10:月と太陽
ヒロイン
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「ごめんね、急に呼び出して」
「いや…」
レノはどう接していいものか戸惑っていた。
彼女は明るく元気で、どこまでも真っ直ぐで眩しい。
まさに青空に燦々と輝く太陽だった。
彼女には、周りを明るく元気にする天性の才能が備わっていた。
皆から好かれていたというのがよく分かる。
しかし、それはレノの知っているヒロインではなかった。
ヒロインは月だ。
その光は穏やかで優しいが、時たま落ちる陰は濃い。
そんな二面性があったのも、ヒロインに惹かれた理由かもしれない。
「せっかくだから、外で話そうよ。ほら、天気もいいしね」
そう言うと、彼女はベッドから降りて靴を履き始めた。
そして、戸惑うレノの手を引き、病室を出た。
彼女はひたすらに眩しかった。
空から降り注ぐ本物の太陽に負けないぐらいに。
物怖じせず、誰にも負けないという自信に満ち溢れていた。
あの事件さえなければ、きっとヒロインは太陽のままだったのだろう。
「あのときはごめんね。私、レノのこと知らなかったから、嫌な態度取っちゃって」
前を歩く彼女がくるりと半回転し、立ち止まった。
レノもそれに合わせて足を止めた。
「あと、ありがとね。任務ミスって敵に捕まってたところを助けてくれたのレノだって、ツォンが言ってたから。そのお礼も言いたかったの」
にこっと彼女が笑い、大きな一歩で距離を詰めてきた。
後ろで手を組み、下から覗き込むように見つめられたレノは、思わず眉間に皺を寄せた。
ヒロインの姿で、男を誘うようなあざとい仕草を見せられ、何故だか無性に心が苛立った。
「…何のつもりだ」
苛立ちを言葉に乗せて目の前の彼女にぶつけると、彼女はきょとんとした顔をしていた。
「彼女は、こういうことしなかった?」
「誰のことだよ」
「レノの知ってるヒロイン」
一切の感情を消した表情で、彼女は真っ直ぐにレノの目を見てきた。
瞳孔の収縮、視線の動き、瞬き、細かい表情、些細な仕草――何も一切見逃さないとばかりに。
彼女は何かを探っている。
「私と彼女、何が違うんだろう。10年っていう時間だけじゃない。何かが足りない」
レノは蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、身動きが取れなくなっていた。
少しでも身体を動かせば、彼女に頭の中まで読み取られてしまいそうだ。
「レノは、彼女と親しかったんでしょ?」
「…少し前に一緒の任務に就いただけだぞ、と」
レノはできるだけ情報を与えないように端的に答えていたが、それすらも彼女の手のひらの上という気がしてくる。
事実、彼女はその回答を予期していたようだった。
「だから、私に会いたくなかった。レノは昔の私を知らないから、私を『ヒロイン』だと思えない」
彼女はふーっと息をつくと、さっきまでとは一転して鮮やかな笑みを浮かべてみせた。
「後輩とは言え、さすがにタークス相手の探り合いはまだしんどいな。続きはまた今度」
レノは次はもうごめんだと心底思った。
事件のことは伝えないことになっているが、この調子で詰問されたなら、いつかボロが出てしまいそうだ。
レノがそう思うぐらい、彼女は手強い。
「もう、そんなに怯えないでよ。後輩をいびりたいわけじゃないんだから」
彼女がけらけらと笑い、レノの肩を軽く叩いた。
「それにしても、レノ、いい匂いするね。私、この匂い好き…」
レノははっとして顔を上げた。
一瞬、彼女もはっとした表情をしていたが、すぐに笑顔に戻った。
「…日も落ちてきたから、病室に戻るね。今日はありがとう」
彼女はそう言うと、一人夕暮れの中、病院内に戻っていった。
レノは念のため、彼女が病室に入るのを見届けた後、帰路についた。
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「いや…」
レノはどう接していいものか戸惑っていた。
彼女は明るく元気で、どこまでも真っ直ぐで眩しい。
まさに青空に燦々と輝く太陽だった。
彼女には、周りを明るく元気にする天性の才能が備わっていた。
皆から好かれていたというのがよく分かる。
しかし、それはレノの知っているヒロインではなかった。
ヒロインは月だ。
その光は穏やかで優しいが、時たま落ちる陰は濃い。
そんな二面性があったのも、ヒロインに惹かれた理由かもしれない。
「せっかくだから、外で話そうよ。ほら、天気もいいしね」
そう言うと、彼女はベッドから降りて靴を履き始めた。
そして、戸惑うレノの手を引き、病室を出た。
彼女はひたすらに眩しかった。
空から降り注ぐ本物の太陽に負けないぐらいに。
物怖じせず、誰にも負けないという自信に満ち溢れていた。
あの事件さえなければ、きっとヒロインは太陽のままだったのだろう。
「あのときはごめんね。私、レノのこと知らなかったから、嫌な態度取っちゃって」
前を歩く彼女がくるりと半回転し、立ち止まった。
レノもそれに合わせて足を止めた。
「あと、ありがとね。任務ミスって敵に捕まってたところを助けてくれたのレノだって、ツォンが言ってたから。そのお礼も言いたかったの」
にこっと彼女が笑い、大きな一歩で距離を詰めてきた。
後ろで手を組み、下から覗き込むように見つめられたレノは、思わず眉間に皺を寄せた。
ヒロインの姿で、男を誘うようなあざとい仕草を見せられ、何故だか無性に心が苛立った。
「…何のつもりだ」
苛立ちを言葉に乗せて目の前の彼女にぶつけると、彼女はきょとんとした顔をしていた。
「彼女は、こういうことしなかった?」
「誰のことだよ」
「レノの知ってるヒロイン」
一切の感情を消した表情で、彼女は真っ直ぐにレノの目を見てきた。
瞳孔の収縮、視線の動き、瞬き、細かい表情、些細な仕草――何も一切見逃さないとばかりに。
彼女は何かを探っている。
「私と彼女、何が違うんだろう。10年っていう時間だけじゃない。何かが足りない」
レノは蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、身動きが取れなくなっていた。
少しでも身体を動かせば、彼女に頭の中まで読み取られてしまいそうだ。
「レノは、彼女と親しかったんでしょ?」
「…少し前に一緒の任務に就いただけだぞ、と」
レノはできるだけ情報を与えないように端的に答えていたが、それすらも彼女の手のひらの上という気がしてくる。
事実、彼女はその回答を予期していたようだった。
「だから、私に会いたくなかった。レノは昔の私を知らないから、私を『ヒロイン』だと思えない」
彼女はふーっと息をつくと、さっきまでとは一転して鮮やかな笑みを浮かべてみせた。
「後輩とは言え、さすがにタークス相手の探り合いはまだしんどいな。続きはまた今度」
レノは次はもうごめんだと心底思った。
事件のことは伝えないことになっているが、この調子で詰問されたなら、いつかボロが出てしまいそうだ。
レノがそう思うぐらい、彼女は手強い。
「もう、そんなに怯えないでよ。後輩をいびりたいわけじゃないんだから」
彼女がけらけらと笑い、レノの肩を軽く叩いた。
「それにしても、レノ、いい匂いするね。私、この匂い好き…」
レノははっとして顔を上げた。
一瞬、彼女もはっとした表情をしていたが、すぐに笑顔に戻った。
「…日も落ちてきたから、病室に戻るね。今日はありがとう」
彼女はそう言うと、一人夕暮れの中、病院内に戻っていった。
レノは念のため、彼女が病室に入るのを見届けた後、帰路についた。
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