11:もう一つの約束
ヒロイン
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「久しぶりだな、ヒロイン。なぁ、またヤらせろよ。あぁ、今度は俺の仲間の相手も頼むぜ」
下品に笑う男をレノは思い切り睨みつけた。
レノに身体を預けているヒロインの身体が小刻みに震えている。
今にも倒れそうなヒロインを安心させようと、レノはヒロインの腰を支える腕に少し力をこめた。
「…無理」
顔を上げたヒロインは目に涙を浮かべ、真っ青な顔をしていた。
あの男のことは記憶にないはずだが、ヒロインはひどく怯えているように見えた。
「ごめん、レノ!もう無理!!」
ヒロインは2、3歩後ずさると、その場で身体を折って、近くの死体の上に吐瀉した。
レノも男も呆気にとられ、呆然とヒロインが吐き終わるのを眺めていた。
しばらくして振り返ったヒロインは、とても清々しい表情をしていた。
「すっきりした!けど、ちょっと口濯ぎたいかも」
男を無視して自販機の方に歩き出したヒロインを見て、レノは思い切り吹き出した。
対する男は、顔を真っ赤にしていた。
「ふざけやがって…!」
ミネラルウォーターを買って口を濯いでいたヒロインに男が銃口を向けた。
「誰だか知らないけど、女を口説くセンスなさすぎでしょ」
ヒロインの瞳に好戦的な光が宿ったのを見て、レノはヒロインの心配をするのをやめた。
不意打ちでないなら、怒りで我を忘れるような男にヒロインが負けるはずがない。
ヒロインが飲み終わったペットボトルを男に向かって投げた。
そして、男が一瞬そちらに視線を動かした隙に一気に間合いを詰めたヒロインが男の銃を蹴り上げた。
そのままの勢いで男の頭に一撃入れようとしたところで、男が距離をとった。
「…ひどいな、婚約者を忘れたってのか?」
「婚約者?あんたが?バカも休み休み言え」
ヒロインが男を鼻で笑った。
すると男が眉をひそめた。
「お前、まさか覚えてないのか?」
男が加虐的な笑みを浮かべ、手を叩いて大笑いを始めた。
「なら、俺が全部思い出させてやるよ。お前を犯したことも、儀式のことも、その男に全部見られて絶望したこともな!」
男がタバコに火をつけ、その煙をヒロインの方に向かって吐き出した。
一瞬、ヒロインが怯えた表情を見せたが、すぐに余裕のある笑みを浮かべてみせた。
「そう、覚えてない。そのタバコが不快っていうのは覚えてるけど」
ヒロインが一瞬、こちらを向いた。その顔はひどく苦しそうだった。
「でも、レノのことは覚えてた。彼女にとってあんたは、忘れてもいい存在だったってこと。あんたが彼女にしたことを私にしたとしても、私はあんたのことを絶対に思い出さない」
ヒロインの口調は静かだが、強さがあった。
みるみる男の顔が怒りに染まっていく。
男が拳を振り上げたのを見て、レノは二人の間に割って入った。
「そんなだから、ヒロインに忘れられたんだぞ、と」
レノは男の喉元にロッドを突きつけ、にやりと笑った。
そして、男が動きを止めた瞬間を見逃さず、ヒロインが男の鳩尾に鋭い突きを放った。
ように見えた。
男の身体に触れる寸前で、ヒロインは拳を止めていた。
どうしたのかとレノは眉をひそめたと同時に、ヒロインがレノの手を引いた。
「逃げるよ!」
どうしてなのか問う必要はなかった。
男がジャケットを開き、液体の入った透明なビニールパックをこちらに向かって投げた。
それは地面にぶつかり、パン!という軽い音を立てて破裂した。
ビニールパックがぶつかった場所から白い煙が立ち上った。
「レノ、応援部隊に連絡!ここから半径100mを封鎖、危険物処理班を大至急。防護服必須!」
全力で走りながら、レノはヒロインに指示された通りに応援部隊に連絡を入れた。
二人は風下から風上へと移動し、煙がやってこないのを確認してようやく一息ついた。
「よくわかったな」
「女の勘。そんなことより、私、レノに謝らないといけない」
ヒロインのおかげで危機を回避できたというのに、何を謝ることがあると言うのだろうか。
「どうしたんだよ、急に」
先程までの闊達な様子は消え失せ、ヒロインはひどく思いつめた顔をしていた。
そして、その華奢な拳が強く握られた。
「レノを傷つける残酷な嘘をついた」
「あぁ、さっきのか」
――彼女にとってあんたは、忘れてもいい存在だったってこと
ヒロインが咄嗟についた嘘。
それがレノ自身に当てはまるとは微塵も思っていなかったが、ヒロインは気にしていたようだ。
こちらに向けられたヒロインの表情はひどく真剣で、苦しそうに見えた。
「彼女は、レノのこと忘れていい存在だなんて思ってないよ」
それが本当ならうれしい。
しかし、レノが聞きたいのは、今いない彼女の気持ちではなかった。
「先輩は、どうなんだよ」
目の前にいて、その言葉を口にしたヒロイン自身の気持ちを知りたかった。
ヒロインは少し戸惑ったような表情を浮かべ、視線を泳がせた。
「私、は…私も、同じように思ってる。でも、覚えてないのは事実だから…ごめん」
あの男が現れると、ヒロインはいつも辛そうな顔をする。
覚えていても、覚えていなくても。
そんな顔をヒロインにさせなくても済むように、早くあの男を始末しなければ。
レノは決意を新たに、拳を握りしめた。
To be continued...
