8:嘘との再会
ヒロイン
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レノはその日のうちに明日の店をメールしてきた。
ヒロインは当日、約束の時間よりも少しだけ早く待ち合わせ場所に着くように家を出た。
昨日からずっと心が踊っていた。
今日の約束が楽しみでなかなか寝付けなかったのをルーファウスが知ったら、まるで子供だと笑ったことだろう。
自分でも年甲斐もなくと思うが、悪くなかった。
今まで知らなかった感情、経験――そのどれもが新鮮で、久しぶりに希望のある明るい気持ちになれた。
(レノに感謝しないと)
ヒロインは少しそわそわしながら、レノの到着を待った。
しかし、1時間経ってもレノは待ち合わせ場所に現れなかった。
レノが約束を破るとは思えない。
急な任務でも入ったのだろうか。
ヒロインは小さく溜息をつき、もう少しだけ待ってみることにした。
さらに1時間が経ち、すっかり日も落ちてしまった。
待ち合わせ場所の駅前は、カップルや若者の集団が増えてきていた。
一人で待っている自分がひどく浮いている気がして、ヒロインは近くのカフェで時間を潰そうとそちらに足を向けた。
すると、それを阻むように数人の若い男性が近づいてきた。
「お姉さん、ずっとここにいるよね?彼氏にフラれたの?」
一人はヒロインをあざ笑い、もう一人はにやにやと嫌らしい笑みを浮かべ、他の数人はヒロインが逃げられないように背後に立った。
それぐらいでヒロインの動きを封じようと言うなら甘く見られたものだ。
ヒロインは大きく溜息をつくと、そこをどくように口を開きかけた。そのとき、男性たちの隙間からこちらをじっと見ている男性がいることに気づいた。
「うそ…」
見間違うはずはなかった。
そこにいたのは、ヒロインが殺したはずの男性だった。
当時、誰よりも大切だった人。
彼はあのときと変わらない穏やかな笑顔を浮かべ、ヒロインの方を見ていた。
そして、踵を返し、ゆっくりと雑踏に紛れていく。
「ダメ、待って!」
ヒロインは力任せに男たちの包囲をこじ開けると、走って彼を追った。
見失わないように必死で彼の姿を目で追った。
彼は目的もなくふらふらと歩いているようで、油断するとすぐに視界から消えてしまう。
ヒロインは彼の姿を見失わないように、必死で彼に追いつこうと足を早めた。
繁華街を抜け、人通りが少なくなったあたりでやっと彼の腕を掴むことができた。
「お願い…待って…」
呼吸を整えながら、ヒロインは前に回り込み、男性の顔を見た。
「久しぶり、ヒロイン」
間違いなかった。
かつての婚約者だった。
「生きて、たの…?」
彼が大きく頷いた。
声が震えた。
彼が生きていたことが嬉しくて、ヒロインの目が潤む。
彼の手がゆっくりとヒロインの首筋を撫でた。
ほんの一瞬、不快な臭いが鼻を突いたような気がした。
「何で、連絡くれなかったの…?」
「あの事件の裏に神羅がいることを知ったせいで命を狙われて、それで身を隠してたんだ。けど、ヒロインも狙われていると知って助けにきた」
「神羅が、狙ってる?私を?どうして――」
ヒロインは眉をひそめた。
小さな小さな棘が刺さったように、ほんのわずかな痛みが走る。
彼の触れた辺りが熱い。
「あの幻覚剤のことは知ってるだろ?あれは神羅がばら撒いていたんだ。ヒロイン、このまま神羅にいたら殺されるぞ」
「え」
市中に出回っている幻覚剤の話はルーファウスから聞いていた。
それの供給元を潰したいとも。
彼の話はそれと矛盾していた。
嫌な予感特有の気持ち悪さが背を駆け上る。
ヒロインは彼の腕を掴んでいた手を放し、距離をとった。
「どうして、嘘つくの?」
ヒロインは感情を殺し、目の前の男を睨みつけた。
既に目の前の男は、ヒロインが信頼していた相棒でも婚約者でもなかった。
憎々しげに顔を歪めた男がにやりと笑った。
その顔が次第にぼやけていく。
ぐらっと視界が揺らいだ。
(タバコの、臭い…)
一瞬だったが、間違いなかった。
しばらくは気力で意識を支えたが、ついにぶつりと意識が途切れた。
