10:月と太陽
ヒロイン
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レノたちは二手に分かれて部屋の片付けを始めた。
彼女は主に洗濯を、レノは部屋の掃除だ。
だらだらとゴミを拾っていると真面目に働けと尻を叩かれ、セクハラだと言うと「うるさい!」と一蹴される。
横暴で乱暴でこれはまさに――
「…暴君だな」
「何か言った!?」
ぽつりと漏らした独り言は見事に暴君に拾われ、額を指で思い切り弾かれた。
心で散々悪態をつきながら、それでもレノは掃除を続けた。
途中でやめたり、手を抜いたら、何を言われるかわからない。
(さっさと終わらせて、ルードと飲みに行くか…)
そして、今日の愚痴を聞いてもらおうと思った。
ようやくリビングの缶と瓶をゴミ袋に詰め終え、レノはその他の散らかったゴミを片付け始めていた。
ぐるぐると部屋を回りながらゴミを拾っていると、ソファの陰に紙袋が置かれていることに気づいた。
ブランド名が印刷された紙袋を見て、レノは顔を曇らせた。
それは、あの日ヒロインが着ていたであろう服を買ったときの紙袋に違いなかった。
ヒロインが着ているところを一度も見られないまま、ずたずたに引き裂かれ、破り捨てられた服たち。
自分に会うためにおしゃれをしてくれたうれしさと同時に、抑えきれない悲しみが溢れてくる。
きっと買った服はヒロインによく似合っていたことだろう。
それをあの男は――
レノは怒りで拳を震わせた。
「あ、きれいな紙袋!ね、私にも見せて」
レノは我に返り、思わず紙袋を背後に隠した。
しかし、それがよくなかった。
「何で隠すの!?」
余計な関心を引いてしまったことで、彼女がムキになって手を伸ばしてくる。
落ち着けと言っても聞きやしない。
まるでわがままでやんちゃな子供を相手にしているようだ。
彼女が手を伸ばしたのと逆の手に紙袋を持ち替えたとき、紙袋から何かが落ちた。
小さな紙片のようなものだった。
彼女の関心はそちらに向き、レノではなく落ちた紙片に手を伸ばしていた。
レノはどっと疲れて、ソファに座り込んだ。
「…これ、レノのプレゼント?」
彼女がレノの目の前に拾った紙片を突きつけた。
それは服についていた値札のようだった。
「高っ!」
さすがのレノも服の値段に驚いて二度見した。
ますますあの男に対する怒りが湧き上がってくる。
「じゃあ自分で買ったのか。服、どこいったんだろ」
知っているかと彼女の目が言う。
レノは首を振ってみせた。
事件の証拠品として保管庫にあるなどとどうして言えようか。
それに、あの服はもう着れる状態ではない。
「まぁ、いいんだけど、別に。紙袋、捨てずに置いておいて」
言葉とは裏腹に全くいいとは思っていない顔だった。
彼女は洗濯機のブザーが鳴ったので洗濯の続きに戻って行った。
レノは紙袋を片付け終わったテーブルの上に置くと、掃除を再開した。
残りのゴミを集め、集積所にゴミを捨て終わったのは、真っ赤な夕日が西に沈む頃だった。
「ありがとう、レノ」
ゴミ捨てから戻ったレノの目に一番最初に飛び込んできたのは、色とりどりの下着だった。
わざとやっているのではないかと思うぐらい、そういうところは気が回らないようだ。
「どういたしまして」
目のやり場に困っていると、彼女がレノの手を取った。
「さ、飲みに行こっか」
「は?」
玄関の方に向かって手を引いていた彼女が足を止め、レノに向き直った。
「もしかして、先約あり?」
「そういうわけじゃ――」
「じゃあ行こ。私の退院祝い!レノのおごり!」
彼女は満面の笑みを浮かべていた。
が、レノは渋い顔をした。
「先輩、こっちは掃除のお礼してほしいぐらいだぞ、と」
この前の掃除の御礼すらしてもらっていないのだ。
彼女は覚えていないだろうが。
「それは…今日の?それとも…」
わずかに彼女の顔が曇ったように見えたが、瞬きをするとそれは消えていた。
「んー、じゃあ、レノは私の退院祝い。私はレノに掃除のお礼。つまり割り勘!その代わり、お店はレノが選んでね。ご飯が美味しいところ!」
彼女とヒロインは、違うようで同じ。
その上に積み上がっていた経験があるかないかだけで、根っこの部分は一緒なのだ。
知らない女だと思っていたが、少しずつ彼女にヒロインが交わっていくような、不思議な感覚をレノは覚え始めていた。
To be continued...
