9:さようなら
ヒロイン
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間一髪だった。
ヒロインがもし本調子だったなら、危険に気づく前にレノは心臓を一突きにされていただろう。
レノはヒロインが幻覚剤を飲まされている可能性も考慮して動いた。その事前の備えのおかげで、ナイフは本来の目的を遂げることはなかったが、そこはさすがヒロインというべきか、レノの脇腹の上部を服ごと割いた。 鋭い痛みを感じたが、それに構うことなく、レノはヒロインの真っ赤に腫れた頬を優しく撫でた。
「ヒロイン…」
名前を呼ぶと、ヒロインの目に正気の光が宿るのが見えた。
はっとした表情で、ヒロインが顔を上げた。
「…レノ?」
カランと音を立て、ヒロインの手からナイフが落ちた。
「あぁ、助けに来たぞ、と」
レノは自分のジャケットをヒロインに羽織らせ、優しく抱き寄せた。
ヒロインの身体は冷え切っていた。
震えるヒロインを腕に抱き、レノはジャケットの上から背をさすってやった。
「一人にして悪かった」
しゃくりあげるヒロインの頭を、レノはそっと撫でてやった。
ヒロインを腕に抱き、ようやくレノも落ち着きを取り戻し、ほっと息をついた。
無事で良かった。
そう言いかけ、既のところでレノは言葉を飲み込んだ。
生きているだけで、無事なわけではない。
ヒロインは心も身体もぼろぼろだ。
レノの前で泣こうとしなかったヒロインが泣きじゃくっているのだから。
何と声をかけていいかわからず、レノは黙ってヒロインを抱きしめていた。
ヒロインが落ち着いた頃、後続の部隊がやってきた。
部屋に入ってこようとした兵を手と目で制し、レノはヒロインが入口から見えないように向きを変えた。
「救護部隊は?」
「外でヘリと待機しています」
「了解。オレが連れて出る。誰か、毛布持ってないか?」
兵の一人が毛布を取りに戻り、それを投げよこした。
レノはヒロインの姿が見えないように毛布でくるみ、抱き上げた。
「少し苦しいけど我慢だぞ、と」
腕に伝わる感触でヒロインが頷いたのを確認し、レノは早足で外のヘリに向かった。
病院に着くと、ヒロインはVIP専用の特別フロアの一室に運ばれていった。
おそらくルーファウスが手配したのだろう。
フロアごと貸し切ったようで、周囲に病院スタッフ以外はおらず、とても静かだった。
レノは外で待つように言われたので、部屋の前のベンチに腰掛けて治療が終わるのを待った。
1時間ほど経った頃、病室の扉が開いた。
レノは素早く立ち上がると、医師に声をかけた。
「ヒロインは、大丈夫か?」
「身体の傷は治療しました。薬物も解毒したので影響は残らないでしょう」
「話はできるか?」
「今、ようやく落ち着いて、眠りについたところです」
「そうか」
レノは医師と話してすぐに、ツォンに報告と状況の確認をした。
ヒロインが大丈夫であることを伝えると、わずかにツォンの口調が柔らかくなったが、それも一瞬。男を逃したと伝えてきたツォンの口調は硬かった。
自分も男の捜索を手伝うと言ったが、ツォンにヒロインの警護を命じられたので、病院に留まることになった。男の捜索はツォンとルードを中心に行うとのことだった。
病室でヒロインの目覚めを待つ間、レノは激しい後悔に苛まれていた。
――絶対に私を一人にしないで
コスタで交わした約束を守れなかった。
そのせいで、ヒロインはまた心と身体に傷を負った。
目覚めたとき、ヒロインがヒロインでなくなっているかもしれない。
レノはそれが何より怖かった。
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ヒロインがもし本調子だったなら、危険に気づく前にレノは心臓を一突きにされていただろう。
レノはヒロインが幻覚剤を飲まされている可能性も考慮して動いた。その事前の備えのおかげで、ナイフは本来の目的を遂げることはなかったが、そこはさすがヒロインというべきか、レノの脇腹の上部を服ごと割いた。 鋭い痛みを感じたが、それに構うことなく、レノはヒロインの真っ赤に腫れた頬を優しく撫でた。
「ヒロイン…」
名前を呼ぶと、ヒロインの目に正気の光が宿るのが見えた。
はっとした表情で、ヒロインが顔を上げた。
「…レノ?」
カランと音を立て、ヒロインの手からナイフが落ちた。
「あぁ、助けに来たぞ、と」
レノは自分のジャケットをヒロインに羽織らせ、優しく抱き寄せた。
ヒロインの身体は冷え切っていた。
震えるヒロインを腕に抱き、レノはジャケットの上から背をさすってやった。
「一人にして悪かった」
しゃくりあげるヒロインの頭を、レノはそっと撫でてやった。
ヒロインを腕に抱き、ようやくレノも落ち着きを取り戻し、ほっと息をついた。
無事で良かった。
そう言いかけ、既のところでレノは言葉を飲み込んだ。
生きているだけで、無事なわけではない。
ヒロインは心も身体もぼろぼろだ。
レノの前で泣こうとしなかったヒロインが泣きじゃくっているのだから。
何と声をかけていいかわからず、レノは黙ってヒロインを抱きしめていた。
ヒロインが落ち着いた頃、後続の部隊がやってきた。
部屋に入ってこようとした兵を手と目で制し、レノはヒロインが入口から見えないように向きを変えた。
「救護部隊は?」
「外でヘリと待機しています」
「了解。オレが連れて出る。誰か、毛布持ってないか?」
兵の一人が毛布を取りに戻り、それを投げよこした。
レノはヒロインの姿が見えないように毛布でくるみ、抱き上げた。
「少し苦しいけど我慢だぞ、と」
腕に伝わる感触でヒロインが頷いたのを確認し、レノは早足で外のヘリに向かった。
病院に着くと、ヒロインはVIP専用の特別フロアの一室に運ばれていった。
おそらくルーファウスが手配したのだろう。
フロアごと貸し切ったようで、周囲に病院スタッフ以外はおらず、とても静かだった。
レノは外で待つように言われたので、部屋の前のベンチに腰掛けて治療が終わるのを待った。
1時間ほど経った頃、病室の扉が開いた。
レノは素早く立ち上がると、医師に声をかけた。
「ヒロインは、大丈夫か?」
「身体の傷は治療しました。薬物も解毒したので影響は残らないでしょう」
「話はできるか?」
「今、ようやく落ち着いて、眠りについたところです」
「そうか」
レノは医師と話してすぐに、ツォンに報告と状況の確認をした。
ヒロインが大丈夫であることを伝えると、わずかにツォンの口調が柔らかくなったが、それも一瞬。男を逃したと伝えてきたツォンの口調は硬かった。
自分も男の捜索を手伝うと言ったが、ツォンにヒロインの警護を命じられたので、病院に留まることになった。男の捜索はツォンとルードを中心に行うとのことだった。
病室でヒロインの目覚めを待つ間、レノは激しい後悔に苛まれていた。
――絶対に私を一人にしないで
コスタで交わした約束を守れなかった。
そのせいで、ヒロインはまた心と身体に傷を負った。
目覚めたとき、ヒロインがヒロインでなくなっているかもしれない。
レノはそれが何より怖かった。
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