思ったことを口に出しただけなのだろうが、そのせいでいらぬ誤解を招くことが多々ある。
レノは大きく溜息をついた。
「先輩、下着ぐらい一人で買いに行けよ。つーか、男と買いに行くもんじゃねーだろ」
「だってルーファウス…副社長が、一人で買い物行くのダメだって言うから」
拗ねた子供のようにヒロインが頬を膨らませる。
「別にレノに選んでもらおうとか思ってないからさ。だからちょーっと付き合ってよ」
「あ、当たり前だろ!」
「あら、照れてるの?じゃあ、一つぐらい選ばせてあげようかな~」
意地の悪い顔をしたヒロインが、レノに顔を近づけてきた。
そして、細い指でレノの頬を軽くつつく。そのつつかれた頬にツォンの鋭い視線が刺さった。一応ヒロインが先輩ということもあり、ツォンはこの不謹慎な言動に対する怒りを抑えているのだろうが、その限界は近いようだ。
レノはヒロインの手を掴んで、強引にオフィスの外に連れ出した。
「そういうことだから、レノ借りてくね」
ヒロインはこの空気を全く意に介さない様子で、明るく手を振っていた。
扉が閉まる寸前、頭を抱えたツォンが見えた。
ヒロインはレノをからかっているだけで、その言動に深い意味はない。当の本人は男女の関係を匂わせているわけでもないし、ましてやセクハラをしている意識もない。
相変わらず言動で周りを振り回すヒロインのたちの悪さに、レノは再び溜息をつくのだった。
.