12:誰が為に
ヒロイン
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空気に触れている腹部がヒリヒリと痛む。
恐る恐る指でその辺りに触れてみると、ぬるりとした感触とともに激痛が走った。
思い切り叫んだつもりだったが、声は出なかった。
長い長い時間をかけ、ようやく痛みが少し引いた。
痛みを呼び起こさないように、ヒロインはゆっくりと身体を起こし、腹部を見た。
そこにはひどい火傷の痕があった。
いや、今し方つけられたようなものもある。
水ぶくれになっているもの、水ぶくれが破れて膿んでいるもの、茶色い痣になっているもの、真っ赤になっているもの――いずれも醜い傷だった。
「ヒロイン、儀式の時間だ」
婚約者だと言ったあの男が気持ちの悪い笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。
男の手には、火のついたタバコがあった。
男は親指で灰を落とし、それをヒロインに向けた。
真っ赤な先端が身体に押し付けられた。
「いやああああああ!」
悲鳴を上げて飛び起きたヒロインは、すぐに自分の腹部を確認した。
そこは傷一つなく、指でふれても痛まなかった。
ヒロインはほっと息をついた。
「痛かった…?それとも、怖かった?」
ヒロインはもう一度、腹部を指でなぞった。
そこにあったであろう火傷の痕。
ヒロインはその傷に心当たりがあった。
病院で目覚めたときに身体にあった痣。
あれは、先程の夢で見たものとよく似ていた。
記憶を取り戻す手がかりになるのではないかと、夢の内容を思い出そうとしたが、少し前まであれほど鮮明だったものが、今ではすっかり靄がかかったように見えなくなっていた。
少しずつ、恐怖も薄れていく。
早く忘れたほうがいいと彼女が言っているような気がした。
ヒロインは再び横になり、ゆっくり目を閉じた。
夢で見るなら、あんな不快な男よりレノの方がずっといい。
「ねぇ、レノとの思い出、教えてよ…」
ヒロインは深く息をつき、ゆっくりと目を閉じた。
「何で裸で寝ているんだ…ヒロイン、服を着ろ!」
「うるさいなぁ…昨日遅かったんだから、寝かせて…」
あぁ、また怒ってる。無視しよう。
いつものことだとヒロインは耳を塞ぎ、再び夢の世界へと逃げようとした。
が、声の主――ルーファウスはそれを許してくれなかった。
「せめて隠せ」
顔に柔らかな何かが当たった。
痛くはなかったが、夢の世界は遠ざかっていった。
ヒロインは渋々目を開け、声のした方を薄目で見上げた。
案の定、怒った様子のルーファウスが冷たい表情でこちらを見下ろしていた。
「服はどうした」
「…全部捨てた」
昨日、あれからヒロインはレノと自宅に戻ったが、あの男がいただろう部屋にいる気にはなれなかった。
それに、部屋のありとあらゆるものに染み付いたタバコの臭いが不快だった。
あの男が自分の存在をアピールするために、念入りに臭いを残したのだろう。
安全だと思っていた自宅が安全でなくなった上、何もかもが汚らしく思えて、ヒロインはその場にいた神羅兵にすべて捨てていいと言って部屋を出た。
そのとき持ち出したのは、あの紙袋とレノの書き置きだけだ。
レノは何も言わなかった。
ヒロインを神羅ビルにあるタークス用の仮眠室に送ると、レノはそのまま男の捜索に戻って行った。
自分も行くとツォンに言ったが、ツォンはヒロインの同行を許可しなかったので、ヒロインは一人仮眠室に残ったのだった。
「…あとで下着買いに行ってくる。服は、スーツがあればいい」
ヒロインは部屋に残っていたタバコの臭いを思い出してしまい、口元を押さえてベッドに蹲った。
その背に毛布が掛けられた。
「怒って悪かった」
ルーファウスが謝るとは、きっとひどい顔をしているのだろう。
ヒロインは毛布にくるまり、膝を抱えた。