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ヒロインは当日、約束の時間よりも少しだけ早く待ち合わせ場所に着くように家を出た。
昨日からずっと心が踊っていた。
今日の約束が楽しみでなかなか寝付けなかったのをルーファウスが知ったら、まるで子供だと笑ったことだろう。
自分でも年甲斐もなくと思うが、悪くなかった。
今まで知らなかった感情、経験――そのどれもが新鮮で、久しぶりに希望のある明るい気持ちになれた。
(レノに感謝しないと)
ヒロインは少しそわそわしながら、レノの到着を待った。
しかし、1時間経ってもレノは待ち合わせ場所に現れなかった。
レノが約束を破るとは思えない。
急な任務でも入ったのだろうか。
ヒロインは小さく溜息をつき、もう少しだけ待ってみることにした。
さらに1時間が経ち、すっかり日も落ちてしまった。
待ち合わせ場所の駅前は、カップルや若者の集団が増えてきていた。
一人で待っている自分がひどく浮いている気がして、ヒロインは近くのカフェで時間を潰そうとそちらに足を向けた。
すると、それを阻むように数人の若い男性が近づいてきた。
「お姉さん、ずっとここにいるよね?彼氏にフラれたの?」
一人はヒロインをあざ笑い、もう一人はにやにやと嫌らしい笑みを浮かべ、他の数人はヒロインが逃げられないように背後に立った。
それぐらいでヒロインの動きを封じようと言うなら甘く見られたものだ。
ヒロインは大きく溜息をつくと、そこをどくように口を開きかけた。そのとき、男性たちの隙間からこちらをじっと見ている男性がいることに気づいた。
「うそ…」
見間違うはずはなかった。
そこにいたのは、ヒロインが殺したはずの男性だった。
当時、誰よりも大切だった人。
彼はあのときと変わらない穏やかな笑顔を浮かべ、ヒロインの方を見ていた。
そして、踵を返し、ゆっくりと雑踏に紛れていく。
「ダメ、待って!」
ヒロインは力任せに男たちの包囲をこじ開けると、走って彼を追った。
見失わないように必死で彼の姿を目で追った。
彼は目的もなくふらふらと歩いているようで、油断するとすぐに視界から消えてしまう。
ヒロインは彼の姿を見失わないように、必死で彼に追いつこうと足を早めた。
繁華街を抜け、人通りが少なくなったあたりでやっと彼の腕を掴むことができた。
「お願い…待って…」
呼吸を整えながら、ヒロインは前に回り込み、男性の顔を見た。
「久しぶり、ヒロイン」
間違いなかった。
かつての婚約者だった。
「生きて、たの…?」
彼が大きく頷いた。
声が震えた。
彼が生きていたことが嬉しくて、ヒロインの目が潤む。
彼の手がゆっくりとヒロインの首筋を撫でた。
ほんの一瞬、不快な臭いが鼻を突いたような気がした。
「何で、連絡くれなかったの…?」
「あの事件の裏に神羅がいることを知ったせいで命を狙われて、それで身を隠してたんだ。けど、ヒロインも狙われていると知って助けにきた」
「神羅が、狙ってる?私を?どうして――」
ヒロインは眉をひそめた。
小さな小さな棘が刺さったように、ほんのわずかな痛みが走る。
彼の触れた辺りが熱い。
「あの幻覚剤のことは知ってるだろ?あれは神羅がばら撒いていたんだ。ヒロイン、このまま神羅にいたら殺されるぞ」
「え」
市中に出回っている幻覚剤の話はルーファウスから聞いていた。
それの供給元を潰したいとも。
彼の話はそれと矛盾していた。
嫌な予感特有の気持ち悪さが背を駆け上る。
ヒロインは彼の腕を掴んでいた手を放し、距離をとった。
「どうして、嘘つくの?」
ヒロインは感情を殺し、目の前の男を睨みつけた。
既に目の前の男は、ヒロインが信頼していた相棒でも婚約者でもなかった。
憎々しげに顔を歪めた男がにやりと笑った。
その顔が次第にぼやけていく。
ぐらっと視界が揺らいだ。
(タバコの、臭い…)
一瞬だったが、間違いなかった。
しばらくは気力で意識を支えたが、ついにぶつりと意識が途切れた。
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