2021/09/18
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下品に笑う男をレノは思い切り睨みつけた。
レノに身体を預けているヒロインの身体が小刻みに震えている。
今にも倒れそうなヒロインを安心させようと、レノはヒロインの腰を支える腕に少し力をこめた。
「…無理」
顔を上げたヒロインは目に涙を浮かべ、真っ青な顔をしていた。
あの男のことは記憶にないはずだが、ヒロインはひどく怯えているように見えた。
「ごめん、レノ!もう無理!!」
ヒロインは2、3歩後ずさると、その場で身体を折って、近くの死体の上に吐瀉した。
レノも男も呆気にとられ、呆然とヒロインが吐き終わるのを眺めていた。
しばらくして振り返ったヒロインは、とても清々しい表情をしていた。
「すっきりした!けど、ちょっと口濯ぎたいかも」
男を無視して自販機の方に歩き出したヒロインを見て、レノは思い切り吹き出した。
対する男は、顔を真っ赤にしていた。
「ふざけやがって…!」
ミネラルウォーターを買って口を濯いでいたヒロインに男が銃口を向けた。
「誰だか知らないけど、女を口説くセンスなさすぎでしょ」
ヒロインの瞳に好戦的な光が宿ったのを見て、レノはヒロインの心配をするのをやめた。
不意打ちでないなら、怒りで我を忘れるような男にヒロインが負けるはずがない。
ヒロインが飲み終わったペットボトルを男に向かって投げた。
そして、男が一瞬そちらに視線を動かした隙に一気に間合いを詰めたヒロインが男の銃を蹴り上げた。
そのままの勢いで男の頭に一撃入れようとしたところで、男が距離をとった。
「…ひどいな、婚約者を忘れたってのか?」
「婚約者?あんたが?バカも休み休み言え」
ヒロインが男を鼻で笑った。
すると男が眉をひそめた。
「お前、まさか覚えてないのか?」
男が加虐的な笑みを浮かべ、手を叩いて大笑いを始めた。
「なら、俺が全部思い出させてやるよ。お前を犯したことも、儀式のことも、その男に全部見られて絶望したこともな!」
男がタバコに火をつけ、その煙をヒロインの方に向かって吐き出した。
一瞬、ヒロインが怯えた表情を見せたが、すぐに余裕のある笑みを浮かべてみせた。
「そう、覚えてない。そのタバコが不快っていうのは覚えてるけど」
ヒロインが一瞬、こちらを向いた。その顔はひどく苦しそうだった。
「でも、レノのことは覚えてた。彼女にとってあんたは、忘れてもいい存在だったってこと。あんたが彼女にしたことを私にしたとしても、私はあんたのことを絶対に思い出さない」
ヒロインの口調は静かだが、強さがあった。
みるみる男の顔が怒りに染まっていく。
男が拳を振り上げたのを見て、レノは二人の間に割って入った。
「そんなだから、ヒロインに忘れられたんだぞ、と」
レノは男の喉元にロッドを突きつけ、にやりと笑った。
そして、男が動きを止めた瞬間を見逃さず、ヒロインが男の鳩尾に鋭い突きを放った。
ように見えた。
男の身体に触れる寸前で、ヒロインは拳を止めていた。
どうしたのかとレノは眉をひそめたと同時に、ヒロインがレノの手を引いた。
「逃げるよ!」
どうしてなのか問う必要はなかった。
男がジャケットを開き、液体の入った透明なビニールパックをこちらに向かって投げた。
それは地面にぶつかり、パン!という軽い音を立てて破裂した。
ビニールパックがぶつかった場所から白い煙が立ち上った。
「レノ、応援部隊に連絡!ここから半径100mを封鎖、危険物処理班を大至急。防護服必須!」
全力で走りながら、レノはヒロインに指示された通りに応援部隊に連絡を入れた。
二人は風下から風上へと移動し、煙がやってこないのを確認してようやく一息ついた。
「よくわかったな」
「女の勘。そんなことより、私、レノに謝らないといけない」
ヒロインのおかげで危機を回避できたというのに、何を謝ることがあると言うのだろうか。
「どうしたんだよ、急に」
先程までの闊達な様子は消え失せ、ヒロインはひどく思いつめた顔をしていた。
そして、その華奢な拳が強く握られた。
「レノを傷つける残酷な嘘をついた」
「あぁ、さっきのか」
――彼女にとってあんたは、忘れてもいい存在だったってこと
ヒロインが咄嗟についた嘘。
それがレノ自身に当てはまるとは微塵も思っていなかったが、ヒロインは気にしていたようだ。
こちらに向けられたヒロインの表情はひどく真剣で、苦しそうに見えた。
「彼女は、レノのこと忘れていい存在だなんて思ってないよ」
それが本当ならうれしい。
しかし、レノが聞きたいのは、今いない彼女の気持ちではなかった。
「先輩は、どうなんだよ」
目の前にいて、その言葉を口にしたヒロイン自身の気持ちを知りたかった。
ヒロインは少し戸惑ったような表情を浮かべ、視線を泳がせた。
「私、は…私も、同じように思ってる。でも、覚えてないのは事実だから…ごめん」
あの男が現れると、ヒロインはいつも辛そうな顔をする。
覚えていても、覚えていなくても。
そんな顔をヒロインにさせなくても済むように、早くあの男を始末しなければ。
レノは決意を新たに、拳を握りしめた。
To be continued...
2021/09/18
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