1:苦手意識
ヒロイン
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レノは明け方に部屋に戻った。
部屋の電気は消えていた。手探りで進むうちに暗闇に目が慣れ、2つあるベッドのうち、奥の方に人影が見えた。
ヒロインだろう。
こちらに向けられている背が、ゆっくりと上下していた。
近づいてまた喚かれるのが煩わしかったので、レノはもう一つのベッドに寝転がり、目を閉じた。
汽笛の音でレノは目を覚ました。
「おはよう。もうすぐ入港みたい」
ヒロインの声はやや硬かったが、怯えている様子はなかった。
しかし、何かが昨日と違っていた。格好は昨日と同じだが、近寄りがたさを感じる。
軽く椅子に腰掛けているだけに見えるが、ヒロインには一切隙がなかった。もし昨日と同じことをしたとして、恐らくヒロインを抱きしめることはできないだろう。下手すると、反撃にあう。
(面白くねーな)
可愛げのあった昨日の方がまだよかった。
この張り詰めた空気は息が詰まる。
こうなってしまったのもレノの自業自得なのだが、レノはそれを認めず、ヒロインに対して軽い怒りを覚えた。
コスタ・デル・ソルの港に降り立った二人は、一見仲睦まじい様子を見せながら、真っ直ぐ監視拠点となる街外れのアパートに向かった。
レノは軽く挑発する意味も込めて、ヒロインに腕でも組むかと提案した。
どうせできないだろうと踏んでの提案だったが、ヒロインは少し悩む様子を見せたものの、レノの右腕に腕を絡ませてきた。
触れ合う素肌と押し付けられるヒロインの豊かな胸の感触が理性を吹き飛ばしそうになるが、そうなったら負けだ。
ヒロインに弱みを見せるわけには行かないと意地を張るレノは、極力右の方を見ないようにして歩いた。
同じくヒロインも左をほとんど見ようとしなかったので、お互いの視線が一度も交わることはなかった。見る人が見れば、奇異に映っただろうが、幸いそれを気にする者はいなかった。
アパートは思ったより広く、リビングの他にもう一部屋あった。そちらを覗くと、折りたたみ式の簡易ベッドが2台置かれていた。
レノは窓際に立ち、監視対象の男が住むアパートの方に目をやった。
「まだ部屋にいるみたいだな。毎日夜は飲み歩いてるって話だから、出かけたら盗聴器とカメラ、仕掛けに行くか」
レノは自身が引いてきたキャリーバッグを開けると、機材のチェックを始めた。ヒロインも同じようにキャリーバッグを開け、撮影用のカメラや望遠鏡をセットしていた。
準備を終えた二人は、男が部屋を出るまで仮眠を取ることにした。
レノはリビングで、ヒロインは隣の部屋で、二人は別れて横になった。
仮眠を取るはずが、珍しく寝付きが悪かったレノは、早々に仮眠を諦め、換気扇の下でタバコを吸い始めた。
もしかしたらヒロインは嫌がるかもしれないが、他に吸える場所がないのだから仕方がない。
レノはゆらゆらと立ち上るタバコの煙を見ながら、昨日のカフェでの出来事を思い出していた。
(匂い…本当に匂いだったのか…?)
レノが吸うタバコは珍しくもなんともない、どこの店にもあるような銘柄だ。店の中やすれ違う人――外に出たら匂いを嗅ぐこともそれなりにあるはずだ。しかし、ヒロインが怯えた様子を見せたのはカフェのあのときだけだった。
(何を見ていた…?)
レノはタバコを持つ自分の手を見た。そう、ヒロインの視線はタバコを持つ手に向かっていた。
タバコなのか、手の形なのか、それとも――
レノは無意識に親指でタバコを弾いて灰を落として、はっとした。
(これか)
レノと同じような癖を持つ人物に対して、怯えを見せたのかもしれない。
(一体何があった?)