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恐る恐る指でその辺りに触れてみると、ぬるりとした感触とともに激痛が走った。
思い切り叫んだつもりだったが、声は出なかった。
長い長い時間をかけ、ようやく痛みが少し引いた。
痛みを呼び起こさないように、ヒロインはゆっくりと身体を起こし、腹部を見た。
そこにはひどい火傷の痕があった。
いや、今し方つけられたようなものもある。
水ぶくれになっているもの、水ぶくれが破れて膿んでいるもの、茶色い痣になっているもの、真っ赤になっているもの――いずれも醜い傷だった。
「ヒロイン、儀式の時間だ」
婚約者だと言ったあの男が気持ちの悪い笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。
男の手には、火のついたタバコがあった。
男は親指で灰を落とし、それをヒロインに向けた。
真っ赤な先端が身体に押し付けられた。
「いやああああああ!」
悲鳴を上げて飛び起きたヒロインは、すぐに自分の腹部を確認した。
そこは傷一つなく、指でふれても痛まなかった。
ヒロインはほっと息をついた。
「痛かった…?それとも、怖かった?」
ヒロインはもう一度、腹部を指でなぞった。
そこにあったであろう火傷の痕。
ヒロインはその傷に心当たりがあった。
病院で目覚めたときに身体にあった痣。
あれは、先程の夢で見たものとよく似ていた。
記憶を取り戻す手がかりになるのではないかと、夢の内容を思い出そうとしたが、少し前まであれほど鮮明だったものが、今ではすっかり靄がかかったように見えなくなっていた。
少しずつ、恐怖も薄れていく。
早く忘れたほうがいいと彼女が言っているような気がした。
ヒロインは再び横になり、ゆっくり目を閉じた。
夢で見るなら、あんな不快な男よりレノの方がずっといい。
「ねぇ、レノとの思い出、教えてよ…」
ヒロインは深く息をつき、ゆっくりと目を閉じた。
「何で裸で寝ているんだ…ヒロイン、服を着ろ!」
「うるさいなぁ…昨日遅かったんだから、寝かせて…」
あぁ、また怒ってる。無視しよう。
いつものことだとヒロインは耳を塞ぎ、再び夢の世界へと逃げようとした。
が、声の主――ルーファウスはそれを許してくれなかった。
「せめて隠せ」
顔に柔らかな何かが当たった。
痛くはなかったが、夢の世界は遠ざかっていった。
ヒロインは渋々目を開け、声のした方を薄目で見上げた。
案の定、怒った様子のルーファウスが冷たい表情でこちらを見下ろしていた。
「服はどうした」
「…全部捨てた」
昨日、あれからヒロインはレノと自宅に戻ったが、あの男がいただろう部屋にいる気にはなれなかった。
それに、部屋のありとあらゆるものに染み付いたタバコの臭いが不快だった。
あの男が自分の存在をアピールするために、念入りに臭いを残したのだろう。
安全だと思っていた自宅が安全でなくなった上、何もかもが汚らしく思えて、ヒロインはその場にいた神羅兵にすべて捨てていいと言って部屋を出た。
そのとき持ち出したのは、あの紙袋とレノの書き置きだけだ。
レノは何も言わなかった。
ヒロインを神羅ビルにあるタークス用の仮眠室に送ると、レノはそのまま男の捜索に戻って行った。
自分も行くとツォンに言ったが、ツォンはヒロインの同行を許可しなかったので、ヒロインは一人仮眠室に残ったのだった。
「…あとで下着買いに行ってくる。服は、スーツがあればいい」
ヒロインは部屋に残っていたタバコの臭いを思い出してしまい、口元を押さえてベッドに蹲った。
その背に毛布が掛けられた。
「怒って悪かった」
ルーファウスが謝るとは、きっとひどい顔をしているのだろう。
ヒロインは毛布にくるまり、膝を抱えた。
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