11:もう一つの約束
ヒロイン
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レノは一度会社に戻って車を置くと、会社から少し離れたところにある馴染みの店にヒロインを連れて行った。
事件の前に一緒に行こうとした店とはまた別の店だった。
あの店にはまだ、記憶を失くしたままのヒロインと行く気にはなれなかった。
「なぁ、退院祝いなのにルードたち呼ばなくていいのかよ」
道中、レノはどうしてもヒロインと二人きりになりたくなくて尋ねたが、ヒロインは意地の悪い顔をして言った。
「レノと二人で飲みたいの」
それだけ聞けば色っぽい誘い文句なのだが、ヒロインの表情と合わせてみれば、何らかの企みがあることは明らかだった。
恐らく、病院での話の続きだ。
腹の探り合いをしながらとは、不味い酒になりそうだとレノは肩を落とした。
「珍しいな、彼女連れなんて」
「彼女じゃないぞ、と。ただの先輩」
『可愛げのない』と心の中で付け加えてレノは否定したが、店長はにやにやと笑いながら、変な気を利かせて個室に通してくれた。
「気が利くね、店長さん。内緒話したかったから助かるなぁ」
ヒロインはにこにこと人のいい笑顔を浮かべた裏で、どうレノを問い詰めるのか算段しているに違いない。
今から胃がキリキリする。
レノは引きつった顔でヒロインの満面の笑みを受け止めた。
しかし、レノの予想に反して、ヒロインは全く過去の話を始めようとはしなかった。
どうやら料理が気に入ったらしく、店長におすすめを聞きながら、あれこれと注文している。
「…太るぞ」
酒で警戒が緩んでいたレノは、思わず口を滑らせた。
しまったと思った頃にはもう遅い。
正面に座るヒロインが、鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
そして、レノが避ける暇もない勢いで、身を乗り出したヒロインがレノの頬をつねりあげた。
「減らず口ばっかり!」
思い切りつねられた頬をさらに引っ張られ、ようやく解放されたときには頬がじんじんと痛んでいた。
「大体、レノは食べなすぎ!いつもそうなの?ご飯ちゃんと食べなさい!」
「母親かよ」
再び余計なことをうっかり口にしたレノは、恐る恐るヒロインを見た。
その頭にうっすらと鬼の角が見えたような気がした。
「…私がレノの母親なら、とっくにその生意気な口にご飯突っ込んでる」
落ち着いた声ではあったが、その裏では怒りの炎がメラメラと燃えているのは明らかだった。
ヒロインの鋭い視線に耐えられず、レノは思わず視線を逸した。
「彼女にもそういうこと言ってたの?それとも、私にだけ?」
ヒロインに問われ、レノは自分の記憶を探ってみた。
そういえば、コスタで何度か同じことでからかった気がする。
そう言うと、ヒロインは頬杖をついて、にやにやと笑っていた。
「へぇ、なるほどね。で、同じように怒られたと」
「先輩の方が数倍怖ぇけどな」
「ふーん…彼女、10年で大人になってたってことかな」
「さぁな」
ヒロインはどこか遠くを見ていた。
忘れてしまった10年間に思いを馳せるように、
しばらく、ヒロインは静かに酒を飲んでいた。
少しずつその頬が赤く色づき始め、目もとろんとしてきている。
前に自宅に行ったときのように完全に酔っ払われると厄介なので、レノは水を注文し、ヒロインの方にそのグラスを置いた。
このままだと酔っ払ったままのヒロインを送り届けなければならなそうなので、レノも酔い醒ましに水を一口飲んだ。
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事件の前に一緒に行こうとした店とはまた別の店だった。
あの店にはまだ、記憶を失くしたままのヒロインと行く気にはなれなかった。
「なぁ、退院祝いなのにルードたち呼ばなくていいのかよ」
道中、レノはどうしてもヒロインと二人きりになりたくなくて尋ねたが、ヒロインは意地の悪い顔をして言った。
「レノと二人で飲みたいの」
それだけ聞けば色っぽい誘い文句なのだが、ヒロインの表情と合わせてみれば、何らかの企みがあることは明らかだった。
恐らく、病院での話の続きだ。
腹の探り合いをしながらとは、不味い酒になりそうだとレノは肩を落とした。
「珍しいな、彼女連れなんて」
「彼女じゃないぞ、と。ただの先輩」
『可愛げのない』と心の中で付け加えてレノは否定したが、店長はにやにやと笑いながら、変な気を利かせて個室に通してくれた。
「気が利くね、店長さん。内緒話したかったから助かるなぁ」
ヒロインはにこにこと人のいい笑顔を浮かべた裏で、どうレノを問い詰めるのか算段しているに違いない。
今から胃がキリキリする。
レノは引きつった顔でヒロインの満面の笑みを受け止めた。
しかし、レノの予想に反して、ヒロインは全く過去の話を始めようとはしなかった。
どうやら料理が気に入ったらしく、店長におすすめを聞きながら、あれこれと注文している。
「…太るぞ」
酒で警戒が緩んでいたレノは、思わず口を滑らせた。
しまったと思った頃にはもう遅い。
正面に座るヒロインが、鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
そして、レノが避ける暇もない勢いで、身を乗り出したヒロインがレノの頬をつねりあげた。
「減らず口ばっかり!」
思い切りつねられた頬をさらに引っ張られ、ようやく解放されたときには頬がじんじんと痛んでいた。
「大体、レノは食べなすぎ!いつもそうなの?ご飯ちゃんと食べなさい!」
「母親かよ」
再び余計なことをうっかり口にしたレノは、恐る恐るヒロインを見た。
その頭にうっすらと鬼の角が見えたような気がした。
「…私がレノの母親なら、とっくにその生意気な口にご飯突っ込んでる」
落ち着いた声ではあったが、その裏では怒りの炎がメラメラと燃えているのは明らかだった。
ヒロインの鋭い視線に耐えられず、レノは思わず視線を逸した。
「彼女にもそういうこと言ってたの?それとも、私にだけ?」
ヒロインに問われ、レノは自分の記憶を探ってみた。
そういえば、コスタで何度か同じことでからかった気がする。
そう言うと、ヒロインは頬杖をついて、にやにやと笑っていた。
「へぇ、なるほどね。で、同じように怒られたと」
「先輩の方が数倍怖ぇけどな」
「ふーん…彼女、10年で大人になってたってことかな」
「さぁな」
ヒロインはどこか遠くを見ていた。
忘れてしまった10年間に思いを馳せるように、
しばらく、ヒロインは静かに酒を飲んでいた。
少しずつその頬が赤く色づき始め、目もとろんとしてきている。
前に自宅に行ったときのように完全に酔っ払われると厄介なので、レノは水を注文し、ヒロインの方にそのグラスを置いた。
このままだと酔っ払ったままのヒロインを送り届けなければならなそうなので、レノも酔い醒ましに水を一口飲んだ。
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