11:もう一つの約束
ヒロイン
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…レノはさ、彼女のどこを好きになったの?」
唐突な問いにレノは口に含んでいた水で思い切りむせた。
ヒロインの目はとろんとしたままだったが、その視線はレノに真っ直ぐ向けられていた。
酔っ払いのくせに、ヒロインはしっかりと目でレノの様子を探っている。
当の本人を前にして、好きではないとは言えない。
かといって、好きになったヒロインはいないのに、好きだとも言えない。
「さぁな」
袋小路に追い込まれながら、レノは答えをはぐらかした。
あわよくば、酔っ払って思考がふやけた状態のヒロインが見逃してくれることを期待して。
すると、ヒロインは寂しそうな顔で笑った。
「教えてくれないか、やっぱり。いじわる」
それはいつもと違ってとても可愛らしい響きを帯びており、レノは思わずどきりとした。
「じゃあ、別の質問。人を好きになるって、どんな感じ?」
だんだんとヒロインの視線が鋭くなってくる。
もうその目に酔いの影響は見えない。
「今の私にはその経験がないから、教えてよ」
「教えてって言われてもな…」
恋愛感情を言葉で説明するには難しいし、説明して頭で理解できたとしてあまり意味はないだろう。
「前に病院で言ったでしょ。何かが足りないって。たぶん、彼女は好きって気持ちを知ってたんだと思う」
レノの心がずきりと痛んだ。
動揺を悟られまいとヒロインから目は逸らさなかったが、思わずグラスを持つ手に力が入った。
レノの知る限り、ヒロインが好きになったのはあの男だけだ。
確かにそれを知ることは記憶を取り戻す助けにはなるだろう。
しかしそれは、心を引き裂くような痛みを伴っている。
そんなもの思い出さないほうがいい。
「その気持ち、すごく大事なものだったはずだから、忘れたままはダメだと思うんだ」
かつての相棒を好きになったことが大事なものだと言われ、怒りと悲しみと苦しさが心を掻き乱す。
ヒロインの言ったことを否定する寸前で、レノはなんとか思いとどまった。
「ねぇ、一つお願いというか、約束しない?」
「…何を」
ヒロインがにこりと笑った。
「私が彼女に近づけるように、レノが私の記憶を取り戻す手助けをするって約束」
なんて残酷なことを言うのだろうか。
他の、よりにもよってあの男を好きだった気持ちが大切で、それを取り戻す手助けを頼むなんて。
ヒロインのことが好きな自分に。
「ほら、指出して」
ヒロインはレノの気持ちなどお構いなしに指切りをした。
繋がる二人の指を見ながら、レノはコスタでした約束を思い出していた。
その約束が上書きされてしまう。
レノはそっと絡められた指をほどいた。
「嘘ついたら――」
指をほどいたのだから、この約束は無効だ。
勝手に言っていればいい。
ヒロインとの約束は一つだけでいい。
「もし記憶が戻らなかったら、今の私のことも好きになって」
再び、二人の指が絡められる。
レノははっとしてヒロインの方を見た。
ヒロインは、少し照れたような笑みを浮かべていた。
穏やかで暖かい、懐かしい笑顔だった。
「ちゃんと思い出したいの。絶対に大事だったはずだから。レノがいたら、きっと思い出せる。じゃあ約束ね」
ヒロインは指を解くと、トイレに行くと言って個室を出ていった。
一人残ったレノは、混乱状態の頭を整理しようと奮闘していた。
ヒロインのすごく大事だったもの。
それは、元婚約者のあの男とのことを言っているのだと思ったが、この会話を初めから終わりまで冷静に思い返してみると――
「…まさか」
レノはにやけそうになる口元を手で隠した。
途中で脱線した自分の思考を除けば、ヒロインの感情の向かう先は自分しかいなかった。
.
唐突な問いにレノは口に含んでいた水で思い切りむせた。
ヒロインの目はとろんとしたままだったが、その視線はレノに真っ直ぐ向けられていた。
酔っ払いのくせに、ヒロインはしっかりと目でレノの様子を探っている。
当の本人を前にして、好きではないとは言えない。
かといって、好きになったヒロインはいないのに、好きだとも言えない。
「さぁな」
袋小路に追い込まれながら、レノは答えをはぐらかした。
あわよくば、酔っ払って思考がふやけた状態のヒロインが見逃してくれることを期待して。
すると、ヒロインは寂しそうな顔で笑った。
「教えてくれないか、やっぱり。いじわる」
それはいつもと違ってとても可愛らしい響きを帯びており、レノは思わずどきりとした。
「じゃあ、別の質問。人を好きになるって、どんな感じ?」
だんだんとヒロインの視線が鋭くなってくる。
もうその目に酔いの影響は見えない。
「今の私にはその経験がないから、教えてよ」
「教えてって言われてもな…」
恋愛感情を言葉で説明するには難しいし、説明して頭で理解できたとしてあまり意味はないだろう。
「前に病院で言ったでしょ。何かが足りないって。たぶん、彼女は好きって気持ちを知ってたんだと思う」
レノの心がずきりと痛んだ。
動揺を悟られまいとヒロインから目は逸らさなかったが、思わずグラスを持つ手に力が入った。
レノの知る限り、ヒロインが好きになったのはあの男だけだ。
確かにそれを知ることは記憶を取り戻す助けにはなるだろう。
しかしそれは、心を引き裂くような痛みを伴っている。
そんなもの思い出さないほうがいい。
「その気持ち、すごく大事なものだったはずだから、忘れたままはダメだと思うんだ」
かつての相棒を好きになったことが大事なものだと言われ、怒りと悲しみと苦しさが心を掻き乱す。
ヒロインの言ったことを否定する寸前で、レノはなんとか思いとどまった。
「ねぇ、一つお願いというか、約束しない?」
「…何を」
ヒロインがにこりと笑った。
「私が彼女に近づけるように、レノが私の記憶を取り戻す手助けをするって約束」
なんて残酷なことを言うのだろうか。
他の、よりにもよってあの男を好きだった気持ちが大切で、それを取り戻す手助けを頼むなんて。
ヒロインのことが好きな自分に。
「ほら、指出して」
ヒロインはレノの気持ちなどお構いなしに指切りをした。
繋がる二人の指を見ながら、レノはコスタでした約束を思い出していた。
その約束が上書きされてしまう。
レノはそっと絡められた指をほどいた。
「嘘ついたら――」
指をほどいたのだから、この約束は無効だ。
勝手に言っていればいい。
ヒロインとの約束は一つだけでいい。
「もし記憶が戻らなかったら、今の私のことも好きになって」
再び、二人の指が絡められる。
レノははっとしてヒロインの方を見た。
ヒロインは、少し照れたような笑みを浮かべていた。
穏やかで暖かい、懐かしい笑顔だった。
「ちゃんと思い出したいの。絶対に大事だったはずだから。レノがいたら、きっと思い出せる。じゃあ約束ね」
ヒロインは指を解くと、トイレに行くと言って個室を出ていった。
一人残ったレノは、混乱状態の頭を整理しようと奮闘していた。
ヒロインのすごく大事だったもの。
それは、元婚約者のあの男とのことを言っているのだと思ったが、この会話を初めから終わりまで冷静に思い返してみると――
「…まさか」
レノはにやけそうになる口元を手で隠した。
途中で脱線した自分の思考を除けば、ヒロインの感情の向かう先は自分しかいなかった。
.