10:月と太陽
ヒロイン
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ヒロインが目覚めて1週間が経った。
あれからレノは一度も病院に行っていない。
代わりにツォンが足繁く通い、ヒロインの10年間を埋める手助けをしている。
元婚約者のことも、7年前と数週間前の事件のこともヒロインには伝えないことに決めたようだ。
きっとそれが一番いい。
これで彼女は何の不安も憂いもなく、この先の人生を歩んでいけるようになるだろう。
レノは外の喫煙所のベンチに腰掛け、久しぶりに買ったタバコに火をつけた。
懐かしい匂いが鼻腔を満たす。
ところが、一吸いしたところで頭がくらくらし、レノは頭を抑えて俯いた。
タバコの匂いも不快感を煽りだし、レノは舌打ちをして、タバコを灰皿に押し付けた。
気晴らしのつもりで久しぶりに手を出してみたものの、これでは逆効果だ。
レノは体調が戻るのを待って立ち上がると、近くのゴミ箱にタバコとライターを捨てた。
外はこんなにも明るく穏やかなのに、自分の心はちっとも晴れやしないと、レノは恨めしげに太陽を睨んだ。
男はどこに潜んでいるのか消息不明、幻覚剤も取り締まってはいるがいたちごっこ。
きっとあの男は、自分たちを無能だと嘲笑っているだろう。
今あの男が目の前に現れたなら、怒りと苛立ちで真っ二つに引き裂けそうだ。
そんな昼日中にふさわしくないことを考えながら、レノは眉間に皺を寄せたままオフィスに戻った。
監視映像の確認と情報分析の続きが待っている。
一人残してきたルードの堪忍袋の尾が切れる前に戻らなければと、レノは少し足を早めた。
オフィスに戻ると、ちょうどツォンも病院から戻っていた。
ルードとツォンが何やら話していたが、レノはその輪には加わらず、自席に戻って頬杖をつきながらモニターに映る監視映像を見始めた。
相変わらず何の変哲もない映像だ。
映像の中の世界は平和そのもので、いつまで経ってもあの男は見つからない。
元タークスの肩書は伊達ではないということか。
戻って早くも仕事に飽き始めたレノは、大きくあくびをしようと口を開けた。
「レノ、ヒロインさんが会いたいと言っていたぞ」
レノは口を開けた格好のまま固まった。
「それ、命令っすか」
「あぁ、早く行ってこい」
ツォンは有無を言わせぬ強い口調で言った。
レノは渋々立ち上がり、緩慢な動きでオフィスを出た。
正直、彼女には会いたくなかった。
何を話せばいいのかもわからないし、何より自分を覚えていない彼女に会うのが辛かった。
レノは制限速度を少し超えたぐらいのスピードで病院に車を走らせていた。
病院が見えてくると、ますます憂鬱になった。
駐車場に車を停めても、なかなか車を降りる気にはなれなかった。
このまま面会時間が過ぎてしまえばいいのに。
そう考えてレノは車の時計に目をやった。
面会時間が終わるまで、あと4時間。
その間、悶々とした気持ちを抱えて過ごすのと、彼女に会いに行くことを天秤に掛けた結果、待っているだけは怠いという消極的理由でレノは彼女に会うことを選んだ。
少しタバコの匂いが残っている気がして、レノはコロンを付け直してから車を降りた。
ヒロインが入院してから何度も通った通路をいつものように歩き、いつもの病室の前で足を止める。
ここに来るのはヒロインが目を覚まして以来だ。
あのときは、フロアに居る医師や看護師も暗い顔をしていたが、今日は晴れやかな顔をしている人が多かった。
ヒロインが意識を取り戻したことで、緊張が解けたのだろうか。
レノは一つ深呼吸をしてから、病室の扉をノックした。
「どうぞ、入ってきて!」
覚えているよりも明るく、朗らかな声が返ってきた。
同じ声色なのに、レノの知るヒロインとは随分印象が違っていた。
レノは少し緊張しながら、病室の扉を開けた。
「もしかしたら、来てくれないかと思ってた」
ベッドの上で、ヒロインがとても楽しそうに笑っていた。
屈託のない笑顔を見せられ、レノは嬉しさと困惑が入り混じった顔でそれに応じた。
