9:さようなら
ヒロイン
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「なぁ、どこ行くんだよ?」
赤毛の男性が声を掛けてきた。
派手な出で立ちの男性だった。
ヒロインは首を傾げた。
どこかで会ったことがあっただろうか?
「そっち行っちまったら、一人になっちまうぞ、と」
男性はヒロインを引き留めようと必死にヒロインの手を引っ張っている。
ヒロインは男性に向き直ると、ふわりと微笑んだ。
「これでいいの」
ヒロインは男性の手を振りほどき、駆け出した。
さようなら。
別れの言葉は、声にならなかった。
目覚めは突然訪れた。
「あああああああ!」
フロアに叫び声が響き渡った。
飲み物を買いに病室から出ていたレノは、誰よりも早くヒロインの病室に戻った。
「ヒロイン!?」
首元を手で抑えながら、ヒロインがベッドの上で暴れていた。
傷口が開いたのか、包帯に血が滲んでいる。
一瞬、あまりの光景に固まってしまったレノだったが、再びの悲鳴に我に返った。
「痛い痛いいいいい!」
「落ち着け、ヒロイン!」
首元を掻きむしり始めたヒロインを何とか取り押さえたものの、首の出血はどんどんひどくなっている。
せめて止血をとヒロインの首に手を伸ばしたが、ヒロインが大きく振り回した腕に阻まれてしまう。
すでにシーツや枕にも血が移っている。
「彼女を身体で押さえてください!」
ようやくやってきた医師の指示に従い、レノはヒロインに覆いかぶさり、きつく押さえつけた。
加減など知ったことかとばかりに、ヒロインはレノの下で暴れている。
絶えず大声を上げ、暴れるヒロインは、レノの知っているヒロインではなかった。
「もう大丈夫です。ありがとうございます」
医師に肩を叩かれ、レノはようやくヒロインがおとなしくなっていることに気づいた。
ベッドは血で汚れていたが、ヒロインの首筋に巻かれた包帯は真っ白だった。
「そこまで強い薬は使っていないので、1時間ほどで目覚めると思います」
「また暴れたりしないのか?」
レノが不安を口にすると、医師は大丈夫だと言った。どうやら鎮静剤を打ったらしい。
病室に新しいベッドが運び込まれ、ヒロインはそちらに移された。
凄惨な光景が目の前から消え、そこでようやくレノは肩の力を抜いた。
目を閉じたヒロインは、レノの知ったヒロインだった。
ただ、その指先に残る血の跡を見て、レノはぞっとした。
あれは、ヒロインの見た目をした別の何かだった。
まさに本能で動く獣。
目覚めたとき、本当にヒロインはそこにいるのだろうか。
レノは不安を抱えたまま、ヒロインの指先の血を拭ってやった。
医師が言った通り、ヒロインは1時間弱で目を開けた。
ぼんやりと天井を見つめていたが、しばらくして眉をひそめ始めた。
「何で…」
レノは驚かさないようにそっとベッドに近寄り、ヒロインの視界に入り込んだ。
「やっと起きたな」
微笑んだレノに対し、ヒロインは眉をひそめたままだった。
その顔が次第に険しくなる。
「誰?」
「ヒロイン…?」
その反応でヒロインがどんな状態なのかはすぐにわかった。
しかし、認めたくなかった。
「まさか、忘れて――」
「忘れるも何も、あんたのこと知らない」
ヒロインは警戒心を顕にしていた。
冗談でやっているとは思えない。
レノは頭が真っ白になるのを感じながら、何とか医師を呼んでくるとだけ言って、大股で病室を出た。
長居したくなかった。
悪夢が現実になってしまう気がして。
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赤毛の男性が声を掛けてきた。
派手な出で立ちの男性だった。
ヒロインは首を傾げた。
どこかで会ったことがあっただろうか?
「そっち行っちまったら、一人になっちまうぞ、と」
男性はヒロインを引き留めようと必死にヒロインの手を引っ張っている。
ヒロインは男性に向き直ると、ふわりと微笑んだ。
「これでいいの」
ヒロインは男性の手を振りほどき、駆け出した。
さようなら。
別れの言葉は、声にならなかった。
目覚めは突然訪れた。
「あああああああ!」
フロアに叫び声が響き渡った。
飲み物を買いに病室から出ていたレノは、誰よりも早くヒロインの病室に戻った。
「ヒロイン!?」
首元を手で抑えながら、ヒロインがベッドの上で暴れていた。
傷口が開いたのか、包帯に血が滲んでいる。
一瞬、あまりの光景に固まってしまったレノだったが、再びの悲鳴に我に返った。
「痛い痛いいいいい!」
「落ち着け、ヒロイン!」
首元を掻きむしり始めたヒロインを何とか取り押さえたものの、首の出血はどんどんひどくなっている。
せめて止血をとヒロインの首に手を伸ばしたが、ヒロインが大きく振り回した腕に阻まれてしまう。
すでにシーツや枕にも血が移っている。
「彼女を身体で押さえてください!」
ようやくやってきた医師の指示に従い、レノはヒロインに覆いかぶさり、きつく押さえつけた。
加減など知ったことかとばかりに、ヒロインはレノの下で暴れている。
絶えず大声を上げ、暴れるヒロインは、レノの知っているヒロインではなかった。
「もう大丈夫です。ありがとうございます」
医師に肩を叩かれ、レノはようやくヒロインがおとなしくなっていることに気づいた。
ベッドは血で汚れていたが、ヒロインの首筋に巻かれた包帯は真っ白だった。
「そこまで強い薬は使っていないので、1時間ほどで目覚めると思います」
「また暴れたりしないのか?」
レノが不安を口にすると、医師は大丈夫だと言った。どうやら鎮静剤を打ったらしい。
病室に新しいベッドが運び込まれ、ヒロインはそちらに移された。
凄惨な光景が目の前から消え、そこでようやくレノは肩の力を抜いた。
目を閉じたヒロインは、レノの知ったヒロインだった。
ただ、その指先に残る血の跡を見て、レノはぞっとした。
あれは、ヒロインの見た目をした別の何かだった。
まさに本能で動く獣。
目覚めたとき、本当にヒロインはそこにいるのだろうか。
レノは不安を抱えたまま、ヒロインの指先の血を拭ってやった。
医師が言った通り、ヒロインは1時間弱で目を開けた。
ぼんやりと天井を見つめていたが、しばらくして眉をひそめ始めた。
「何で…」
レノは驚かさないようにそっとベッドに近寄り、ヒロインの視界に入り込んだ。
「やっと起きたな」
微笑んだレノに対し、ヒロインは眉をひそめたままだった。
その顔が次第に険しくなる。
「誰?」
「ヒロイン…?」
その反応でヒロインがどんな状態なのかはすぐにわかった。
しかし、認めたくなかった。
「まさか、忘れて――」
「忘れるも何も、あんたのこと知らない」
ヒロインは警戒心を顕にしていた。
冗談でやっているとは思えない。
レノは頭が真っ白になるのを感じながら、何とか医師を呼んでくるとだけ言って、大股で病室を出た。
長居したくなかった。
悪夢が現実になってしまう気がして。
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