7:最初の一歩
ヒロイン
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ヒロインが訓練施設で銃の手入れに励んでいる頃、レノは任務を終えてオフィスに戻っていた。
「戻りましたよ、と」
「ご苦労だったな」
オフィスにはツォンしかいなかった。
レノはとりあえず椅子に座ってはみたものの、報告書を書く気が起きず、だらしなく背もたれに身体を預けていた。
「あぁ、そうだ。レノ、ヒロインさんに渡して来てほしいものがあるんだが」
ヒロインの名を聞いた瞬間、レノはがばっと身体を起こした。
その勢いにツォンが目を丸くしていた。
「ヒロイン、来てるのか?」
「あ、あぁ。先程、副社長の銃を受け取りに来てな。そのときに銃弾を渡し忘れたから届けてほしいんだが――」
「行く!すぐに行くぞ、と。で、どこにいるんだ?」
「いつもなら、ワンフロア下の訓練施設にいるはずだ。いなければ、上層階の会議室フロアのどこかだろう」
それだけ聞いたレノはツォンから銃弾を受け取ると、オフィスを飛び出した。
まずは下の訓練施設だ。
今日こそはヒロインを食事に誘おうと決意し、レノは訓練施設に入った。
訓練施設は昔はよく使われていたが、タークスの人数が減ってからはあまり使われることはなくなった。
設備は整っているが滅多に人が来ないので、レノは気に入っていた。
サボっていても誰に咎められることもない。
一人でのんびり過ごすにはうってつけの場所だった。
今日も訓練施設は静かだった。
本当にヒロインはいるのだろうか。
レノはミーティングルームに足を向けた。
窓から中を覗くと、鈍色の髪をした女性の後姿が見えた。
ヒロインだ。
レノは早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、大きく深呼吸をしてから扉を開けた。
「ヒロイン、忘れ物だぞ、と」
「きゃっ!」
ヒロインの背が大きく震え、悲鳴が上がった。
驚かせるつもりはなかったのだが、これにはレノも驚いた。
レノはゆっくり近づくと、ヒロインの真横に座った。
どうやら銃の手入れをしていたらしい。
分解された銃の部品が机に並べられていた。
「よ、久しぶりだな」
俯いていることもあり、長い髪に隠れたヒロインの表情は見えなかった。
止まっていたヒロインの手が動き出す。
少し、その手が震えていた。
「…うん、久しぶり、だね」
レノはそれに気づかないふりをして、ツォンから預かった銃弾の箱をヒロインの前に滑らせた。
「副社長の銃の銃弾だってよ。ツォンさんが渡し忘れたから、届けてくれって」
ヒロインの手の震えは止まっていた。
滑らかな慣れた手付きで銃を組み立てている。
「そっか。わざわざありがとう」
銃を組み立て終わったヒロインが立ち上がり、ホルスターに銃を入れた。
「そろそろ戻らないと。会議、終わる時間だから」
一度もこちらを見ずに、ヒロインはミーティングルームの出口に向かって歩き出した。
レノは慌てて立ち上がると、ヒロインより先に出口の前に立った。
「そんなに慌てて出てかなくてもいいだろ」
レノから少し距離を空けて、ヒロインが立ち止まった。
今日初めて見たヒロインの顔には、少し困ったような表情が浮かんでいた。
あまり話したくないのかもしれない。
なら、このままヒロインを通したほうが――
一瞬そう考えたが、レノは思い直した。
このまま待っても何も変わらない。
「なぁ、先輩。先週の掃除のお礼、まだしてもらってないぞ、と」
少し冗談っぽく言ってみたが、ヒロインの表情はますます困惑を深めていく。
「あ、うん…ごめんね」
あまり乗り気ではない様子だった。
ヒロインの視線は宙をさまよい、身体も落ち着きなく揺れている。
居心地が悪いのは明白だった。
これは嫌われてしまったかとレノが落胆しかけたとき、小さな声でヒロインが言った。
「電話、しようとしたんだけど、悩んでるうちに時間が経って、今更電話しても迷惑じゃないかとかいろいろ…」
こんな歯切れの悪いヒロインは初めてだった。
俯いてもじもじしている様も新鮮で、レノは思わず目を見張った。
「掃除のお礼は、ちゃんとするから。だから――」
「じゃあ、今日」
「今日!?」
レノはヒロインに断る暇を与えなかった。
きっとこの機を逃せば、ずるずると先延ばしになることは、今日のヒロインの態度からも明らかだった。
「今日は、また戻らないといけないから…」
「なら、明日な。休みだろ?」
ヒロインが頷いたのを確認し、レノはにやりと笑った。
そして、半ば無理矢理携帯の番号を聞き出したことでレノは満足し、出口の前から退いた。
「…強引だね」
「積極的と言ってほしいぞ、と」
「相変わらず口が減らない…」
顔を上げたヒロインは、少しむっとしていた。
が、すぐに笑顔になった。
レノがよく知っているその顔。
「美味しいお店、選んでね」
「あぁ、期待してくれていいぞ、と」
レノはミーティングルームを出たヒロインの背に、また後で連絡すると声を掛けた。
軽く振り返ったヒロインが、小さく頷いたのが見えた。
その顔が少し赤かったような気がした。