2021/07/08
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彼女は主に洗濯を、レノは部屋の掃除だ。
だらだらとゴミを拾っていると真面目に働けと尻を叩かれ、セクハラだと言うと「うるさい!」と一蹴される。
横暴で乱暴でこれはまさに――
「…暴君だな」
「何か言った!?」
ぽつりと漏らした独り言は見事に暴君に拾われ、額を指で思い切り弾かれた。
心で散々悪態をつきながら、それでもレノは掃除を続けた。
途中でやめたり、手を抜いたら、何を言われるかわからない。
(さっさと終わらせて、ルードと飲みに行くか…)
そして、今日の愚痴を聞いてもらおうと思った。
ようやくリビングの缶と瓶をゴミ袋に詰め終え、レノはその他の散らかったゴミを片付け始めていた。
ぐるぐると部屋を回りながらゴミを拾っていると、ソファの陰に紙袋が置かれていることに気づいた。
ブランド名が印刷された紙袋を見て、レノは顔を曇らせた。
それは、あの日ヒロインが着ていたであろう服を買ったときの紙袋に違いなかった。
ヒロインが着ているところを一度も見られないまま、ずたずたに引き裂かれ、破り捨てられた服たち。
自分に会うためにおしゃれをしてくれたうれしさと同時に、抑えきれない悲しみが溢れてくる。
きっと買った服はヒロインによく似合っていたことだろう。
それをあの男は――
レノは怒りで拳を震わせた。
「あ、きれいな紙袋!ね、私にも見せて」
レノは我に返り、思わず紙袋を背後に隠した。
しかし、それがよくなかった。
「何で隠すの!?」
余計な関心を引いてしまったことで、彼女がムキになって手を伸ばしてくる。
落ち着けと言っても聞きやしない。
まるでわがままでやんちゃな子供を相手にしているようだ。
彼女が手を伸ばしたのと逆の手に紙袋を持ち替えたとき、紙袋から何かが落ちた。
小さな紙片のようなものだった。
彼女の関心はそちらに向き、レノではなく落ちた紙片に手を伸ばしていた。
レノはどっと疲れて、ソファに座り込んだ。
「…これ、レノのプレゼント?」
彼女がレノの目の前に拾った紙片を突きつけた。
それは服についていた値札のようだった。
「高っ!」
さすがのレノも服の値段に驚いて二度見した。
ますますあの男に対する怒りが湧き上がってくる。
「じゃあ自分で買ったのか。服、どこいったんだろ」
知っているかと彼女の目が言う。
レノは首を振ってみせた。
事件の証拠品として保管庫にあるなどとどうして言えようか。
それに、あの服はもう着れる状態ではない。
「まぁ、いいんだけど、別に。紙袋、捨てずに置いておいて」
言葉とは裏腹に全くいいとは思っていない顔だった。
彼女は洗濯機のブザーが鳴ったので洗濯の続きに戻って行った。
レノは紙袋を片付け終わったテーブルの上に置くと、掃除を再開した。
残りのゴミを集め、集積所にゴミを捨て終わったのは、真っ赤な夕日が西に沈む頃だった。
「ありがとう、レノ」
ゴミ捨てから戻ったレノの目に一番最初に飛び込んできたのは、色とりどりの下着だった。
わざとやっているのではないかと思うぐらい、そういうところは気が回らないようだ。
「どういたしまして」
目のやり場に困っていると、彼女がレノの手を取った。
「さ、飲みに行こっか」
「は?」
玄関の方に向かって手を引いていた彼女が足を止め、レノに向き直った。
「もしかして、先約あり?」
「そういうわけじゃ――」
「じゃあ行こ。私の退院祝い!レノのおごり!」
彼女は満面の笑みを浮かべていた。
が、レノは渋い顔をした。
「先輩、こっちは掃除のお礼してほしいぐらいだぞ、と」
この前の掃除の御礼すらしてもらっていないのだ。
彼女は覚えていないだろうが。
「それは…今日の?それとも…」
わずかに彼女の顔が曇ったように見えたが、瞬きをするとそれは消えていた。
「んー、じゃあ、レノは私の退院祝い。私はレノに掃除のお礼。つまり割り勘!その代わり、お店はレノが選んでね。ご飯が美味しいところ!」
彼女とヒロインは、違うようで同じ。
その上に積み上がっていた経験があるかないかだけで、根っこの部分は一緒なのだ。
知らない女だと思っていたが、少しずつ彼女にヒロインが交わっていくような、不思議な感覚をレノは覚え始めていた。
To be continued...
2021/07/08
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