10:月と太陽
ヒロイン
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あれから1週間が経ち、ヒロインは無事退院の日を迎えた。
顔や体の傷、火傷の痕はすっかり消えたが、首の切り傷だけは残ったままだった。
ヒロインはスーツに着替えながら、首筋の傷を指でなぞった。
傷はふさがっていたが、そこだけが歪に盛り上がっていた。
じっとその傷を見つめた後、ヒロインは利き手の人差し指を立て、それをナイフに見立てて手前に引いた。
傷の角度は自分でナイフを引いた角度に一致していた。
「ねえ、何で死のうとしたの?」
答えはない。
「何があったの?」
10年の間に何があったのかツォンから話は聞いたが、それは肝心の部分が欠けていた。
首の傷についてもツォンに聞いたが、彼は任務中の怪我だと言った。
それで誤魔化せると思ったのなら、甘く見られたものだ。
任務中にこんな傷を負ったなら、とっくに死んでいる。
「聞いても誰も答えてくれないんだろうな」
ルーファウスもツォンもルードも、全員示し合わせたように最近のことについては口を噤む。
そして、自分を知る『ヒロイン』に一番会いたいであろうレノですら、頑なに話そうとしなかった。
みんなが隠そうとしているそれこそが、彼女が死のうとした原因と理由だろう。
「もし知ったら、私も同じことするのかな」
それとも、思いとどまるだろうか。
それに対する答えはまだなかった。
ルーファウスが自宅に送り届けてくれたが、この場所をヒロインは知らなかった。
自宅と言われても実感がなく、部屋に入ってもそれは同じだった。
他人の家に上がり込んでいるような違和感を感じつつ、ヒロインはリビングに繋がる扉を開けた。
そこは、まさにゴミ屋敷だった。
リビングのあまりの惨状に言葉を失い、ヒロインは呆然とその場に立ち尽くした。
「なにこれ…」
テーブルに所狭しと並ぶ空き缶と空き瓶、デリバリーフードの空き箱は辛うじてゴミ袋に入って入るが口は開いたまま。
それに混ざって脱ぎっぱなしの服もそこかしこに落ちている。
下着は流石に落ちていないようだったが、汚いことに変わりはなかった。
「10年で何があったらこうなるの…?」
派手に散らかしたまま片付けだけを自分に押し付けた彼女に軽く怒りを覚えつつ、ヒロインはまずゴミ袋を探すことにした。
その途中で、冷蔵庫に貼られている書き置きのようなものが目に入った。
ヒロインはそれを手にとり、最後まで読んで絶句した。
「リビングに下着…」
そんな状態で後輩のレノに掃除させたのだろうか。
だんだん頭が痛くなってくる。
この有様を見ればだらしない生活をしていたのはわかっていたが、まさか脱いだものをそのまま放置するほど自堕落な生活を送っていたとは、さすがに自分のことながら呆れ果てた。
それにしても、彼女とレノはどんな関係だったのだろう。
レノを家に招いたのなら、相当に近しい関係と言える。
それにこの書き置きを大事に取っておくくらいだ。ただの同僚というよりは――
「もしかして、彼女――」
レノのことを好きだったのでは?
思い当たった一つの事柄に、ヒロインは愕然とした。
それを、そんな大事なことを忘れているのだろうか。
心がざわざわと落ち着かない。
人を好きになった経験のないヒロインでも、その気持ちがとても大切なものだということはわかる。
ならば何故、忘れているのか。
唯一答えを知る彼女は答えてくれない。
いや、もう一人いる。
ヒロインはリビングに戻って携帯を探すと、書き置きに書かれているレノの携帯に電話を掛けた。
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顔や体の傷、火傷の痕はすっかり消えたが、首の切り傷だけは残ったままだった。
ヒロインはスーツに着替えながら、首筋の傷を指でなぞった。
傷はふさがっていたが、そこだけが歪に盛り上がっていた。
じっとその傷を見つめた後、ヒロインは利き手の人差し指を立て、それをナイフに見立てて手前に引いた。
傷の角度は自分でナイフを引いた角度に一致していた。
「ねえ、何で死のうとしたの?」
答えはない。
「何があったの?」
10年の間に何があったのかツォンから話は聞いたが、それは肝心の部分が欠けていた。
首の傷についてもツォンに聞いたが、彼は任務中の怪我だと言った。
それで誤魔化せると思ったのなら、甘く見られたものだ。
任務中にこんな傷を負ったなら、とっくに死んでいる。
「聞いても誰も答えてくれないんだろうな」
ルーファウスもツォンもルードも、全員示し合わせたように最近のことについては口を噤む。
そして、自分を知る『ヒロイン』に一番会いたいであろうレノですら、頑なに話そうとしなかった。
みんなが隠そうとしているそれこそが、彼女が死のうとした原因と理由だろう。
「もし知ったら、私も同じことするのかな」
それとも、思いとどまるだろうか。
それに対する答えはまだなかった。
ルーファウスが自宅に送り届けてくれたが、この場所をヒロインは知らなかった。
自宅と言われても実感がなく、部屋に入ってもそれは同じだった。
他人の家に上がり込んでいるような違和感を感じつつ、ヒロインはリビングに繋がる扉を開けた。
そこは、まさにゴミ屋敷だった。
リビングのあまりの惨状に言葉を失い、ヒロインは呆然とその場に立ち尽くした。
「なにこれ…」
テーブルに所狭しと並ぶ空き缶と空き瓶、デリバリーフードの空き箱は辛うじてゴミ袋に入って入るが口は開いたまま。
それに混ざって脱ぎっぱなしの服もそこかしこに落ちている。
下着は流石に落ちていないようだったが、汚いことに変わりはなかった。
「10年で何があったらこうなるの…?」
派手に散らかしたまま片付けだけを自分に押し付けた彼女に軽く怒りを覚えつつ、ヒロインはまずゴミ袋を探すことにした。
その途中で、冷蔵庫に貼られている書き置きのようなものが目に入った。
ヒロインはそれを手にとり、最後まで読んで絶句した。
「リビングに下着…」
そんな状態で後輩のレノに掃除させたのだろうか。
だんだん頭が痛くなってくる。
この有様を見ればだらしない生活をしていたのはわかっていたが、まさか脱いだものをそのまま放置するほど自堕落な生活を送っていたとは、さすがに自分のことながら呆れ果てた。
それにしても、彼女とレノはどんな関係だったのだろう。
レノを家に招いたのなら、相当に近しい関係と言える。
それにこの書き置きを大事に取っておくくらいだ。ただの同僚というよりは――
「もしかして、彼女――」
レノのことを好きだったのでは?
思い当たった一つの事柄に、ヒロインは愕然とした。
それを、そんな大事なことを忘れているのだろうか。
心がざわざわと落ち着かない。
人を好きになった経験のないヒロインでも、その気持ちがとても大切なものだということはわかる。
ならば何故、忘れているのか。
唯一答えを知る彼女は答えてくれない。
いや、もう一人いる。
ヒロインはリビングに戻って携帯を探すと、書き置きに書かれているレノの携帯に電話を掛けた。
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