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「戻りましたよ、と」
「ご苦労だったな」
オフィスにはツォンしかいなかった。
レノはとりあえず椅子に座ってはみたものの、報告書を書く気が起きず、だらしなく背もたれに身体を預けていた。
「あぁ、そうだ。レノ、ヒロインさんに渡して来てほしいものがあるんだが」
ヒロインの名を聞いた瞬間、レノはがばっと身体を起こした。
その勢いにツォンが目を丸くしていた。
「ヒロイン、来てるのか?」
「あ、あぁ。先程、副社長の銃を受け取りに来てな。そのときに銃弾を渡し忘れたから届けてほしいんだが――」
「行く!すぐに行くぞ、と。で、どこにいるんだ?」
「いつもなら、ワンフロア下の訓練施設にいるはずだ。いなければ、上層階の会議室フロアのどこかだろう」
それだけ聞いたレノはツォンから銃弾を受け取ると、オフィスを飛び出した。
まずは下の訓練施設だ。
今日こそはヒロインを食事に誘おうと決意し、レノは訓練施設に入った。
訓練施設は昔はよく使われていたが、タークスの人数が減ってからはあまり使われることはなくなった。
設備は整っているが滅多に人が来ないので、レノは気に入っていた。
サボっていても誰に咎められることもない。
一人でのんびり過ごすにはうってつけの場所だった。
今日も訓練施設は静かだった。
本当にヒロインはいるのだろうか。
レノはミーティングルームに足を向けた。
窓から中を覗くと、鈍色の髪をした女性の後姿が見えた。
ヒロインだ。
レノは早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、大きく深呼吸をしてから扉を開けた。
「ヒロイン、忘れ物だぞ、と」
「きゃっ!」
ヒロインの背が大きく震え、悲鳴が上がった。
驚かせるつもりはなかったのだが、これにはレノも驚いた。
レノはゆっくり近づくと、ヒロインの真横に座った。
どうやら銃の手入れをしていたらしい。
分解された銃の部品が机に並べられていた。
「よ、久しぶりだな」
俯いていることもあり、長い髪に隠れたヒロインの表情は見えなかった。
止まっていたヒロインの手が動き出す。
少し、その手が震えていた。
「…うん、久しぶり、だね」
レノはそれに気づかないふりをして、ツォンから預かった銃弾の箱をヒロインの前に滑らせた。
「副社長の銃の銃弾だってよ。ツォンさんが渡し忘れたから、届けてくれって」
ヒロインの手の震えは止まっていた。
滑らかな慣れた手付きで銃を組み立てている。
「そっか。わざわざありがとう」
銃を組み立て終わったヒロインが立ち上がり、ホルスターに銃を入れた。
「そろそろ戻らないと。会議、終わる時間だから」
一度もこちらを見ずに、ヒロインはミーティングルームの出口に向かって歩き出した。
レノは慌てて立ち上がると、ヒロインより先に出口の前に立った。
「そんなに慌てて出てかなくてもいいだろ」
レノから少し距離を空けて、ヒロインが立ち止まった。
今日初めて見たヒロインの顔には、少し困ったような表情が浮かんでいた。
あまり話したくないのかもしれない。
なら、このままヒロインを通したほうが――
一瞬そう考えたが、レノは思い直した。
このまま待っても何も変わらない。
「なぁ、先輩。先週の掃除のお礼、まだしてもらってないぞ、と」
少し冗談っぽく言ってみたが、ヒロインの表情はますます困惑を深めていく。
「あ、うん…ごめんね」
あまり乗り気ではない様子だった。
ヒロインの視線は宙をさまよい、身体も落ち着きなく揺れている。
居心地が悪いのは明白だった。
これは嫌われてしまったかとレノが落胆しかけたとき、小さな声でヒロインが言った。
「電話、しようとしたんだけど、悩んでるうちに時間が経って、今更電話しても迷惑じゃないかとかいろいろ…」
こんな歯切れの悪いヒロインは初めてだった。
俯いてもじもじしている様も新鮮で、レノは思わず目を見張った。
「掃除のお礼は、ちゃんとするから。だから――」
「じゃあ、今日」
「今日!?」
レノはヒロインに断る暇を与えなかった。
きっとこの機を逃せば、ずるずると先延ばしになることは、今日のヒロインの態度からも明らかだった。
「今日は、また戻らないといけないから…」
「なら、明日な。休みだろ?」
ヒロインが頷いたのを確認し、レノはにやりと笑った。
そして、半ば無理矢理携帯の番号を聞き出したことでレノは満足し、出口の前から退いた。
「…強引だね」
「積極的と言ってほしいぞ、と」
「相変わらず口が減らない…」
顔を上げたヒロインは、少しむっとしていた。
が、すぐに笑顔になった。
レノがよく知っているその顔。
「美味しいお店、選んでね」
「あぁ、期待してくれていいぞ、と」
レノはミーティングルームを出たヒロインの背に、また後で連絡すると声を掛けた。
軽く振り返ったヒロインが、小さく頷いたのが見えた。
その顔が少し赤かったような気がした。
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