週明け出社したヒロインは、自分の心を誤魔化すように仕事に没頭した。
　ルーファウスから訝しむような視線を何度も向けられたが、ルーファウスは何も言わなかった。
　今、ヒロインを問い詰めたところで、絶対に素直に話すはずがないのをわかっているからだろう。
　それがヒロインには何よりもありがたかった。



　同日、レノはタークスのオフィスでずっと携帯を眺めていた。
　もしかしたら、ヒロインから連絡があるかもしれないと思って。
　ヒロインの家に行ったあの日から、心待ちにしている連絡はまだない。
　忙しいのか、それとも嫌われてしまったのか。
　こんな生殺しの状態が続くのなら、もっと強引にいけばよかったと、レノは心から後悔した。
　待つだけの時間はもどかしく、辛い。



　さらに1週間が経った。
　ヒロインからの連絡はまだない。
　今日も頬杖をつきながら、携帯を眺める。

（番号、聞いておけばよかったな…）

　いつもなら当たり前のようにしていることも、ヒロインが相手だと上手くいかない。
　先輩と後輩という関係を壊したくないから、柄にもなく遠慮してしまう。
　もし、出会い方が違っていたら、軽率な行動を取らなければ、もっと近くにいられただろうか。
　ルードから任務だと呼ばれたレノは、小さく嘆息して立ち上がった。



　レノに連絡をしないまま1週間が経ち、ヒロインはますます悩んでいた。
　今更連絡しても迷惑ではないか。
　もし、レノに会えたとして、先輩と後輩という関係を崩さず、接することができるだろうか。
　さらに抑え込んだ心は限界で、早く楽になりたがっていた。
　思いを告げさえすれば、きっとそのときは心が軽くなるだろう。
　でも、拒絶されたら？
　いや、彼女がいるのだから、確実に拒絶されるだろう。
　そうなればもう、今までのようにはいられない。
　そのとき、自分はどうなってしまうだろう。
　それを考えると怖く、どうしても踏み出す勇気が出なかった。

（恋が、こんなに苦しいなんて…）

　ヒロインはルーファウスに気付かれないように、何度目かの溜息をついた。



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