聞いてもヒロインは素直に答えないだろう。タークスに所属しているなら、そういう尋問に対する訓練も受けているはずだ。誤魔化すに決まっている。
すぐに答えが手に入らないことに苛立ち、レノは舌打ちをしてタバコを消した。
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部屋の電気は消えていた。手探りで進むうちに暗闇に目が慣れ、2つあるベッドのうち、奥の方に人影が見えた。
ヒロインだろう。
こちらに向けられている背が、ゆっくりと上下していた。
近づいてまた喚かれるのが煩わしかったので、レノはもう一つのベッドに寝転がり、目を閉じた。
汽笛の音でレノは目を覚ました。
「おはよう。もうすぐ入港みたい」
ヒロインの声はやや硬かったが、怯えている様子はなかった。
しかし、何かが昨日と違っていた。格好は昨日と同じだが、近寄りがたさを感じる。
軽く椅子に腰掛けているだけに見えるが、ヒロインには一切隙がなかった。もし昨日と同じことをしたとして、恐らくヒロインを抱きしめることはできないだろう。下手すると、反撃にあう。
(面白くねーな)
可愛げのあった昨日の方がまだよかった。
この張り詰めた空気は息が詰まる。
こうなってしまったのもレノの自業自得なのだが、レノはそれを認めず、ヒロインに対して軽い怒りを覚えた。
コスタ・デル・ソルの港に降り立った二人は、一見仲睦まじい様子を見せながら、真っ直ぐ監視拠点となる街外れのアパートに向かった。
レノは軽く挑発する意味も込めて、ヒロインに腕でも組むかと提案した。
どうせできないだろうと踏んでの提案だったが、ヒロインは少し悩む様子を見せたものの、レノの右腕に腕を絡ませてきた。
触れ合う素肌と押し付けられるヒロインの豊かな胸の感触が理性を吹き飛ばしそうになるが、そうなったら負けだ。
ヒロインに弱みを見せるわけには行かないと意地を張るレノは、極力右の方を見ないようにして歩いた。
同じくヒロインも左をほとんど見ようとしなかったので、お互いの視線が一度も交わることはなかった。見る人が見れば、奇異に映っただろうが、幸いそれを気にする者はいなかった。
アパートは思ったより広く、リビングの他にもう一部屋あった。そちらを覗くと、折りたたみ式の簡易ベッドが2台置かれていた。
レノは窓際に立ち、監視対象の男が住むアパートの方に目をやった。
「まだ部屋にいるみたいだな。毎日夜は飲み歩いてるって話だから、出かけたら盗聴器とカメラ、仕掛けに行くか」
レノは自身が引いてきたキャリーバッグを開けると、機材のチェックを始めた。ヒロインも同じようにキャリーバッグを開け、撮影用のカメラや望遠鏡をセットしていた。
準備を終えた二人は、男が部屋を出るまで仮眠を取ることにした。
レノはリビングで、ヒロインは隣の部屋で、二人は別れて横になった。
仮眠を取るはずが、珍しく寝付きが悪かったレノは、早々に仮眠を諦め、換気扇の下でタバコを吸い始めた。
もしかしたらヒロインは嫌がるかもしれないが、他に吸える場所がないのだから仕方がない。
レノはゆらゆらと立ち上るタバコの煙を見ながら、昨日のカフェでの出来事を思い出していた。
(匂い…本当に匂いだったのか…?)
レノが吸うタバコは珍しくもなんともない、どこの店にもあるような銘柄だ。店の中やすれ違う人――外に出たら匂いを嗅ぐこともそれなりにあるはずだ。しかし、ヒロインが怯えた様子を見せたのはカフェのあのときだけだった。
(何を見ていた…?)
レノはタバコを持つ自分の手を見た。そう、ヒロインの視線はタバコを持つ手に向かっていた。
タバコなのか、手の形なのか、それとも――
レノは無意識に親指でタバコを弾いて灰を落として、はっとした。
(これか)
レノと同じような癖を持つ人物に対して、怯えを見せたのかもしれない。
(一体何があった?)
聞いてもヒロインは素直に答えないだろう。タークスに所属しているなら、そういう尋問に対する訓練も受けているはずだ。誤魔化すに決まっている。
すぐに答えが手に入らないことに苛立ち、レノは舌打ちをしてタバコを消した。
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