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あれからレノは一度も病院に行っていない。
代わりにツォンが足繁く通い、ヒロインの10年間を埋める手助けをしている。
元婚約者のことも、7年前と数週間前の事件のこともヒロインには伝えないことに決めたようだ。
きっとそれが一番いい。
これで彼女は何の不安も憂いもなく、この先の人生を歩んでいけるようになるだろう。
レノは外の喫煙所のベンチに腰掛け、久しぶりに買ったタバコに火をつけた。
懐かしい匂いが鼻腔を満たす。
ところが、一吸いしたところで頭がくらくらし、レノは頭を抑えて俯いた。
タバコの匂いも不快感を煽りだし、レノは舌打ちをして、タバコを灰皿に押し付けた。
気晴らしのつもりで久しぶりに手を出してみたものの、これでは逆効果だ。
レノは体調が戻るのを待って立ち上がると、近くのゴミ箱にタバコとライターを捨てた。
外はこんなにも明るく穏やかなのに、自分の心はちっとも晴れやしないと、レノは恨めしげに太陽を睨んだ。
男はどこに潜んでいるのか消息不明、幻覚剤も取り締まってはいるがいたちごっこ。
きっとあの男は、自分たちを無能だと嘲笑っているだろう。
今あの男が目の前に現れたなら、怒りと苛立ちで真っ二つに引き裂けそうだ。
そんな昼日中にふさわしくないことを考えながら、レノは眉間に皺を寄せたままオフィスに戻った。
監視映像の確認と情報分析の続きが待っている。
一人残してきたルードの堪忍袋の尾が切れる前に戻らなければと、レノは少し足を早めた。
オフィスに戻ると、ちょうどツォンも病院から戻っていた。
ルードとツォンが何やら話していたが、レノはその輪には加わらず、自席に戻って頬杖をつきながらモニターに映る監視映像を見始めた。
相変わらず何の変哲もない映像だ。
映像の中の世界は平和そのもので、いつまで経ってもあの男は見つからない。
元タークスの肩書は伊達ではないということか。
戻って早くも仕事に飽き始めたレノは、大きくあくびをしようと口を開けた。
「レノ、ヒロインさんが会いたいと言っていたぞ」
レノは口を開けた格好のまま固まった。
「それ、命令っすか」
「あぁ、早く行ってこい」
ツォンは有無を言わせぬ強い口調で言った。
レノは渋々立ち上がり、緩慢な動きでオフィスを出た。
正直、彼女には会いたくなかった。
何を話せばいいのかもわからないし、何より自分を覚えていない彼女に会うのが辛かった。
レノは制限速度を少し超えたぐらいのスピードで病院に車を走らせていた。
病院が見えてくると、ますます憂鬱になった。
駐車場に車を停めても、なかなか車を降りる気にはなれなかった。
このまま面会時間が過ぎてしまえばいいのに。
そう考えてレノは車の時計に目をやった。
面会時間が終わるまで、あと4時間。
その間、悶々とした気持ちを抱えて過ごすのと、彼女に会いに行くことを天秤に掛けた結果、待っているだけは怠いという消極的理由でレノは彼女に会うことを選んだ。
少しタバコの匂いが残っている気がして、レノはコロンを付け直してから車を降りた。
ヒロインが入院してから何度も通った通路をいつものように歩き、いつもの病室の前で足を止める。
ここに来るのはヒロインが目を覚まして以来だ。
あのときは、フロアに居る医師や看護師も暗い顔をしていたが、今日は晴れやかな顔をしている人が多かった。
ヒロインが意識を取り戻したことで、緊張が解けたのだろうか。
レノは一つ深呼吸をしてから、病室の扉をノックした。
「どうぞ、入ってきて!」
覚えているよりも明るく、朗らかな声が返ってきた。
同じ声色なのに、レノの知るヒロインとは随分印象が違っていた。
レノは少し緊張しながら、病室の扉を開けた。
「もしかしたら、来てくれないかと思ってた」
ベッドの上で、ヒロインがとても楽しそうに笑っていた。
屈託のない笑顔を見せられ、レノは嬉しさと困惑が入り混じった顔でそれに応じた。
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